照明光学系の概要

このレッスンでは、照明光学系の概要について説明します。「照明光学系の設計とは?」や「代表的な照明光学系は?」のような質問に対する回答が記載されています。

著者 Katsumoto Ikeda

Introduction

この記事は、基礎的な照明光学系のラーニング パスの最初のレッスンであり、以降の記事で詳しく取り上げる数多くの概念について簡単に説明しています。まず、「照明光学系の設計とは」という疑問に対する回答から始め、照明光学系の構成要素、いくつかの一般的な光学系の例、結像照明光学系と非結像照明光学系の概要に触れます。

 照明光学系の設計とは

端的に表現すると、照明光学系の設計とは、光源から光を目的の分布で伝達できるようにする設計作業です。

 

Light source

つまり、すべての照明光学系は、光源を備え、光学系の出力特性を規定する方法を用意する必要があります。

光源の例には、次のようなものがあります :

  • 発光ダイオード (LED)
  • レーザー ダイオード (LD)
  • 白熱灯、ハロゲン ランプ
  • 太陽および人間や動物などの黒体放射源
  • 蛍光灯
  • 発光源
  • 星の様な点光源

工業用途の場合、最も一般的な光源は、ハロゲン ランプなどの放電や、LED やレーザーなどの電界発光による光源です。

照明光学系が目標とする分布の例には、以下のものがあります :

  • 光束 :
    • 放射束 (ワット : W)
    • 光束 (ルーメン : lm)
  • 単位面積当たりの光束 :
    • 放射照度 (W/m2)
    • 照度 (lm/m2 又は lux)
  • 単位立体角当たりの光束 :
    • 放射強度 (W/sr)
    • 光度 (lm/sr 又はカンデラ (cd))
  • 単位立体角当たり単位面積当たりの光束 :
    • 放射輝度 (W/m2·sr)
    • 輝度 (lm/m2·sr、cd/m2 又は nit)

光源、ディテクタ、測定単位については、この学習コースの以降の記事ですべて詳しく取り上げます。

照明光学系で目標とする分布を実現するだけでなく、光を光源からできる限り効率的に伝達することも目指します。屈折、反射、さらに均一な拡散などのよく知られた光学現象を利用して光線の向きを変えることで、目標とする性能を実現できます。屈折、反射、拡散は光学面で制御できるので、光学面を上手く利用することが、照明光学系の設計で成果を上げるうえで重要な要素です。

 

Ray behavior

 

 照明光学系の例

照明光学系の一般的な使用方法について、いくつか例を示します。また、使用方法を示した概略図と簡単な説明も記載しています。

レーザー ダイオード

レーザー ダイオード (LD) は多くの用途で使用されています。照明としての一般的な用途として、バーコード スキャナ、コリメータ、ライン ジェネレータ、プロジェクタ システムなどがあります。ほとんどのレーザーは照射サイズがごく小さいことから、LD はきわめて優れた照明光源です。これは、コリメーションや、光線の全般的な制御で有用です。レーザー ダイオードを使用する際の注意点として、光のコヒーレンス性があります。光のコヒーレンス性によって、回折、干渉、スペックル現象に起因する望ましくない結果が受照面に発生する可能性があります。

 

Line generator

 

Lasers.JPG
出典 : 彭嘉傑 -  CC BY 2.5, Link

レンズレット アレイ

レンズレット アレイは、分布の均一性を実現するために広く使用されています。各レンズレットは、小さいアパチャーによって NA 値が小さくなっていて、受照面全体のわずかな部分のみを照射します。不均一な光源でも、面積を小さくすると、十分に均一な分布を実現できます。レンズレット アレイのもう 1 つの一般的な使用方法は、角度照明用の拡散レンズとして働くことで、ビームの拡散させるために使われます。

MLA

バックライト ディスプレイ

バックライトは、発光光源を持たないフラット パネル LCD ディスプレイに使用されています。その用途は、携帯電話やスマートフォンから大型テレビのディスプレイまで幅広く、さまざまなサイズが用意されています。バックライトは、光ガイド パネル、拡散レンズ、輝度向上フィルム (BEF) などの各種光学部品で構成されます。バックライト システムには2 種類あります。従来のエッジ ライト方式の照明光学系では、光源として LED を使用し、光は光ガイド パネルを伝わって拡散します。分布の均一性を最適化する光学設計を適用します。

LCD edge
(参照記事)

もう 1 つの方法は、バックライト型ディスプレイを直接照射する方式です。この方法では、光が拡散するように拡散レンズを持つ複数の LED が、 LCD ディスプレイに面して配置されています。ディスプレイは直接照射されるので、この方法では高価な光ガイド パネルを必要としません。

LCD direct
(参照記事)

