照明設計で有用な光学シミュレーション手法

このレッスンでは、照明設計で使用するさまざまな光学シミュレーション手法について簡単に説明します。最良の結果を得るためにどのように光線追跡をする必要があるかという観点から、光学系を設定する方法を学びます。具体的なシミュレーション手法を取り上げている記事への有用なリンクも紹介します。

著者 Katsumoto Ikeda

照明光学系での光線追跡の理解

レンズの形状が解析計算のみで決まることはほとんどありません。実際には、フレネル損失 (偏光)、分散、材料による吸収、拡散をはじめとする多数の光学現象によって光線が影響を受けます。照明光学系の設計とシミュレーションでは、これらの光学現象を考慮する必要があります。照明光学系のノンシーケンシャル光線追跡で、回折と干渉に対する考慮が求められる状況はまれですが、光学系に対する慎重な評価が求められます。

光線追跡は以下の様な手法で行われます :

  • 光線束としての光を扱います。
    • 光線には、位置、方向、パワー、波長の各特性があります。
    • 回折は考慮されません。
  • 光線追跡では
    • 光線の出発点は光源です。
    • 面に到達した光線は、反射や屈折によってその特性 (方向、パワー) が変化します。
    • 想定した面に光線が到達しない場合や、光のパワーが閾値を下回った場合は光線追跡が終了します。

この様子を簡単な図で表現すると次のようになります。

 

Ray tracing schematic

 

 

光線の寿命は、次のフローチャートのようになります。

 

Ray tracing flowchart

 

シミュレーションでは、光線の分布に関する以下のパラメータを考慮する必要があります :

  • 光源の角度分布
  • 光源の空間分布
  • 光源のスペクトル分布
  • 拡散面の拡散分布

     

Spatial and angular distribution

 

ノンシーケンシャル解析では照射に光線を使用します。1 本の光線には、1 つの位置、1 つの方向、1 つのパワー値、および 1 つの波長または色情報の各特性があります。光学系のシミュレーションでは、その結果を得るために複数光線の統計的表現を使用します。上記の各分布および光線の方向、パワー、波長の設定によって、その光線のランダムさの程度が決まります。このようなタイプの光線シミュレーション手法を、光線がランダムな分布であることを表すため、"モンテカルロ シミュレーション" と呼んでいます。1 本の光線の情報は、光源全体のごくわずかな部分に過ぎないので、使用する光線数が不十分であると不正確な結果になることが考えられます。高い信号対ノイズ比を得るには、光線数を多くする必要があります。マルチコアの CPU と GPU による演算を使用することで演算速度の向上が望めます。

光線数から見たディテクタの最適な分解能については、レッスン 2 の「ディテクタ」で検討しています。光線数が少なすぎるとノイズが増加しますが、多すぎると演算リソースを消費するほか、重要な時間の浪費ともなります。

 

照明設計で使用可能なシミュレーション手法

以下の設定が照明設計のモデル上で正確なほど、シミュレーションも正確になります :

  • 光源 : 角度分布、空間分布、スペクトル分布、近視野分布。
  • 光学系に存在する 3 次元オブジェクト : 形状によって、光線の反射と屈折が決まります。
  • 材料 : 屈折率、透過率および、それらより影響は低いものの、材料内部の拡散パラメータ。
  • 面の光学特性 : 光学面での透過、反射、拡散によって、その面で光線にどのような相互作用が発生するかが決まります。

コンピュータのコードでは、プログラムで指定した処理のみが実行されますが、それと同様に、光線追跡の結果は、指定した設定の範囲でのみ得られます。結果の正確さは、モデル化の状態に依存するほか、結果に大きな影響を持つ要素が現実の光学系にどの程度近いかにも依存します。一方で、過剰に些細な点までモデル化すると時間の浪費となることが考えられます。シミュレーションで必須となるパラメータの取捨選択は設計者に委ねられています。複雑な作業になることもありますが、拡散特性と光源のモデル化が設計で重要になることもあります。

 

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