この記事では、タンジェンシャル面とサジタル面を定義する際にOpticStudioで使用される規則について説明します。
著者 Misato Hayashida
Introduction
波面、光路差、MTF をはじめとする 主要なOpticStudio の解析機能では、タンジェンシャル応答とサジタル応答を通じて光学性能を解析する際に、タンジェンシャル方向とサジタル方向を正しく把握することがきわめて重要です。この記事では、これらの方向について OpticStudio で採用している定義、およびサジタル面とタンジェンシャル面の回転方法について解説します。
軸外の物体視野のタンジェンシャル面とサジタル面
タンジェンシャル面は、物体のローカル Z 軸と物体視野点を含む面です。サジタル面は、主光線に沿った方向でタンジェンシャル面と直交する面です。回転対称な光学系では、Y 軸上の視野点のみで光学系の結像特性が決まるため、それらの視野点を特性の評価に使用します。その場合、タンジェンシャル面は YZ 面となり、サジタル面は主光線と瞳の X 軸を含む面になります。
図 1: 回転対称な光学系のタンジェンシャル面とサジタル面。
一方、回転対称ではない光学系では、上記の一般化を適用できません。OpticStudio では、必ず、瞳のローカルY 軸を含む面を、タンジェンシャル面としています。この定義は、光学の教科書で軸外視野点に関して採用されている通常の定義 (下図の上の図) とは異なります。この通常の定義では、視野点と物体のローカルZ 軸を含む面をタンジェンシャル面としています。
図 2:軸外視野に対する従来のタンジェンシャル面 (上) と OpticStudio のタンジェンシャル面 (下)。
OpticStudio のアルゴリズムの中には、POWF や半径の高速計算のように、タンジェンシャルとサジタルの方向について OpticStudio の定義ではなく、通常の定義を採用しているものもあります。詳細は、ヘルプ ファイルを参照してください。この記事で取り上げるタンジェンシャルとサジタルは、OpticStudio の定義に基づいており、通常の定義は採用していません。
光路差とタンジェンシャル角
前セクションで説明したとおり、OpticStudio では、物空間での視野点の位置に関係なく、タンジェンシャル面には必ず瞳空間座標の Y 軸が含まれ、サジタル面には必ず瞳空間座標の X 軸が含まれます。タンジェンシャル面とサジタル面は、視野定義であるタンジェンシャル角 (TAN) を指定して瞳空間の Z 軸を中心に回転できます (OpticStudio 16.5 以前のバージョンでは、タンジェンシャル角をビネッティング角 (VAN) としています)。
図 3:システム エクスプローラの [視野] (Fields) セクションにある [タンジェンシャル角] (Tangential Angle) (TAN)。
タンジェンシャル角 (TAN) を使用したタンジェンシャル面の回転は、実質的には、瞳座標の回転と同じになります。この点は、波面収差マップで容易に確認できます。
図 4:波面収差マップでタンジェンシャル角 (TAN) を使用して瞳座標を回転。
左の波面収差は TAN = 0°での状態を示しています。右の図では、TAN = 45°として、タンジェンシャル方向とサジタル方向を 45°回転しています。光路差や横収差図など、瞳座標で実行する各種解析では、TAN の設定によって有用な情報を得ることが可能です。この場合のタンジェンシャル面とサジタル面は、物空間や像空間で回転するのではなく、瞳空間で回転する点に注意が必要です。
図 5:回転前 (上) と回転後 (下) のタンジェンシャル面とサジタル面。
上記の違いを理解することは、次のセクションで TAN に対する MTF の反応を検討するうえで重要です。
FFT MTF と視野の回転
タンジェンシャル角 (TAN) の使用が有効な解析機能の一つとして、 FFT MTF があります。FFT MTF は、瞳空間座標でタンジェンシャル応答とサジタル応答を計算しますが、回転対称ではない光学系で FFT MTF を包括的に知るには、 TAN が必要になってきます。
TAN を使用した FFT MTF には、次のような特性があります
- 回転対称な光学系の場合、視野で TAN を定義すると、物空間で視野を回転した場合と同じ効果が得られます。物空間で視野を正確に回転するための視野値を計算するよりも、TAN を定義する方がはるかに容易です。
- 回転対称ではない光学系の場合、タンジェンシャル角による回転で得られる MTF と視野の回転で得られる MTF は異なります。特定の視野回転がある場合、TAN で定義したタンジェンシャル方向のタンジェンシャル応答が計算されるので、光学系全体を解析するには、視野回転と TAN の両方を互いに独立した成分として扱う必要があります。
図 6: 回転対称な光学系でタンジェンシャル角を定義することは、物空間のローカル Z 軸を中心に視野をタンジェンシャル角と同じ角度で回転することと同じです。回転対称ではない光学系全体を解析するにはタンジェンシャル角が必要です。
サンプル ファイルの Double Gauss 28 degree を使用して検討します。
Zemax/Samples/Sequential/ Objective/Double Gauss 28 degree.zmx
このファイルを開いて視野 1 と視野 2 を削除してから、2 か所の視野として (14, 0) と (9.998585, 9.998585) を追加します。得られる 3 つの視野の大きさはすべて 14°になります。
FFT MTF 解析では、これら 3 つの視野のタンジェンシャル応答として次の図のような応答が得られます。
視野ごとに MTF 応答が異なっていますが、これは、一見直感に反するように感じられるかもしれません。Double Gauss 28 degree の光学系は回転対称で、視野の大きさはすべて 14°であるからです。しかし、タンジェンシャル方向の MTF とサジタル方向の MTF は、図 6 (b) に示すように、視野の回転角度に関係なく、必ず Y 方向と X 方向で計算されます。このことから MTF 応答の相違が発生します。FFT 面 MTF では、この点を明確に観察することができます。
つづいてタンジェンシャル面の回転を検討します。視野 1 に対して TAN = 45°を定義すると、次の MTF 面が得られます。
ここでは、タンジェンシャル面とサジタル面が瞳の Z 軸を中心に回転し、MTF の結果は視野 3 の MTF 応答と同様になっています。視野 1 が 45°回転すると視野 3 になります。
一方、回転対称ではない光学系の場合、これらの結果が必ずしも一致するとは限りません。結像光学系の MTF 特性を完全に解析するには、視野の回転と TAN を組み合わせて使用する必要があります。
ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF および視野の回転
ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF では(ビネッティングのない視野定義の場合)、タンジェンシャル角 (TAN) を指定しても、結果に影響はありません。これは、ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF は、像空間座標で計算されるからです。ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF の場合、タンジェンシャル応答とは、像空間の X 軸に沿った線で方向が決まる周期的ターゲットの像に対応します。一方、サジタル応答は、像空間の Y 軸に沿った線で方向が決まる周期的ターゲットの像に相当します。ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF は、瞳空間座標でどのような変化があっても影響を受けません。したがって、図 6(a) に示すように、タンジェンシャル方向とサジタル方向は、タンジェンシャル角に関係なく、必ず像空間の Y 方向と X 方向になります。この点は、タンジェンシャル応答とサジタル応答を瞳空間で計算する FFT MTF と異なりますので、注意してください。
ホイヘンス MTF と幾何光学的 MTF でタンジェンシャル面とサジタル面を回転する場合は、レンズ データ エディタで像空間を回転してください。効果としては、FFT MTF で TAN を使用することと同等になります。
KA-01641
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