照明設計で使用する光源

この課程では、照明設計における光源の概要とそのような光源に関する核心的な情報を取り上げます。さまざまな光源について説明し、照明光学系で光源を検討するための手引きを提供します。光源は、照明光学系を考える際の出発点であり、要点です。また、照明設計で最も重要な要素であることも間違いありません。

著者 Katsumoto Ikeda

はじめに : 照明光学系に使用する光源の検討

光源の形状、サイズ、形態は多岐にわたりますが、照明設計で使用するデータは、光源を基準とした光線の位置 x、y、z、光線の方向角 l、m、n、光線のパワー、および光線の波長または色です。

最も簡潔な条件は、光学系が光源から十分に離れた位置にあることから光源を点光源に近似できる場合です。方向分布の観点で簡潔な条件は、等方性分布またはランバーシアン分布に近似できます。

Isotropic and Lambertian

 

照明光学系のシミュレーションによる結果が、実験から得られた結果と一致しない場合があります。この原因として、光源モデルの欠落が考えられます。光源と光学系の距離が近いほど、光が集まる範囲が成す立体角が大きくなるので、光の表面分布も広い範囲にわたる可能性があります。この場合、モデルから得られた結果と実際の結果との一致を実現するには、光源の物理的なサイズによる反射と屈折を考慮した光源の完全なモデルを使用することが適切です。それでも、点光源や平行ビームのような簡潔なモデルで光学系を十分に記述できるのであれば、そのような光源モデルが照明光学系に不適切であるというわけではありません。より複雑な光源を使用しても、得られる結果が近似光源の場合と変わらないのであれば、簡潔な光源を使用した方が効率的なシミュレーションになります。

さまざまな光源

数多くの光源がありますが、照明設計で使用する代表的な光源としては以下があります。

  • LEDs (発光ダイオード) : シングル チップ モデルおよび蛍光体モデル
  • LD (レーザー ダイオード)
  • 白熱光源 : 電球や太陽など
  • 蛍光光源 : たとえば蛍光灯
  • 金属蒸気光源 : ハロゲン化金属ランプなど
  • 高圧ガス放電光源

これらの光源のモデル化では、スペクトル分布、放射輝度分布、輝度分布を考慮します。

複雑な光源モデルを作成する方法は 4 種類あります。

  1. 幾何光学モデル : 光源を物理的にモデル化します。ダイオード、ダイオードを囲む反射機構、ワイヤ ボンディング、ダイ、外装パッケージは幾何光学的にモデル化します。一方で、この方法で得られる光源は、元の光源の幾何光学的形状から見れば正しいといえる前提を多数設定した複雑なものになります。このモデルの利点は、複雑な光学測定を必要としないこと、および公差解析が可能な物理的形状が得られることです。一方で、発光特性は仮定の特性であり、反射特性と屈折特性の材料特性は近似値となります。また、各部品のモデル化は、ソフトウェアでそれらの部品に必要となる複雑さよりも複雑なものになる可能性があります。
  2. 放射輝度モデル : 光源の出力を代表的なサンプルで測定します。測定にはゴニオメーターのディテクタを使用し、光源の方位角と極角を測定します。このモデルをインポートして、照明のシミュレーションに使用します。この方法では、実際の光学系で得られる測定値に相当する正確な測定値が得られます。一方で、このモデルでは再入射光が考慮されず、モデル化は収集した測定の範囲にとどまります。また、すべての光源が測定されて、測定値が利用できるようになっているわけではないので、高コストな 1 回限りの測定が必要になることもあります。
  3. 光学系モデル : 幾何学モデルと放射輝度モデルを組み合わせたモデルです。両方のモデルの利点を取り入れる一方で、それぞれのモデルの欠点を排除しています。一方で、両方のモデルの統合が容易ではないという不利な点もあります。
  4. フォトルミネッセンス モデル : フォトルミネッセンスとは、光学的な活性を持つ特定の分子が光を吸収し、ダウンコンバートして、一定の長波長の光として再放出する性質を指しています。OpticStudio では、吸収データ、発光データ、量子効率スペクトル データを使用して、この現象をモデル化できます。これらのデータには、テキスト ファイルの形式で提供されているものを使用します。必要に応じて、フォトルミネッセンス モデルをミー バルク散乱モデルと組み合わせ、散乱媒質に埋め込まれたフォトルミネッセンス材料をモデル化できます。フォトルミネッセンスの設定に関する記事がここにあります。また、ヘルプ ファイルまたは PDF 版ヘルプ OpticStudio_UserManual_jp.pdf の「[設定] (Setup) タブ」→「[エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ)」→「[ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-sequential Component Editor)」→「[体積物理特性] (Volume Physics)」→「[フォトルミネッセンス] (Phosphors and Fluorescence)」に蛍光体と蛍光に関する説明があります。

点光源

光源によっては、光学系よりも十分に小さいことから、効率的な計算を実現するために点に縮小でき、シーケンシャル モードでシミュレーションまでできるものがあります。たとえば、一部の小型 LED、ほとんどのシングルモード レーザー ダイオード (LD)、一部のマルチモード LD は表面積が小さいので、光源としては点に縮小して扱うことができます。

