この記事では、OpticStudio 21.1 に新しくネイティブ機能として搭載された体積ホログラム機能を紹介し、回折効率、収縮、屈折率シフトなどの物理的特性を考慮して、シーケンシャル モードでホログラフィック回折格子を完全にシミュレートする方法を紹介します。また、同等の機能は、既存のDLLを使用することで、ノンシーケンシャル モードでシミュレーションを行うことができます。これらの解析は、仮想現実(VR)および拡張現実(AR)で使用するヘッドアップ ディスプレイ(HUD)やヘッドマウント ディスプレイ(HMD)などのシステムを設計するために重要です。この記事では、理論を確認し、モデルのパラメータを説明し、ユーザーがモデルに慣れるための5つの例を紹介します。
この記事に関連する機能は、シーケンシャル ホログラム面と回折効率についての解析機能、ノンシーケンシャル ホログラム DLL オブジェクトに分類されます。
Authored By Michael Cheng
ダウンロード
序論
体積ホログラムは、ヘッドアップ ディスプレイ (HUD)、拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR) 用のヘッドマウント ディスプレイ (HMD) など、さまざまな光学系で広く使用されています。ホログラムには、必要とするあらゆる角度に光線の回折を発生できる能力と、波長や角度に対する選択性があることから、ホログラムを使用することで光学系を小型軽量化できます。
OpticStudio では、長年にわたり理想的なホログラムのシミュレーションをサポートしてきました。しかし、体積ホログラムの特性を正確に考慮するには、回折光線の伝播方向のほか、回折効率、材料の収縮、屈折率シフトなどの要因を考慮することが重要です。回折効率を考慮することで、画像シミュレーションなどの高度な解析や、総合的な最適化が可能になります。
表面レリーフ型グレーティングと体積ホログラフィック グレーティング
このモデルについて紹介する前に、表面レリーフ型グレーティング (SRG) と体積ホログラフィック グレーティング (VHG) の違いについて簡単に説明します。これら 2 つのグレーティングは、光学系で果たす役割の面では、ほとんど違いがありません。しかし、製造法とシミュレーションという点では、まったく異なります。
図 1. (a) 表面レリーフ型グレーティング (b) 体積ホログラフィック グレーティング
- 図 1 (b) に示した VHG は、感光性のエマルジョン膜に複数のビームを露光することによって製作します。このエマルジョン膜を化学的または熱的に現像すると、グレーティングが完成します。このグレーティングの表面は平坦ですが、内部の屈折率は正弦波関数状に変化します。VHG をモデル化するには、効率的な Kogelnik 理論や信頼性に優れた厳密結合波解析 (RCWA) などのアルゴリズムが必要です。
- 図 1 (a) に示した SRG は、電子線描画、リソグラフィ、ナノインプリント、ダイヤモンド切削などの方法で製作できます。VHG と異なり、SRG の屈折率は空間的に変化しません。代わりに、グレーティング面が周期的な微細構造で構成されています。SRG をモデル化するには、フーリエ モーダル法 (RCWA 法) などのアルゴリズムが必要です。
この記事では、VHG 向けのツールを紹介します。SRG 向けのツールについては、ナレッジベース記事 「表面レリーフ型グレーティングの回折効率を RCWA 法でシミュレーションする」 を参照してください。
2 結合波解析
ここでは、体積ホログラフィック グレーティング モデルに使用される、 2 結合波理論を再確認します。
法線ベクトルが n であるホログラム平面を、波長が同じ 2 つの平面波で照射する簡単な例を考えます。これらの平面波は、波動ベクトル k1 および k2 の方向から伝播するものとします。平面波は、ホログラムを通過する際に、まずスネルの法則に従って屈折し、その波動ベクトルがホログラム内部で k'1 と k'2 に変化します (図 2 (a))。したがって、グレーティング ベクトルを次式で定義できます。
現像して製作したホログラムを再生平面波 kp で照射して得られる回折波 kd は、次式を解くことで求められます。
ここで、k'p と k'd は、ホログラム エマルジョン内部での再生波と回折波の波動ベクトルです (図 2 (b))。グレーティング ベクトル K は、2 つの互いに反対の方向のいずれかで選択できる点に注目してください。式 (2) の符号規則では、K.kp > 0 が成立するように K の方向を選択することを想定しています。
