OpticStudio によるフォトルミネッセンス シミュレーションの概要

フォトルミネッセンスとは、媒質に光子が吸収され、吸収されたエネルギーの一部が光子として再放出される現象です。 広義のフォトルミネッセンス発光には蛍光と燐光の 2 種類があります。ノンシーケンシャル モードに用意されたフォトルミネッセンス バルク散乱モデルを使用して、どちらの発光も OpticStudio でモデル化できます。
著者 Shawn Gay

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序論

フォトルミネッセンスとは、媒質に光子が吸収され、吸収されたエネルギーの一部が光子として再放出される現象です。広義のフォトルミネッセンス発光には蛍光と燐光の 2 種類があります。ノンシーケンシャル モードに用意されたフォトルミネッセンス バルク散乱モデルを使用して、これらの現象を OpticStudio でモデル化する方法を紹介します。注: 燐光と蛍光のモデルは OpticStudio 17 で更新されています。モデル パラメータと使用法の詳細は、ナレッジベースの記事「Modeling photoluminescence in OpticStudio: A photoluminescent solar concentrator」を参照してください。

 

OpticStudio のフォトルミネッセンス モデル

OpticStudio のフォトルミネッセンス モデルは現象論に基づいています。光子に発生する事象を詳しくモデル化するのではなく、ユーザーが設定した一連のスペクトルに基づき、確率に従って光線に吸収、ダウンコンバート、散乱が発生するようにしています。フォトルミネッセンス材料に入射する単一の光線に対して、次のようなアルゴリズムが適用されます。

  1. 入射する光子に相当する光線の経路長に基づいて、その光線が次の挙動のどれをとるかを確率論的に判断します。
    • 吸収 (光子の波長と材料の吸収スペクトルに依存)
    • 入射先材料によるミー散乱
  2. 光線が吸収される場合は、材料の励起スペクトルに基づいてフォトルミネッセンス遷移が励起されるかどうかを確率論的に決定します。
  3. 励起が発生する場合は、材料の発光スペクトルを使用して、ダウンコンバートされた光子の波長を確率論的に計算し、その光子が 4π の球の範囲で各方向に均一に散乱するようにします。励起が発生しない場合は、散乱粒子の平均半径に基づいて光子がミー散乱するようにします。

したがって、あらゆる状況に対応できるようにフォトルミネッセンス モデルを記述するには、次の 3 種類のスペクトルを指定する必要があります。

  1. 吸収スペクトル
  2. 発光スペクトル
  3. 量子効率スペクトル

ノンシーケンシャル モードでの設定

OpticStudio では、あらゆるノンシーケンシャル体積オブジェクトを、フォトルミネッセンスを発する物体としてモデル化できます。フォトルミネッセンス散乱を追加するには、下図のようにオブジェクトのノンシーケンシャル エディタで、オブジェクト プロパティの [体積物理特性] (Volume Physics) のセクションに移動します。フォトルミネッセンスのモデルにはベーシック モデルと標準モデルの 2 種類があります。どのような状況でも標準モデルの使用をお勧めします。ベーシック モデルは下位互換性の確保のみを目的として用意されています。

 

NSCE_Settings_Standard

図 1. OpticStudio でのフォトルミネッセンス モデルの設定

 

吸収スペクトル、発光スペクトル、量子効率スペクトルを収めたスペクトル ファイルを選択する必要があります。また、ミー散乱とフォトルミネッセンスの平均自由光路を設定するパラメータもいくつか指定する必要があります。
重要なことは、シミュレーションで 1 本の追跡光線に発生する吸収、発光、散乱の各現象を複数回にすることができるという点です。散乱を 1 回のみにするか複数回にするかを選択するには、ノンシーケンシャル コンポーネント エディタで、光源ごとに [オブジェクト プロパティ] (Object Properties) → [光源] (Sources) セクション→ [光線追跡] (Raytrace) グループ ボックスで、バルク散乱の挙動として [1 回] (Once) または [複数回] (Many) を選択します。

もうひとつの重要なことは、OpticStudio のフォトルミネッセンス モデルでは、光学系にあるすべての光源の色をシステム波長に設定する必要があるという点です。色がシステム波長以外の光源が 1 つでもあると、すべての材料でフォトルミネッセンス散乱がオフになります。

 

NSCE_Source_Settings

図 2. フォトルミネッセンス モデルに影響する光源の設定

 

ノンシーケンシャル モードでフォトルミネッセンス材料をシミュレーションするときに必要なすべての手順は以上のとおりです。当然のことながら、シミュレーションの結果は材料の特性に大きく依存するため、入力として使用するスペクトルの実測データが必要になることは想定しておくべきです。

 

スペクトル ファイルの表示と編集

[ライブラリ] (Libraries) リボンには、ボタン グループとして [フォトルミネッセンス] (Phosphors and Fluorescence) があります。これらのボタンにより、フォトルミネッセンス モデルで使用する入力スペクトル ファイルの表示や編集などの操作ができます。

