OpticStudio の自由曲面光学系

OpticStudio には、シーケンシャルおよびノンシーケンシャルの両モードで自由曲面による光学系を設計するツールが多数用意されています。この記事では、シーケンシャル モードでチェビシェフ多項式面を使用して軸外し放物面鏡を設計する例を紹介します。また、レンズ データ エディタで利用できる、自由曲面のフィルタリング ツールについても解説します。このツールでは、シーケンシャル モードで現在サポートされている 20 種類以上の自由曲面から、任意の用途向けに必要な面を迅速に探し出すことができます。

著者 Erin Elliott

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序論

はじめに

自由曲面光学部品は、一般的な球面光学部品よりも自由度の高い複雑な部品です。製造がより困難ですが、システムの体積を小さくできます。 自由曲面光学系はどのシステムにも適用でき、アンテナ、レーザービーム シェーパー、ハッブル望遠鏡などですでに使用されています1

OpticStudioには、シーケンシャル モードとノンシーケンシャル モードで自由曲面光学系を設計するためのツールがいくつか用意されています。 この記事では、シーケンシャル モードでチェビシェフ多項式面を使用して軸外放物線を生成する例を示します。 また、任意の用途に合わせて自由曲面光学部品を迅速に選択するために、表面タイプをフィルタリングする方法についても説明します。

チェビシェフ多項式面

この面は、OpticStudio で使用可能な多くの自由曲面の 1 つであり、チェビシェフ多項式に基づいています。定義上、この多項式は、正規化された正方形アパチャー上で直交しています。これは面の形状を定義する係数が 1 次独立であることを意味します。したがって、一般的に極小値の存在で面の形状の最適化が阻害されることがなく、他の非球面タイプよりも設計プロセスをはるかに簡潔に進めることができます。また、回転対称な光学系の記述に使用する他の多くの多項式自由曲面とは異なり、チェビシェフ多項式はデカルト座標系で導かれます。したがって、回転対称ではない光学系や楕円ではないアパチャーの定義が可能になります。

第 1 種チェビシェフ多項式は、以下の式で表されます。

チェビシェフ多項式の 0 次項から 10 次項までの係数は次のとおりです。

T0 (x) = 1

T1 (x) = x

T2 (x) = 2x2 - 1

T3 (x) = 4x3 - 3x

T4 (x) = 8x4 - 8x2 + 1

T5 (x) = 16x5- 20x3 + 5x

T6 (x) = 32x6 - 48x4 + 18x2 - 1

T7 (x) = 64x7 - 112x5 + 56x3 - 7x

T8 (x) = 128x8 - 256x6 + 160x4 - 32x2 + 1

T9 (x) = 256x9 - 576x7 + 432x5 - 120x3 + 9x

T10 (x) = 512x10 - 1280x8 + 1120x6 - 400x4 + 50x2 - 1

2 次元チェビシェフ多項式へは、積の基底 tij(x,y) を使用して移行できます。  

チェビシェフ多項式の項の有限和を使用して、この自由曲面に対して得られるサグ方程式は次のようになります。

ここで、aij はチェビシェフ多項式和の係数、x 、y は正規化された面座標、N と M はそれぞれ x 次元と y 次元の最大多項式次数、c は基準球の曲率で、この基準球に多項式を加算します。

最大次数を制限するのはコンピュータの速度性能だけですが、大抵の面は通常 10 次もあればどのような面も十分に記述できます。

チェビシェフ多項式面による軸外し放物面鏡の作成

簡単な例として、チェビシェフ多項式面を使用して下記の図 1 に示すような軸外し放物面鏡を作成します。この光学系を次のように規定します。

パラメータ
焦点距離 500 mm  
ミラーのアパチャー 50 x 50 mm  
ディセンタ距離 60 mm 焦点面を入射ビームの外側に配置するうえで十分な距離
入射瞳径 71 mm 50 x 50 mm の平方形ミラーが収まるサイズ
波長 1µm  
視野角 0 理論上、完全な性能が得られる角度

 

Shaded_model

図 1: チェビシェフ多項式面で作成した軸外し放物面鏡のシェーデッド モデル レイアウト

面 2 の座標ブレークで面を Y 方向に 60 mm シフトします。面 3 にチェビシェフ多項式面を使用します。焦点距離を 500 mm に設定する必要があるため、この面の厚みを -500 mm に設定します。反射性の面を作成するために材料タイプを「MIRROR」に設定します。

lens data editor

図 2: レンズ データ エディタに記述したチェビシェフ多項式面 (行番号 3)

