構造変形が光学性能に与える影響を解析する場合、光学エンジニアは、システム性能の様々な側面に影響を与えるため、剛体運動 (RBM) と高次変形の影響を分離する必要があります。この記事では、OS22.3 STARの新しいアクティブRBM機能の使用方法と、光学性能への構造的影響をより深く理解するのに役立つ方法を紹介します。この新機能により、ユーザーはRBMまたは高次の効果のみを確認し、感度を解析し、効果を個別に補正することができます。
Authored By Hui Chen
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はじめに
STAR(Structural(構造)、Thermal(熱)、Analysis(解析)& Results(結果))は、2021年5月にリリースされた新しいツールです。OpticStudioバージョン21.2以降で提供されています。STARは、OpticStudioで有限要素解析 (FEA) データのロード、フィッティング、解析をネイティブサポートしています。ユーザーは、FEA解析ソフトウェアから取得した構造および熱データをOpticStudioの設計にロードし、構造、熱、光学性能 (STOP) 解析を実行できます。STARはOpticStudioの内部に直接統合され、あらゆるFEAパッケージからFEAデータを受け入れます。これにより、既存のワークフローに簡単に統合でき、重要な設計上の洞察を得ることができます。STAR-APIを使用してSTAR全機能にアクセスすることもでき、OpticStudioとあらゆる有限要素プラットフォーム間の共通ワークフローを完全に自動化できます。弊社のナレッジベースには、一部のFEAソフトウェアパッケージからのデータエクスポートを支援する拡張機能があります。
構造変形
STARモジュールを使用して構造変形を適用する場合、変形した面のサグには剛体運動 (RBM) と高次の面変形が含まれます。以前のバージョンのSTARは、表面の変形とRBMを1つのカテゴリに分類する処理を行っていたため、構造的影響は2つの複合効果としてのみ解析していました。この新しいリリースでは、OS22.3 STARにアクティブRBM機能が追加され、ユーザーはRBMと高次の面変形の2つの影響を別々に調べることができるようになりました。これにより、RBMだけで光学性能を解析することも、表面の変形だけで解析することも、あるいは、その両方で解析することもできます。
光学エンジニアがRBMと高次誤差を異なる方法で処理するため、これは非常に重要な変更です。RBMSは主にボアサイト/視線の誤差量に影響を与えますが、高次の変形は性能誤差量に影響を与えます。2つの量は、許容される公差(例えば、レンズのシフト量やチップの傾き)を介してリンクされます。 しかし、これら2つの効果では感度が異なります。したがって、エンジニアは感度を個別に決定するか、RBMだけを検討するか、または高次の効果だけを検討する必要があります。
RBM機能へのアクセス
STAR タブの [構造データサマリー] (Structural Data Summary) に移動すると、どの面に構造データがロードされ、どのデータファイルが使用されている一覧表示されます。ここで、[ステータス] (Status) ボックスをオンまたはオフにすると、指定の面上の構造データが有効または無効になります。OS22.3では、構造データのオン/オフを切り替えるオプションが拡張され、より多くのオプションが追加されました。ユーザーでは、「RBMのみ(RBM only)」、「面変形のみ(Surface deformation only)」、「RBMと面変形の両方(Both RBM and surface deformation)」、「なし(None)」の4つ選択を行うことができます。構造変形が最初にシステムにロードされると、STARは初期フィッティングを実行して、指定された面の剛体移動量、シフト量、およびティルト量を計算します。これにより、構造変形を2つのグループに分けることができます。[構造データサマリー] (Structural Data Summary) の [ステータス] (Status) チェックボックスを使用して、有効にする構造効果を選択できます。
または、追加された [構造オプション] (Structural Options) メニューから行うこともできます。 このボタンをクリックすると、[すべてのデフォーメーションデータを使用] (Use all deformation data)、「[RBMを除いたデフォーメーションを使用] (Use Deformation without RBMS)、[RBMのみを使用] (Use only RBM)を選択するため一覧がドロップダウンで表示されます。[構造オプション ] (Structural Options) メニューで選択した内容は [構造データサマリー] (Structural Data Summary) エディタに反映され、構造変形データのどの部分がオンになっているかによっては、光線追跡結果に影響します。
RBMと高次面変形の切り分け例
このセクションでは、例を使用して、このアクティブRBM機能がどのように機能するかを説明します。デモシステムは、入射したコリメートビームを集光させるシングレットレンズです。公称のシステムでは、最適化後のRMSスポット半径は6.2 umとなり、エアリー半径3.6 umと同じ次数になります。RMS波面誤差は0.19波形です。回折限界に近い性能です。スポットは像面の頂点の中央に配置されます。以下に、公称システムの [3Dレイアウト] (3D Layout)、[スポットダイアグラム] (Spot Diagram)、および [波面収差マップ] (Wavefront Map) を示しています。