LED 照明

LED は、照明産業で確固とした位置を占める光源となっています。LED は小型なうえ、頑丈で耐久性が高く、エネルギー効率にきわめて優れ、長寿命です。電源投入とほとんど同時に点灯し、色のオプションも豊富です。従来の白熱灯、ハロゲン ランプ、レーザーと比べてこれ等の点で優れていることから、LED はより厳しい状況での照明に適した選択肢となっています。

LED

LED 照明の使用事例としては、自動車のヘッドライト、道路照明、LED 電球や、LED コリメータがあります。

プロジェクタ システム

プロジェクタは、結像コンポーネントを備えるほか、非結像コンポーネントを使用することもある照明光学系という点で、ハイブリットな光学系と考えることができます。投影は、HUD システムの中間照射面などきわめて近い距離から、プロジェクタ ディスプレイのような中距離から長距離でも使用できます。

以下はLCD ディスプレイ照射系です。 (LCD ディスプレイには、バックライトによる照明が組み込まれています)

HUD

下は結像光学系の投影レンズを示しています。
Projection

ライトガイド

ライトガイドは、媒質中で光線が複数回全反射を行うことで光を伝達します。光を誘導することにより、ほぼあらゆる方向に光を曲げることができますが、全反射の制約を理解して、光が漏洩しないようにする必要があります。

Lightguide
(参照記事 : 複雑なノンシーケンシャル オブジェクトを作成する方法)

結像系と照明系の違い

前の章では、現在、これまで以上に広く使用されている照明光学系について説明しました。その光学系には、結像光学系もあれば、非結像照明光学系もあります。結像光学系は、写真撮影用対物レンズのように、物体の像を形成する光学系です。結像系およびシーケンシャル光学系のより複雑な議論については、こちらの別のラーニング パスで説明しています。

非結像光学は、その名前からわかるように、設計手法の過程で物体や像という概念を使用しません。結像光学と非結像光学との間には根本的な違いがありますが、どちらも、照明で有用な概念です。

 

  照明設計に結像光学系を使用する方法

実像を形成する結像光学系には、写真撮影用対物レンズやプロジェクタ システムなどがあります。スクリーン上に直接像を投影できれば、物体からスクリーンへ光を伝達して照明として実現できます。

Double Gauss
Projection

結像投影光学系の場合、物体からの光のより均一な分布を実現するために、レンズのテレセントリック性など、写真撮影用対物レンズとは異なる部分がいくつかあります。しかしながら、結像を利用する照明という考え方は、数本の光線を使用して実行できる簡潔な光線追跡に基づいています。

上記の例は実物体ですが、物体に虚像を使用する照明もあります。虚像を利用する結像光学系として、接眼レンズ、ファインダー、ヘッドアップ ディスプレイの光学系などがあります。照明に直接関連するわけではありませんが、虚像光学系によっては照明系コンポーネントを使用しているものがあるので、考慮が必要になることも考えられます。たとえば、ヘッドアップ ディスプレイの場合、受照オブジェクト (通常は LCD) は虚像を通じて目に投影されます。虚像に見られる光量と輝度は、LCD 像から光がどのように目に伝達されるかによって決まります。光線がどのように目に到達するかという点を慎重に検討しないと、輝度の均一性がきわめて低いヘッドアップ ディスプレイ システムや、頭を動かすと輝度が変化するヘッドアップ ディスプレイ システムになる可能性があります。

設計に結像光学系の理論や技術を使用した照明光学系がいくつかあります。一般的な例について以下で簡単に説明します。

クリティカル照明

光源の像を受照面または受照領域に投影する方法は、照明光学系のひとつの形態です。このような光学系をクリティカル照明といいます。光源の像が受照面に直接結像されることから、光源の均一性 (およびイレギュラリティ) が、得られる照明の均一性に直接影響します。したがって、クリティカル照明には均一な光源を使用することが最適です。収差を低減した投影とするために、投影レンズと光源像との間に適切な空間も必要となります。

Critical illumination

上記はクリティカル照明光学系の例で、光源の中間像を図示しています。光源は、集光レンズによって中間像として結像します。中間像は投影レンズによってスクリーンに投影されます。マージナル光線 (赤色の実線) は光源 (物体) の中心から、最初の瞳 (大まかには集光レンズ) のエッジを経て、中間像の中心まで追跡できます。さらに、中間像の中心から投影レンズのエッジを経て、照明ターゲットの中心まで追跡できます (赤色の点線)。主光線 (青色の実線) は光源 (物体) のエッジから、最初の瞳 (大まかには集光レンズ) の中心を経て、中間像のエッジまで追跡できます。さらに、中間像のエッジから投影レンズの中心を経て、照明ターゲット (この場合はスクリーン) のエッジまで追跡できます (青色の点線)。

スクリーンへの照射という概念が、結像と光線追跡の観点からどのように表現されているかという点に注意してください。優れた性能の集光レンズ、優れた性能の投影レンズ、比較的均一な分布の光源により、クリティカル照明の性能を十分に発揮できます。

