OpticStudio のノンシーケンシャル光線追跡を実行すると、形状エラーが発生して光線が途中で終端されることがあります。これらのエラーは、必ずしも光線追跡が無効であることを意味するものではなく、シミュレーションにおける潜在的な問題をユーザに警告することを目的としています。この記事では、これらのエラーを見つけて診断する方法を説明します。
著者 Dan Hill
序論
OpticStudio のノンシーケンシャル モードまたは混合モードでの設計では形状エラーが発生することがあります。OpticStudio では、設計の中に光線追跡方法が不明確な部分が見つかると形状エラーが発生します。これらのエラーは、ユーザー インターフェイス経由で発行されるほか、解析を実行しているときは光線データベースにもログで記録されます。これらのエラーを追跡することによって、正確な光学系の設計になっているかを検証できます。
この記事では、形状エラーの特定と評価をサポートする OpticStudio のビルトインのツールを説明します。
形状エラーの特定方法を知っておくことが重要な理由
形状エラーは、誤った光線追跡結果の原因となる重大な不具合が設計にあることを示している可能性があります。したがって、エラーの発生源を判別できることが重要です。一方で、問題のない光学系であっても、少数の光線エラーが発生する可能性があることは認識しておく必要があります。このようなエラーの主な原因は、これらの光線がフェーセット同士または面同士の境界に入射したために、面との正確な交差点を計算できないことにあります。これらの光線は、OpticStudio によって内部的に捕捉されて吸収または終端されることが普通です。ほとんどの場合、これらの光線に伴うエネルギー損失量は、設計で定義されているすべての光源の合計パワーに比較すると微々たるものです。したがって、これらの光線が最終的な光学系の結果に有意な影響を及ぼすことはないので、無視しても問題はありません。
ここでは、エラーが発生した光線によって失われるエネルギーが占める比率を判断する方法を考えます。光線追跡が完了すると、OpticStudio は閾値に起因するエネルギー損失とエラーに起因するエネルギー損失を報告します。
これらの値はワットなどの絶対単位で表されます。このエネルギー損失の値が大きい場合は調査が必要です。エネルギー損失がきわめて少ない場合は、数本の光線を追跡できなかったに過ぎないと考えられるので、これらの損失は無視できます。エネルギー損失が、無視できるほど少ないかゼロであれば、光線追跡の結果が確実に正しいと判断できるので、以降の設計を続行できます。
形状エラーの一般的な要因
予想できることですが、形状エラーは 1 つではありません。エラーが発生する状況とその理由はさまざまです。次の表は、形状に関連したエラーで最も多く見られる 3 種類の原因をまとめたものです。
要因 | 説明 |
入射ポートおよび射出ポートの配置が無効 | ノンシーケンシャル コンポーネント (NSC) グループでは、入射ポートと射出ポートはどのようなオブジェクトとも交差できません。さらに、射出ポートは、ノンシーケンシャル (NS) オブジェクトの面と直接接することはできません。両方のポートが、NSC グループにあるどのオブジェクトからも貼り合わせ距離以上の距離を維持しているようにする必要があります。 |
光源の位置が無効 | 光源を体積オブジェクトの内部に配置することはできますが、NSC エディタで [内部配置] (Inside Of) フラグでそのような配置を指定しておく必要があります。体積オブジェクトの境界に重なるように光源を配置することはできません。光源オブジェクトの配置が誤っていると形状エラーが発生します。 |
ソリッド オブジェクトの構造が無効 |
ポリゴン オブジェクトやインポートしたオブジェクトなど、ユーザー定義オブジェクトの定義が不適切なことがあります。たとえば、ポリゴン オブジェクトが完全に閉じていないと、光線がそのオブジェクトを離れる場所を OpticStudio が判断できず、形状エラーが発生します。形状エラーは、特定の高精度オブジェクトのレンダリング品質が著しく低い場合にも発生する場合があります。この要因については、オブジェクト プロパティの描画タブで対応できます。 |
エラー メッセージに記述されている情報
混合モード光学系での作業では、発生するあらゆる形状エラーの原因が、入射ポートまたは射出ポートあるいはその両方の無効な配置にあることが多く見られます。なお、エラー メッセージには、光線追跡の中でエラーが発生した場所に関する貴重な情報が記述されています。この点は、特に純粋な NSC 光学系でいえることです。報告される形状エラー メッセージの例を以下に示します。
