結像光学系の性能仕様として、多くの場合、特定の空間周波数における MTF を使用します。この性能仕様は、デジタル ディテクタを使用した光学系で特に重要になります。こうした光学系では、特定の値を超える空間周波数での性能は問われず、中間周波数域で優れた性能を示すことが求められるからです。
しかし、MTF を直接最適化することは困難です。MTF の計算は、多大な計算能力を必要とするからです。設計の初期段階では MTF が大幅に変動することが多いので、光学系が最終形態に十分近づくまでは他の最適化方法が必要です。
著者 Erin Elliott, Jade Aiona
Downloads
OpticStudio の新しいコントラスト最適化が、これらの問題の大部分を解決します。完全な MTF を計算する代わりに、射出瞳上の 2 点間での位相差を測定します。これら 2 点間の距離は、MTF で目的とする空間周波数に相当する値とします。この位相差の値を使用して、MTF が最大になる位置で最小値となる評価関数を構築し、最適化に使用します。この方法は、MTF の値に対する直接最適化よりもはるかに高速で、より良好な挙動を示します。
コントラスト最適化のデフォルト評価関数
Professional および Premium では、前記の方法を使用して MTF を最適化する新しいデフォルト評価関数を使用できるようになりました。評価関数ウィザードで [コントラスト最適化] (Contrast Optimization) を選択し、目的の空間周波数と、タンジェンシャル MTF 値に対するサジタル MTF 値の重みを設定します。このウィザードにより、同時に使用するように設計された 2 つのオペランド MECS と MECT を使用する評価関数が作成されます。MECS では 3 本の光線を追跡します。この 3 本とは、シフトしていない光線、瞳の中でサジタル (S) 方向に距離 d だけシフトした光線、および瞳の中でタンジェンシャル (T) 方向に距離 d だけシフトした光線です。MECS からは、サジタル方向の光線どうしの光路差 (OPD) の値が波数の単位で返されます。MECT からは、タンジェンシャル方向の光線どうしの OPD が返されます。
光線の分布は、単純なグリッドまたはガウシアン求積法で設定できます。ガウシアン求積法では、最小限の光線数で瞳を効率的にサンプリングできます。
この最適化では、MECS オペランドと MECT オペランドですべての波面の差をゼロにすることを目指します。これによって、瞳シフト d に相当する空間周波数における MTF が最大になります。この評価関数では、従来の MTF 最適化よりもはるかに多くの情報が得られます。従来の MTF 最適化で扱ってきたオペランドは、サジタル方向の MTF 値とタンジェンシャル方向の MTF 値の 2 つのみでした。最適化機能によって光学系の値が変化すると MTF 値も変化しますが、その変化の原因に対する洞察は得られず、瞳のどの部分に問題があるかも不明です。コントラスト最適化では、これまでの最適化よりもはるかに多くの情報を計算に使用できます。これにより、MTF に関する大半の問題の原因が瞳のどこにあるかを「把握」できます。
コントラスト低下マップ
この最適化はコントラスト低下プロットを使用して視覚的に理解しやすい手法です。このプロットから、瞳のどの領域で最も MTF が低下しているかを正確に把握できます。
大きい円は、瞳の中で MTF 低下の原因となっている領域を示しています。各円の大きさは (1 – cos(q(x) – q(x-d)))/2 で計算します。q(x) – q(x-d) はシフトした光線とシフトしていない光線の間の位相差です。この位相差がゼロになると、円の大きさもゼロになります。
位相差が 90°の場合、円の大きさは 1/2 になり、180°の場合は 1 になります。
各円内部の時計の針状の線分は、平均位相 (q(x) – q(x-d))/2 を表しているので、このプロットを見れば、その元となった波面の形状を知ることができます。
ダブル ガウスの例
ダブル ガウスの設計を最適化すると、コントラスト最適化の計算速度が波面収差最適化に匹敵し、MTF で直接最適化するよりも信頼性が高いことがわかります。
標準的なダブル ガウスの設計から始めます。この設計は、平行平面の複数のプレートで構成した光学系から着手し、その最終面に曲率半径ソルブを設定して F/3 の光学系とします。設計波長は可視光波長とします。入射瞳径は 33.3 mm です。