図 2. (a) 2 本の構成ビームがホログラム材料で屈折 (b) 再生光線が体積ホログラムで屈折
ここで、式 (3) に示すように、正弦波関数状に変化する屈折率 n と α によってホログラム内部の干渉縞を表現できると考えられます。
n0 は平均屈折率、n1 は屈折率の振幅変調、K はグレーティング ベクトルです。
透過ホログラムと反射ホログラムの回折波と直接波が持つ、TE (横電界) 方向に偏光した電界は、下記の 4 つの式で計算できます。2 結合波理論では、入射光、0 次の直接波、1 次の回折波の間でのみエネルギーが交換されるという前提がある点に注意が必要です。この制約を取り除くには、厳密結合波解析 (RCWA) が必要です。
各値の定義は次のとおりです。
TM (横磁界) 方向に偏光している場合は、k を kTM に置き換え、前記の式をそのまま使用します。
入射光線がグレーティングと直交しないコニカル回折の場合は、その固有偏光を次のように定義できます。
図 3. Kogelnik の結合波理論では、反射と透過のどちらのホログラムでも、入射光線が 0 次で直接透過するか 1 次の回折が発生するうえで十分な厚みがホログラムにあることを前提としています。
前提と制約
Kogelnik の結合波理論には、体積位相グレーティングの 0 次および 1 次の効率に対する応答を他の理論よりも正確に予測できるという利点があります。ただし、ホログラムの厚みが十分ではない場合、または過変調パターン (大幅な屈折率変調) が記録されている場合、この精度が低下することがあります。このため、参考として Kogelnik の適用限界を検討しておく必要があります。
- 屈折率変調 : 平均屈折率に比べて過剰な屈折率変調は使用できません。言い換えれば、n1/n << 1 が成立している必要があります。この条件は、現実の状況のほとんどで成立します。経験則によれば、n1/n の比率を反射ホログラムの場合は 0.16 以下、透過ホログラムの場合は 0.06 以下にする必要があります [2]。
- 厚み : ホログラムには、十分な厚みがあるものと仮定しています。経験則によれば、以下の式が成立している必要があります。
- 複数次数の回折 : これは、厚みと同様の制約です。厚いホログラムであれば、入射光線のエネルギーは、0 次の直接波または 1 次の回折波にのみ伝達されます。薄いホログラムの場合、-1、-2、+2、+3... など他の回折次数の効率がゼロではなくなることが考えられます。
- 記録の多重化 : ホログラム内部に同時に存在できる干渉縞は 1 組に限られます。Kogelnik 法では、複数の干渉縞を扱うことができません。
- 複屈折材料 : ホログラムには、等方性材料を使用することが前提となります。したがって、複屈折材料は使用できません。
なお、別のアルゴリズムを使用すれば、これらの制約を解消できる点に注目する必要があります。実際のホログラムがこれらの制約を解消できるかどうかについては、Zemax のサポートまでお問い合わせください。
膨張と収縮
ここでは、これらの DLL でホログラムの膨張と収縮をどのように考慮しているかを説明します。
加工を経たホログラムのエマルジョンは、厚みが変化する可能性があります。厚みの変化を考慮するために、まずグレーティング ベクトルを 2 つの成分 K∥ と K⊥ に分割します。K⊥ は面法線と直交するベクトル、K∥ は面法線に平行なベクトルです。厚みが t から t' に変化した場合、式 (4) に示すとおり、K∥ を変更することで新しいグレーティング ベクトルを計算できます。
図 4. ホログラムのエマルジョンが収縮すると、厚みが t から t' に減少します。
How to set up in Sequential Mode
ここでは、シーケンシャル モードでホログラムを設定する方法を説明します。また、設定に伴う注意点も指摘します。シーケンシャル モードで体積ホログラムを追加するには、[ホログラム1] (Hologram 1)、[ホログラム2] (Hologram 2)、[トロイダルホログラム] (Troidal Hologram)、[光学合成ホログラム] (Optically Fabricated Hologram) の 4 種類のホログラム面のいずれかを使用できます。各面の体積ホログラム パラメータの詳細については、OpticStudio のヘルプシステムをご覧ください。この例では、以下に示すパラメータを使用してホログラム 2 面を使用します。
