この記事では、くさび形の LCD バックライトをモデル化して解析し、照度の出力基準に適合するように最適化します。
著者 Akash Arora
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Introduction
現在、LCD (液晶ディスプレイ) は、ディスプレイ技術として広く普及しています。商用分野における最も顕著な適用例として、コンピュータのモニター、携帯電話、テレビ、携帯用デジタル デバイスなどがあります。
大部分の LCD では、周囲の照明条件が不十分な場合に、後方から光を照射して視認性を確保しています。採用されている 2 つの照明方式として、直下型とエッジライト型があります。OpticStudio ではどちらの照明方式もモデル化できますが、エッジライト型の方が設計に関連する問題が多いので、この記事ではこの方式を重点的に取り上げます。
LCD illumination schemes LCD の照明方式
直下型の LCD 構成では、発光ダイオードなどの光源のアレイまたは EL パネルなどの 1 つの均一光源を LCD の背後に配置します。この構成は優れた均一性と明るさが実現しますが、多くのエネルギーと筐体の厚みが必要です。
参考資料については、こちらをご覧ください。
この記事では、エッジライト設計に重点を置きます。この設計では、くさび形の光ガイドを使用して、LCD ディスプレイの端面近傍に配置した光源からの照明が分散するようにしています。この構成の方が、消費エネルギーが少なく、薄い筐体に収納できますが、均一性と明るさに難点があります。
参考資料については、こちらをご覧ください。
この記事では実際の液晶層を無視し、バックライト設計のみを検討することにします。
バックライトのモデル化
エッジライト LCD の詳しいレイアウトを次に示します。
通常、光源は CCFL (冷陰極蛍光管) または LED (発光ダイオード) 群です。光学系に高い効率を実現するために、光源の背後に反射板を配置しています。くさび形の光ガイドでは内部全反射 (TIR) を利用して、光が十分に分散し、表示領域全体に行き渡るようにしています。効率向上を目的として、光ガイド周縁にはミラー面も配置しています。パターンのアレイとした BEF (輝度向上フィルム) を使用して、放射された光の光度と偏光を制御します。
この設計例では、特定の制約が想定されています。表示領域は、一般的な携帯電話に基づくものとします。光ガイドの厚みを選択することで、パッケージ全体の高さを制限します。
表示領域 : 75mm x 75mm
くさび形の厚み: 入射側フェイス : 4mm、反射側フェイス : 1mm
BEF : Vikuiti™ T-BEF 90/24
この記事の巻末に示す所要のファイルをダウンロードします。{Zemax}¥Glasscat ディレクトリにガラス カタログを配置します。このカタログには、上記のプラスチックのほぼ正確な内部透過値 (25mm で 93%) をモデル化する変性アクリルと PMMA が記述されています。基本の設計とパラメータは Starting Point.zmx ファイルで定義されています。さまざまなバックライト部品のモデル化には、ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ (NSCE) の光源タイプとオブジェクト タイプを使用しています。
励起電子が管面のコーティング材質に到達すると、CCFL から光が放射されます。このタイプの光源発光には「光源 (チューブ)」が理想的です。代わりに「光源 (ダイオード)」を使用して、ダイオードの 1D アレイを光源としてモデル化することもできます。
くさび形の光ガイドは、アクリル材質の矩形体積オブジェクトを使用してモデル化します。このオブジェクトでは、さまざまな端部フェイス寸法とティルトを使用できます。ここでは、光ガイドの上側フェイスを X-Z 平面と平行に保持するので、このオブジェクトをティルトする必要があります。さらに、光ガイドの上端ではなく、入射面の中央を中心とした回転を適用するので、Y 方向の位置をわずかに変更する必要もあります。前後のフェイスのティルトにピックアップ ソルブを適用することにより、これらを確実に Y-Z 平面と平行に保持できます。
BEF は、この光学系で最も複雑なコンポーネントです。親プリズムを手動で複製するのでは時間の浪費で、光線追跡では膨大なメモリが必要になります。アレイ オブジェクトを使用する方が、必要なメモリ量が親オブジェクトによる消費分のみになるうえ、親のパラメータを調整することでアレイ全体を変更できるので、はるかに優れた選択になります。形状オブジェクトであっても、アレイにした場合の光線追跡速度には注意が必要です。
