結合効率の正確な分析は、ファイバー結合システムの設計において重要です。この記事では、商用ファイバ結合について説明します。
Authored By Mark Nicholson, Kristen Norton
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Introduction
シングルモードファイバー結合効率のシミュレーションは、OpticStudioシーケンシャルモードで適切に処理されます。 この記事では、カップリングシステムを設定する方法を示し、シーケンシャル モードで使用できる複数のツールを検証します。近軸ガウスビーム伝搬、シングルモード ファイバー カップリング、物理光学伝搬など、ビームとファイバー カップリングの分析に使用できます。 部分反射と物質吸収による損失の説明も説明します。
この記事で使用した実験データに関して、Suss MicroOptics SA の Dr. Reinhard Voelkel のご厚意に感謝いたします。
初期設計の設定
この記事では、商用ファイバ結合について説明します。このファイバ結合では、SUSS MicroOptics 社製の FC-Q-250 マイクロレンズ アレイを使用して、次のように 2 本の Corning 社製 SMF-28e ファイバを結合します。
製造元提供のデータは次のとおりです。
Single Mode Fiber, Corning SMF-28e 1 | |
Numerical Aperture | 0.14 |
Core Diameter | 8.2 µm |
Mode Field Diameter @ 1.31 µ | 9.2 ± 0.4 µm |
Microlens Array, SUSS MicroOptics SMO399920 2 | |
Substrate material | Fused Silica |
Substrate thickness | 0.9 mm |
Internal Transmission | >0.99 |
Lens Diameter | 240 µm |
Lens Pitch | 250 µm |
Radius of Curvature | 330 µm |
Conic Constant | 0 |
Numerical Aperture | 0.17 |
記事の添付ファイルの「single mode coupler.zmx」は、このシステムの実装方法を示しています。 以下の点に注意してください。
- 物体からレンズまでの距離およびレンズから像までの距離は手動で 0.1 mm に設定されていますが、これはほぼ適切な値です。この数値は、後半の手順で最適化ルーチンによって計算します。
- ピックアップ ソルブを使用して、レンズから像までの最終的な厚みが、物体からレンズまでの当初の厚みと同じ値になるようにします。2 つのレンズと 2 本のファイバはそれぞれ製造公差の範囲内で同等なので、この光学系はどちらの方向の光路でも機能し、対称性があります。
- 2 つのレンズの間隔は、実験的な値として 2 mm に設定されています。この間隔も、後半の手順で厳格な最適化によって計算します。
- システム アパチャーは、最初のレンズの後ろのフェイスで「絞り面半径による定義」を使用して設定します。つまり、システム アパチャーは、レンズの物理アパチャーによって設定します。この光学系を通じて伝搬するファイバ モードは、この物理アパチャーで遮蔽できます。その場合、ファイバ モードは物理アパチャーよりも大幅に小さくなります。
- 「NA (開口数)」という用語には複数の定義があることに注意が必要です。この定義として、マージナル光線角の正弦および強度が 1/e2 に減衰する角度の正弦があり、いずれも、後述する OpticStudio のさまざまな計算で使用されています。また、強度がピークの 1% に減衰する角度の正弦とする定義もあり、Corning 社が採用しています。定義は重要です。
- 光のガウス分布がわかりやすくなるように、アパチャーの定義にガウス アポダイゼーションを適用しています。この時点では、これは概算にすぎません。後半の手順で使用する計算で正確な値になります。
このレンズは、アパチャーの大部分で回折限界にあり、ファイバ モードによって照射される領域全体で回折限界にあります。
近軸ガウス ビームの計算の使用
近軸ガウス ビームの計算は、ファイバ結合の特性を評価するうえで最も簡潔な解析ツールです。光学系の性能を感覚的に把握する際に使用することをお勧めします。
Corning 社のデータシートによると、波長 1.31 µm におけるファイバのモード視野直径は 9.2 ± 0.4 µm です。したがって、次のように近軸ガウス ビームの計算を設定します ([解析] (Analysis) タブ → [ガウス ビーム] (Gaussian Beams) → [近軸ガウス ビーム] (Paraxial Gaussian Beam))。