図 5. レンズ データ エディタ上のホログラム 2 面のパラメータ
これらのパラメータのうち、X1、Y1、Z1、X2、Y2、Z2 および Wave は、標準で用意されている面タイプであるホログラム 1 やホログラム 2 の場合と同じです。これら 7 つのパラメータの詳細は、ナレッジベース記事 「How to model holograms in OpticStudio」 を参照してください。
その他のパラメータの意味は、次のとおりです。
- 回折次数 : このパラメータは透過型のホログラムの場合のみ動作します。この値が 0 の場合は 0 次の直接光を、1 の場合は 1 次の回折光を追跡します。透過型と反射型のホログラムについて知りたい場合は、ナレッジベース記事 「How to model holograms in OpticStudio」 を参照してください。また、ノンシーケンシャル モードの回折 DLL には、0 次と 1 次の両方をトレースするため、このパラメータがないことに注意してください。
- 体積ホログラム: このパラメータは、面が体積ホログラムか、表面ホログラムであるかを定義します。0 の場合は False であり、0 以外の整数の場合は True で体積ホログラムを表します。ここでは、体積ホログラムをモデリングしているため、1 に設定されています。
- ホログラム厚: このパラメータはホログラム エマルジョンの厚みです。この厚さは仮想であり、回折効率の計算にのみ使用されることに注意してください。光線追跡中、他の回折面と同様に無限に薄い面として設定されます。
- n1 & n2: これらの2つのパラメータは、構成ビームがホログラムに入る前の材料の屈折率です。 n1 は構成ビーム 1 用で、n2 は構成ビーム 2 用です。これら 2 つのパラメータの詳細については、次のセクションを確認してください。
- n: ホログラム エマルジョンの平均屈折率。これは、上記の Kogelnik の理論で説明されている n0 と同じ値になります。
- dn: 屈折率の変調。これは、上記の Kogelnik の理論で説明されている n1 と同じです。
- 収縮: 現像後のホログラムの厚さの変化。 0 (デフォルト) の場合、収縮はありません。 0 でない場合は、厚さの倍率となります。たとえば、0.98 と設定すると、2% の収縮を意味します。
- 屈折率シフト: 現像後のホログラムの平均屈折率の変化。
- フレネル損失: 1 に設定すると、フレネル損失が考慮されます。これを 0 に設定すると、フレネル損失の考慮がオフになります。これは、ユーザーが独自のコードを使用して計算結果を確認する場合に役立ちます。
体積ホログラム面には、その材質がミラーの場合は I.0 のコーティング、ミラーでない場合は I.99999999 (9 が 8 個) のコーティングをそれぞれ施す必要があります。このホログラム面は、面がコーティングされていないと仮定しているので、モデル内部でフレネル損失が考慮されます。
図 6. レンズ データ エディタに表示した材質とコーティングの各パラメータ
ノンシーケンシャル モードでの設定方法
ここでは、ノンシーケンシャル モードでホログラムを設定する方法を説明します。また、設定に伴う注意点も指摘します。
ノンシーケンシャル モードで体積ホログラムを追加するには、回折グレーティング オブジェクトを使用するか、DiffractionGrating.dll によるユーザー定義オブジェクトを使用します。現時点では、その他の回折オブジェクトには対応していません。DLL のモデルでは、回折面が XY 平面に存在すると仮定しているからです。
ホログラム膜の形状が円形の場合は回折グレーティング、矩形の場合は DiffractionGrating.dll によるユーザー定義オブジェクトをそれぞれ使用します。ホログラムの形状が円形でも矩形でもない場合は、ブール ネイティブまたはブール CAD オブジェクトの組み合わせと押し出しオブジェクトを併用して、必要な任意形状を構築します。
もう1つのパラメータ [Ig.Geo.Err.] ですが、これはノンシーケンシャル モードでのみ表示されます。このパラメータがゼロ以外に設定されている場合で、回折ビームが存在しない場合、DLL はジオメトリ エラーを返しません。これは、光線がブラッグから遠く離れた状態でホログラムに当たったときに発生する可能性があります。
