点像強度分布関数とは

この記事では、OpticStudioでの点像分布関数のモデル化と解釈について説明します。 使用される分析機能は、スポット ダイアグラム、FFT PSF、およびホイヘンス PSFです。 最も正確な分析のための便利な機能設定と同様に、各ツールの利点について説明します。

著者 Ken Moore

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Introduction

光学系の点像強度分布関数(PSF)とは、物空間に置いた単一の点光源から得られる放射照度の分布です。遠くの星の像を形成する望遠鏡がよい例です。星ははるか遠くにあるため、あらゆる実用的な目的で点光源と見なすことができます。しかし、光源が点であっても像は点にはなりません。その主な理由は 2 つあります。まず、光学系の収差によって像が有限の領域に広がります。次に、収差がまったくない光学系であっても、回折の効果によって像が広がります。

OpticStudio には基本的な PSF の計算方法として、回折を考慮しない幾何光学スポット ダイアグラム、回折に基づく FFT PSF およびホイヘンス PSF の 3 種類があります。この記事では、基本的な理論を解説するとともに、PSF の各種類を適切に使用するためのいくつかの手引きを示します。

スポット ダイアグラム : 幾何光学 PSF

OpticStudio の最も基本的な解析機能としてスポット ダイアグラムがあります。この機能は、物空間に置いた単一の点光源から多くの光線を発射し、そのすべてを光学系を通して追跡して、それらの光線が占める (x, y) 座標を何らかの共通基準に対してプロットします。スポット ダイアグラムは幾何光学的なPSFです。

ここで例として使用する光学系は、焦点距離 50 mm、F/5 とした 1 枚の放物面鏡です。物体は無限遠位置にあります。この光学系は、簡素化したニュートン反射望遠鏡であり、サンプル ファイルは PSF_Newtonian.ZMX です。下図に、この光学系を示します。


The sample optical system

 

下図は、2 つの視野点でのスポット ダイアグラムです。一方は軸上の視野点、もう一方は 2 度の視野点で測定しています。

The Spot Diagram for two field points

 

スポット ダイアグラムは点の集合であり、各点は 1 本の光線に対応しています。光線どうしには何の相互作用も干渉もありません。スポット ダイアグラムは、この望遠鏡に発生する幾何光学的な効果である光線収差を表示するうえできわめて効果的です。軸外の幾何光学 PSF では、この光学系のコマと非点収差をはっきりと確認できます。一方で、軸上のスポット ダイアグラムからは、軸上で完璧な像が得られることが予測できます。この事実が光学系の性能を正確に表しているかどうかを考えてみます。

スポット ダイアグラムの結果に対するこの疑問に答えるには、スポット分布を回折限界応答と比較する必要があります。幾何光学的収差を回折限界と比較する簡単な方法は、スポット ダイアグラムにエアリー ディスクの基準楕円を追加することです。
 

Show Airy Disk

 

設定ダイアログ ボックスを開き、次のように [スケールの表示] (Show Scale) を [エアリー ディスクを表示] (Airy Disk) に変更します。

The Spot Diagram indicating the size of the Airy Disk relative to the geometric spot distribution

 

この設定により、スポット ダイアグラムには幾何光学的なスポット分布上にエアリー ディスクの大きさが表示されます。軸上では、スポットがエアリー ディスクよりはるかに小さいことに対し、軸外では著しく大きくなっています。これは、スポット ダイアグラムが軸外の性能に対してのみ有効で妥当な指標となることを意味しています。軸上および軸外の両方でより正確な PSF を計算するには、回折を考慮する必要があります。

一般的に、光学系の回折限界性能に比べて収差が大きい場合にスポット ダイアグラムが効果的です。

 

FFT PSF

高速フーリエ変換 (FFT) アルゴリズムは、多くの電気系および光学系の周波数解析に広く応用されてきました。概念上、FFT は空間分布を周波数領域の分布に分解します。フーリエ光学については、この記事の末尾に示した参考文献 [1] に優れた説明があります。また、OpticStudio のマニュアル (参考文献 [2]) の「[物理光学伝搬] (Physical Optics Propagation)」の章にも回折理論の要約があります。いずれの参考文献も、フレネルおよびフラウンホーファーの回折理論について説明しています。

ほとんどの結像光学系は、FFT PSF アルゴリズムで使用するフラウンホーファー回折理論に必要な簡素化の前提条件を満たしています。主な前提は次のとおりです。

  • F/# が十分大きく、スカラー回折理論を適用できる。
  • 回折 PSF のエネルギーの大部分が存在する領域が、光学系の射出瞳から像面までの距離に比べて小さい。
  • 射出瞳が入射瞳に対して著しく歪んでいない。これは、入射瞳上の均一な光線分布が射出瞳でも十分に維持されていることを意味します。
  • PSF を正確にモデル化するうえで十分な数のサンプリングが設定されている。
  • 像面への主光線の入射が垂直入射に近い。

