軸外し放物面鏡の解析

軸外し放物面 (OAP) 鏡は、より大きな放物面である「親」放物面鏡から小さな一部を切り出して構成します。これらのミラーの取り扱いは、特に初めての場合、やっかいな作業のような印象があります。しかし、ある程度の作業指示と練習によって、OAP の操作がきわめてわかりやすく、また使い勝手がいいことがわかってきます。

この記事では、既存の光学系で OAP の使用が必要になった設計の実例について解説します。
 

著者 Mike Tocci

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序論

OAP を使用した光学系の設計では、常に親放物面を考慮すると効果的な場合があります。また、光学系に親放物面を置いたままで設計を進め、設計プロセスの最終段階で偏心アパチャーとして OAP を切り出す方法も効果的です。この例では、光学系での OAP の設計、配置、クロック回転を経て、指定の出力が得られるようにしたうえで、他の光学エレメントを基準としてこの OAP の位置を指定します。これは、現実的な設計課題であり、さまざまな種類の効果的な OpticStudio の手法を紹介できるテーマです。

放物面鏡

放物面鏡では、軸上で無限共役の関係にある点 (放物面の光軸上で放物面に向かう完全な平行光線) の完全な像が生成されます。下図は f/0.3 の放物面鏡で、平行光線がその焦点に結像しています。

Parabolic_mirrors

多くの光学系で、平行光線を生成するコリメータとして放物面鏡が優れていることは明らかです。これは、点光源から平行光線を生成する機能です。上図のようなミラーを使用する場合、ミラーの前後に置いた光学エレメントによってビームの一部が遮蔽されることが不可避になります。また、ほとんどの光学系では f/0.3 のような明るいコリメータは不要であり、はるかに小型のミラーで十分であることが普通です。

上記の遮蔽の問題を回避するため、そしてミラーをできるだけ小型化するために、放物面全体の代わりに軸外し放物面鏡 (OAP) を使用することが少なくありません。OAP は、完全な親放物面から小さな一部を切り出したものです。下図に、OAP をその親放物面との関係がわかるように示しました。

parabola_spin2

この親放物面を常に考慮して設計を進めると OAP を扱いやすくなります。

OAP の設計

f/8 で焦点を結ぶビームを生成する既存光学系があるとします。このビームを直径約 80 mm の平行光線にすることを考えます。

この場合、焦点距離が 640 mm (ビーム径 80 mm x F ナンバー 8) のコリメータが必要となり、適切な候補として SORL の 25-055-04 ミラーがあります。この OAP は焦点距離が 25 インチ (635 mm)、軸外し距離が 5.5 インチ (139.7 mm)、直径が 4 インチ (101.6 mm) であるため 80 mm 径のビームを平行光線とするうえで十分です。

SORL の仕様にある軸外し距離は、OAP の有効口径周縁までの距離ですが、Zemax のディセンタ値は有効口径の中心までの距離です。
したがって、Zemax で必要なディセンタ量を求めるには、SORL の仕様にある OAP の軸外し距離に OAP の半径値を加算します。
SORL が OAP の軸外し距離を 139.7 mm 、直径を 101.6 mm としている場合、Zemax でのディセンタ値は 139.7 + (101.6/2) = 190.5 mm になります。

OpticStudio では、曲率半径が 1270 mm の標準面とした放物面で作業を開始します (ミラーでは、曲率半径が焦点距離の 2 倍になります)。また、この面は完全な放物面なのでコーニック定数を -1 に設定します (コーニック定数の詳細な定義については、Zemax ユーザー ガイドの「面タイプ」の章の「[標準] (Standard)」を参照してください)。

OAP の位置

結像ビームが、ある角度で光学台に入射し、この入射ビームを光学台の面に平行なビームとして出力するとします。このような状況は実際に発生することが多いものですが、適切な方法に従うことで容易に Zemax に導入できます。

添付ファイル (OAP_starter.ZMX および OAP_ starter.SES) には、ここで取り上げる課題の着手点となる設定が記述されています。面 1 ~ 9 は、既存の光学系であり、光学台に対して一定の角度を持ち、f/8 で焦点を結ぶビームを生成します。今回の例題では、面 1 ~ 9 で光線に発生する状況について特別な注意を払う必要はありません。これらの面が光学台に対してある角度で完全な焦点を形成するということだけ理解しておけば十分です。この例では、以下のレイアウトにあるように、光学台が X-Z 面に平行であると仮定します。