パラメータ [ShowError] はノンシーケンシャル DLL に固有であることに注意してください。このパラメータが1に設定されている場合、DLL からジオメトリ エラーが返されると、DLL はより多くのメッセージを表示します。これは、システムをデバッグして、ジオメトリ エラーが発生する理由を知るのに役立ちます。このメッセージは、DLL が検出した最初のジオメトリ エラーに対して1回だけ表示されます。他のジオメトリ エラーのメッセージをさらに表示するには、このパラメーターを0に戻し、次に1に戻します。
図 7. ユーザー定義オブジェクトに対する回折の設定
このホログラム DLL を使用する場合、回折面 (フェイス 1) のコーティングを必ず [なし] (None) に設定します。
図 8. ユーザー定義オブジェクトに対するコーティングの設定
回折 DLL が機能するには、[NSC 光線の分割] (Split NSC Rays) オプションをチェックする必要があります。 オプション「Split NSC Rays」は任意ですが、チェックされています。オプション「Split NSC Rays」にチェックが入っている場合、OpticStudio はホログラム面に入射するすべての光線について、回折光線と直接透過光線の両方を追跡します。オプション「Split NSC Rays」にチェックが入っていない場合、OpticStudio はホログラム オブジェクトの Order(次数)のパラメータが 1 に設定されている場合は回折光線のみを、Order パラメータが 0 に設定されている場合は直接透過光線のみを追跡します。
図 9. [光線追跡コントロール] (Ray Trace Control) ダイアログと [NSC 3D レイアウト] (NSC 3D Layout) ダイアログで [NSC 光線の分割] (Split NSC Rays) オプションをチェック
図10. 「Use Polarization」にチェックが入っていないとレイアウト図で体積ホログラムが認識されません。
前述のとおり、ホログラムは必ず無限に薄いと見なされます。光とホログラムとのすべての相互作用は、回折面であるフェイス 1 上でのみ発生し、そこで扱われます。
図 11. ホログラムのレイアウト表示
よくある質問
ここでは、よくある質問のいくつかについて説明します。
ホログラム両面での屈折率について
ホログラムの外部を占める媒質の屈折率が異なると、ホログラムの挙動も異なります。たとえば、下図 (図 12) の左右に示すホログラム シートはまったく同じものですが、光線は異なる方向に回折しています。左のホログラム シートは空気中に保持されているのに対し、右のホログラム シートはガラス面に接着されています。それぞれで光線が異なる角度に回折していることがわかります。したがって、ホログラム両面の材質を適切に設定しているかの確認が重要です。
図 12. 空気中のホログラムとガラス上のホログラム
パラメータ n1 と n2 について
パラメータ n1 と n2 は、ホログラムの外部を占める材料の屈折率を表します。n1 は構成ビーム 1 に対する屈折率、n2 は構成ビーム 2 に対する屈折率です。次の図のように、構成工程で 2 つの構成ビームがホログラムの互いに反対側の面に入射する場合、n1 と n2 が異なることが考えられます。
図 13. 互いに反対側の面に入射する 2 つの構成ビーム
一方、構成工程で 2 つの構成ビームがホログラムの同じ側の面に入射する場合は、下図のように n1 と n2 は等しくなります。
図 14. 同じ側の面に入射する 2 つの構成ビーム
「構成ビーム」の意味については 「How to model holograms in OpticStudio」 を参照してください。
n1 と n2 を正しく設定しないと、ホログラムが誤った特性を示すことがあるので注意が必要です。こうした状況は、ホログラムを実際に製作する方法に起因して発生します。たとえば、次の図のように、ホログラムを記録する段階では、一方の面にプリズムを置き、再生するときは取り除くことが考えられます。その場合、n1 と n2 にプリズムの屈折率と導波路の屈折率を設定します。
図 15. 構成と再生のプロセス
製造元提供のホログラムの場合
自社製ではない、外部から購入したホログラムでは、その構築方法の詳細が不明な場合があります。その場合は、入手した仕様に従ってダミーの構成光学系を構築します。実例は「ノンシーケンシャルの計算例 3」を参照してください。
回折次数について
ここでの例では、扱う回折次数は、必ず 0 次または 1 次のみです。
