この記事では、写真撮影したような物体シーンの画像を、画像シミュレーション ツールを使用して生成する方法について解説します。このシミュレーションでは、回折、収差、ディストーション、相対照度、像の方向、偏光などの効果も扱います。
著者 Mark Nicholson
Introduction
OpticStudio は、任意のシーンを光学系で結像したときに得られる像を迅速、正確に予測できる画像シミュレーション機能を備えています。この手法は、点像強度分布の配列で光源ビットマップ ファイルを畳み込み積分することで機能します。回折、収差、ディストーション、相対照度、像の方向、偏光などによる効果が考慮されます。この新機能は、コンピュータに搭載されているすべての CPU で演算するマルチスレッド処理によってきわめて高速で動作し、S/N 比に優れた最終画像を提供します。
画像シミュレーションの概要
付属のサンプル ファイル「 {Zemax_install_folder}/samples/sequential/Image Simulation/Example 1, a singlet eyepiece.zmx」 を開きます。
画像シミュレーション機能の設定ダイアログ ボックスには、各種のコントロールが論理的に配置されています。
この機能では物体高を視野として定義することが自然ですが、光源ファイル (.bmp、.jpg、.ima、.bim を使用できます) を読み込むと、レンズの視野単位による全高が割り当てられます。入力シーンは、必要に応じて回転、反転、再サンプリングしてから、指定の視野点を中心として配置できます。
続いて、点像強度分布 (PSF) のグリッドを計算します。このグリッドは視野全体にわたって配置され、ビットマップと視野サイズ設定で定義された視野の中で選択された点における収差を記述します。PSF のグリッドには、偏光や相対照度による効果も反映されます。
上記の例では、視野の中心部ではきわめて良好な形状の PSF が得られていますが、視野の周辺では著しい収差が認められ、四隅には明らかなコマの存在を確認できます。変更された光源ビットマップの各ピクセル間で、PSF グリッドが補間計算されます。ピクセルごとに、グリッドの中で最も近い PSF 点間の補間によって実効 PSF を計算します。その PSF を、変更された光源ビットマップで畳み込み積分し、収差を考慮したビットマップ画像を求めます。得られた画像ビットマップを、検出した画像ピクセル サイズ、幾何光学的ディストーション、および倍率色収差に対応するようにスケーリングおよび伸張します。
画像シミュレーションの使用方法
OpticStudio では、ほとんどの場合、デフォルトの設定で十分に実用的な結果が得られます。それでも、実行されている計算を理解しておくことは、どのような場合でも重要です。また、予測結果を把握できない場合やそれを受け入れることができない場合は、計算の各段階を全面的に制御できます。画像シミュレーションを確実に設定する手順について以下で説明します。
- 画像を選択します。 Input File: Demo picture - 640 x 480.bmp.
