光学系の光軸からレンズがチルトや偏芯しているものも多く見受けられます。この記事ではシーケンシャルモードで偏芯とチルトを取り上げています。
著者 Mark Nicholson, Updated by Natalie Pastuszka
ダウンロード
序論
この記事では、光学部品の偏芯やティルトを操作する座標ブレーク面について説明します。第一部では座標ブレーク面やその動作について説明し、続いて例を通して座標ブレークの使用方法を追求します。最後に、ティルト/ディセンタ エレメント ツールを紹介します。
座標ブレーク面
OpticStudio のシーケンシャル光線追跡モードでは、面を入力する順番がきわめて重要です。レンズ データ エディタ (LDE) で指定する順番によって、光学系の部品の面と光が相互作用する正確な順番が決まります。したがって、面は、前の面から一定の厚みだけ離れた位置 (ローカル z 軸上での距離) に配置されます。この手法は、面の位置をその前の面を基準として指定するので、ローカル座標系と呼ばれます。
座標ブレーク (CB) 面を使用すると、次の面を x 方向と y 方向にシフトし、x 軸、y 軸、z 軸を中心としてティルト (回転) したうえで、同様に z 方向にシフトして指定できます。座標ブレークは、ダミーの面です。つまり、屈折のパワーも反射のパワーも持たないので光線の方向を変えることができません。その唯一の目的は、現在の座標系を基準として新しい座標系を定義することです。このような面を使用すると、その光学特性から面の幾何学的位置を分離できます。
この記事では、他のすべての部品の位置を変更せずに、光学部品のティルトとディセンタを実行する方法を紹介します。この操作を正確に実行する方法を説明した後で、そのプロセス全体を簡素化するツールを紹介しますが、ツールがどのように動作しているかを理解することが重要なので、この記事全体に十分に目を通すことをお勧めします。添付された zip ファイルには、starting point.zip ファイルが収められています。このファイルでは 3 つのガラス窓が表示され、そのうちの中央の窓は、2 つの光学材料を貼り合わせたものです。
各窓には、矩形アパチャーが設定されています (任意の面をダブルクリックして [アパチャー] (Aperture) タブで確認できます)。
面のアパチャーの外部に到達した光線に対しては追跡が終了します。
上のスクリーンショットで、z 軸の正方向は左から右へ向かう方向、y 軸の正方向はページ上方へ向かう方向、x 軸の正方向はページの奥へ向かう方向です。これは右手座標系であり、z は人差し指、y は親指、x は中指に相当します。3D レイアウトの左下に表示される座標軸が示すように、人差し指は左から右の方向を指します。
この記事では、左右の窓の位置を変更せずに、中央の窓にティルトとディセンタを適用することを目的としています。この操作が実現できたことを確認する方法を検討します。OpticStudio には、ティルトまたはディセンタを適用した光学系を扱う際に重要なレポートが用意されています。
[解析] (Analyze) → [レポート] (Reports) → [データ一覧] (Prescription Data) を開き、[グローバル頂点] (Global Vertex) セクションを確認します。
グローバル頂点レポートには、グローバル座標基準面 (GCRS) を基準とした各面の頂点の位置と方向が一覧表示されます。この設計では面 1 が GCRS ですが、[面のプロパティ] (Surface Properties) の [タイプ] (Type) タブまたは [システム プロパティ] (System Properties) ダイアログ ボックスの [その他] (Misc) タブのどちらでも任意の面を GCRS として選択できます。
グローバル頂点レポートから、GCRS を基準としてすべての面が軸上にあることがわかります。これは、回転マトリックスがすべての面で単位マトリックスであり、各面の {x,y} 座標がゼロであるからです。面 7 (窓 3 の前面) の {x, y, z} 座標は、GCRS である面 1 を基準として {0,0,33} です。