Kogelnik の理論では、ホログラム グレーティングに光波が入射すると、2 つの主要な射出光のみが発生すると仮定します。これら 2 つの射出光とは、直接通過する波と回折する波です。OpticStudio にネイティブに搭載されたホログラムの機能と、実験的な DLL では、必ず通過波を 0 次、回折波を 1 次と考えます。
したがって、ノンシーケンシャル光学系の設定では、[開始次数] (Start Order) と [終了次数] (Stop Order) をそれぞれ 0 と 1 に設定します。開始次数 = 終了次数 = 0 または 開始次数 = 終了次数 = 1 という設定も可能です。これらの設定は、1 次または 0 次の光波を意図的に無視するシミュレーションの設定になります。
シーケンシャルの計算例 1
この計算例では、ホログラムにさまざまな角度で入射する光線による回折効率を簡単に確認する方法を紹介します。まず、添付ファイル native_vhg_kog_seq_example1.zar を開きます。このファイルに記述されたホログラムは、45 度で入射した平行ビームから回折光を生成し、遠く離れた点に焦点を結ぶように設計されています。
図 16. サンプル ホログラムのレイアウト表示
構成光学系の各パラメータを次のように設定します。
図 17. レンズ データ エディタで設定したホログラム構成のパラメータ
この設定は、下図の構成光学系を表しています。ビーム 1 の光源を十分に離れた位置 (実質的に無限遠) に配置することで、平行ビームをシミュレートしています。
図 18. 光学系の初期設定
ホログラム 2 では、一方の構成ビームが 1 つの構成点に収束し (ビーム 2)、他方の構成ビームは、他の構成点から発散するものと仮定します (ビーム 1)。しかし、構成光学系の相互性を考慮すると、これはビーム 1 が収束する光源で、ビーム 2 が発散する光源である場合と同一です。その場合、次のような図を考えることができます。
図 19. 逆方向に構築した同じ光学系
下図のように、ホログラム面の前に厚みゼロの絞り (STOP) を設定します。こうすることで、主光線が必ずホログラムの中心に到達するようになります。
図 20. レンズ データ エディタでの絞り (STOP) の位置
サンプルファイルには、効率 vs. 角度のグラフがあります。ここでは、主光線の入射角に関して Kogelnik 法を使用して回折効率を計算しています。これは、[解析] (Analyze) ... [偏光と表面物理] (Polarization and Surface Physics) ... [回折効率] (Diffraction Efficiency)... [効率と角度] (Efficiency vs. Angle) にあります。設定を以下に示します。
Figure 21. 効率 vs. 角度プロットの設定画面
[システム エクスプローラ] (System Explorer) ... [偏光] (Polarization) で入射光線の偏光状態を設定することに注目してください。このファイルでは、TE 偏光である (jx, jy) = (1, 0) に設定しています。
図 22. システム エクスプローラでの偏光の設定
解析結果のプロットを下図に示します。
図 23. 効率 vs. 角度プロット。y 軸は回折効率、x 軸は主光線の入射角。
シーケンシャルの計算例 2
導波路を使用した、もう少し複雑な例を検討します。まず、添付ファイル native_vhg_kog_seq_example2.zar を開きます。この光学系の設計方法は、「Augmented Reality (AR) by hologram」 で紹介しています。この計算例では、新機能を使用して回折効率を考慮することによる利点に注目します。
このファイルではきわめて遠方の位置 (0, -1E8, -1.35E8) に構成ビーム 1 の光源を設定しています。これは、構成ビーム 1 がベクトル (0, -0.6, -0.8) の方向に伝播する平行光線であるということです。構成ビーム 2 の光源は、(0, 18.66, -45.12) に設定します。これは、構成ビーム 2 が (0, 18.66, -45.12) に収束する収束光線であるということです。
図 24. レンズ データ エディタでの光学系の初期設定とそのレイアウト表示
2 つの構成ビームの波長は 0.55 µm です。構成時のホログラム両側の材料はアクリルであることから、n1=n2=1.493581 (0.55 µm におけるアクリルの屈折率) に設定します。
図 25. レンズ データ エディタで設定したホログラムのパラメータ