- 入力シーンを選択し、[コンボリューション グリッドの設定] (Convolution Grid Settings) で [収差] (Aberrations) として [なし] (None) を選択します。[PSF-X ポイント数] (PSF X Points) と [PSF-Y ポイント数] (PSF Y Points) を 1 に設定します。これによって、デルタ関数が 1 つのみの PSF グリッドとなります。どのような関数でも、デルタ関数で畳み込み積分すると当初の関数が得られます。したがって、このシミュレーションで得られる画像は、光学系のディストーションによる劣化を除き、入力シーンと完全に同じになります。
- [表示方法] (Show As) を [シミュレーション画像] (Simulated Image) に設定し、ディテクタの [ピクセル サイズ] (Pixel Size)、[X ピクセル] (X-Pixels)、[Y ピクセル] (Y-Pixels) をデフォルトの設定とします。デフォルトの設定にするには、「default」と入力するか、数値 0 を入力します。この設定では、ディテクタのピクセル数は光源ビットマップのピクセル数に等しくなります。また、ディテクタのピクセル サイズは、光源ビットマップの中央にあるピクセルを光学系で拡大したサイズに等しくなります。これにより、便利な「検証用」光学系が得られます。ディテクタの中心が主光線に一致するように設定すると、入力シーンが視野の中で移動するに伴い、ディテクタも自動的に移動します。また、面の頂点を基準としてディテクタを配置することも可能です。ここでディテクタを十分に設定したうえで次の手順に進みます。
- ディテクタを適切に設定した後、PSF グリッドを設定します。[表示方法] (Show As) を [PSF グリッド] (PSF Grid)、[収差] (Aberrations) を [幾何光学] (Geometric) または [回折] (Diffraction) に設定します。視野のどの位置でも RMS スポット半径がエアリー ディスクよりもはるかに大きい場合は幾何光学を使用します。スポット半径がエアリー半径以下である場合は回折を選択します。視野の一部でレンズが回折限界にあり、その他の場所では回折限界にない場合も、回折の設定を使用します。PSF が回折限界の 20 倍よりも大きいグリッド点では、収差の設定が OpticStudio によって自動的に幾何光学に切り替わります。
- X 方向と Y 方向の PSF ポイント数を適宜選択します。OpticStudio では測定点と測定点の間で PSF が補間計算されます。X 方向または Y 方向のポイント数は、その値を変更しても結果に有意な変化が見られなければ適正な値になっています。この点は、他のあらゆるサンプリング制御と同様です。ここでは、PSF グリッド全体のサイズと解像度が、光源ビットマップのサイズと解像度に等しくなっています。PSF のグリッド点が次のように表示されたとします。この場合は、光源ビットマップのピクセル サイズよりも点像強度分布が小さくなっています。PSF のグリッド点が次のように表示されたとします。この場合は、光源ビットマップのピクセル サイズよりも点像強度分布が大きくなっています。点像分布関数が小さい方の PSF グリッドが得られた場合は、光源ビットマップをオーバーサンプリングできます。または、ピクセル サイズよりも大きい PSF グリッドを維持できる範囲で、光源ビットマップの高さを小さくできます。
回折効果を重視する場合、一般的には光源ビットマップのピクセル サイズを PSF と同程度にする必要があります。必要に応じて、オーバーサンプリングした後のピクセル サイズをそのようにします。回折や収差の効果が重要な場合、PSF グリッドには数ピクセルの幅が必要です。
- PSF グリッドを適切に設定した後、[表示方法] (Show As) を [シミュレーション画像] (Simulated Image) に設定して畳み込みの結果を表示します。
使用例
OpticStudioには、この機能の使用方法を示すサンプルがいくつか付属しています。この機能を実際に使用する前に、これらのサンプルを検討することをお勧めします。付属のサンプルは、{Zemax Install Folder}\Samples\Sequential\Image Simulation フォルダに保存されています。これらのサンプルで取り上げている例は以下のとおりです。
例 1: シングレットの接眼レンズ