ケーラー照明

ケーラー照明は、一般的には不均一な光源 (従来のフィラメントやランプ) に使用する照明光学系の一種です。クリティカル照明では、中間平面上の像に存在する不均一性が、最終的に照明されるスクリーン上に不均一な照度分布として結像するという制限があります。ケーラー照明は、集光レンズ上の完全にデフォーカスした像を、投影レンズによってスクリーンに投影させる中間像として利用しています。

Köhler illumination

上図では、集光レンズによって投影レンズ上に光源が結像します (青色の実線と赤色の実線)。投影レンズによって集光レンズ上の像が照明ターゲット上に結像します (青色の点線と赤色の点線)。マージナル光線 (赤色の実線) は、光源 (物体) の中心から最初の瞳 (大まかには集光レンズ) のエッジを経て、中間像の中心 (この場合は、投影レンズの中心) まで追跡できます。投影レンズから見ると、マージナル光線 (赤色の点線) は集光レンズの中心から投影レンズのエッジを経て、照明ターゲット (この場合はスクリーン) の中心まで追跡できます。主光線 (青色の実線) は、光源 (物体) のエッジから最初の瞳 (大まかには集光レンズ)の中心を経て、中間像のエッジ (この場合は投影レンズのエッジ) まで追跡できます。投影レンズから見ると、主光線 (青色の点線) は、集光レンズのエッジから投影レンズの中心を経て、照明ターゲットのエッジまで追跡できます。マージナル光線と主光線がつながらないこと、つまり赤色の実線と赤色の点線、青色の実線と青色の点線がそれぞれつながらないことに注意してください。つまり、マージナル光線と主光線が、1 番目の像 (集光レンズ) と 2 番目の像 (投影レンズ) の間でつながっていません。これにより、光源の不均一性は問題ではなくなります。受照面上には光源の像が直接結像しないからです。

放物面反射鏡と楕円反射鏡

放物面反射鏡は光源からの光を平行にする目的で使用されますが、別のレンズを使用して像を 1 点に形成することもできます。

Paraboloid reflector

楕円反射鏡は、光源からの光をある 1 点に集める照明結像手法です。光源を反射鏡の 1 つの焦点に置くと、光源からの光線はもう 1 つの焦点に結像します。

Ellipsoidal reflector

どちらの図でも、意図した方法で反射鏡に入射して方向を変えることができる光や焦点に集めることができる光は、光源から放射された光の一部にすぎないことがわかります。右から左に放射された光 (図には表示されていません) はどちらの例でも反射鏡には入射しないので、光学系では無駄になります。

ここまでの例は、照明に使用する結像の概念を示したものであり、従来の照明設計手法を示したものではありません。ノンシーケンシャル光線追跡の考え方がなかったころ、均一な分布または任意の分布を理論的に実現するうえで、結像の概念は唯一の方法でした。照明に結像光学系を使用することはできますが、必ずしもその必要はありません。多くの場合は、非結像光学系を使用します。どちらの方法でも、ほとんどの照明設計では、さまざまな思考プロセスや各種設計ツール (通常は、ノンシーケンシャル光線追跡を使用します) が必要です。

 非結像光学系入門

非結像光学系は、従来の結像光学系とは異なり、物体の像の形成を目的としていない光学系のひとつです。非結像光学系の主な目的は、光源と照明されるターゲットの間で光を伝達することです。つまり、非結像光学系と照明光学系は、光源の光を最適な状態で伝達し、照明のターゲット上に目的の分布を実現することを意図しています。

従来の光学系の設計は、長年にわたって数本の光線を追跡して焦点距離などの 1 次光学系を計算する処理と、サイデル収差理論などの 3 次光学系を計算する処理による結像光学系の設計でした。これらの処理では、手のかかる数学的計算を必要としますが、適切な効率とするのであれば、既知の経路をたどる、ごく一部の光線の追跡だけで十分でした。

Nonimaging optics

非結像光学系はディテクター面上の点A’及びB’に関係がなく、必要に応じてどこへでも光線の方向を変えられるという意味でより自由度が高いです。この側面では、非結像光学系では、光線が光学系をどのように通過できるかという点に対する制約や規則は、結像光学系の場合よりも少なくなっています。このことは、非結像光学系の特性を正確に評価するには、結像光学系の場合よりもはるかに多くの光線を追跡する必要があるということです。スループット、光学効率、光学的均一性などの最適化のターゲットに非解析的な性質があることから、光学レンズ設計に関する限り、最適化プロセスはより抽象的になり、制御が困難になります。ただし、現在利用できる高水準の計算能力をもってすれば、数百万本、ときには数十億本もの光線を短時間で追跡できることから、非結像照明光学系の設計の信頼性は大幅に向上しています。

KA-01818

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