ビームのウェストは、必ず面 1 を基準として配置します。ここでは物体面と同じ場所になります。したがって、4.6 µm のガウス ウェスト半径は、光源ファイバの位置になります。このビームが光学系を通じて伝搬します。
このことから、強度が 1/e2 になるビーム サイズは面 3 で 65.6 µm、面 4 で 70.0 µm となることがわかります。これらの面の物理半径は、120 µm です。つまり、ビーム幅のおよそ 2 倍を超える位置のエネルギーは遮蔽されます。また、このビームは像面上で最適な焦点を結びません。そのサイズは 5.6 µm であり、対称性の前提に基づく所要値である 4.6 µm より大きくなっています。この対称性を改善するには面 1 の厚みを最適化します (ピックアップ ソルブによって面 5 の厚みも制御されます)。この光学系では、どちらの光路方向で使用しても同じ結合になる必要があるので、面 5 の厚みにはピックアップ ソルブが設定されています。製造公差の範囲で同じファイバとレンズを使用しているので、最適な光学系は対称になることが想定できます。
OpticStudio には、近軸ガウス ビームのサイズを最適化するためのオペランド GBPS があります。このオペランドを使用して、ファイバと結合レンズ間の距離を最適化できます。この光学系は対称な場合に最適に動作することがわかっているので、面 6 で適切なガウシアン ビームのサイズは 4.6 µm になります。したがって、評価関数は 1 行のオペランドによる簡潔なものになります。
[最適化] (Optimize) タブ → [最適化] (Optimize!) に移動してローカル最適化を実行します。
ファイバとレンズ間の距離を最適化すると、その距離の値が 0.117 mm になり、次のガウス ビーム データが得られます。
この手法は、近軸ガウス ビームの解析と同程度に簡潔です。この時点のファイルは「after Gaussian optimization.zmx」として保存されています。
シングルモード ファイバ結合の計算の使用
シングルモード ファイバ結合の計算によって、ガウス形状モードのファイバでより高度な機能が得られます。シングルモード ファイバ結合の計算は、[解析] (Analysis) タブ → [ファイバ結合] (Fiber Coupling) → [シングルモード結合] (Single Mode Coupling) で実行できます。この計算では、エネルギー転送の計算とモード整合の計算が実行されます。光学系の効率 (S) は、光学系を通過して入射瞳で収集されたエネルギーの合計を、光学系のビネッティングと透過 (偏光を使用している場合) を考慮して、光源ファイバから放射された全エネルギーの合計で除算して計算します。これは以下のような式です。
Fs(x,y) は光源ファイバの振幅関数で、分子の積分は光学系の入射瞳のみにわたって計算します。t(x,y) は、光学系の振幅透過率関数です。
[偏光を使用] (Use Polarization) をチェックしている場合、透過は、バルク吸収と光学コーティングの影響を受けます。
光学系に収差があると、ファイバ結合に影響する位相の誤差が発生します。最大結合効率は、受光ファイバに収束する波面のモードが、波面のすべての点でのファイバ モードに、振幅と位相の両面で完全に一致する場合に得られます。これは数学的には、以下のように、ファイバでの振幅と波面での振幅との間で定義した正規化重なり積分です。
ここで、Fr(x,y)は受信ファイバーの複素振幅を表す関数、W(x,y)は光学系の射出瞳からの波面の複素振幅を表す関数、 '記号は複素共役を表します。これらの関数は複素数値であるため、これはコヒーレントオーバーラップ積分です。 Tの最大値は1.0であり、ファイバーの振幅と位相と波面の振幅と位相の間に不一致があると減少します。
OpticStudioは、SとTの積として総電力結合効率を計算します。理論上の最大結合効率も計算されます。この値は、収差を無視することに基づいていますが、すべてのケラレ、透過、およびモード間のその他の振幅の不一致を考慮しています。
この計算では、ソースモードとレシーバーモードは、ガウシアンNAによって定義されます。これは、オブジェクトまたは画像スペースサーフェスの屈折率nに、1 / e2パワーポイントに対する半角の正弦を掛けたものとして定義されます。この角度は、次の2つの方法のいずれかで計算できます。
- モード視野直径を使用してビーム ウェストを定義することにより、ガウス ビーム計算の発散角から求めます (前の例で示した方法です)。
- Corning 社のデータシートにある、パワーが 1% に減衰する位置で定義した開口数から、パワーが 1/e2 に減衰する位置を計算して求めます。
受光ファイバと光源ファイバの両方で適切な開口数は 0.09 であるため、計算を次のように設定します。
これにより、次の結果が得られます。
FICL オペランドを使用して、次の 1 行の評価関数で結合効率を最適化できます。
最適化を 10 サイクル実行すると、ファイバとレンズの厚みは、0.107 mm に変化し (簡潔なガウス計算の後では 0.117 mm でした)、ファイバ結合の結果は次のようになります。