このエラー メッセージは、正常に追跡できなかった最初の光線に関する情報を示しています。
- 行 1: 1 行目には、NSC グループの面番号と、光線の発生元の光源オブジェクト番号が記述されています。NSC グループの面番号は、レンズ データ エディタのノンシーケンシャル コンポーネント面の面番号に相当します。この情報は、混合モードの光学系に複数の NSC グループが存在する場合に効果的です。純粋なノンシーケンシャル光学系では、NSC グループの面番号は必ず 1 です。光源番号は、NSC エディタに記述された光源のオブジェクト番号に相当します。混合モード光学系のシーケンシャル光線に起因する光線エラーの場合、この光源番号はゼロです。
- 行 2: エラー メッセージの 2 行目には、エラーが検出された NSC オブジェクトの番号が記述されています。
- 行 3 と行 4: 形状エラー メッセージの 3 行目と 4 行目には、グローバル座標での光線の最初の位置と方向余弦に関する情報が記述されています。混合モード光学系の場合、グローバル座標の基準は入射ポートの頂点です。混合モード光学系を更新する際には、光学系のさままな特性を判断するために OpticStudio では内部的に特定の光線を発する必要があります。したがって、報告される光線の位置と方向余弦は、内部的に追跡された光線のうちの 1 本となります。言い換えると、3D レイアウトの設定で定義されている光線と必ずしも一致しません。
これらの情報が得られると、設定に誤りがあることが明確に判明することもあれば、エラーが検出された光線の伝搬を詳しく解析することが必要になることもあります。エラーが発生した光線の方向余弦と開始位置がわかっているので、対象の光学系を通じた伝搬をシミュレーションする光源 (光線) を設定できます。これはそれほど難しい作業ではありませんが、OpticStudio にはこのプロセスを自動化するツール、エラー光線の生成ツールが用意されています。
[エラー光線を生成] (Create Error Ray) ツール
形状エラーを報告した OpticStudio は、エラー発生元の光線の位置と方向余弦の情報を保存します。これらの開始値を使用して、エラーが発生する光線を再現する単一の光源 (光線) を生成できます。形状エラーが報告されたときは、[設定] (Setup) ... [エラー光線を生成] (Create Error Ray) を選択することで、このような光源を生成できます。
このオプションを選択すると、NSC エディタで該当の位置と方向余弦で自動的に光源 (光線) が生成され、[描画光線数] (# Layout Rays) と [解析光線数] (# Analysis Rays) がゼロに設定されて他の光源がすべてオフになります。形状エラーのテスト光線が設定されれば、レイアウトや OpticStudio 光線データベース ビューアなどの診断ツールを使用して、無効な光線追跡の原因を絞り込むことができます。この操作の際に、[エラーを無視] (Ignore Errors) フラグを一時的にオンにすると、エディタでプロットの回転やカーソルの移動を実行するたびにエラー メッセージが発行されることがなくなるので効率的です。
このフラグはグローバル スイッチなので、[光線追跡コントロール] (Ray Trace Control) ウィンドウまたは [ディテクタ コントロール] (Detector Control) ウィンドウの [エラーを無視] (Ignore Errors) チェックボックスも同様に設定されます。
光線追跡の詳細を保存または表示するには、[エラーを無視] (Ignore Errors) をチェックし、.ZRD を拡張子とした任意のファイル名で光線を保存します。
光線データベース ([解析] (Analysis) ... [データベース] (Database) ... [光線データベース ビューア] (Ray Database Viewer)) で、エラーが発生した位置 ([Z] (Z) 列 に * が記述されている位置) までの光線の伝搬を詳しく確認できます。このようにして、光線の追跡が中断したときに到達していたオブジェクト、そのオブジェクトの面番号、および伝搬履歴全体を判断できます。エラーが発生しないように光線追跡を続行するうえで、設定のどの部分で修正が必要であるかを見極める際に、この機能がきわめて効果的です。
KA-01541
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