残りの面の曲率半径と間隔は、減衰最小二乗法 (DLS 法) の変数として設定します。この最適化で使用する手法は 3 種類です。その 3 種類とは、RMS 波面収差を判定基準とした最適化、コントラスト最適化、および MTF による直接最適化です。これらの最適化に要した時間を以下の表に示します。コントラスト最適化は、RMS 波面収差最適化と同等の時間で完了しています。
最適化方法 | サンプリング: 3 リング x 6 アーム |
サンプリング: 6 リングx 6 アーム |
サンプリング: 9 リング x 6 アーム |
20 サイクル/mm におけるコントラスト最適化 | 4.6 秒 | 5.8 秒 | 9.8 秒 |
RMS 波面収差最適化 | 5.5 秒 | 5.1 秒 | 9.4 秒 |
20 サイクル/mm における MTF 直接最適化 | (最適化不可能) | (最適化不可能) | 144.6 秒 |
初期の光学系の性能が不十分であることから、MTF を直接最適化できませんでした。MTF の直接最適化を試みる前に、RMS スポットサイズの最適化を実行しています。コントラスト最適化と RMS 波面収差最適化では同様の結果が得られました。最適化した光学系の一例と、その MTF プロットを以下に示します。
形状係数の例
形状係数についてシングレットを最適化したところ、コントラスト最適化による評価関数では、MTF 最適化による評価関数と同じ最小値が得られることがわかりました。このデータから、コントラスト最適化は他の最適化方法よりも滑らかなパラメータ空間を持ち、より直接的な形態で最適解に達することがわかります。
ここでは、F/10 のシングレットに、波長が 500 nm で径が 10 mm のビームを使用し、軸上の視野点のみを考慮しています。この光学系の変数は、レンズの形状係数と像面までの距離です。最適化後の形状係数は 0.7 程度になることが想定できます。
光学系の球面収差に起因して、MTF の様相は思わしくありません。約 15 サイクル/mm を超える空間周波数では、MTF は偽解像の領域になります。この領域では、最適化によって大きな値の MTF が得られても、実際には光学性能が低下しています。
上記のグラフは、右の縦軸にコントラスト最適化の評価関数の値、左の縦軸に MTF 値と回折限界における MTF 値の差を、シングレットの形状係数の関数として示したものです。10 サイクル/mm および 25 サイクル/mm の両方で、評価関数の値は MTF の値と同じ位置で最小値となります。評価関数の値は 2 次関数に似た形状を示し、最適化のパラメータ空間はより滑らかで、最小値も明確にわかります。これに対し、MTF の値は球面火面の範囲でほとんど平坦です。RMS スポットサイズや RMS 波面収差の値も、この火面の範囲で同様に平坦です。コントラスト最適化評価関数の値は波面の導関数と密接に関連しているので、この挙動は想定外のものではありません。
25 サイクル/mm では、MTF の値が十分に減少していないこともわかります。減衰最小二乗法 (DLS 法) による最適化では、この点が問題になります。上記の 2 点の結果は、いずれもコントラスト最適化の方が計算の過程で理想値に短時間で近づくことを示唆しています。
コントラスト最適化の評価関数を使用しても MTF の値自体は得られないことも上図のグラフからわかります。コントラスト最適化の実行後、最終的な MTF 値を得るには MTF を直接計算する必要がある場面が多いと考えられます。しかし、その計算はマクロで容易に実現できるので、最適化の作業自体が遅くなることはありません。
References
- K. E. Moore, E. Elliott, et. al. "Digital Contrast Optimization - A faster and better method for optimizing system MTF," in Optical Design and Fabrication 2017 (Freeform, IODC, OFT), OSA Technical Digest (online) (Optical Society of America, 2017), paper IW1A.3.
KA-01644
コメント
記事コメントは受け付けていません。