目的とする P-V 誤差を伴う屈折率のランダムな不均質性を生成するために使用する関数を導き出します。
著者: Erin Elliott, Tolis Deslis
はじめに
直径が大きいレンズや頂点の厚みが厚いレンズでは、屈折率の不均質性のモデル化が重要になることがあります。 ティルト項とパワー項を使用して屈折率の不均質性の形態を近似できます。 所定の P-V 誤差を満たすゼルニケ多項式 Z2、Z3、Z4 の組み合わせを生成する式を導きます。このゼルニケ多項式を使用して、光学系の均質性をモデル化できます。
不均質性について
ここでは、レンズの中で屈折率がどのように変化しているかを示す屈折率の不均質性をモデル化します。どのような高精度光学系であっても、屈折率の不均質性は問題になる可能性がありますが、特に直径が大きいレンズで顕著です。
屈折率の変化に伴う効果を光学モデルに追加し、光学系の性能に対する影響を見極める必要があります。 対象とするレンズの後ろにゼルニケ フリンジ位相面を追加し、そのゼルニケ面に適切な値を割り当てることで、この見極めを実現します。 そのためには、屈折率の不均質性として考えられる形態について前提を設ける必要があります。
部品内部での屈折率の変化が、ガラスのグレードで指定されています。たとえば、グレード 3 のガラスでは、不均質性によって屈折率が± 2*10-6 の範囲で変化します。 これは、屈折率に想定される最大値と最小値、または屈折率の最大変化幅 (P-V) に相当します (ここでは、波長の関数としての屈折率変化量が一定であることを前提としています。これは妥当な前提です)。
ガラスは巨大なインゴットで冷却されますが、その縁は中央よりも短時間で温度が低下します。これによって、インゴットの一般的な屈折率プロファイルが生成されます。ブランクはインゴットから切り出されるので、屈折率の変化はパワー項とティルト項でほとんど決まります。
次の図は、Ralf Jedamzik と Uwe Petzold の共著『Optical glass: refractive index homogeneity from small to large parts - an overview』 (Proc.SPIE 10914, Optical Components and Materials XVI, 109140V (27 February 2019); doi:10.1117/12.2511271) からの抜粋です。
レンズでは、ゼルニケ ティルト項とゼルニケ パワー項である Z2、Z3、Z4 を使用して屈折率の不均質性をモデル化することが妥当です。
簡潔にするために、レンズがどの X 座標と Y 座標の位置でも厚みが等しいプレートであるとします。したがって、屈折率の変化に起因する波面収差は一定です (凸レンズの場合、実際の波面収差の偏差は、これよりもわずかに少なくなります。これは動径座標の増加と共にガラスの厚みが小さくなるからです。負のレンズ (凹レンズ) では、レンズのエッジに向かってガラスが厚くなるので、最悪の影響を推測するには、頂点での厚みよりもエッジの厚みを選択することが適切な場合もあります)。
目的の P-V 位相変化量は、屈折率の全変動量、光学系の波長、およびレンズの頂点厚みで決まります。グレード 3 のガラスを使用し、波長を 500 nm、レンズの厚みを 30 mm とします。屈折率の変化に起因して P-V 位相変化量に想定できる最大値は次のようになります。
目的の P-V 誤差である 0.24 波長がゼルニケ フリンジ位相面で得られるように、適切な Z2、Z3、Z4 の値を見出す必要があります。 以下で説明する関数によって、一連の適切な Z 係数が生成されます。
P-V 位相
Z2、Z3、Z4 の各項のみを使用して、ゼルニケ フリンジ位相面の位相を次のように記述できます。
(1)
この関数の P-V 位相を求めます。位相の断面を必ず最大ティルトの方向で選択することにすると、次のように簡素化して位相を記述できます。
(2)
位相の P-V は、この断面の最大値と最小値で決まります。 この関数の最大値は、必ずアパチャーのエッジで発生します。 最小値が発生する場所は、最大値とは反対側のアパチャーのエッジ (ティルトがパワーよりも大きい場合) またはアパチャー内部のいずれかの場所 (パワーがティルトよりも大きい場合) です。
以下の 3 つの図は、これらの条件下における断面のプロットです。
1 番目の図は、Z4 < 0.25 (Z22 + Z32)1/2 である場合の位相断面です。
ここでは、D = 200 mm、Z2 = 0.1、Z3 = 0.05、Z4 = 0.1*(Z22 + Z32) としています。この関数の最小値は、アパチャー外部のいずれかの場所で発生します。
2 番目の図は、Z4 = 0.25 (Z22 + Z32)1/2 である場合の位相断面です。
ここでは、D = 200 mm、Z2 = 0.1、Z3 = 0.05、Z4 = 0.25*(Z22 + Z32) としています。この関数の最小値は -D/2 の位置で発生します。
3 番目の図は、Z4 > 0.25 (Z22 + Z32)1/2 である場合の位相断面です。
ここでは、D = 200 mm、Z2 = 0.1、Z3 = 0.05、Z4 = 0.5*(Z22 + Z32) としています。 この関数の最小値は、アパチャー内部のいずれかの場所で発生します。
