OpticStudio で回折面をモデル化する方法

OpticStudio には、屈折と回折の両方の成分で光線を曲げる特性 (以下パワーとします) を持つ面が多くあります。この記事では、これらの面が光線追跡のためにどのようにモデル化されているかを説明します。

著者 Nam-Hyong Kim

Introduction

Zemax は Optics 1 の Robert E. Fischer 氏に対して、書籍 Optical System Design のグラフの使用許可、およびオリジナルの画像データをご提供いただいたことに、深く感謝申し上げます。

OpticStudio で回折素子を取り扱うとき、光線追跡において OpticStudio が回折をどのように処理するかを理解することは重要です。この記事では、回折面がどのようにモデル化されているか、またキノフォームとバイナリ光学系の違いについて説明します。

OpticStudio での回折のモデル化

OpticStudio で扱う面の多くには、屈折パワーのほかに回折パワーを設定できます。回折パワーは、基板の屈折率や面のサグとは無関係で、光線に位相変化を与える現象です。OpticStudio では、すべての回折面で次の式に従って光線の進路が変化します。

\(n_{2}sin(\theta_{2})-n_{1}sin(\theta_{1})=\frac{M\lambda}{d}=M\lambda T \)

ここで、

  • M は回折次数
  • λ は波長
  • T はグレーティングの周期 (線間隔 d の逆数) 

を表します。

この方程式は、スネルの屈折の法則に、回折を表す光線の曲がりの項を付加したものです。下の図は、屈折パワーのない回折面に法線方向から入射する光線 \(sin( \theta_{1} ) = 0 \) の回折を示しています。

回折グレーティング面などの面は、一定間隔で 1 つの軸方向のグレーティング線を持ち、分光計で広く使用されています。コンピュータで回折面を生成する利点は、面全体にわたって空間的なグレーティングの周期を変更できることにあります。これにより、所要の条件で正確に回折パワーを追加できます。
たとえば、以下の操作が可能です。

  • 線間隔が可変として設定できるグレーティング面を使用すると、場所によってグレーティングの周期が異なる面として、チャープ グレーティングをモデル化できます。
  • バイナリ 1 面を使用すると、x-y 多項式展開で変化するグレーティング周期とすることができます。
  • バイナリ 2 面を使用すると、回転対称多項式で変化するグレーティング周期とすることができます (収差補正に広く使用されています)。
  • ほとんど任意の多項式展開を使用してグレーティング間隔の変化を記述できる、多項式面が一定の範囲で存在します。
  • グリッド位相面を使用すると、{x,y} 点の任意の組み合わせによって、任意の点における位相の追加分を定義できます。
  • 適切な面タイプが OpticStudio に用意されていない場合、必要なプロファイルを記述したユーザー定義面を作成できます。

これらのどの場合でも、回折によって導入された位相プロファイルの勾配によって光線の進路が変化します。したがって、この設計プロセスでは、まず必要な位相プロファイルを計算したうえで、その位相プロファイルを生成するために必要なグレーティング構造を計算します。

これらのすべてのケースで、OpticStudio は回折パワーを表面上の位相プロファイルとしてモデル化します。光線は、回折によって導入された位相プロファイルの勾配によって曲げられます。

  • ラジアン単位の位相 φ は光線の光路長に加算されます。
    \(OpticalPath = OpticalPath +\frac{\lambda}{2\pi}\varphi \)
    where λ is the wavelength.
     
  • 位相プロファイルの勾配(位相スロープ)により、光線の方向が変わります。
    \(l'=l+\frac{\lambda}{2\pi}\frac{\partial \varphi}{\partial x} \)
    \(m'=m+\frac{\lambda}{2\pi}\frac{\partial \varphi}{\partial y} \)

ここで l は光線の x 方向余弦で、m は y 方向余弦です。

したがって、この設計プロセスでは、まず必要な位相プロファイルを計算したうえで、その位相プロファイルを生成するために必要なグレーティング構造を計算します。

レンズ データ エディタで回折面ごとに回折次数を指定する必要があります。以下の図に示すように、複数のコンフィグレーションによって複数の回折次数を同時にモデル化できます。

上記の方程式によれば、回折角は、入射光が到達した位置の反復構造が持つ周期 (T) にのみ依存し、その特定周期範囲にある構造の形状には依存しません。面構造は回折効率に影響しますが、幾何光学による光線ではこのような面構造をモデル化できません。指定した回折次数に対する効率は 100% であると仮定します。つまり、回折面に入射したすべての光線が、指定次数の回折角で射出します。

回折次数の符号によって、光軸を基準とした回折角の符号が決まります。回折次数の符号規則は完全に任意です。OpticStudio で使用している規則では、回折次数が正数であれば、光軸を基準とした回折角も正数になります。

OpticStudio による回折面には屈折パワーと回折パワーを設定できます。回折力によって、面全体にわたり、マニュアルに記載された式に従う連続的な位相が発生します。位相が連続的であることから、回折構造の周期が無限に小さいか、少なくとも波長と比較してきわめて小さい理想的な回折光学エレメント (DOE) をこの回折パワーで表現できます。

キノフォームとバイナリ回折面

DOE の最大の回折効率を実現するには、波面の位相が、目的の回折次数で回折した波面とあらゆる場所で平行になるように、回折領域にある面のサグを作成します。以下の書籍 Optical System Design の図 13.3 (b) は、特定の次数に対する効率が最大になるようにブレーズ角を最適化した「ブレーズド」透過グレーティングです [1]。

図 13.3 (b) に示す連続的な面プロファイルを持つ DOE はキノフォームと呼ばれることが普通です。フォトリソグラフィが使用されることが多いことから、サグを離散的なステップで近似する場合、一般にバイナリ オプティクスと呼ばれます (下の図を参照してください。) [1]。OpticStudio での回折面は、位相がどこでも連続的なので、真のバイナリ オプティクスよりもキノフォームに近い近似となっています。回折面によってモデル化した位相の近似にどのような面構造を使用するかは、ユーザー側で判断する必要があります。

次の図は、バイナリ面の理論効率をステップ数の関数として示しています [1]。

参考文献

1. Optical System Design by Robert E Fischer, Biljana Tadic-Galeb and Paul Yoder

KA-01665

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