多くの場合、照明光学設計では、お客様にデータを IES 形式で提供する必要があります。IES (Illuminating Engineering Society) ファイルは、測光データの容易な転送が可能で、製造や設計の業界で広く認知されています。この記事では、IES ファイルの生成方法とその結果の検証方法について説明します。
著者 Dr. Sanjay Gangadhara
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Introduction
OpticStudio のノンシーケンシャル モードで、複雑な照明光学系を設計して最適化できます。その作業の完了後、見込みのお客様に出力データを提供して、その照明光学系を独自の用途で使用できるかどうかをお客様が評価できるようにする必要があります。このデータをエクスポートする方法として IES ファイル形式があります。IES は、光源と完成した照明光学系の両方の特性を評価するために照明産業で広く使用されており、OpticStudio で容易に生成できます。
この記事では、スペクトル データ形式ファイルで保存された光線を IES ファイルに変換する方法を具体的に示します。
IES file format IES ファイル形式
IES ファイル形式では、光源を空間上の位置が変動しない点光源と見なすことができる程度に、光源と照明光学系が観測平面から十分に離れていると想定しています。これにより、IES ファイルは他の形式よりもはるかに小さいサイズになります。また、IES ファイルにはスペクトル データが収録されていないので、スペクトル データが必要な場合は、そのデータを収めたファイルを別途作成する必要があります。OpticStudio では、この変換を容易に自動実行できるほか、IES データを直接生成することもできます。 IES データを直接生成するには、極ディテクタを使用して光線を検出し、ノンシーケンシャル コンポーネント エディタの [ツール] (Tools) メニューで [極ディテクタのデータを光源ファイルとしてエクスポート] (Export Polar Detector Data as Source File) を選択します。詳細については、「極ディテクタと IESNA/EULUMDAT 光源データの使用方法」の記事を参照してください。 OpticStudio では、光線データベースの光線を .SDF ファイル形式 (スペクトル データ形式) で保存することもできます。このファイルには、指定したオブジェクト上で光線が到達した位置におけるすべての光線データが保存されています。このデータセットは、[ライブラリ] (Libraries) → [IES 光源モデル] (IES Source Models) → [光源ファイルを IES に変換] (Convert Source File to IES) を使用することで容易に IES ファイルに縮小できます。
通常は、光学系から射出された光線を保存し、その光線セットを、お客様に提供する IES ファイルに変換します。どちらの場合でも、光源に関連付けられた空間データを取り除き、遠視野構造のみを明らかにします。
ここでは、2 番目に示した IES ファイル生成方法を重点的に取り上げます。
SDF の生成
この記事には、LED モデルのサンプル ファイルが添付されています。このモデルには、LED 光源 (光源 (体積矩形) オブジェクトを使用した光源) の簡単な説明と、LED パッケージを構成する物理構造 (ボンディング ワイヤ、電極、ダイ、筐体) を表す形状オブジェクトが収められています。
この光源モデルのスペクトル色ファイル表現を生成するには、光源近くに配置したディテクタ (矩形) オブジェクトまで 1,000 万本の光線を追跡します。この光線追跡では [光線を保存] (Save Rays) オプションを選択する必要もあります。
作成する SDF ファイル名の構文は #-Name.SDF にする必要があります。# は、光線の保存先として指定するディテクタのオブジェクト番号です (この例のオブジェクト番号は 4)。オブジェクト番号はファイル名の一部として保存されません。上の例では、作成されるファイル名は Led_Model.SDF になります。
上記の手法は、ディテクタ上に到達した光線の保存に限定されません。ノンシーケンシャル モデルで任意のオブジェクトに到達した光線を対象として SDF ファイルを生成できます。そのためには、上記の [光線を保存] (Save Rays) で指定するファイル名の先頭部分に、目的のオブジェクトの番号を指定します。たとえば、オブジェクト番号 1 に到達する光線を SDF ファイルに保存する場合は、[光線を保存] (Save Rays) で指定する入力ファイル名の先頭を「1-」とします。
上記の設定を指定した後、[ディテクタのクリア] (Clear Detectors) をクリックしてから [光線追跡の実行] (Trace) をクリックして光線を追跡し、ディテクタで取得した結果を SDF ファイルに保存します。このファイルは {Zemax}¥Objects¥Sources¥Source Files フォルダに配置されます (詳細については、ヘルプ ファイルで「[設定] (Setup) タブ」→「[システム] (System) グループ ([設定] (Setup) タブ)」→「[プロジェクト環境設定] (Project Preferences) ([システム] (System) グループ)」→「[フォルダの設定] (Folders)」を参照してください)。
SDF ファイルは、光源 (ファイル) オブジェクトを介して、任意のノンシーケンシャル OpticStudio ファイルで使用できます。光源ファイル オブジェクトの詳細については、ヘルプ ファイルで「[設定] (Setup) タブ」→「[エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ)」→「[ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-sequential Component Editor)」→「ノンシーケンシャル光源」を参照してください。
IES ファイルへの変換
これで、[ライブラリ] (Libraries) → [IES 光源モデル] (IES Source Models) メニューの [光源ファイルを IES に変換] (Convert Source File to IES) を使用して、SDF ファイルを IES ファイルに変換する準備ができました。