座標ブレーク (CB) 面を使用すると、x 方向のディセンタ、y 方向のディセンタ、{x, y, z} を中心としたティルト、z (厚み) 方向のシフトを指定できます。これらの設定は、座標ブレーク面以降のすべての面に影響します。また、順番フラグを指定することもできます。このフラグの目的については後で説明します。
ここでの最初のタスクは、中央の窓以外の面の位置を変更せずに、中央の窓にディセンタを適用することです。
部品のディセンタ
中央の窓をディセンタするには、面 4 (「窓 2 の前面」というコメントが付いています) の任意の場所をクリックし、キーボードの Insert キーを押します。新しい面が挿入され、それまでの面 4 以降のすべての面の番号が変更されます (したがって、面 5 に「窓 2 の前面」というコメントが付きます)。
新しい面 4 をダブルクリックし、座標ブレーク面として設定します。
スクロールして y 方向のディセンタの列に移動し、値 -5 mm を入力します。レイアウト プロットとプリスクリプション レポートに結果が表示されます。座標ブレーク以降のすべての面に -5 mm のディセンタが適用されます。
座標ブレーク (CB) の効果は、別の CB を設定するまで継続します。したがって、ティルトやディセンタを実行する CB と元の座標に戻す CB の 2 つが必要になることが普通です。
この点を確認するには、面 8 (窓 3 の前面) をクリックし、ここでも Insert キーを押して、新しい面を CB として設定します。この面の厚みを 10 mm にし、面 7 の厚みをゼロにします。これにより、2 つめの CB が中央のガラスの後面と同じ位置に配置されます。この CB に対して、y 方向に +5 のディセンタを適用します。この結果、以下のようなレイアウトになります (操作の流れがわからなくなった場合は、zip ファイルから intermediate step.zmx を開いてください)。各面には矩形アパチャーが設定されているので、中央の窓に到達しなかった光線に対しては追跡が終了します。これは、シーケンシャル モードの本質的な部分です。中央の窓に到達しなかった光線が 3 番目の窓に到達する光学系をモデル化するには、ノンシーケンシャル光線追跡を使用する必要があります。
復元側の CB を設定すると元の座標軸が復元され、以降の各面はそれぞれの元の位置に戻ります。
最初の CB を調整した場合は必ず 2 番目の CB を調整する必要がありますが、この操作を忘れやすいので、座標ブレーク面を復元する値を手動で設定することはお勧めしません。OpticStudio では、この復元操作を容易に自動化できます。2 番目の CB で y 方向のディセンタをダブルクリックし、次のようにその値を最初の CB にロックするピックアップ ソルブを選択します。
x 方向のディセンタのパラメータとティルトのパラメータでも同様の操作を実行します。なお、ここでは両方の CB の順序フラグをゼロのままにしておきます(これは誤りですが、その理由は次のページで説明します)。
x 方向と y 方向でディセンタに任意の値を設定できます。2 番目の CB で元の座標系が自動的に復元されます。操作の流れがわからなくなった場合は、添付された zip アーカイブから intermediate step2.zmx を開いてください。
次に、ティルトについて説明します。
部品のティルト
最初の CB のすべてのパラメータをゼロにリセットします。2 番目の CB のパラメータは、ピックアップ ソルブによって自動的にゼロに設定されます。最初の CB で x のティルトを 20 度に設定します。一見したところ、これだけで十分のように思えますが、グローバル頂点レポートを慎重に調べると、どこかに問題があることがわかります。
x のティルトに起因して、y 方向に 0.68 mm のディセンタが発生しているからです。この原因は、x 軸を中心としてティルトされた新しい座標系の z 軸方向に少し離れた位置に 2 番目の座標ブレークが配置されていることにあります。このようなディセンタが発生しないようにティルトのみを適用するには、2 つの CB 面どうしの z 方向シフトをゼロにする必要があります。
