部分的コヒーレント像解析は、インコヒーレント、コヒーレント、部分的コヒーレントの 3 種類の伝達関数を使用して実行できます。 この記事では、部分的コヒーレント像解析の説明、使用可能な各種の部分的コヒーレント ガンマ関数、部分的コヒーレント像解析で使用できる 2 種類の計算方法、及び部分的コヒーレント像解析の実行時にサンプリングに関して注意を要する問題点を紹介します。
著者 Andrew Locke
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Introduction
部分的コヒーレント像解析は、インコヒーレント、コヒーレント、部分的コヒーレントの 3 種類の伝達関数を使用して実行できます。
インコヒーレント伝達関数で回折像を生成する場合、回折効果は考慮されますが、光源上の各点は他のすべての点と互いにインコヒーレントであると見なされます。このため、空間的な干渉の効果が無視されます。コヒーレント伝達関数を使用する場合は、光源上の各点が他のすべての点と互いにコヒーレントであると見なされます。一般的に、2 点間の距離が近いほど、コヒーレンスの程度は高くなります。
現実に存在する多くの光源では、部分的コヒーレント伝達関数が適しています。たとえば、フォトリソグラフィ用途で多く使用されている光源は完全にはコヒーレントでありません。ウエハ上にマークを結像する際に、部分的コヒーレンスの効果がきわめて重要です。
部分的コヒーレンス度の定義
ダウンロードしたファイルを任意のディレクトリに展開します。展開して得られた BAR.IMA ファイルを {Zemaxroot}/IMAFiles ディレクトリにコピーします。次に、OpticStudio のファイル Partial_Start.ZMX を開きます。このファイルは、軸上光で機能する Cooke トリプレット写真用対物レンズの光学系です。
OpticStudio では、パラメトリック関数であるガンマ関数で部分的コヒーレント伝達関数の特性を記述します。特定の解析に使用するガンマ関数として、ガウシアンとSincの 2 種類が用意されています (要望に応じて他のタイプも追加できます)。
ガウシアン ガンマ関数では、表示する像の中にある 2 点間の距離を位置ベクトル r で表現します。どちらの関数でも、パラメータα (アルファ) はレンズ ユニットで定義したスケール パラメータです。
このパラメータによってガンマ関数の実効的な幅を設定します。αが小さいほど、得られるガンマ関数の幅が狭くなります。狭いガンマ関数では、ほとんどの部分がインコヒーレントな部分的コヒーレント像が生成されます。
一方、αの値が大きくなると、ガンマ関数の幅が広くなります。広いガンマ関数では、コヒーレント像にきわめて近い部分的コヒーレント像が生成されます。
[解析] (Analyze) タブ→ [拡張光源解析] (Extended Scene Analysis) → [部分的コヒーレント像解析] (Partially Coherent Image Analysis) を選択します。各オプションを次のように変更します。
- [ファイル サイズ] (File Size) : 0.1
- [オーバーサンプリング] (Oversampling) : 16X
- [ファイル] (File) : BAR.IMA
- [データ タイプ] (Data Type) : [部分的コヒーレント テスト : ガンマ] (Partially Coherent Test: Gamma)
- [アルファ] (Alpha) : 0.0025“File Size” to 0.1
αに値 0.0025 を指定して得られるガンマ関数は比較的幅が狭いので、ほとんどインコヒーレントな部分的コヒーレント像が生成されます。
次に、設定ダイアログを開いて [アルファ] (Alpha) を 0.1 に変更します。αの値が大きくなったので、それに対応するガンマ関数の幅もきわめて広くなり、ほとんどコヒーレントな部分的コヒーレント像が生成されます。
部分的コヒーレント伝達関数の計算方法
部分的コヒーレント像解析に部分的コヒーレント伝達関数を使用する場合、その計算方法としてほとんどコヒーレントな方法とほとんどインコヒーレントな方法の 2 種類があります。どちらの計算方法を使用するかは、使用するガンマ関数の幅に応じて異なります。
狭いガンマ関数 (像全体に占める割合が 20% 未満のガンマ関数) は、空間領域で占める幅が狭いので、空間周波数領域で占める幅は広くなります。したがって、空間領域で部分的コヒーレント像解析を計算する場合は、狭いガンマ関数を使用する方が効率的です。ほとんどインコヒーレントな計算アルゴリズムは、このような狭いガンマ関数向けに設計されているので、狭いガンマ関数による計算は空間領域で実行されます。
一方、広いガンマ関数 (像全体に占める割合が 20% を超えるガンマ関数) は空間領域で占める幅が広いので、空間周波数領域で占める幅は狭くなります。したがって、空間周波数領域で解析計算を実行する場合は、広いガンマ関数を使用する方が効率的です。ほとんどコヒーレントなアルゴリズムは、このような広いガンマ関数向けに設計されています。このアルゴリズムでは、より効率的な空間周波数領域で計算が実行されます。
広いガンマ関数にほとんどインコヒーレントな計算方法を適用した場合 (または逆に狭いガンマ関数にほとんどコヒーレントな計算方法を適用した場合)、最良の条件下でも計算時間が著しく長くなります。条件が悪いと、サンプリングが不十分なために計算を最後まで実行できないこともあります。したがって、前のページで説明したように、使用するガンマ関数を必ず視覚化したうえで、どちらの計算方法を使用するかを決定することが重要です。これらをまとめると以下のようになります。
ほとんどインコヒーレントな計算方法を使用する場合 | ほとんどコヒーレントな計算方法を使用する場合 |
αが小さいこと | αが大きいこと |
ガンマ関数が狭いこと (像に占める割合が 20% 未満) | ガンマ関数が広いこと (像に占める割合が 20% を超える) |