 

Point source

 

光源を点に縮小できれば、多くの計算で効率が向上し、最適化と光線追跡のシミュレーションに要する演算能力が少なくてすみます。設計を数回反復して、光源のサイズが大きく影響する状態までレンズの最適化が十分に進捗した段階で、光源の実際のサイズが光学系に対してどの程度の比率になっているか確認することをお勧めします。点光源を使用した設計では光源のサイズを考慮しなくなるので、照明の計算でこの近似を選択する際には注意が必要です。

 

モデル化光源 : OpticStudio のデフォルト光源

OpticStudio のノンシーケンシャル光源として、点光源、楕円光源、矩形光源、体積光源、データ ファイルによる光源、ユーザー定義タイプの光源があります。OpticStudio にデフォルトで用意されている各種光源は扱いやすく、ほとんどの光源をモデル化できます。

  • 光源 (回折) : 定義済み UDA の遠視野回折パターンを持つ光源。
  • 光源 (ダイオード) : X 方向と Y 方向に別々の分布を持つダイオードのアレイ。
  • 光源 (DLL) : 外部のユーザー指定プログラムで定義した光源。
  • 光源 (楕円) : 仮想点光源からの光を放出する楕円面。速軸と遅軸とでビーム発散角が異なるレーザー ダイオードのモデル化で、この光源を効果的に使用できます。
  • 光源 (EULUMDAT ファイル) : EULUMDAT フォーマット ファイルのランプ データで定義された光源。「極ディテクタと IESNA/EULUMDAT 光源データの使用方法」に使用例があります。
  • 光源 (フィラメント) : 螺旋型フィラメント形状の光源。
  • 光源 (ファイル) : ファイルで記述した光線を放射する、ユーザー定義の光源。多くの LED については、光線を記述したファイルが大手の LED 製造元のほとんどから公開されています。「How to use Osram LED data with OpticStudio」および「How to generate a ray set from an RSMX Source Model」に使用例があります。
  • 光源 (ガウス) : ガウス分布を持つ光源。
  • 光源 (IESNA ファイル) : IESNA フォーマット ファイルのランプ データで定義された光源。「光線追跡結果を IES 形式でエクスポートする方法」に使用例があります。
  • 光源 (インポート) : インポートしたオブジェクトの形状で定義した光源。
  • 光源 (オブジェクト) : 上記以外のオブジェクトの形状で定義した光源。「How to make any object into a source object」に使用例があります。
  • 光源 (点) : 円錐状に光線を放射する点光源。必要に応じて、この円錐は、幅がゼロのものや球体の範囲に拡張したものとすることができます。
  • 光源 (ラジアル) : 任意の角度対強度データのスプライン フィットに基づく放射対称光源。VCSEL のような LD の変種が持つ複雑な放射分布のモデル化では、この光源が効果的です。「How to model LEDs and other complex sources」に使用例があります。
  • 光源 (光線) : 指定の方向余弦に方向を合わせた点光源。
  • 光源 (矩形) : 仮想点光源からの光を放出する矩形面。
  • 光源 (チューブ) : シリンダ型チューブ形状の光源。
  • 光源 (2 角度) : X 方向と Y 方向の角度が異なる円錐状に光線を放射する矩形面または楕円面。
  • 光源 (体積シリンダ) : 楕円形の断面を持つシリンダ形状の体積光源。
  • 光源 (体積楕円) : 楕円体積形状の光源。
  • 光源 (体積矩形) : 矩形形状の体積光源。

(ヘルプ ファイルまたは PDF 版ヘルプ OpticStudio_UserManual_en.pdf の「[設定] (Setup) タブ」→「[エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ)」→「[ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-sequential Component Editor)」→「ノンシーケンシャル光源」に各光源のすべての機能の一覧があります。)

 

モデル化光源 : 複雑なモデル化光源

OpticStudio のデフォルト光源とは対照的な、複雑な光源をモデル化することもできます。

LED をモデル化する方法として、LED のさまざまな部品を幾何光学的にモデル化する方法もあります。たとえば、発光ダイ、レンズのエンクロージャ、ワイヤ ボンディング、反射ディスクはもとより、電気端子まで含めた LED として LED をモデル化できます

#image of modeled LED 1


#image of modeled LED 1

 

LED チップの発光を青色から黄色に変えることによって混合色の白色光を発する燐光体を持つ LED 光源もあります。

この幾何光学モデルと、上に挙げた光源モデルの周囲に LED の部品を配置したモデルを使用できます。反射ディスクに対する発光ダイオードの位置を最適化しながら、反射ディスクの形状とレンズの形状も最適化できます。レンズ形状の測定は必須ですが、各部品の相対的な配置も測定します。各部品のさまざまなパラメータの最適化を経て、OpticStudio でシミュレーションした光線が、実測した発光結果と一致するか、妥当な範囲で整合していれば、モデル化は完了です。