以下に注意ください。
- 光学系の効率は大幅には変化していません。この効率は、面のアパチャーとモードのサイズで設定されますが、これらのサイズは、この程度のわずかなリフォーカスでは大きく変化しないからです。
- 光学系を通じた透過後に、リフォーカスによって光源ファイバ モードと受光ファイバ モードの整合性が向上するため、受光効率は向上します。
- 結合効率の合計は、光学系の効率と受光効率の積です。
この時点のファイルは「after FICL optimization.zmx」として添付のアーカイブに保存されています。
物理光学計算の使用
シングルモード ファイバ結合の計算は、物理光学伝搬 (POP) を使用することによって大幅に拡張できます。
- 任意の複素モードを定義でき、計算はガウス モードに限定されません。
- ファイバ結合の重なり積分は、受光ファイバ モードであることがわかっている任意の面で計算できます。このような面として、ファイバを表す面などがあります。
- ビーム伝搬や時間領域差分法のコードなどの外部プログラムを使用して、ファイバなどのあらゆる組み込み光学素子のモード構造を計算できます。また、.zbf ファイル形式や DLL インターフェイスを利用して、この計算に適切な複素振幅分布として表現できます。この例については、この記事を参照を参照してください。
- アパチャーでのビームの遮蔽や長距離にわたる伝搬によって発生する回折効果を正確にモデル化できます。
POP 計算を設定するには、[解析] (Analysis) タブ → [物理光学] (Physical Optics) に移動し、次の設定を使用します。
[ビーム定義] (Beam Definition) タブで、まず [X サンプリング] (X-Sampling) と [Y サンプリング] (Y-Sampling)、[ウェスト X] (Waist X) と [ウェスト Y] (Waist Y) を入力します。次に、[自動] (Automatic) ボタンをクリックして、データ ポイント間の初期幅を計算します。
これによって、半径ウェスト 4.6 µm のガウス モードが、面 1 で始まり、光学系を伝搬して像面に達するように設定されます。像面では、同じモードで重なり積分を計算します。
[物理光学伝搬] (Physical Optics Propagation) ウィンドウには、ファイバ結合の結果が表示されます。次のスクリーンショットで、プロットの下の強調表示されたテキストを参照してください。POPD 最適化オペランドでは、メリット ファンクション エディタを通じてすべての物理光学データがレポートされます。多くの場合、これはより有益な参照情報となります。詳細については、ヘルプ ファイルで POPD オペランドの説明を参照してください。POPD オペランドでは、POP 解析ウィンドウで保存した設定が使用されます。したがって、この設定をまだ保存していない場合は、ここで保存してください。以下のスクリーン ショットでは、[保存] (Save) ボタンが赤い枠に囲まれています。
ここには、像面における結合ビームの位相の断面が示されています。
放射照度プロファイルはほぼ完全なガウス分布なので (M2 が 1.086)、位相は注目に値する最も有効な特性です。受光モードの位相は、あらゆる場所で正確にゼロになります。したがって、位相によって、不整合の程度が正確にわかります。
位相プロファイルの形状には、2 次項と 4 次項の存在が示されています。これは、焦点や球面収差に相当します。また、レンズのエッジで位相プロファイルが遮蔽されていることもわかります。光学系の効率を見ると、レンズのサイズに起因して 1% 未満のエネルギー損失が発生していることもわかります。
POPD オペランドを評価関数で使用することで、合計ファイバ結合効率、光学系の効率、受光効率、理想的なビーム ウェスト サイズ、実際のビーム サイズ、得られた M2 値などの多数の診断指標を計算できます。メリット ファンクション エディタで POPD を使用して得られた結果のスクリーンショットを以下に示します。
合計ファイバ結合効率のオペランド (POPD Data = 0) で [ターゲット] (Target) と [重み] (Weight) を 1 に設定します。最適化を実行するとわずかな向上が見られます (ここではファイバとレンズとの間隔が唯一の変数です)。
この時点のファイルは「after POP.zmx」として保存されています。ファイバ結合はわずかに向上しますが、ほとんどの位相エラーが発生するのは、エネルギーが少ない場合です。
上記のようなオーバーレイ プロットを作成するには、物理光学伝搬解析のツールバーに移動し、[クローン] (Clone) ボタンをクリックして新たなウィンドウを作成します。このウィンドウで設定を展開し、[表示] (Display) タブに移動します。[データ] (Data) 設定を [放射照度] (Irradiance) に変更します。次に、最初のウィンドウに戻り、解析ツールバーの [アクティブ オーバーレイ] (Active Overlay) ボタンをクリックします。この手順を以下のスクリーンショットに示します。