 

Viewing_and_Editing_Photoluminescence_Spectra

図 3. フォトルミネッセンス スペクトルの表示や編集のためのリボン バー ボタン

 

[スペクトル ファイルを表示] (View Spectrum File) を選択すると、下図のような解析ウィンドウが表示されます。

 

View_Spectrum_File

図 4. スペクトル ビューアに表示された吸収スペクトルの例

 

この解析の設定では、スペクトルの種類や特定のデータ ファイルを選択できるほか、発光スペクトルの場合は励起波長も選択できます。

 

Spectrum_Viewer

図 5. スペクトル ビューアで使用できる各種設定

 

ファイルのフォーマット

吸収スペクトル

吸収スペクトルは、特定の波長の光子が分子によって吸収される確率を表します。このスペクトルは、光線の強度に適用する係数を計算するときに使用します。吸収スペクトルを定義した .zas テキスト ファイルが、{Zemax}\Objects\Photoluminescence Files に保存されています。このファイルには、吸収スペクトルを定義する波長と確率が、倍精度浮動小数点型の値のペアとして記述されています。ファイル ヘッダーでは、ファイル内に記述されているデータ ペアの数および波長の単位を示すフラグ (0 は µm、1 は nm) を指定します。吸収スペクトルには、5 つ以上の波長を記述する必要があります。

   !comment
   #_of_points wavelength_unit_flag
   wavelength probability

吸収スペクトル範囲外の波長の光線は吸収されず、ミー散乱します。

発光スペクトル

発光スペクトルは、フォトルミネッセンス発光の強度スペクトルです。このスペクトルは、光の特定の波長による発光の確率スペクトルを計算するときに使用します。ダウンコンバートされる光線のすべてに、この確率スペクトルに基づく確率に従って新しい波長が割り当てられます。{Zemax}\Objects\Photoluminescence Files に保存されている ZES ファイルには、さまざまな入射波長に対するいくつかの発光スペクトルを定義する値のグリッドが含まれています。

   !comment
   #_emission_wavelengths #_incident_wavelengths wavelength_unit_flag
   incident_wavelength_1 ... incident_wavelength_n
   emission_wavelength_1 relative_power ... relative_power
   emission_wavelength_2 relative_power ... relative_power

定義された入射波長が 5 つ以下の場合、中間の値は線形補間で求めます。定義された入射波長が 6 つ以上の場合は、3 次スプライン補間を使用します。

量子効率スペクトル

量子効率スペクトルは、ダウンコンバージョン過程の効率ですが、光線強度に対するダウンコンバージョンの効果は考慮されません。その効果は、ダウンコンバートされた光線の強度に、入射波長と発光波長の比を乗じる次式を計算することにより、OpticStudio で内部的に考慮されます。入射波長と発光波長との比をストークス シフトと呼びます。

発光強度 = 入射強度 * A * Q * (入射波長/発光波長)

A は吸収係数、Q は量子効率です。
{Zemax}\Objects\Photoluminescence Files に保存された ZQE ファイルには、さまざまな入射波長に対する発光スペクトルをいくつか定義した値のペアが記述されています。

   !comment
   #_of_points wavelength_unit_flag
   wavelength yield

 

前提と規則

注意すべき前提条件と規則がいくつかあります。

  • 発光スペクトルには、5 つ以上の発光波長を記述する必要があります。
  • 光線は、元の波長から長波長側にのみシフトします。短波長側へのアップコンバージョンは発生しません。
  • 光線が吸収されても、その波長が励起スペクトルの範囲外にある場合は、光束が 0 に設定されて光線は終了します。
  • 量子効率スペクトルの場合、ZQE ファイルに記述された効率の値が 1 つのみであると、その値がすべての波長に使用されます。
  • フォトルミネッセンス モデルでは、システム波長を使用している光源のみを使用できます。システム波長を使用していない光源を選択すると、光学系にある他のすべての光源にフォトルミネッセンス モデルを適用できなくなります。

サンプル ファイル

OpticStudio で提供されている 3 つのサンプル スペクトルを使用して、簡単な仮想の例を示します。このノンシーケンシャル光学系は、光源 (光線)、フォトルミネッセンス モデルが適用された矩形体積、ディテクタ (色) の 3 つのオブジェクトで構成されています。

 

Sample_Absorption_Spectrum

図 6. サンプル 1 吸収スペクトル

 

Sample_Quantum_Yield_Spectrum

図 7. サンプル 3 量子効率スペクトル

 

図 8. サンプル 1 発光スペクトル

 

1E6 本の解析光線で光線追跡を実行すると、次の光束対波長のプロットが得られます。

 

Flux_vs_Wavelength

図 9. 1E6 本の光線による光束対波長の結果

 

KA-01515

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