このような幾何光学モデル化は効果的で、LED をきわめて良好に再現できますが、各部品とレンズの形状とサイズの一部が製品カタログからは読み

取れず、入力として使用できないこともあり得ます。また、これらの部品を実測したところで、必ずしも正しい結果が得られるとは限りません。このような光源の量産には、膨大な数の変動要素があることが考えられるからです。最も重大な問題は、発光光源の近くに配置された各種の部品です。一般的な LED では、発光ダイと反射板が発光光源に相当します。

また、体積物理特性を使用することで、青色光から黄色光への変換量を特性化できます。

 

#image of modeled LED 2

 

これは上記の幾何光学モデル化の拡張ですが、LED のダイが持つ物理特性のモデル化に踏み込んだ手法です。LED 自体のアクティブな発光をモデル化することにより、LED の光生成プロセスをこれまでよりも正確に表現できるようになっています。この手法はきわめて正確ですが、光線追跡に長時間を要します。これは、光変換の統計学的性格、蛍光体の散乱特性、および半導体部品の屈折率 (一般的に n > 2.5) が蛍光体やレンズ エンクロージ(一般的に n ≅ 1.5)より高いためです。

詳細は「How to model LEDs and other complex sources」を参照してください。

 

インポートした LED データ ファイル

LED による現実の光源を表現する手法として最も優れている素材は、その製造元が提供する光源ファイルです。光源ファイルは、強度分布を持つ平面または光線の体積で記述できます。平面による記述では、発光の空間的変化をある程度無視していますが、体積分布による記述では、光線データのより優れた空間表現が得られます。「How to use Osram LED data with OpticStudio」および「How to model LEDs and other complex sources」に LED の光線データをインポートする例があります。

 

KA-01590

KA-01356

 

光源に関する有用な各種記事

以下のナレッジベースに光源の有用な例が掲載されています。

Source Radial

How to model LEDs and other complex sources: 複雑ないくつかの光源をモデル化する方法を取り上げています。この記事で関連するトピックは以下のとおりです。

  • Using the Source Radial: 光源 (ラジアル) は、製造元のデータシートからデータを入力するうえで最も簡潔な方法です。製品データシートで提供されている LED データの例として光源への入力があります。"コウモリの翼" のような形状の角度プロファイルが提供されています。
  • Using Radiant Source Models in OpticStudio: 光源 (ラジアル) を使用することの主な利点は、実測データがすべて揃っているので、反射、散乱、全反射による影響を把握できることにあります。多くの場合、アライメント写真がいくつか用意されているので、LED の幾何光学的形状を知ることができます。

  • Building a complex geometric model: 複雑な形状の光源モデルを作成する手法です。これは、光源の "小型モデル" であり、光源の内部構造の表現を目的としたオブジェクト群とともに OpticStudio にネイティブで用意されている幾何光学光源を使用します。{Zemax}/Samples/Non-Sequential/Sources/led_model.zmx にサンプル データが用意されています。

KA-01688

How to create an array of sources: OpticStudio では、すべての光源を複製してアレイを構成できます。光源のアレイは、同じ光源の複数インスタンスを作成するよりも効率的で、特にデータ ファイルで光源が定義されている場合に、その効果が顕著です。矩形グリッドや六極アレイをはじめとして多数のアレイ タイプがあります。この記事では、この機能の使用例を取り上げています。

KA-01431

How to model colored and Tristimulus Sources: 広帯域光源を定義する際にノンシーケンシャル モードで使用できるさまざまなモデルについて説明しています。このモデルには、2 つのカテゴリーとして、実測スペクトルに基づく光源定義と三刺激値に基づく光源定義があります。デジタル ディスプレイや投射光学系などの多数の光学系を作成できるようになるには、さまざまな光源をモデル化する方法とそのモデルの測光応答を解析する方法に通じている必要があります。

KA-01429

How to generate a ray set from an RSMX Source Model: 複雑な光源を最も一般化した記述が Radiant Source Model (RSMX) ファイルで得られます。このファイルには、光源の実測放射強度または実測光度が、波長、位置、または角度の関数で記述されています。このファイルは、近視野と遠視野の両方で光源の挙動を特性化するために、高い精度で使用できます。この記事では、ダウンロードした RSMX ファイルから光線セットを生成して複雑な光源をモデル化する方法を紹介しています。

KA-01684

How to make any object into a Source Object: この記事では、光源 (オブジェクト) を使用して幾何光学的にあらゆるサイズと形状の光源を作成する方法について説明しています。光源 (オブジェクト) には、インポートした CAD オブジェクトをはじめとして、あらゆるオブジェクトを光源に変換できる柔軟性があります。OpticStudio には、ノンシーケンシャル モードで使用できる標準的な光源オブジェクトが多数用意されています。一方で、このソフトウェアで直接使用できない光源のモデル化が必要になる状況もあり得ます。この手法は、フィラメントなどの自発光オブジェクトや、オブジェクトからの熱放射のモデル化に最適です。

KA-01825

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