この記事では以下の内容を取り上げています。
- 近軸光線の概要
- 副光線の概要
- 混乱しやすい近軸光線と副光線の違い
この記事には、ここで使用するサンプルとマクロを収めた ZIP アーカイブが添付されています。このアーカイブは、この記事からダウンロードできます。
著者 Mark Nicholson
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序論
近軸光線は、スネルの法則の線形近似に従って追跡される光線で、計算効率を大幅に向上させるという利点があります。対照的に、副光線はスネルの法則の明示的な形式を使用しますが、参照光線(通常は主光線)に対して小さな角度しか作りません。 これらの光線はどちらも一次光学特性を決定したり、解析のための参照データを提供したりするのに役立ちます。
近軸光線の概要
近軸光学とは、光線が光軸に対して成す角度と高さがきわめて小さい領域に限定して実行する光線追跡です。近軸光学系では、簡素化の前提を多数使用することで、光線追跡の計算を容易にすることができます。
最初の前提ではスネルの法則そのものを扱います。異なる材質の境界で発生する屈折に対しては、次の有名な式が成り立ちます。
ダッシュ記号が付いていない値は屈折前のもの、ダッシュ記号が付いている値は屈折後のものであることを表します。角度θが小さい場合は sinθ ≒ θになるので、スネルの法則は次のように記述できます。
現在のような電卓やコンピュータがなかった時代、この式によって計算の負担が大幅に軽減されたことは言うまでもありません。光学の多くの定義が、この線形性の前提に基づいており、そこから 1 次光学系という言葉が生まれました。収差は 3 次であり、この線形性から大きく逸脱しています。θが大きくなると sinθ ≒ θ -θ3/3! + θ5/5! -... になるからです。光学系の近軸特性は、収差がない状態で光学系が示す特性と見なされることが普通です。
2 番目の前提では、面上の光線の高さが低い場合、その面の曲率を無視し、等価な屈折力を持つ平坦な面と見なして、これらの面の間で光線を追跡できるとします。屈折率がそれぞれ n および n' である 2 つの材質境界面の曲率が C である場合、その面の屈折力は次式で表されます。
光線の交差に対する曲率の効果を無視することで、光線と面の交差位置を正確に位置する作業が不要になります。
3 番目の前提では、光線の角度の正接 (光線の傾き) を光線の角度で置き換えることができるとします。この前提は、直感的にはわかりにくいかもしれませんが、基本的な前提です。下図のように、2 つの平坦面の間で近軸光線を追跡する場合を考えます。第 1 面では、光線の当初の高さが y であり、y 方向と z 方向の方向余弦はそれぞれ m、n です。2 番目の面での光線の高さ y' は次式で求めることができます。
θが小さい条件では sinθ ≒ θ のほか、tanθ ≒ θ も成り立つからです。近軸光線の傾きはその角度に等しいということは、基本的な要点ですが見落とされがちです。
近軸光学によって光線追跡の計算を大幅に簡素化できることは明らかです。これを単なる計算上の便宜と考え、電卓やコンピュータがある現代においては重要ではないとすることは間違いです。近軸光学は、球面で構成する回転対称な光学系で、条件を限定した特性を表します。一方、副光線はより一般的で便利な概念です。
副光線の概要
副光線とは、主光線に対してわずかな角度を成す実光線です。「実光線」には厳密なスネルの法則が適用されます。したがって、光線が相互作用する面は、実際の面と等価な屈折力を持つ平面ではなく、曲率を持つ実際の面であり、光線追跡では近似が適用されません。
このため、近軸光線における計算上の利点が副光線では得られなくなりますが、アパチャーがゼロに近くなると、限定的な条件下での光学系の性能を、近軸光線よりも適切に表現できます。特に、面のティルトやディセンタ、非回転対称の面、回折性の面、屈折率分布面などを扱う際に有利になります。
実光線の比較基準として近軸基準を必要とする計算が多数存在します。これらの機能が適切に動作するように、OpticStudioでは、1 次光学系で十分に記述できない光学系でも、アパチャーがゼロに近くなると副光線を使用し、光学系の限定的な特性を計算します。
一方で、近軸理論を実際のレンズに適用すると混乱の原因となることが多くなります。これを示すために、実際の光学系で近軸光線を追跡してみます。
また、副光線も追跡して、その計算の仕組みや利点を詳細に検討できるようにします。
近軸光線と副光線の追跡結果の比較
この記事にあるリンクから入手できる ZIP ファイルに real system.zmx ファイルが収録されています。このファイルでは、NA が大きい顕微鏡用対物レンズを扱っています。このレンズは高度な最適化により回折限界に達しています。最後の面 (赤で表示) の曲率は、マージナル光線角が -0.5 になるように、マージナル光線角ソルブで制御されています。
像空間の開口数 (ISNA) とは、+y 方向の近軸軸上マージナル光線と近軸軸上主光線が成す角度の正弦に像空間の屈折率を乗算した値です。この角度は、定義した共役の位置で主波長の光線を使用して計算します。像空間の屈折率は 1 なので、ISNA は sin(0.5) = 0.479 になるように思われます。
しかし、Zemax による計算結果は 0.447 です。この理由を検討してみます。
まず、1 次光学特性の計算方法を考えます。
前記の 3 番目の前提では tanθ ≒ θとしています。つまり、近軸光線の角度は光線の傾きに置き換えて考えることができます。ここで次のマクロを検討します。
このマクロを実行すると、次の結果が得られます。
ソルブで設定されるマージナル光線角がゼロに近づくと、近軸マージナル光線の角度と正接が互いに近い値になります。一方で、マージナル光線角がこのように大きくなると、正接との差が大きくなってきます。
副光線を追跡する場合、主光線のごく近傍の実光線を追跡し、それを目的の瞳座標にスケーリングします。
ここから、次の結果が得られます。
つまり、ここで得られた値は、マージナル副光線の角度であることがわかります。これは、ソルブで近軸マージナル光線角として設定されている角度の正接です。
前提条件
1 次光学系のパラメータを使用する場合は、定義に十分な注意が必要です。パラメータの中には、ISNA のように全面的に近軸定義のみに関連付けられているものもあります。近軸光学で記述できない光学系では、誤解を招く結果が得られることがあります。近軸光学の基本的な前提は、主光線に対して光線が成す角度と高さが小さいことです。この前提によって、以下が成立します。
- スネルの法則をその線形近似で置き換えることができる。
- 面の形状を無視し、代わりに面と等価な屈折力を持つ平坦面を使用できる。
- 光線の傾きが光線の角度と等価である。
これらのどの近似によっても数値計算を簡素化できますが、一方で汎用性が損なわれる側面もあります。副光線は、この近軸条件を満たす実光線です。つまり、主光線に対して成す角度と高さが小さいことのみを条件として、その他の点では通常の光線のように追跡する光線です。
参考文献
1. Geary, Joseph M. 2002. Introduction to Lens Design: With Practical Zemax Examples. Willmann-Bell.
2. Smith, Gregory Hallock. 1998. Practical Computer-Aided Lens Design. Richmond, VA: Willmann-Bell.
KA-01578
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