この記事では、ホイヘンス PSF と FFT PSF の計算の仕組みと、それぞれのアルゴリズムの用途について説明します。合わせて、FFT アルゴリズムの有効性を検証する手順と FFT を使用するために光学系に求められる要件も取り上げます。
著者 : Betsy Goodwin
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はじめに
光学系の点像強度分布関数 (PSF)とは、物空間にある単一の点光源によって像面に得られる像です。点光源による像でありながら、光学系の収差と回折によって像が広がり、完全な点ではない像になります。OpticStudioには、回折に基づく PSF 計算機能として、高速フーリエ変換 (瞳空間での計算) とホイヘンス (像空間での計算) の 2 種類が用意されています。
この記事では、ホイヘンス PSF の計算と高速フーリエ変換 (FFT) PSF の計算について説明し、両者を比較します。
ホイヘンス PSF
ホイヘンス PSF の計算は、主光線が像面と交差する点で像面に垂直な面上で実行します。ノンシーケンシャルモードで設計した光学系も含め、ほぼすべての光学系で有効に動作し、ローカル座標系にシフトがあっても、その影響を受けにくくなっています。この計算を進めるうえでの唯一の前提は、十分な瞳サンプリングが得られることです。
点光源から像面まで光線のグリッドを追跡することによって、光学系のホイヘンス PSF を計算します。これらの光線ごとに、振幅、座標、方向余弦、光路差 (OPD) を使用して、像空間のグリッドの各点に入射する平面波の複素振幅を計算します。像空間のグリッドの各点ですべての光線のコヒーレント和を求め、得られた複素振幅合計の二乗が各点での強度となります。
この技法では、波面上の各点を、振幅と位相を持つ完全な点光源と考えます。これらの各点光源から球面波である「ウェーブレット」が放射されます。点光源からの放射が空間を伝搬するに伴い、放射されたすべての球面ウェーブレットの複素和によって波面の回折が発生します。OpticStudioでは、各光線を平面波面に変換し、そのすべてが像面で互いに干渉した状態にすることによって、この回折状態を実現します。その結果がホイヘンス PSF です。
Cooke 40-degree field のサンプルファイルで計算したホイヘンス PSF を以下の図に示します。このファイルは、この記事に添付されています。下図はホイヘンス面 PSF で、それに続く図はホイヘンス擬似カラー PSF です。OpticStudioでシーケンシャル光学系のホイヘンス PSF を計算するには、
[解析] (Analyze) → [像質] (Image Quality) → [PSF] (PSF) → [ホイヘンス PSF] (Huygens PSF)
の順に選択します。
FFT PSF
FFT PSF はホイヘンス PSF よりも計算が高速ですが、計算に際していくつかの前提の成立を必要とすることから、有効に動作する領域が限られています。
FFT の手法では、波面の複素振幅のフーリエ変換を使用します。この複素振幅を主光線に垂直な面上の射出瞳で測定して、光学系で発生する回折の PSF を計算します。光線のグリッドが射出瞳で示す振幅と位相を計算し、遠視野で FFT を実行して、回折像の強度を計算します。点光源から像面まで光線のグリッドを追跡したうえで、このグリッドが射出瞳の位置まで逆方向に伝搬した状態にすることにより、光学系のFFT PSF を計算します。光線ごとに、振幅と光路差を使用して波面上の各点における複素振幅を計算します。このグリッドの FFT を二乗して実数値の PSF を求めます。
ホイヘンスの計算と異なり、FFT PSF では有効な結果を得るために、いくつかの前提条件が成立した状態を維持する必要があります。FFT PSF を実行するには、光学系の F ナンバーが 1.5 よりも大きいこと、像面が光学系の遠視野に存在すること、主光線が像面にほぼ垂直であることが必要です。さらに、正確な FFT の計算を実現するには、瞳収差が最小限であることが前提となります。これは、余弦空間で均一な光線分布が射出瞳上に形成されていることです。
シーケンシャル光学系の FFT PSF を計算するには、
[解析] (Analyze) → [像質] (Image Quality) → [PSF] (PSF) → [FFT PSF] (FFT PSF)
の順に選択します。
NSC 光学系では FFT PSF を計算できない点に留意してください。この記事の冒頭に挙げたアーカイブファイルにある 2 番目のコンフィグレーションから得られた FFT PSF とホイヘンス PSF の計算例を以下に示します。この光学系の像面はティルトしているので、主光線を像面に垂直にする前提が成立していません。この光学系の場合、FFT PSF は不正確ですが、ホイヘンス PSF は正確です。
FFT の有効性の検証
位置空間と角度空間の両方で、各光線が入射瞳座標と射出瞳座標との間で妥当な直線関係にあることを検証するには、FFT PSF が有効に機能する範囲に光学系が収まっていることを確認する簡単なテストを実施します。
像面に投影される余弦空間で光線の均一性を検証するには、
[解析] (Analyze) → [像質] (Image Quality) → [光線とスポット] (Rays and Spots) → [標準スポットダイアグラム] (Standard Spot Diagram)
の順にクリックします。
アクティブウィンドウの上部で [設定] (Settings) を選択し、[方向余弦] (Direction Cosines) ボックスをチェックします。得られたグラフが比較的均一であれば、FFT PSF で有効な結果が得られると考えられます。光線の収差が多い場合はホイヘンス解析を使用する必要があります。
この記事の冒頭で挙げた Cooke トリプレットのサンプルファイルで実施したスポットダイアグラム解析を余弦空間で見た結果を以下の図に示します。光線の均一なグリッドが得られています。これは、余弦空間で像面上に見られる光線の均一なグリッドの例です。これにより、この光学系では FFT PSF で有効な結果が得られることを確認できます。
この光学系の像面を、Y 軸を中心として 45°、Z 軸を中心として 45°それぞれティルトして (添付ファイルのコンフィグレーション 2 と同様)、余弦空間のスポットダイアグラムを再計算すると、以下のように不均一なスポットダイアグラムが得られます。この場合は、ホイヘンス PSF を使用する必要があります。
KA-01494
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