Lens data editor

3D_layout

まず、焦点の後、正確に焦点距離 (635 mm) の位置に面 11 として放物面を追加します。下図で強調表示したセルに値を入力します。

Parabola_surface_11

放物面を変更するたびにスポット ダイアグラムを確認することをお勧めします。設定に間違いがあるとその場でわかるからです。なお、この放物面鏡では平行光線としたビームを生成するので、スポット ダイアグラムを確認する前に若干の調整が必要である点に留意します。[システム] (System) → [全般] (General) ダイアログ ボックスを開き、[アパチャー] (Aperture) タブをクリックします。この光学系がアフォーカル像空間に基づいて計算されるように設定する必要があります。

Afocal_Image_Space

スポット ダイアグラムを確認すると、スポット サイズが 0 になる理想的な放物面鏡として機能していることがわかります。ここで軸外し放物面の設計に移ります。ナレッジベース記事「軸外し放物面ミラーをモデル化する方法」で参照できますが、平行光線としたビームが放物面に入射する場合であれば、放物面の前で光軸をディセンタし、放物面の後で主光線ソルブを使用して、結像したビームに合わせて光軸にティルトを適用するだけの簡単な作業になります。これは、放物面の前で Y 方向にディセンタすると (放物面を軸外しにする処理)、放物面の後で X 軸を中心としたティルトが必要になるという考え方です。

このティルトは、ビームの射出方向に光軸を合わせることを目的としています。この記事では、焦点から光線が出発するので、いくらか順番が逆の作業を進める必要があります。もっともその手順は明らかです。放物面の前後に座標ブレークを配置し、放物面の前で X 軸を中心としたティルトを適用して、放物面の光軸の方向がビームの入射方向と一致するようにします。続いて、放物面の後で Y 方向のディセンタを適用して、ビームの射出位置に光軸を移動します。

放物面の前に、放物面をティルトするための座標ブレークを追加し、放物面の後に、軸をディセンタするための座標ブレークを追加します。

Coordinate_Break

面 13 の [Y ディセンタ] (Decenter Y) に主光線ソルブを設定し、面 11 の [X 軸のティルト] (Tilt About X) に小さい値を指定します。

Chief_Ray_Solve

ここで、まず面 13 の主光線ソルブに何の効果も認められないことがわかります。ティルトした放物面の後で光軸が移動すると想定しているのですが、ここでは何かが間違っていることが示唆されています。今回はスポット ダイアグラムを確認しているので、大きな間違いの存在を示す明確な手がかりがそこから得られます。

Spot_Diagram

問題は、焦点から 635 mm 進む前の位置で X 軸を中心としたティルトを設定する必要があるという点です。このようにすれば、光軸の方向が変化した後でビームが 635 mm 伝搬します。この設定で描画してみると、放物面の中心はビームが到達する場所からある程度ディセンタした位置になります。これで放物面をディセンタする効果が得られます。

LDE に戻り、面 10 の厚みを 0.00000、面 11 の厚みを 635 mm にそれぞれ変更します。

Thickness_of_Surface

光学系が元の状態に戻ります。スポット ダイアグラムは再び理想的な特性を示しています。ただし、Y 方向のディセンタが 190.5 mm になっていないので、X 軸ティルトに設定した 5 度という推測値は適切ではありません。Y ディセンタが正確に 190.5 mm になるまで、さまざまな X 軸ティルト値を推測して試すこともできますが、Zemax を使用している以上、このような推測は不要です。最適化の機能を使用して求めることができます。メリット ファンクション エディタを開きます。パラメータ値のオペランド PMVA を 1 つ追加します (下図ではコメント行も追加していますが、必ずしも必要ではありません)。面 13 のパラメータ #2 に、目標値 190.5 を重み 1 で設定します。

PMVA

面 11 の [X 軸のティルト] (Tilt About X) を変数にしたうえで、

Tilt_About_X

最適化を実行します ([ツール] (Tools) → [最適化] (Optimization) → [最適化] (Optimization) → [自動] (Automatic))。数秒で、評価関数の値が 0.0000000 まで減少します。

放物面に適切なディセンタおよびティルトが適用されました。

面 13 の後にある程度の厚みを追加し、OAP から射出される平行ビームを確認できるようにします。

Optimize Tab

得られるレイアウトは、下図のとおりです。

3D_layout_2

あとは、出力ビームを光学台 (X-Z 面) と平行な方向に向ける作業が残っています。そのためには、ビームが Y 方向を見る角度が正しい値になるように、放物面にクロック回転を適用します (Z 軸を中心としたティルト)。

OAP のクロック回転

この OAP が親放物面の一部を切り出したものであると考えます。さらに、この OAP が焦点の方向を向いた状態を維持して回転していると考えます。実際には、親放物面が、焦点の方向に固定された状態で OAP の部分を中心として回転している状態です。面を中心として回転する時計の針のようなものです。これをクロック回転と呼んでいます。

親放物面を傘、焦点を一点に固定された傘の取っ手、OAP セクションを傘の縁あたりにある、やはり一点に固定された丸いパッチと考えると、わかりやすいと思われます。これら 2 つの点が固定されていることで、傘 (親放物面) は OAP セクションのクロック回転に伴って偏心回転します。

