ディテクタ (極) オブジェクトには、NSC 光源から到達した光の強度データが保存されます。このディテクタ (極) の形状は球面ですが、角度の関数としたデータ分布は 2D で表示されます。この表示方法が混乱の原因となることがあります。
この記事の目的は、3D 球面に到達した光線を OpticStudio で 2D の強度プロットに変換する方法をわかりやすく解説することにあります。OpticStudio で採用している各種規則についても詳しく説明します。
著者 Sandrine Auriol
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Introduction
ディテクタ(極)オブジェクトは、それに到達したNSC光源からの強度データを保存します。ディテクタ(極)は球形をしていますが、結果として得られる角度領域のデータ分布は2Dで表示されます。そして、この点が混乱を招く可能性があります。
この記事の目的は、OpticStudioが3D球体に当たる光線を2D強度プロットにマッピングする方法を明確に説明することです。また、OpticStudioで使用されている規則の詳細についても説明します。
ディテクタに関する説明
ディテクタ (極) の形状は、オブジェクト座標の原点を中心とする球面の一部をフェーセットで近似したものです。
ディテクタ (極) では、次のような極座標を使用します。
- θ (シータ) を極角といいます。極角は緯度 (高さ) を表します。極角の 0°は、オブジェクトのローカル Z 軸の方向です。極角は 1° ~ 180°の範囲の値とすることができ、180°の場合は完全な球になります。
- φ (ファイ) を方位角といいます。方位角は経度を表します。方位角はφ = atan(y/x) と定義できます。0°は +X 軸の方向であり、そこから反時計方向に最大 360°まで増加します。方位角の上限は必ず 360°です。
r はディテクタ (極) の半径です。
ディテクタ (極) の中心を出発する、方向余弦が l、m、n の光線は、ディテクタ (極) と次の位置で交差します。
その球面座標は、次のとおりです。極角 = θ 、方位角 = φ。
球面座標から三次元デカルト座標に変換した座標は次式で表されます。
ディテクタ ビューア
ディテクタ (極) のディテクタ ビューアを起動すると、数種類の表示を使用できます。ここでは、疑似カラー表示と指向性表示を取り上げます。
以下の各図は、OpticStudio とともにインストールされたサンプル ファイル Zemax\Samples\Non-sequential\Sources\led_model.ZMX に収録されています。このファイルは、ディテクタ (極) に囲まれた LED を記述しています。
[疑似カラー] (False Color) 表示
[疑似カラー] (False Color) 表示には、極角と方位角による 2D プロットが表示されます。この表示は、同心円で構成されます。
- 円のそれぞれが特定の極角を表します。たとえば、下図の赤い円は極角 60°を表しています。
- この極角に相当する円周上で、方位角の全範囲である 0 ~ 180°および 0 ~ -180°が表示されます。次のシェーデッド モデルは、ディテクタ (極) に到達した光線を表示したものです。
ディテクタ (極) は、球オブジェクトを使用して記述します ([プロパティ] (Properties) → [タイプ] (Type) で [オブジェクトをディテクタとする] (Object is A Detector)] をチェックします)。
60°の極角 (前図の赤い円) は、ディテクタの半径に極角の余弦を乗算した値の Z 座標位置に置いた XY 平面とディテクタ (極) の交差によって形成される円と考えることもできます。
このディテクタ (極) の半径は 10 mm です。したがって、このオレンジ色の平面の Z 座標は 10 mm x cos (60°) = 5 mm です。
この「極角」円の半径は 8.66 mm (10 mm x sin (60°)) です。この円周上で、さまざまな方位角を表示できます。まず、方位角が 43°であるとします。
- 極角 = 60°
- 方位角 = 43°
- XY 平面の交差位置 Z = 5 mm (10 mm x cos (60°))
- X = 8.66 mm x cos (43°) = 6.3 mm
- Y = 8.66 mm x sin (43°) = 5.9 mm
これらの座標値は、Z = 5 mm に配置したディテクタ (矩形) で読み取ることができます。
[指向性 (全極)] (Directivity (Full)) 表示と[指向性 (半極)] (Directivity (Half)) 表示
この指向性表示には、さまざまな方位角における正規化放射強度の断面が表示されます。ある特定の方位角における放射強度が極角で変化する様子をプロットしたグラフが得られます。