断面ΦC の導関数をゼロに等しく設定し (式 3)、関数の最小値が発生する動径座標 (r) について解くことで (式 4)、これらの領域の間でカットオフを計算できます。 rmin = D/2 を設定して Z4 について解くと、この関数が最小値になるカットオフがアパチャーのエッジであることがわかります (式 5)。 式 5 のカットオフよりも Z4 が大きくなると、関数の最小値は rmin の位置で発生します。P-V は、この最小値位置での値とアパチャーの反対側エッジでの値から計算されます。 Z4 がカットオフよりも小さいと、関数の最小値はアパチャーの外部で発生するので、P-V は±(D/2) の位置で計算されます。
(3)
(4)
(5)
式 2 を使用して、各領域での P-V の式を記述できます。
|Z4| が Z4 のカットオフより小さい場合は、P-V =ΦC (D/2) - ΦC(-D/2) です。これによって次が得られます。
(6)
Z4 がカットオフより大きい場合は、P-V = ΦC(rmin) - ΦC(D/2) です。これによって次が得られます。
(7)
Z4 が -Z4 のカットオフより小さい場合は、P-V = ΦC(rmin) - ΦC(-D/2) です。これによって次が得られます。
(8)
Z2、Z3、Z4 の解法
目的の P-V 値を使用して、P-V の式 6 ~ 8 をゼルニケ係数 (Z2、Z3、Z4) の組み合わせについて解くことができます。 その解をマクロや他のプログラムで使用すると、屈折率の不確実性に起因する P-V 位相誤差の想定値を正しく捉える係数のランダムな組み合わせを生成できます。 ただし、以下で説明するように、非現実的な解にならないようにするための注意が必要です。
|Z4| < Z4 cutoff
Z4 がカットオフ値未満であると、この関数の最小値はアパチャーの外部で発生します。 この場合、P-V 位相変化量の計算は Z4 に依存しなくなります。Z2 のランダム値を生成し、Z3 について解いて正しい P-V 位相を求めます。
正しい P-V を使用して Z2、Z3、Z4 のランダムな組み合わせを作成するには、次の手順に従います。
- 目的の P-V を超えない範囲で Z2 のランダムな値を生成します。
(9a) - PV1 (式 6) を使用して Z3 について解き、次の式を得ます。
(9b) - カットオフの範囲内で Z4 のランダムな値を選択します。
(9c)
Z4 > Z4 cutoff
Z4 がカットオフ値より大きいと、この関数の最小値はアパチャーの内部で発生します。 この場合、Z4 の値は P-V 位相に影響しません。 式 7 を使用して Z4 について解くことができますが、Z3 が必ず実数解になるような制約を追加する必要があります。
正しい P-V を使用して Z2、Z3、Z4 のランダムな組み合わせを作成するには、次の手順に従います。
- 目的の P-V を超えない範囲で Z2 のランダムな値を生成します。
(10a) - Z3 のランダムな値を生成します。 目的の P-V 値を超えないように、設定できるティルト値の範囲を制限します。
(10b) - Z4 について解きます。P-V 位相 (PV) に等しい値に設定した PV2 (式 7) を使用して Z4 について解き、次の解を求めます。
(Z3 に対する上記の条件によって、この式にある最初の平方根内部の値は必ず正数になります。)
(10c)
Z4 < - Z4 cutoff
Z4 が負数で、カットオフ値の負数未満であると、Z4 の解は上記の解の負数になります。 係数の組み合わせを生成する手順は、式 10c を式 11 に置き換える点を除き、上記と同じです。
(11)
いくつかのランダムな条件
上記の手順を使用して生成したランダムな条件を以下に示します。 それぞれの条件で、「|Z4| < Z4 のカットオフ」の場合の解、「Z4 > Z4 のカットオフ」の場合の解、「Z4 < -Z4 のカットオフ」の場合の解のいずれかをランダムに選択して使用しています。 表 1 に示すように、どの条件でも目的とする P-V 位相は 0.1 波長です。 図 6 では、式 1 で得られた 2 次元の位相 Φ(r, θ) を各条件ですべてプロットしています。
次の表は、P-V 位相を 0.1 波長として、3 項で説明した方法によって生成したゼルニケ係数のランダムな組み合わせです。
次の図は、9 種類のランダムな条件による 2 次元の位相 Φ(r, θ) のプロットです。
この記事では、材料の屈折率の不均一性を表現するゼルニケ多項式を検討し、その組み合わせの生成に使用できる関数を導きました。
参考文献
- Ralf Jedamzik, Uwe Petzold, "Optical glass: refractive index homogeneity from small to large parts - an overview," Proc. SPIE 10914, Optical Components and Materials XVI, 109140V (27 February 2019); doi:10.1117/12.2511271
KA-01976
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