初期性能の判定
これで基本システムはモデル化できたので、次は初期性能を確認します。設計評価に広く使用する基準は、エネルギー効率と均一性 (照度と光度) です。エネルギー効率は、光源から照射されるエネルギーに対する、ディスプレイから照射されるエネルギーの比率として定義します。位置空間では、目的の出力がディスプレイ全体で均一であることが必要です (ピクセルごとの光束の偏差が最小であること)。角度空間では、出力は小さい半値円錐角 (30 度以下) の範囲で均一であることが必要です。この設計が小型デジタル デバイス用であることに留意します。設計の適用先がテレビやコンピュータのモニターであれば、もっと大きい半値円錐角 (90 度以下) が必要です。
次に示す [光線追跡コントロール] (Ray Trace Control) 設定で光線を追跡し、閾値に起因するエネルギー損失に注意します。
ディテクタ ビューアを見ると、光源のエネルギーの約 40% がディテクタに到達していることが確認できます。この値は、モンテカルロ光線追跡のランダム性に基づいて、最大数パーセント変動することがあります。光線エラーによっていくらかのエネルギー損失が発生しますが、この用途では無視できます。エネルギーのほとんどは光ガイド内部のバルク吸収によって失われています。一方、閾値に起因する損失は 10% 程度です。光線が複数回反射するような光学系では、このような状態が普通に発生します。この損失を除去するには、最小相対光線強度を数桁小さくする必要があります。損失エネルギーが顕著であれば、この対策は現実的ですが、光線追跡の速度が大きく低下します。閾値を 1E-6 に小さくすると損失エネルギーが 1% 減少し、効率が約 46% まで向上します。
次に、照度と光度の分布を確認します。光源と反対側のディスプレイ部分で照度が最大になっています。これは、光ガイドによって入射角が大きくなり、光源に近い場所で TIR が発生した結果です。光度のプロットには、目的とする小さい角度範囲での均一な分布ではなく、光度にいくつかのピークが現れています。次に示すように、この光度分布はくさび形光ガイドと BEF の特性によるものです。
この光学系には、現時点でこれらの分布を修正するように定義されている形状パラメータはほとんどありません。このような修正を実現するうえで最も効果的な方法は、くさび形光ガイドに散乱プロパティを導入することです。入射フェイス、上側フェイス、下側フェイスは、照度と光度の分布に最も大きく影響します。
次の設定を使用して、光ガイドの入射面にランバーシアン散乱プロファイルを適用します。
光線を追跡し、出力特性の変化を確認します。[光線追跡コントロール] (Ray Trace Control) ダイアログの [光線の散乱] (Scatter Rays) をチェックしていることを必ず確認します。
光学系の効率が数パーセント向上し、照度の均一性がかなり向上しています。光度はわずかに向上していますが、いくつかのホットスポットが残っているので、これを解決する必要があります。
次に、光ガイドの前側フェイスから散乱プロファイルを削除し、上側フェイスに散乱プロファイルを 1 つ適用します。矩形体積はデフォルトで 3 つのフェイス グループで定義されるので、上側フェイスと下側フェイスでのみ回折が発生するような設定はできません。代わりに、上側フェイスと一致する散乱矩形体積を配置します。これによって、実質的にこのフェイスにのみ散乱プロファイルが追加されます。この散乱矩形体積オブジェクトを NSCE で矩形体積の後に記述すれば、この境界ではネスト規則によってこの新しい体積が優先されます。以下のパラメータを指定して、オブジェクト 7 に矩形体積オブジェクトを挿入します。
Y 方向位置 = 2
Z 方向位置 = 38.5
X ティルト = -90
材質 : 空白 (空気)
X1、X2、Y1、Y2 の各半幅 = 37.5
Z 方向長さ = 0.01
ランバーシアン散乱プロファイル : 前側フェイスのみ
その他のパラメータはすべてデフォルトのままにします。光線を追跡し、出力の変化に注目します。
照度の均一性は低下しましたが、光度のホットスポットが解消しているほか、効率も大幅に向上しています。出力の空間分布と角度分布はトレードオフの関係にあるように思われます。同じような散乱関数を下側フェイスにのみ適用すると、効率が低下することがわかります。
ここまでの結果に基づくと、散乱プロファイルを光ガイドの上面に設定し、光源近くでは散乱を少なくして、光源から離れるに従って散乱を多くすることが理想といえるようです。アレイ オブジェクトには、こうした非線形パターンをモデル化する機能があります。
バックライトの最適化