このサンプル ファイルでは、方位角 0°、30°、60°、90°における半球範囲での指向性がプロットされています。
半球指向性表示は、特定の方位角でディテクタ (極) と交差する平面上で見た指向性と考えることができます。下図のシェーデッド モデルでは、この平面をスライド オブジェクトとして表現しています。スライド オブジェクトとは、BMP ファイルまたは JPG ファイルで定義した透明な像です (下図は JPG ファイルによるものです)。
この図は、前記の 4 つの方位角に相当する平面を表示したシェーデッド モデルです。
ディテクタ (極) のピクセル対する番号割り当て
"ピクセルに対する番号割り当てについては、ヘルプ ファイルの[設定] (Setup) タブ → [エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup)) タブ → [ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-Sequential Component Editor) →「ノンシーケンシャル ディテクタ」→ [ディテクタ (極)] (Detector Polar) オブジェクトに説明があります。
「(Detector Polar) の場合、ピクセル番号は、方位角ゼロの極中心で 1 から始まります。 ピクセル番号は極方向に沿ってピクセル np まで増加します。np は、極ピクセルの数を表します。 ピクセル np+1 は、方位角の最初の増分 (0°からの反時計回りの増分) ではゼロ極角にあり、ピクセル番号はこの方位角アームに沿って 2*np まで増加します。 次のピクセル番号 2*np+1 はゼロ極角から再度始まり、次の方位角アームに沿って増加します。 ピクセル番号付けを別の言い方で説明すると、一番変化が早いのが極角の指標、次が方位角の指標です。」
Polar angles | |||||
Radial bin 1 | Radial bin 2 | ... | Radial bin np | ||
Azimuthal angles | Angular bin 0 | 1 | 2 | ... | np |
Angular bin 1 | np+1 | ... | ... | 2np | |
Angular bin 2 | 2np+1 | ... | ... | 3np | |
... | ... | ... | ... | ... | |
Angular bin |
一般的にビン番号は、floor(0.5 + [値]/[ビン サイズ]) で計算します。
floor(値) は、指定された値をそれ以下の最も近い整数に丸める関数です (OpticStudio の正規の関数ではありません)。
たとえば、角度ピクセルが 12 個あるとすると、方位角ビンのサイズは 30°(=360/12) になります。
方位角 10°から伝搬してくる光線は、方位角ビン 0 (floor(0.5 + 10/30) = floor(0.83) = 0) に入射します。
方位角 130°から伝搬してくる光線は、方位角ビン 4 (floor(0.5 + 130/30) = floor(4.83) = 4) に入射します。
ビンの中心
方位角の -15°~ +15°がビン 0、
方位角の +15°~ +45°がビン 1、
のように、以下同様に続きます。
コメント :
各ビンの正確な値を読み取るには、ディテクタ (極) のプロパティで [タイプ] (Type) タブにある [ピクセル補間を使用] (Use Pixel Interpolation) と [高速光線追跡] (Fast Ray Trace) のチェックをはずす必要があります。
ピクセル サイズとビン サイズ
ディテクタ (極) は球面の一部をフェーセット形状としたものなので、ピクセル サイズはその極角によって異なります。
たとえば、下図からわかるように、極角 0°方向にあるピクセルは、極角 90°方向にあるピクセルよりもサイズがはるかに小さくなります。
最初の極角ビンに関するコメント
ディテクタ (極) のディテクタ ビューアでは、最初の極角ビン (上記の NSC シェーデッド モデルにある緑色の円) に存在する全パワーがすべてのピクセルにわたって平均化されます。極角が小さい領域では、方位角に対する非対称性がデータに発生することは考えにくいといえます。方位角に依存するデータの変動は、ピクセルが有限の大きさを持つことに起因するアーチファクトに過ぎません (極角 0°にある無限小のピクセルでは方位角が意味を持ちません)。したがって、この非物理的なアーチファクトをデータから除外するには、最初の極角ビンで方位角データを平均化し、すべての方位角データをこの平均値に等しく設定します。