この機能の使用法を示すために従来から使用されている例です。このレンズは接眼レンズですが、アフォーカル光学系ではなく、-1000 mm 離れた位置に像が形成されます (1 ディオプタの視度調整機能が得られます)。形成される像は虚像ですが、フォーカル光学系です。
収差が大きすぎることから、相対照度による影響は計算できません。このような場合、相対照度はあらゆる場所で均一に設定されます。
シミュレーション画像の下に表示されているテキストに注目してください。また、次のように PSF グリッドでいくつかの点が失われているように見えることもあります。
これはモニター画面上でサブサンプリングが実行された結果にすぎません。入力シーンは 640 x 480 ピクセルであるため、PSF グリッドのサイズもそれと同じです。一方、ここではそれよりも小さいウィンドウに PSF グリッドが表示されています。ここでは、解析ウィンドウのサイズは 550 x 460 ピクセルにすぎず、PSF グリッド全体はその約 2/3 のサイズです。そのため、PSF グリッドがサブサンプリングされています。ウィンドウを最大化するか、PSF グリッドに必要な 640 x 480 ピクセル以上に設定すれば、すべてのグリッドが表示されます。
例 2: ダブル ガウスの実験的な配置
OpticStudioでは、視野角、物体高、実像高、近軸像高の 4 つの方法で視野を定義できます。これら 4 つの視野の定義方法はいずれも有効ですが、ここで取り上げているビットマップ入力シーンの画像シミュレーションの場合は、物体高による視野定義が最適です。
本来、ダブル ガウスは無限大距離にある物体で最適化されており、視野の定義として角度を使用しています。一方、角度 (度数) で定義した視野でビットマップ画像を使用すると、各ピクセルの位置は一定の角度範囲に相当するので、その扱いは実験上やテスト上の扱いとは異なるものになります。さらに問題なのは、角度で位置を指定されたピクセルが本質的にアナモルフィックであることです。たとえば、X 方向に 1 度の幅が張る角度は、Y の角度が 80 度の場合と 10 度の場合で異なります。視野角を使用していて、視野が比較的広いとき (いずれかの方向に約 40 度以上)、拡大された物体の結果の解釈時には注意が必要です。
このファイルは、各種のテストで使用する可能性が高いダブル ガウスの構成を表しています。
ここでは、補助コリメータ レンズを使用してテスト シーンを無限遠の位置に結像し、無限遠に合焦したダブル ガウス レンズで、無限大位置のテスト シーンを像面に結像しています。ここでは、補助コリメータ レンズとして近軸レンズを使用していますが、必要に応じて実際のレンズ設計に置き換えてもかまいません。ここで重要な点は、テスト パターンに空間的な範囲が定義されていることから、照明領域の中で各ピクセルに相当する部分が、どのピクセルでも同じになることです。
同様に、画像シミュレーションで結像性能を評価する場合や何らかのディストーションを計算する場合は、視野の定義に実像高を使用しないようにする必要があります。実像高を使用すると、Zemax では主光線ごとに光線追跡を反復し、目的の像座標に到達するために物空間で必要な角度を探し出すからです。この目的とする像座標には必ず到達するので、像高さは視野座標と比例関係になります。したがって、反復により暗黙的にディストーションが除去されます。Zemax は、このような計算を実行せずに、画像シミュレーション向けに視野タイプを実像高から近軸像高に自動的に変更し、その効果に関するメッセージを表示します。
ただし、近軸像高でも理想的とはいえません。レンズの倍率がアナモルフィックであれば、そのような倍率がすべて無視されるからです。視野を像高さで定義している場合は、[視野の高さ] (Field Height) の設定によって、物空間ではなく、像空間での物体の高さが決まります。視野の高さは、その時点で視野に定義している単位で表されます。画像シミュレーション (幾何学的ビットマップ像解析) で使用する最も自然な視野定義は物体高です。入力光源ビットマップのサイズを、曖昧さが介在する余地がなく定義できるからです。
例 3: 青色に対するノッチ フィルター
OpticStudioでは、像を形成する際の光学系の偏光特性も考慮できます。この場合、光源シーンには、赤、緑、青の円を重ね合わせたものを使用します。青い光を遮断するノッチ フィルターを組み込んだレンズを通じて、このシーンの結像を得ます。得られた像には青成分が含まれていません。
例 4: 回折限界の光学系
この例では、回折限界にある光学系 (ハッブル宇宙望遠鏡) を通じて、低解像度のシーンの結像を得ます。入力ピクセルのサイズを PSF のサイズと同程度にするために、入力シーンを 16 倍オーバーサンプリングして、以下の PSF グリッドを得ます。