{Zemax}¥Objects¥Sources¥Source Files フォルダに置いた SDF ファイルであれば、このツールで選択できます。この機能に対する主要な入力は、得られた IES ファイルで指定する極 (半径) 方向と方位 (角度) 方向のピクセル数です。この値を大きくすると解像度が高くなりますが、当初の SDF の光線数が少ないと、光線追跡結果にスパイク状のノイズが発生することがあります。当初の SDF の光線数が 100,000 以上であれば、デフォルトのピクセル化値 (極方向が 181、方位方向が 180) が妥当です。このサンプル ファイルでは 1,000 万本の光線が光源から放出され、2,000 万以上の光線がディテクタに到達して SDF ファイルに保存されています。これは、光線追跡時に、光学系での光線エネルギーの分割を許可したからです ([光線の分割] (Split Rays) を選択)。
IES ファイルには、光源の角度分布に対する測光値 (カンデラ) が記述されていますが、光源のスペクトル分布に関する明示的な情報は収録されていません。SDF ファイルに記録されたスペクトル情報が、IES への変換によって失われないようにするために、OpticStudio では、この情報がスペクトル (SPCD) ファイルに別途保持されています。SPCD ファイルは、出力の IES ファイルと基本ファイル名が同じで、拡張子が異なるだけです (IES ではなく SPCD になります)。スペクトル ファイルの構文の詳細については、ヘルプ ファイルで「[設定] (Setup) タブ」→「[エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ)」→「[ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ] (Non-sequential Component Editor)」→「[オブジェクト プロパティ] (ObjectProperties) (ノンシーケンシャル コンポーネント エディタ)」→「[光源] (Sources)」→「スペクトル ファイルの定義」を参照してください。
SDF ファイルを IES (および SPCD) ファイルに変換するには [変換] (Convert) ボタンをクリックします。得られた IES ファイルは {Zemax}¥Objects¥Sources¥IESNA フォルダに保存され、SPCD ファイルは {Zemax}¥Objects¥Sources¥Spectrum Files フォルダに保存されます。
結果の検証
変換結果を検証するには、SDF ファイルと IES ファイルの遠視野分布を光源配光分布図 (方位方向プロット) または光源極座標図 (極方向プロット) のいずれかで表示します (どちらの機能も [解析] (Analysis) → [光源ビューア] (Source Viewers) メニューにあります)。たとえば、両方の光源ファイルの光源配光分布図 (前方の半分) を 0 度、45 度、90 度の各走査角で比較すると、次のようになります。
SDF
IES
想定どおり、2 つのファイルの結果はほとんど同じになります。SDF の結果と比べて、IES の結果で見られる細かい変化は、変換時に IES ファイルで使用するピクセル数を少なくすることで低減できると考えられます。
この光源を遠方の平面に投影するとどのように見えるのかを、照度分布図 ([解析] (Analyze) → [アプリケーション] (Applications) → [光源照度分布図] (Source Illumination Map)) を使用して確認することもできます (詳細については、「How to characterize far-field color mixing with the Source Illumination Map」を参照してください)。光源配光分布図 (および光源極座標図) と同じように、SDF ファイルと IES ファイルのどちらでも光源照度分布図を使用できます (これらの解析はすべて RSMX ファイルでも機能します)。一般的に、IES ファイルを使用する際は、光源のスペクトル分布を記述した SPCD ファイルも指定する必要があります。
ただし、ここで示す例では、重みが同じ 2 つの波長 (0.46 ミクロンと 0.57 ミクロン) の光線のみが光源から放出されるにすぎません (このことは、メモ帳などの任意のテキスト エディタで SPCD ファイルを手動で開くことで確認できます)。つまり、ファイルに記録された点の数が少なすぎるため (SPCD ファイルの波長の最小数は 3 です)、OpticStudio ではスペクトル ファイルを使用できません。この例での簡単な代替策は、[波長データ] (Wavelength Data) ダイアログ ボックスで適切な波長を定義し、[光源の色 : ] (Source Color:) で [システム波長] (System Wavelengths) を選択することです。
上に示す [光源の位置と方位] (Source Position and Orientation) および [スクリーン サイズとサンプリング] (Screen Size and Sampling) の設定を使用すると、SDF ファイルと IES ファイルの結果は次のようになります。
SDF
IES
この 2 つの図の比較でも優れた一致を確認でき、ここでは IES データがさらに滑らかな結果を示しています。
ここで得られた IES ファイルを光学系で使用する場合は、ノンシーケンシャル光学系で光源 (IESNA ファイル) オブジェクトを選択し、入力としてこの IES ファイルを選択できます。光源のスペクトル分布を正確にモデル化するには、一般的に、[オブジェクト プロパティ] (Object Properties) ダイアログ ボックスの [光源] (Sources) タブで [光源の色] (Source Color) を [スペクトル ファイル] (Spectrum File) に設定する必要もあります。そのうえで、SDF から IES への変換時に作成された該当の SPCD ファイルを指定します。繰り返しますが、ここで説明した例ではこの操作は必要ありません。光源に記述されている波長は、重みが同じ 2 つの固有の波長のみなので、この情報は光学系の [波長データ] (Wavelength Data) ダイアログ ボックスで直接設定できるからです。
KA-01483
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