レイ エイミングの使用法

瞳の収差や変位を処理するため、OpticStudio はシステム エクスプローラのレイ エイミング セクションにオプションが含まれており、光線を絞り面に完全に満たすことで解析を改善することができます。この記事では 2 つの例を使用して、レイ エイミングが必要かどうかを決定する手順と、その設定を利用する利点について説明します。

著者 Nam-Hyong Kim

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序論

レイ エイミングは 、OpticStudio の反復光線追跡アルゴリズムであり、物体を発する各光線から、特定の半径の絞り面を正確に満たすものを探し出します。物空間から見た絞りの像である瞳に大きな収差がある場合や、シフトやティルトが適用されている場合にのみ必要になることが普通です。

レイ エイミングを使用しないと、物体からの実光線は、物体から見た絞りの近軸像である近軸入射瞳に向かいます。入射瞳のサイズと位置は、データ一覧の全般のセクションに表示されます 。多くの場合、入射瞳をエイミングしてもシステムに悪影響はありません。ユーザーは、必要な場合にのみレイ エイミングを使用するように調査する必要があります。

瞳収差図

無視できない瞳収差が光学系で発生しているかどうかを確認するには、[解析] (Analysis) → [収差] (Aberrations) → [瞳収差] (Pupil Aberration) で瞳収差解析を実行します。経験則から、通常は最大瞳収差が数パーセントより大きい場合にレイ エイミングが必要になります。

下図は、瞳収差の著しい光学系の瞳収差プロットです。グラフは、瞳の収差を瞳座標の関数としてプロットしています。最初の画像はレイ エイミングがオフの場合の瞳収差図を示し、2番目の画像はレイ エイミングがオン(近軸)の同じシステムの瞳収差図の違いを示しています。

Pupil_aberration_fan_1

Pupil_aberration_fan_2

瞳収差が中程度の例

(Zemax フォルダ)\Samples\Sequential\Objectives フォルダのサンプル ファイル Double Gauss 28 degree field.zmx を開きます。

Double_Gauss

この光学系が、絞り半径を正確に 10 レンズ ユニットとしたカメラ レンズであるとします。この場合、システム アパチャーは絞り面の半径で定義できるので、レンズ データ エディタに記述した絞り面の半径の値でシステム アパチャーのサイズが決まります。絞りのサイズが既知の場合、これは適切な選択です。

システム アパチャーのタイプは [システムエクスプローラ] (System Explorer) → [アパチャー] (Aperture) → [アパチャー タイプ] (Aperture Type) で定義でき、 [絞り面半径による定義] (Float By Stop Size) に設定します。

Aperture_type

レンズ データ エディタで、絞り面のクリア半径を 10 レンズ ユニットに設定できます。

Lens_data_editor
レイアウトの絞り面のエッジを拡大すると、マージナル光線が絞りのエッジの正確な位置に到達していないことがわかります。

Double_Gauss_layout2

この原因は、レイ エイミングを使用していないので、物空間から見た絞りの近軸像である入射瞳の方向に、物空間からの光線が向かっていることにあります。入射瞳のサイズと位置を求める近軸計算では、物体から絞り面までの間にある光学系の屈折力のみが考慮され、収差の効果が加味されていません。近軸計算についてのより詳細な情報は 「近軸光線追跡について」 をご覧ください。 

光線追跡の際にシステム アパチャーを適切にサンプリングするには、正しい絞り座標に到達する光線のみを選択することが理想的です。たとえば、マージナル光線の定義上、それと絞り面との交差位置は絞りのエッジから離れた場所ではなく、正確に絞りのエッジ位置となる必要があります。

瞳収差プロットによると、レイ エイミングがオフの場合の瞳収差の最大値は 3% であり、レイ エイミングは不要であると考えられます。レイ エイミングの適用が必ずしも必要ではなくても、光線追跡精度の向上と計算時間とのトレードオフを必ず検討する必要があります。レイ エイミングによって光線追跡の所要時間は 2 ~ 8 倍ほど長くなることが普通です。

Pupil_aberration_fan

近軸のレイ エイミングを設定してレイアウトの変化を確認してみます。 これを行うには、システム エクスプローラのレイ エイミングを開いて、ドロップダウン メニューより [近軸光線を使用 (仕様前にマニュアルを参照)] (Paraxial) を選択します。デフォルトでは、[レイ エイミングのキャッシュを使用] (Use Ray Aiming Cache)オプションはチェックされており、[強力なレイ エイミング] (Robust Ray Aiming) オプションはチェックされていません。 これらの設定は、ほとんど必要とされないため、変更しないでください。 これらの設定の詳細については、ヘルプシステムを参照してください。

Ray_aiming_option

レイ エイミングのアルゴリズムは、目的とする絞り面座標に到達する光線を物空間から反復計算によって探し出します。レイアウトでは、すべてのマージナル光線が正確に絞り面半径の位置で交差していることがわかります。収差はそのまま存在していますが、絞りをサンプリングする光線を選択する際にその効果が考慮されます。レイ エイミングは瞳収差を除去するものではないということに注意してください。