この設計では視野を角度で定義していますが、視野角がきわめて小さいので (0.001°)、前述のアナモルフィック特性に関する問題は無視できます。
例 5: 空間的に変化する解像度
例 2 と同じダブル ガウスの実験的配置を使用しますが、この例のテスト パターンは、空間周波数および方向が変化するグリッド ラインで構成されています。入力シーンは、視野番号を変更することで視野の中を移動しますが、ディテクタは必ず視野の基準点からの主光線を基準として配置されます。サジタル方向とタンジェンシャル方向でのコントラストの変化 (MTF) を、倍率色収差と同様に明瞭に確認できます。この場合も、ウィンドウを最大化するか、入力シーン (201 x 201 ピクセル) のピクセル解像度を超える大きさに設定する必要があります。
例 6: ティルトした像面
この例では、物体面と像面のティルトにより、台形ディストーションと焦点面でのぼやけが発生します。コンフィグレーション 1 にはティルトが設定されていないため、PSF グリッドは視野全体にわたって回折限界にあります。コンフィグレーション 2 (Ctrl + A キーで切り換え) では、ティルトによって視野の上下部が回折限界からは程遠い状態の光学系が得られます。
この画像は中央の X 方向スキャンでは回折限界にあるものの、上下部では焦点がずれています。
PSF が回折限界の 20 倍を超える視野点では PSF グリッドが自動的に幾何光学に切り替わります。これによって、画像シミュレーションでは、回折の効果を計算できる場所ではその効果が適用され、必要に応じて幾何光学計算に切り換わります。
その他の画像解析機能
OpticStudioの [画像シミュレーション] (Image Simulation) メニューには、その他にもいくつかの画像解析機能があります。
これらを使用する状況を検討します。
- [幾何学的像解析] (Geometric Image Analysis) (GIA) : 比較的低解像度の .IMA ビットマップと .BIM ビットマップの幾何光学的計算のみに限定された機能であり、回折は考慮されません。この機能では、あらゆる面での計算が可能ですが、畳み込みによる画像シミュレーションは像面上でのみ計算できます。また、GIA は光線追跡に基づいているため、光学系の効率の計算やマルチモード ファイバー結合の計算に使用できます。IMAE オペランドを使用すると、評価関数で光学系の効率を目標値として設定できます。
- [幾何学的ビットマップ像解析] (Geometric Bitmap Image Analysis) (GBIA) : .bmp や .jpg の光源ビットマップを光学系を通して結像できる点が、画像シミュレーションにきわめてよく似ています。一般的に、画像シミュレーション (IS) の方が、GBIA よりも S/N 比の高い画像が短時間で得られます。GBIA では、1 ピクセルあたりの追跡光線数を n とすると、信号対雑音比は n の平方根に比例します。IS の PSF グリッドでは、GBIA よりもアンダーサンプリングの検出が困難です。サンプリングが不適切な PSF グリッドは、ほとんどの場合、デルタ関数のような挙動を示します。つまり、畳み込みに基づく計算方法では、PSF グリッドを適切に設定しないと、現実に達成できる性能よりも優れた性能が予測される可能性があります。予測性能をダブルチェックする際には GBIA が効果的です。さらに GBIA は、焦点からはるかに離れた面も含め、あらゆる面で計算できます。
- [部分的コヒーレント像解析] (Partially Coherent Image Analysis) (PCI) : 従来は回折像解析と呼ばれていた機能です。回折限界にある光学系でビットマップをインコヒーレントに結像する必要がある場合、通常は IS の方がこの方法よりも優れています。一方、PCI では光源照明のコヒーレンスを考慮できます。これは、特にフォトリソグラフィの光学系で重要な効果です。
- [拡張回折像解析] (Extended Diffraction Image Analysis) (EDIA) : 光源シーンがインコヒーレントな場合は、実質的に IS に置き換えられる機能です。なお、EDIA では拡張光源シーンのコヒーレントな結像が可能で、光源ビットマップの各ピクセルをデルタ関数で記述できます。これは、星のような点光源を持つ拡張シーンの結像を確認する際に効果的です。
References
KA-01359
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