レンズ データ エディタで、面 11、12、13 を選択し、[ツール] (Tools) → [座標] (Coordinates) → [ティルト/ディセンタ エレメント] (Tilt/Decenter Elements) をクリックします。すべてこのデフォルト値のままでかまわないので (下図では整理するために行の色を変更しています)、[OK] (OK) をクリックします。

Tilt_Decenter_Elements_tool

新しい面 11 の [Z 軸のティルト] (Tilt About Z) を変数に設定します。

Tilt_About_Z

出力ビームが光学台 (X-Z 軸) と平行になるまで OAP をクロック回転する必要があります。これは、出力ビームが Y 方向成分を持たないことを意味します。そのためには、評価関数に 1 行追加して、グローバル Y 軸方向に光線が持つ方向余弦のオペランド RAGB を設定します。このオペランドは、Y 軸方向に光線が持つ方向余弦を示します。出力光線の Y 方向の方向余弦を面 17 で厳密にゼロにする必要があります。評価関数にさらに数行追加して、Z 軸を中心とした放物面のティルト (面 11 のパラメータ 5 に対して PMVA オペランドを使用します) の絶対値 (ABSO オペランド) が 180 度未満に維持されるようにします (値を指定値未満に制約する OPLT オペランドを使用します)。

RAGB

この状態で前回と同様に最適化を実行します。今回も、わずか数秒で評価関数の値が 0.000000 まで減少します。今回の例では、Z 軸を中心とするティルトの値に対する解が実際には 2 つあります。これら 2 つの解では、平行光線となったビームがどちらでも光学台と平行になりますが、伝搬の X 方向が互いに異なっています。このデモでは、どちらの解が得られるかは特に問いません。このため、実際に設計を最適化すると、ここの例とは異なる解が得られ、以下に示したものとは若干異なるレイアウトが得られる可能性もあります。いずれの解でも、放物面鏡から射出されたビームは水平方向 (X-Z 面に平行) に伝搬します。

放物面鏡に適切なディセンタとティルトを追加し、さらに完璧なクロック回転を適用することで、光学台の面に平行なビームが得られました。下図に現段階のレイアウトを示します。

3D_layout_3

最後に、この放物面鏡が完全な放物面ではなく OAP に見えるように、面 13 に直径 4 インチのディセンタしたアパチャーを追加します。

Surface_13

最終的なレイアウトは以下のとおりです。

3D_layout_4

ここでは、ノンシーケンシャル オブジェクトの光学ブレッドボードを X-Z 面と平行に追加してアニメーションとしています。これを見れば、光学系の配置と方向の全体像をより明確に把握できます。すべてが適切に配置されていることの最終確認として、スポット ダイアグラムを確認します。この確認を経て、今回の OAP の設計、配置、クロック回転は完了です。

Spot_Diagram2

最後に、既存の他の光学系を基準とした OAP の実際の配置を決定する必要があります。

OAP の配置

OpticStudio上の OAP は、実際には完全な放物面に、ディセンタしたアパチャーを置いたものといえます。つまり、OpticStudio では OAP の中心が放物面の中心にあると認識されています。これは、実際の OAP コンポーネントの機械的中心の位置とは大きく異なります。レンズ データ エディタを見ると、既存光学系の出力面 (面 9) から OAP (面 13) までの合計距離は正確に 1435.000 mm であるように考えられます。ところが、上記の理由により、これは光学台上での実際の面間距離とは異なります。

これらオブジェクト間の中心間距離は、メリット ファンクション エディタを使用するときわめて正確に計算できます。そのためには、RAGX、RAGY、RAGZ の各オペランドを使用して、既存光学系の出力 (面 9) でアパチャーの中心 (H = 0,0、P = 0,0) を通る光線が占めるグローバル X、Y、Z 座標を測定し、OAP (面 13) でアパチャーの中心を通る光線が占めるグローバル X、Y、Z 座標を測定します。

次に DIFF オペランドを使用して、これら 2 組の X、Y、Z 座標の差を計算します。続いて、平方和 (QSUM) オペランドにより、これらの差の平方和の平方根を求めます。下記にメリット関数の設定を示します。

QSUM

この計算により、2 つの光学エレメント間の実際の距離が 1449.288 mm であることがわかります。レンズ データ エディタで測定した距離は、親放物面の中心までの距離である 1435.000 mm となっていました。これは、わずかな差のように見えますが、実際には約 15 波長分の RMS デフォーカスが光学系に発生します。

OAP を扱う場合は、その位置を判断する際に、放物面の中心のグローバル座標ではなく、放物面上でアパチャーの中心を通る光線が占める位置を使用することをお勧めします。

 

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