Ray_Aiming_Paraxial

瞳収差が顕著な例

上記の例は、収差が小さく、レイ エイミングを使用しなくても結果に大きな影響を与えないものでした。 次に、レイ エイミングを使用しなければならない例に移ります。添付ファイルのサンプル ファイルの Ray Aiming sample 2.zmx を開き、システム エクスプローラのレイ エイミングを開いてレイ エイミング が [オフ] (Off) になっていることを確認してください。

Rays_aimed_at_entrance_pupil

面 4 より前の物空間からの光線はすべて近軸入射瞳の方向に向かっていることがわかります。データ一覧によると、入射瞳位置は面 1 を基準とした座標系にあるため、この例では面 1 の右 1.82915 レンズ ユニットの位置になります (このファイルではレンズ ユニットは mm です)。

Prescription_data

絞り面の半径は、すべての視野からのすべての波長の実マージナル光線が絞りを通過できるように、レンズ データ エディタで自動的に設定されます。レイ エイミングが無効の場合、視野 3 からの光線は絞り面に到達することさえできません。シーケンシャル光線追跡で光線がある面に到達するには、その前にあるすべての面を通過できる必要がありますが、視野3の光線は、面 1 にすら当たらない厄介な入射角を持っています。

このファイルのシステム アパチャーは入射瞳径によるタイプです。絞り面の半径で定義したアパチャー タイプを使用して絞りのサイズを明示的に指定していない限り、絞りを正確に満たす光線の方向を OpticStudio で設定するには、絞りのサイズを決定しておく必要があります 。近軸レイ エイミングでは、光線が向かう絞りのサイズは、絞り面位置における近軸マージナル光線の高さで決まります。 レイ エイミングを使用せずにこの値を求めるには、[解析] (Analysis) → [光線とスポット] (Ray & Spots) → [単一光線追跡] (Single Ray Trace) の機能を使います。この機能の [設定] (Settings) をクリックし、視野を 1、瞳座標を Px=0、Py=1 に設定します。これは軸上マージナル光線の設定です。

Single_ray_trace

絞り位置 (面 12) における Y 方向高さの計算結果を見ると、近軸光線追跡では 0.424799、実光線追跡データでは 0.43225 になっています。この実マージナル光線と近軸マージナル光線の高さの違いが、視野 2 でははるかに大きくなります。これは、光線追跡計算と上記の 2D レイアウトから明らかです。

Single_ray_trace_2

レイ エイミングを実光線タイプから近軸タイプに戻します。すべての視野とすべての波長で、絞り面における実マージナル光線と近軸マージナル光線の Y 座標の差は実質的にゼロです。単一光線追跡の計算で確認することができます。

Layout

前述のとおり、レイ エイミングを近軸タイプに設定すると、実マージナル光線は「近軸」の絞り面高さで絞り面と交差します。前記のダブル ガウスの例のように、実光線で満たす絞りのサイズをユーザー側で指定することが望まれる場合があります。実マージナル光線が絞り面と交差する位置を明示的に指定するには、レイ エイミングを有効にするほか、システム アパチャーのタイプを [絞り面半径による定義] (Float By Stop Size) に設定し、レンズ データ エディタを使用して絞りのクリア半径値を手動で入力します。

収差が中程度の光学系では、一般的に、近軸光線で決定した絞りのサイズは、実光線で決定したサイズとはわずかに異なりますが、近軸光線と実光線に対する絞り面高さの差は、その影響を考慮する必要がないほどに小さいことが普通です。とはいえ、レイ エイミングは、必要に応じて絞り高さを計算するために近軸ではなく実際の光線を使用して実行することもできます。しかし、一般的には、実際の光線をどこに向けるかを手動で指定するには、アパチャー タイプを [絞り面半径による定義] (Float By Stop Size) に設定する方が簡単です。 この設定がお使いのシステムにとって最も有益であるかどうかを知るために、収差を利用したレイ エイミングのオプションを使用する前に、OpticStudio ヘルプ ファイルをよくお読みください。 また、実光線レイ エイミング オプションは、すべての場合において近軸光線レイ エイミング オプションよりも優れているとは考えられないことに注意しても注意してください。

ディセンタした絞り

入射瞳のサイズと位置を求める近軸光線の計算では、絞りを含む面のティルトやディセンタが無視されます。したがって、近軸入射瞳の頂点は必ず物体面のローカル Z 軸上にあります。絞り面が近軸入射瞳に対して著しくディセンタまたはティルトしていると、物体と絞りの間に光学素子がなくても、レイ エイミングが必要になる場合があります。次の図に例を示します。

Decentered_stop

Decentered_stop_2

絞りが光軸 (物体面の Z 軸) に対してディセンタしている場合は、レイ エイミングを有効にします。

 

KA-01377

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