このファイルには、2 つの画像シミュレーション解析が収録されています。両者の設定は、一方で [偏光を使用] (Use Polarization) オプションをチェックしていて、もう一方ではそのチェックをはずしている点を除けば同じです。
図 26. 画像シミュレーション解析の設定
ホログラムの回折効率を考慮することによる効果を確認するには、[偏光を使用] (Use Polarization) をチェックする必要があります。次の図を見れば、その効果は明らかです。[偏光を使用] (Use Polarization) をチェックすると、シミュレーション画像の上下端に暗い部分が見られるようになります。
図 27. 画像シミュレーション解析
ノンシーケンシャルの計算例 1
この計算例は、ホログラムをノンシーケンシャル モードで解析している点を除き、シーケンシャルの計算例 1 と同じです。光学系は、添付ファイルの vhg_kog_nsc_example1.zar に保存されています。このファイルでは、DiffractionGrating.dll を使用したユーザー定義オブジェクトとしてホログラムを設定しています。このユーザー定義オブジェクトの DLL によって、フェイス 1 を回折面にすることができます。その設定は次のとおりです。
図 28. NSCオブジェクトに対する回折の設定
図 29. 光学系全体のレイアウト
評価関数では、オペランド NSDP を使用して回折効率を計算し、表示します (図 31)。
図 30. メリット ファンクション エディタ
ユニバーサル プロットには、光源光線の入射角の関数として評価関数の値が表示されます。
図 31. ユニバーサル プロットの設定
この計算例をユニバーサル プロットに表示した結果を以下に示します。
図 32. このユニバーサル プロットの y 軸は評価関数の値、x 軸は光源光線の入射角です。
ノンシーケンシャルの計算例 2
この計算例の光学系は、シーケンシャルの計算例 2 で解析した光学系に類似しています。違いは、光学系をノンシーケンシャル モードで再構築したこと、均一な放射照度の画像を得るために構成光学系を詳しく最適化したこと、カラー表示に対応するためにホログラム グレーティングを 2 つ追加したことです。この光学系は、vhg_kog_nsc_example2.zar として添付されています。
次の図から、導波路上に 3 つのホログラム オブジェクト (オブジェクト 10、11、12) を積層していることがわかります。これらのホログラムの各パラメータは、構成ビームの波長 (パラメータ Wave) と、その波長における屈折率 (n1 と n2) を除いて互いに同じです。その値は、オブジェクト プロパティで確認できます。
2 つのホログラムどうしの境界、またはホログラムと導波路との境界のそれぞれは、2 つのフェイスが重なっている境界であることから、光線が回折面と正しく相互作用するようにネスト規則を慎重に検討しています。このファイルでは、オブジェクト 10、11、12 の回折面となるフェイスを、導波路に近い側、つまり -z 側としています。
図 33. 光学系のレイアウトと 3 つのホログラム オブジェクトの詳細
ネスト規則の詳細については、次の 2 つの参考資料を参照してください。
- 「Improving non-sequential ray tracing speeds with nested and Boolean objects」
- OpticStudio のヘルプ ファイル:「[設定] (Setup) タブ」>「[エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ)」>「[ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-sequential Component Editor)」>「ノンシーケンシャルの概要」>「ネストする面」
シミュレーションした画像を以下に示します。屈折率シフトやホログラムの収縮が画像に及ぼす影響も示しています。この例の詳しい解説が、参考文献 [3] にあります。
図 33. 多色設計の画像シミュレーションと光学系の 3D シェーデッド モデル
ノンシーケンシャルの計算例 3
この計算例では、ホログラムが自社製ではなく、以下の仕様で外部から購入したものであるとします。
- ホログラム タイプ : 透過型
- 設計波長 : 632 nm
- 入射角 : 30 度
- 射出角 : 7 度
- 厚み : 7 mm
- 平均屈折率 : 1.5
- 変調屈折率 : 0.00005