[アクティブ オーバーレイ] (Active Overlay) ボタンをクリックすると、[オーバーレイ系列] (Overlay Series) ウィンドウが開きます。[使用できる系列] (Available Series) タブと [系列設定] (Series Settings) タブで次の設定を指定して [OK] (OK) をクリックします。
レンズ間の間隔を 20 mm に変更してみます。POP 計算によって結合効率が 0.57 になることが予測できます。これは、2 つのレンズ間の光学空間でガウス モードに回折が発生し、そのサイズが変化するからです。20 mm の伝搬後に、ガウス モードのサイズは、パワーが 1/e2 になる位置での幅で 0.14 mm に増加します。これはレンズの大きさで 0.12 mm に相当します。この結果、第 2 のレンズのアパチャーで大量のエネルギーに回折が発生します。この様子は、第 2 のレンズ位置にあるアパチャーの直前と直後で放射照度を比較したオーバーレイで確認できます。受光ファイバに焦点を結ぶビームは、ガウス ビームから大きくかけ離れ、M2 は 2 より大きくなります。
POP を使用して、この結合を厳格に最適化することもできます。ファイバとレンズ間の距離は最適化済みなので、この値は固定したままにします。この状態で、レンズ間の距離の変数を 20 mm として最適化を数サイクル実行すると、最適なレンズ間隔として 2.15 mm が得られます。このファイルは「after interlens optimization.zmx」として保存されています。ユニバーサル プロットを使用すると、レンズ間隔の変化に応じてファイバ結合効率が変化する感度を確認できます。
[解析] (Analysis) タブ → [ユニバーサル プロット] (Universal Plot) → [1-D] (1-D) → [新規作成] (New) に移動し、次の設定を使用します。
同様に、光源ファイバ モードは受光ファイバまで伝搬するので、レンズ間隔を変更すると M2 ビームの品質パラメータが変化します。
面の透過とバルク吸収の考慮
ここまでのすべての計算では、光学材料の面での反射とバルク吸収の効果を考慮に入れていません。OpticStudio では、どちらも正確にモデル化できます。POP 計算とシングルモード ファイバの計算のどちらでも、解析設定の [偏光を使用] (Use Polarization) を切り替えると、偏光の計算が有効になります。これにより、フレネル反射と体積吸収による損失が考慮されるようになります。
「after POP.zmx」サンプル ファイルを再び開き、[シングルモード ファイバ結合効率計算] (Fiber Coupling analysis) と、[物理光学伝搬] (Physical Optics Propagation) → [全般] (General) 設定の両方で、[偏光を使用] (Use Polarization) をチェックします。この設定を保存します。次に、[システム エクスプローラ] (System Explorer) → [偏光] (Polarization) に移動し、入射偏光を y 方向に線形として定義します。
この結果、POPD と FICL によるファイバ結合計算の結果は約 86% に低下します。メリット ファンクション エディタを表示している場合は、FICL オペランドで [偏光?] (Pol?) フラグを 1 に設定する必要があります。ここで変化が現れるのはモード結合ではなく、光学系の効率 (エネルギーの転送) であることがわかります。偏光の効果は角度の関数であることから、モード形状に効果的な変化が得られるほどの急激な変化は期待できません。なお、極端な光学系では、偏光の効果による有意な変化が見られることもあります。
レンズ データ エディタのツールバーで、[全ての面にコーティングを追加] (Add Coatings to All Surfaces) ボタンをクリックし、すべてのガラス面に AR コーティング (1 層の MgF2) を追加します。
このコーティングを追加すると、POPD 結合効率は約 93% に上昇します。同様に、HEAR1 コーティングを追加すると、さらに効率が 99% に上昇します。
References
1. Corning. 2005. Corning SMF-28e Optical Fiber Product Information. January. http://www.tlc.unipr.it/cucinotta/cfa/datasheet_SMF28e.pdf.
2. SUSS MicroOptics. n.d. Products. https://www.suss-microoptics.com/en/products.
KA-01581
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