図 3 に面 3 のプロパティ ウィンドウを示します。チェビシェフ多項式面のアパチャーを 50 x 50 mm に設定して -60 mm のディセンタを適用します。この正方形ミラーの全体が収まるように、光学系の入射瞳径 (図示していません) を 71 mm に設定します。

Surface_3_Properties

図 3: 面 3 のプロパティ ウィンドウ : ミラーの正方形状とディセンタしたアパチャーを定義

チェビシェフ多項式面の係数 C(2,0) は多項式 T2(x) T0(y) に対応し、値は 2x2-1 です。また、係数 C(0,2) は多項式 T0(x) T2(y) に対応し、値は 2y2-1 です。C(2,0) と C(0,2) の値が等しいと、従来の回転対称の放物面が得られます。チェビシェフ多項式面の基準球の曲率をゼロに設定しているので (図 2 参照)、面の曲率を全面的に C(2,0) と C(0,2) の項で指定できるようになっています。

したがって、この場合のチェビシェフ多項式面の最大項は 2 次です。設定を図 4 に示します。図 4 には X および Y 方向の正規化距離も表示されています。ここでは、どちらも 85 mm に設定しています。これは、ディセンタ距離にミラーの半幅を加算した値、つまり「親」放物面の半径です。

lens data editor_2

図 4: X 方向と Y 方向の正規化長さを 85 mm、X および Y の最大次数を 2 に設定

放物面を作成するには、C(2,0) 面と C(0,2) 面を変数に設定します (図 5)。係数の推定値として -0.0001 を入力しています。シェーデッド モデル プロット (図 6) を見ると、指定した像面に焦点を結ぶには、この値が正しくないことがわかります。

lens data editor_3

図 5: チェビシェフ多項式面を使用して放物面を作成するには、係数 C(2,0) および C(0,2) を指定する必要があります。これら 2 つの値が等しいと、従来の回転対称の放物面が得られます。

Shaded Model plot

図 6: 目的の像面に焦点を結ぶための正しいチェビシェフ多項式係数がまだ得られていない状態のシェーデッド モデル プロット

正方形ミラーのアパチャーに適切な設定を選択していれば、デフォルト評価関数で光学系を最適化できます。簡単な方法として REAY オペランドを追加します。放物面を Y 座標方向に正しく定義すれば、主光線が像面の y=0 に到達することになるからです。評価関数の設定と、得られる評価関数を図 7 および図 8 に示します。

最適化が完了すると、図 9 および図 10 に示すとおり、想定どおりの軸外し放物面鏡が得られました。係数 C(2,0) および C(0,2) の正しい値は、-2.5e-4 です。スポット ダイアグラムは予想どおりの完璧な性能を示しています。

Setup of the default merit function

図 7: 光学系のデフォルト評価関数の設定

merit_function

図 8: 光学系の評価関数の最初の数行

Chebyshev Polynomial surface

図 9: 最適化ルーチンによって得られたチェビシェフ多項式面の C(2,0) および C(0,2) の正しい値

3D_layout

図 10: 軸外し放物面鏡に想定されたとおりの特性を示す 3D レイアウトとスポット ダイアグラム

必要な自由曲面の選択

レンズ データ エディタには、適切な面を迅速に探し出すことができるフィルタリング機能があります。OpticStudio でどのような自由曲面タイプを使用できるかを調べる場合は、[フリーフォーム] (Freeform) ラジオ ボタンを選択すると、このグループに属する 20 以上の面が表示されます。偶数次非球面または Q タイプ非球面が適した用途では、[従来型] (Conventional) 面を選択すると、広く使用されている面タイプが表示されます。

surface types

すべての自由曲面のリストには、多項式記述による面、多項式に基づく回折面、制御点にフィッティングされた面などが列挙されています。

多項式による自由曲面

  • バイコーニック ゼルニケ
  • チェビシェフ多項式
  • シリンダ状フレネル
  • 拡張フレネル
  • 一般化フレネル
  • 奇数次非球面および拡張奇数次非球面
  • 多項式および拡張多項式
  • スーパーコーニック
  • ゼルニケ環状標準サグ
  • ゼルニケ フリンジ サグ
  • ゼルニケ標準サグ

回折自由曲面

  • 楕円グレーティング 1 および楕円グレーティング 2
  • トロイダル グレーティングおよび拡張トロイダル グレーティング

制御点にフィッティングされた自由曲面

  • 3 次スプラインおよび拡張 3 次スプライン
  • グリッド勾配
  • グリッド サグ
  • 放射状 NURBS
  • トロイダル NURBS

参考文献

1. M. Tricard and D. Bajuk, "Practical Examples of FreeForm Optics," in Renewable Energy and the Environment, OSA Technical Digest (online) (Optical Society of America, 2013), paper FT3B.2. 

KA-01518

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