検討を必要とする関連パラメータとして [割合] (Fraction) もあります。ガンマ関数の幅を有限とする前提を設定することで、ほとんどインコヒーレントな計算方法でも、ほとんどコヒーレントな計算方法でも、部分的コヒーレント像解析の計算は高速になります(ガウシアン ガンマ関数とシンク ガンマ関数の範囲は実際に有限です)。[割合] (Fraction) の設定では、この幅を調整できます。このパラメータは、総エネルギーのうち、ガンマ関数で扱う必要があるエネルギーの割合を設定します。一般的に、[割合] (Fraction) の値を 0.96 より大きくすると、部分的コヒーレント像解析に要する計算時間が大幅に長くなります。これは、ガウス ガンマ関数とシンク ガンマ関数の漸近的な性質に起因する現象です。
インコヒーレント解析とコヒーレント解析の実行
[部分的コヒーレント像解析] (Partially Coherent Image Analysis) の設定ウィンドウを開き、[データ タイプ] (Data Type) を [原画像 (回折なし)] (Raw Image (no diffraction)) に変更します。この設定では、3 本のバー状ターゲットを持つ光源が表示されます。Cooke トリプレット光学系で、この光源の結像を得ます。原理的には、どのような IMA ファイルも使用できることに重要性があります。
次に、2 種類の極端な条件として、この光源の完全にインコヒーレントな像を得る場合と、完全にコヒーレントな像を得る場合を検討します。まず、[データ タイプ] (Data Type) を [インコヒーレント像] (Incoherent Image) に変更して、完全にインコヒーレントな像を生成します。得られる像には、予想どおりの一般的なぼやけ (回折による結果) が認められますが、コヒーレントな干渉は発生していません。
次に、[データ タイプ] (Data Type) を [コヒーレント像] (Coherent Image) に変更します。この像には、明らかな空間干渉が認められます。特に、バー状ターゲットの隅に顕著な干渉が現れています。
部分的コヒーレント解析の実行
つづいて部分的コヒーレント解析の結果を確認します。まず、小さなα値 (0.0025) で試します。前述のとおり、α値が小さい場合、得られるガンマ関数の幅が狭くなり、ほとんどインコヒーレントな結果となります。[データ タイプ] (Data Type) を [部分的コヒーレント像 (主にインコヒーレント)] (Partially Coherent Image (Mostly Incoherent Method))、[アルファ] (Alpha) を 0.0025 に設定します。得られる像は、先ほど確認したインコヒーレントな結果にきわめてよく似ています。ガンマ関数の幅が狭いほど、得られる像はよりインコヒーレントになります。
つづいて、大きなα値 (0.1) で試します。α値が大きいと、得られるガンマ関数の幅が広がることがわかっています。
したがって、ほとんどコヒーレントな像になります。[データ タイプ] (Data Type) を [部分的コヒーレント像 (主にコヒーレント)] (Partially Coherent Image (Mostly Coherent Method))、[アルファ] (Alpha) を 0.1 に設定します。予想どおり、前述のコヒーレントな結果によく似た像が得られています。ガンマ関数の幅が広いほど、得られる像はよりコヒーレントになります。
ここで、α値が小さくも大きくもない (0.01) 場合も試します。まず、どのようなガンマ関数になるかを確認しておきます。
[データ タイプ] (Data Type) を [部分的コヒーレント テスト : ガンマ] (Partially Coherent Test: Gamma)、[アルファ] (Alpha) を 0.01 に設定します。予想どおり、この条件によるガンマ関数の幅は、α値が 0.1 のガンマ関数より狭く、α値が 0.0025 のガンマ関数より広くなります。
この表示から、ガンマ関数が像に占める割合が 20% を超えていることが明らかなので、ここでもほとんどコヒーレントな計算方法を使用します。[データ タイプ] (Data Type) を [部分的コヒーレント像 (主にコヒーレント)] (Partially Coherent Image (Mostly Coherent Method)) に変更します。得られる像には空間干渉の効果が明らかに認められますが、予想どおり、その効果は前述のより広いガンマ関数 (α = 0.1) の場合ほど顕著ではありません。
次のアニメーションは、3 本のバー状光源の像解析で、その条件をインコヒーレント、部分的コヒーレント、コヒーレントと段階的に変更して、得られる像が変化する様子を表したものです。
サンプリングに関する問題点
部分的コヒーレント解析で正確な結果を得るには、像を十分にサンプリングする必要があります。サンプリングが十分であるかどうかを検証するには、部分的コヒーレント解析の計算で使用される PSF を確認します。[データ タイプ] (Data Type) を [部分的コヒーレント テスト : PSF] (Partially Coherent Test: PSF) に変更します。PSF がゼロではない部分を拡大します。
PSF がゼロではない領域に 10 個以上のサンプリング ポイントが表示されていれば、サンプリングは十分です。上の図はこの条件を満たしています。サンプリングが十分でない場合は、[オーバーサンプリング] (Oversampling) の設定値を大きくします。
一般的に、サンプリングが不十分なままで PSF や部分的コヒーレント像を生成しようとすると、「サンプリングが不足しています。データは正確ではありません。」 (Sampling Too Low, Data Inaccurate!) というメッセージがOpticStudio によって表示されます。
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