次に、FEAデータをロードツールを使用して、シングレットレンズの前面に1セットの構造変形データを適用してみましょう。この人工データセットは、ウェッジ効果をシミュレートするためにシングレットの前面に小さな傾斜移動量を導入するとともに、前面球面を非球面形状に変形するための追加の面曲率を導入するために作成されました。つまり、この構造変形データセットは剛体運動と高次表面変形の両方から構成されています。
構造データセットによって導入された変形を検証および視覚化するために使用できるツールは2つあります。1つは [FEAデータビューアー] (FEA Data Viewer) で、もう1つは [システムビューアー] (System Viewer) です。両ツールは STAR タブの下にあります。FEAデータビューアーを使用すると、光学系の光学面に割り当てなくてもFEA データセットを表示することができます。これにより、ファイルを光学面に割り当てて数値フィッティングする前に、そのファイルが正しいかどうかを確認できます。ビューアーには、データ点の数、中央値、位置情報の最大値/最小値、変形および温度データの中央値、最大値/最小値など、FEAデータセットに関する関連情報も表示されます。システムビューアーには、フィッティングした FEAデータによって発生した変形と光学プロパティの変化が光学系全体規模で表示されます。このFEAデータは、単一のウィンドウの中で光学系全体にオーバーレイ表示されます。下のスクリーンショットでは、両方の解析でベクトル表示を有効にし、10のスケール係数を割り当てて、表示されているベクトルをレイアウトウィンドウで簡単に表示できるように拡大しました。面の変形は、変形の大きさと方向を示す変形ベクトルを使用して表現できます。下のプロットでは、変形ベクトル矢印は、正面のX軸の中心に対して明確な傾斜移動量を示しています。
これら2つの解析に加えて、[面のサグ] (Surface Sag) 解析を使用して、このシングレットの変形した正面の面のサグを表示することもできます。 「面のサグ」解析を開き、基本面の公称サグを除去する [ベースサグを除去] (Remove Base Sag) を選択すると、STAR FEAデータセットによって導入された変形サグを表示できます。
FEAデータをロードツールを使用して構造変形データセットを最初に面にロードすると追加された変形には剛体移動量と高次面変形の両方が含まれます。STARは内部的にフィッティングを実行して剛体運動を ΔX、ΔY、ΔZ、Thera X、Thera Y、Thera Zを計算します。 このRBM情報は、[面プロパティ] (Surface Properties) \RBMSタブの [構造解析データサマリー] (Structural Data Summary) で確認できます。
では、光線追跡の結果も確認しましょう。最初に注目すべきことは、変形データがレンズの前面にロードされた後、スポットが上方向にシフトし、像面の頂点の中央には配置されないことです。これは、3Dレイアウトとスポットダイアグラムの両方で確認できます。また、面のサグ解析を開き、[ベースサグを除去] (Remove Base Sag) を選択して、この面3上の変形サグのみを表示します。ここでは、サグプロットが支配面の傾きを表示します。スポットダイアグラムと波面収差マップ解析を開いて、イメージングパフォーマンスを確認してみましょう。RMSスポット半径は17.2umに増加し、RMS波面誤差は0.587波長に増加しました。これらの結果は、構造変形によりシステムパフォーマンスが悪化し、回折限界ではないことを示唆しています。
フィットしたデフォーメーションのみ
OS22.3では、[構造データサマリー] (Structural Data Summary)エディタを見ると、最後の2つの列に [フィットしたデフォーメーション] (Fitted Deformation) と [抽出されたRBM] (Extracted RBMs) というラベルが付いています。ユーザーは、高次変形または計算されたRBMを個別に有効にするオプションがあります。RBMSボックスのチェックを外して高次の面変形のみを保持するように選択した場合、スポットが像面の中心に戻り、サグプロファイルには回転対称の非球面変形のみが表示されます。RMSスポット半径は17.3umと大きく、RMS波面誤差は0.583波長です。
RBM のみ
また、剛体運動のみを保持し、高次変形を無視することもできます。[フィット変形] ボックスのチェックを外すと、RMSスポットサイズが7.3 umに戻り、RMS波面誤差が0.24波長に低下します。これらの数値は、RMSスポット6.2umとRMS波面誤差0.19波長の公称システムよりもさらに悪いですが、それほど離れていません。
考察
以上の結果は、レンズ1枚のみで構成されるこの単純なシステムでは、高次変形に比べて、レンズ前面のRBM運動がレンズの撮像性能に及ぼす影響が比較的小さいことがわかりました。スポットサイズと波面誤差はあまり劣化していません。しかし、主光線の角度と位置は大きく変化します。つまり、レンズ前面の剛体運動の主な影響は、ボアサイト/視線誤差が大きいことを意味します。この例では、このアクティブRBM機能がどのように機能するか、この機能を使用してRBMを高次変形から分離し、それぞれのパフォーマンスへの影響を分析する方法を示します。
結論
この記事では、OS22.3の新機能であるアクティブRBM機能の使用方法と、光学性能への構造的な影響をより深く理解するのに役立つ方法について説明しました。剛体移動量と高次変形は、システムパフォーマンスのさまざまな側面に影響します。また、異なる感度を持ち、異なる誤差量グループに属しています。STARの新しいアクティブRBM機能により、光学エンジニアはこれら2つの構造効果を分離して、RBMのみ、または高次効果のみを観察し、感度をテストし、個別に補正することができます。
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