現在、くさび形光ガイドで広く使用される微細構造は、成形した凹凸構造です。この方法には、光ガイド上への散乱ドットの印刷といった余分な加工を必要としないという利点があります。このような構造にはどのようなオブジェクト (ネイティブ オブジェクト、インポートしたオブジェクト、ブール オブジェクトなど) も使用できますが、この設計では、個々の微細構造に球体を使用します。この構造は、光ガイドの上側フェイスに接するように球体のアレイを配置することで実現できます。NSCE で光ガイドの後にこれらのオブジェクトを記述し、その材質として空気を定義すると、光ガイド上にエンボス加工した球体をモデル化できます (ネスト規則を参考にしてください)。親の球体とアレイ オブジェクトは、この記事の添付資料にある Mid Point.zmx に追加されています。
このファイルを開くときには、アレイ オブジェクト 12 の描画限度パラメータをきわめて小さい値に設定していることを確認します。アレイのエレメント数が多いため、すべてのエレメントを描画するには膨大なレンダリング時間が必要になるからです。代わりに、OpticStudio では、アレイ全体を取り囲む境界ボックスが描画されます。
ここでは、前のページで述べたような最高の性能基準を達成できるように、アレイのパラメータを最適化します。必要な評価関数は、現在のファイルにすでに定義済みです。メリット ファンクション エディタを開きます。
オペランド 5 を使用して空間の均一性を最大化し、オペランド 8 を使用して全光束を最大化します。オペランド 10 と 11 を使用して、光度分布のセントロイドを制御します。オペランド 13 を使用して、強度分布の RMS 半径を制御します。出力を完璧な平行光線にする必要はありませんが、視角を一定範囲に制限する必要はあるので、ターゲットとして 30 度を指定しています。最後のオペランド群 (15 ~ 18) は、アレイが極端に大きくなったり小さくなったりしないようにするための境界コンストレインツです。このようなコンストレインツが必要となる理由は、このように制限しないと最適化では極端な解が得られる傾向があるからです。これらのオペランドの重みが負の数になっていることに注目してください。これらは、強制的にターゲットが満足されるようにするラグランジュ乗数として機能します。
最適化に使用するために割り当てる各種の変数は以下のとおりです。
球体オブジェクト : 半径
アレイ オブジェクト : Number X’ & Y’, Delta1 X’ & Y’, Delta2 Y’
このアレイは、対称性を考慮して、非線形とするのは Y 方向のみとします。したがって、ここでは X 方向にのみ線形のアレイ間隔 (デルタ1 X') を割り当てます。また、アレイ間隔の 3 次と 4 次の可変性もほぼ必要ないと考えられるので、これらも変数として割り当てません。
OpticStudio では、変数の開始値をゼロではなく、有限値とすることで、一般的に最適化の効率が向上します。2 次の Y 方向間隔に対する最適な開始ポイントを決定するために、間隔対評価関数値のユニバーサル プロットを確認します。1D ユニバーサル プロットを開き ([解析] → [ユニバーサル プロット])、以下の設定を適用します。
[OK] をクリックしてプロットを更新します。コンピュータの速度に応じて、更新に数分を要することがあります。以下のプロットに基づき、アレイ オブジェクトの [デルタ2 Y'] (Delta2 Y') パラメータを 5E-3 に設定します。
バックライトの設計フォームは一定なので、ここではアレイのパラメータの最適化のみが必要です。こうした事実を考慮すると、ここでのニーズを満たす最適な選択肢は、直交降下法 (OD) アルゴリズムを使用するハンマー最適化になります。ハンマー最適化は長時間の実行で最高の性能を発揮します。実行が進むにつれて、ここでの着手時の設計にきわめて類似して優れた設計は存在しないことが比較的確実になります。ハンマー最適化を約 20 時間実行した後、OpticStudio は卓越した空間均一性と受容できる光度の解に到達します。強度発光はこのタイプの光ガイドの特性であり、設計パラメータを大幅に変更しなければ大きく変更できないことに注意してください。最適化した光学系は、添付資料 End Point.zmx に用意されています。
光学系の効率がおよそ 60% に向上していることにも注目してください。最小相対光線強度の閾値を小さくすると、効率が 62% に近づきます。別の散乱やコーティングのプロパティを光学系に追加することで、さらなる改善が可能になることも考えられます。
KA-01387
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