これを実現するには、2 番目の CB の前にダミー伝搬を設定します。2 番目の座標ブレークの直後にダミー面を挿入します。現在、2 番目の CB の厚みは 10 です。この値を 0 に設定し、新しいダミー面の厚みを 10 に設定します。現在、2 つの CB 間の z 方向シフトは合計で 2 mm です。したがって、2 番目の CB の直前にある面の厚みを -2、2 番目の CB の厚みを +2 にします。このダミー伝搬によって、空間の同じ位置に 2 つの CB が配置されます。このため、ティルトの取り消し操作を実行してもディセンタが発生しません。
このダミー面には、光学的な効果がありません。空気中で -2 mm を追跡した後で、同様に空気中で + 2 mm を追跡しているので、どの光線も曲がらず、光路長も追加されないからです。[面のプロパティ] (Surface Properties) の [描画] (Draw) タブで、[この面を描画しない] (Do Not Draw This Surface) と [この面への光線をスキップする] (Skip Rays To this Surface) を使用すると、このダミー面を非表示にすることができます。
なお、このダミー伝搬に対する厚みの設定方法は不十分です。手動操作や最適化の段階で、いずれかのガラス面の厚みが変化した場合を考えてみます。2 番目の CB が正しい位置に配置されなくなります。重要な点は、2 番目の CB が最初の CB と同じ位置にあることです。OpticStudio には、この条件を確実に満たすための簡潔で高機能な手段として位置ソルブが用意されています。
位置ソルブでは、その後ろの面が、別の面から指定した距離に置かれるように設定できます。2 番目の CB の直前にある面の厚みをダブルクリックし (現在、この厚みは -2 になっています)、ソルブのダイアログ ボックスで以下のように選択します。
位置ソルブを使用すると、最初の座標ブレークまでの範囲で、任意の数の面の位置まで戻ることができます。2 番目の CB の厚みに、位置ソルブの値をピックアップしてその値に -1 を乗算するピックアップ ソルブを設定します。ここで、2 つの CB 面間にあるガラス面の厚みを変更してみます。入力した厚みの値にかかわらず、2 番目の CB は必ず最初の CB と正確に同じ位置に配置されます。したがって、この座標ブレーク操作は正確に元に戻すことができます。
最後に、もう 1 つの点に注意します。y 軸を中心として 30 度のティルトと x 軸を中心として 10 度のティルトを設定します。最初の CB による座標の変化を 2 番目の CB で正確には元に戻せなくなることがわかります。これは、ティルトの順番が重要であるためです。x軸を中心としてティルトしてから、その位置で y 軸を中心としてティルトした場合、元の座標系を復元するには、y 軸を中心としたティルトを取り消してから、x 軸を中心としたティルトを取り消す必要があります。この目的で順番フラグを使用します。
順番フラグがゼロの場合、CB 面では、最初にディセンタが実行され、次にティルトが実行されます。順番フラグがゼロ以外の場合、これとは逆の順番でティルトとディセンタが実行されます。つまり、ある CB で実行したティルトとディセンタの任意の組み合わせを、その CB と同じ位置に置いた別の 1 つの CB で元に戻すことができます。
最終的な光学系は、添付された ZIP アーカイブの final system.zmx に記述されています。次の図は、この光学系で任意の数のティルトとディセンタを適用しても、3 番目の窓の位置が影響を受けないことを示しています。ここではダミー面が非表示になっています。
ティルト/ディセンタ エレメント ツール
上記のすべてをより簡単に実行する方法があります。それを次に紹介します。
これは、光学エレメントにティルトやディセンタを容易に適用できる方法です。starting point.zmx を再び開き、[レンズ データ エディタ] (Lens Data Editor) メニューの [ティルト/ディセンタ エレメント] (Tilt/Decenter Elements) アイコンをクリックします。目的のティルトやディセンタを次のように入力します。
このツールによって、これまで手動で実行してきたすべての操作を実行できます。光学系の中で光学部品にティルトやディセンタを適用する標準的な手法として、このツールを使用することを強くお勧めします。
KA-01584
コメント
サインインしてコメントを残してください。