立体角の観点から見ると、これら中心部のピクセルはサイズが最小であるため、到達する光線が他のピクセルに比べて少なくなり、相対的にノイズも大きくなる傾向があります。角度に対する均一性を備えた光源をディテクタ (極) 内部に配置すると、サンプリング不足に起因して、中心部のピクセルでは外側領域のピクセルに比べて著しくノイズが増加します。中心領域を 1 つのピクセルとして処理する理由はここにあります。極角が比較的小さい領域では、方位角に実際的な意味がありません。
内側領域の各ピクセルはプロットの中心を共有していますが、他の領域ではどのピクセルも、方位角方向にある両隣のピクセルとのみ接していることがわかります。
ビンの境界部分に関する注意点 :
角度の値は、度単位とラジアン単位間の変換およびデカルト座標から極座標への変換を経た倍精度値です。これらの計算に伴う丸めにより、ビンの境界に到達した光線については、OpticStudio で計算したビンと、「手計算」したビンの間に若干の差異がある可能性が考えられます。
[テキスト] (Text) タブ → [完全なリスト] (Full Listing)
ディテクタ ビューアの [テキスト] (Text) タブでは、さまざまな極角と方位角で記録された値を表示できます。
[完全なリスト] (Full Listing) を選択します。
列方向には極角方向のピクセルの値が表示され、その開始インデックスは 1 です。
行方向には方位角方向のピクセルの値が表示され、その開始インデックスは 0 です。
16.5 SP2 より前のバージョンでの注意事項 :
ディテクタ ビューアの [テキスト] (Text) タブには、方位角方向の昇順ではなく降順でピクセルが表示されます。
ピクセルの読み取り
ファイル source_ray.ZMX (この記事の冒頭に添付) には、光源 (光線) とディテクタ (極) が記述されています。それぞれ異なる方向余弦を持つ 6 種類の光源光線を使用した 6 種類のコンフィグレーションが用意されています。
ディテクタ (極) には極角方向に 181 個のピクセルと方位角方向に 180 個のピクセルがあります。したがって、極角ビンのサイズは 1°、方位角ビンのサイズは 2°です。
コンフィグレーションごとにディテクタ (極) の特定のピクセルを読み取るように評価関数を設定します。
光線追跡を実行してピクセルのデータを確認し、各コンフィグレーションの動作を理解します。
第 1 のコンフィグレーション :Z 軸方向の光源光線
光源光線は、X, Y, Z = (0, 0, 0) から方向余弦 l, m, n = (0, 0, 1) の方向に出発します。この光線は、ディテクタ (極) の中心を始点とし、Z 軸に平行です。
ディテクタ ビューアのウィンドウで [テキスト] (Text) タブをクリックして [完全なリスト] (Full Listing) を選択します。"
値は、第 1 の極角ビンにのみ存在しています。前述のとおり、この極角での方位角データは平均化されます。
第 2 のコンフィグレーション :YZ 平面で 45°の角度を持つ光源光線
この光源光線は、X, Y, Z = (0, 0, 0) から方向余弦 l, m, n = (0, 1, 1) の方向に出発します。この光線は、ディテクタ (極) の中心を始点とし、極角は 45°(下図の青色の線)、方位角は 90°(下図の緑色の線) です。光源光線は明るい青色で示しています。
[テキスト] (Text) タブでは、1 個のピクセルにのみ一定のパワーがあります。このピクセルの動径座標は 46、方位座標は 45 です。
極角ビン = floor(0.5 + 45/ビンのサイズ 1°) + 1 = 46 (インデックスが 1 から始まるので 1 を加算しています)
"方位角ビン = floor(0.5 + 90/ビンのサイズ 2°) = 45
これらの行の値を [テキスト] (Text) タブで読み取ることができます。
NSDP オペランドを使用してピクセルを読み取るには、次式で得られるピクセル番号を指定します。
ピクセル番号 = 方位角ビン x 極角方向ピクセル数 + 極角ビンであることがわかっています。したがって、上記の情報を用いて、ピクセル番号= 46*181+46 = 8191 となります。
各コンフィグレーションのまとめ
この光源 (光線) ファイルにある 6 種類のコンフィグレーションを下表に示します。
極角方向ピクセル数 : 181
方位角方向ピクセル数 : 180
極角ビン サイズ = 181/181 = 1°
方位角ビン サイズ = 360/180 = 2°
References
詳細は、次のナレッジ ベース記事を参照してください。
「放射強度の定義方法 (How is Radiant Intensity Defined)」および「ディテクタ (極) と IESNA/EULUMDAT 光源データの使用方法 (How to use the Polar Detector and IESNA/EULUMDAT Source Data)」を参照してください。"
KA-01622
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