- 設計で想定するエレメントの使用環境 : 空気中
どの程度の正確さでホログラムが製造されているかが不明であることから、入手した仕様に基づいてダミー構成による光学系を構築する必要があります。
それには、まず光学系の定義を容易にするために、図 35 に示すように、入射角と射出角をベクトルに変換する必要があります。
必要に応じて、y 軸と x 軸を入れ換えることができる点に注目してください。光学系内部でホログラム オブジェクトを配置、回転するときに便利な軸指定を選択します。ただし、z 軸は他の軸と入れ換えることができません。DLL モデルでは、XY 平面にホログラム面があることが前提となっているからです。
図 35. YZ 平面で見た入射ベクトルと射出ベクトル
仕様と上図から、ベクトル vin を (0, -sin(7°), -cos(7°))、vout を (0, -sin(30°), -cos(30°)) と計算できます。以上により、構成ビームの各パラメータを次のように設定できます。
- Holotype = 1
- X1 = 0
- Y1 = 1E9*(-sin(7 deg)) = -0.121869E9
- Z1 = 1E9*(-cos(7 deg)) = -0.992546E9
- X2 = 0
- Y2 = 1E9*(-sin(30 deg)) = -0.5E9
- Z2 = 1E9*(-cos(30 deg)) = -0.866025E9
上記の計算式の乗数 1E9 は、構成ビームを平行光線にするために設定した大きな数値に過ぎません。
HoloType を 2 に設定する場合は、(X1,Y1,Z1) または (X2,Y2,Z2) に -1 を乗算する必要があります。
残りのパラメータは、データシートから直接入手できます。値は、次のとおりです。
- Wave = 0.633 µm
- Thickness = 7 mm
- Index Modulation = 0.00005
- Hologram Index = 1.5
最後の 2 つのパラメータの値は、どのような環境での使用を想定してホログラムが設計されているかによって決まります。この例の場合、仕様書によれば、ホログラムを基板には接着せず、空気中で使用することになっています。したがって、n1 と n2 を次のように設定します。
- n1 = 1.0
- n2 = 1.0
下図に、最終設定と結果を示します。これらは、添付ファイル filevhg_kog_nsc_example2.zar でも確認できます。
図 36. ホログラムレンズの設定
図 37. このユニバーサル プロットの y 軸は評価関数の値、x 軸は光源光線の入射角です。
このファイルのユニバーサル プロットの描画では簡単な工夫をしています。[開始次数] (Start Order) と [終了次数] (Stop Order) の両方を 1 に設定することにより、DLL で 1 次の回折光線のみが考慮され、0 次の直接通過光線が無視されるようにしています。この工夫により、ユニバーサル プロットには 1 次の回折効率のみが表示されます。
図 38. この例で [開始次数] (Start Order) を 0、[終了次数] (Stop Order) を 1 に設定すると、この図に示すように 0 次と 1 次の光線の両方が追跡されます。
参考文献
- Kogelnik, H., "Coupled wave theory for thick hologram gratings, " Bell Syst. Tech. J. 48, 2909-2947 (1969).
- Bjelkhagen, H. and Brotherton-Ratcliffe, D., Ultra-realistic imaging: advanced techniques in analogue and digital colour holography. CRC press, 2016.
- Han-Hsiang Cheng, Xiaochaoran Tian, "An advanced ray-tracing model for multi-color holographic optical elements," Proc. SPIE 11188, Holography, Diffractive Optics, and Applications IX, 1118817 (18 November 2019); https://doi.org/10.1117/12.2537762
KA-01893
コメント
記事コメントは受け付けていません。