 
光学系の FFT PSF は次のように計算します。光線のグリッドを点光源から射出瞳まで追跡します。光線ごとに、振幅と光路差を使用して、射出瞳の位置で波面グリッド上の点に発生する複素振幅を計算します。このグリッドの FFT を適切にスケーリングしてから 2 乗し、PSF の実数値を求めます。多色性の計算の場合は、各波長の PSF をインコヒーレントに加算します。

シーケンシャル光学系の FFT PSF を計算する場合は、Zemax のメイン メニューから [解析] (Analysis) → [PSF] (PSF) → [FFT PSF] (FFT PSF) を選択します。下図は、ここで取り上げているニュートン反射望遠鏡のファイルの軸上視野点に対する FFT PSF の例です。設定はデフォルトから変更されています。これについては、後述します。

A sample FFT PSF for the on-axis field point of the Newtonian telescope sample file

 

よく知られたエアリー ディスク形状を確認できます。これは、軸上視野点では収差が発生していないニュートン反射望遠鏡では予想どおりの結果です。上の図を表示するには、FFT PSF の設定ダイアログを次のように設定する必要があります。
 

FFT PSF settings dialog

 

[サンプリング] (Sampling) は、入射瞳まで追跡する光線のグリッド数を表します。Zemax 内部ではグリッドのサイズが 2 倍になり、入射瞳の外側の領域には値 0 のデータが入力されます。この処理により、出力 PSF のグリッド数は必ずサンプリング グリッドの 2 倍になります。収差が十分小さい場合、評価対象の領域はプロットの中心部に集中します。振幅がゼロに近い点もすべてプロットする代わりに、表示グリッドを選択して、計算した全グリッドよりも小さい領域を表示できます。

基本となる同じ PSF データをさまざまな方法で表示できます。下図の設定で試してみます。

Settings

 

[ディスプレイ] (Display) を 128 x 128、[視野] (Field) を 2、[タイプ] (Type) を [対数] (Logarithmic)、[表示方法] (Show As) を [疑似カラー] に設定しています。この結果、以下の PSF が得られます。
 

the resulting PSF

 

ホイヘンス PSF

概念的には、スポット ダイアグラム上の各光線を小さい平面波に変換することでホイヘンス PSF を計算できます。光線とは小さな平面波をモデル化したものであり、等方性媒質中の光線は局所的にはこれらの波面に直交しています。平面波には、その生成元である光線に関連するデータで決まる振幅、位相、方向があります。像面上の任意の点における全放射照度は、追跡したすべての各光線に対応する平面波をすべてコヒーレントに合計することで求めることができます。回折に基づく PSF は、すべての光線にわたるこの積分演算で直接求められます。

OpticStudioの回折解析のほとんどがスカラー回折理論の適用 (F/# が過度に小さくないこと) を前提としていますが、ホイヘンス法では、[偏光を使用] (Use Polarization) のスイッチを有効にすることで、電界のベクトル的特性を考慮できます。ホイヘンス法に基づくすべての解析では、完全な偏光ベクトルおよび偏光位相収差が考慮されます。これらの計算では、偏光電界の Ex 成分、Ey 成分、Ez 成分のそれぞれのデータを個別に計算し、その結果をインコヒーレントに加算します。電界の各直交成分に発生する偏光位相収差は、他の位相収差と同様に考慮されます。

ホイヘンス PSF の計算に必要な簡素化の前提は、ほぼすべての結像光学系で成り立ちます。その前提は次のとおりです。

  • PSF を正確にモデル化するうえで十分な数のサンプリングが設定されている。

ホイヘンス PSF では FFT を使用しません。そのため、ホイヘンス PSF は一般的に FFT PSF よりも低速ですが、FFT PSF の前提が当てはまらない条件では、より正確な結果が得られます。FFT PSF の前提が成立するかどうかが疑わしく、ホイヘンス PSF を使用する必要がある状況として次のものが考えられます。ホイヘンス PSF では FFT を使用しません。そのため、ホイヘンス PSF は一般的に FFT PSF よりも低速ですが、FFT PSF の前提が当てはまらない条件では、より正確な結果が得られます。FFT PSF の前提が成立するかどうかが疑わしく、ホイヘンス PSF を使用する必要がある状況として次のものが考えられます。
 

  • 像面が主光線に対して著しくティルトしている。
  • 射出瞳が入射瞳に対して著しく歪んでいる。

光学系のホイヘンス PSF は次のように計算します。光線のグリッドを点光源から像面まで追跡します。これらの光線ごとに、振幅、座標、方向余弦、光路差を使用し、像空間グリッドの各点に入射する平面波の複素振幅を計算します。像空間グリッドの各点ですべての光線をコヒーレントに合計します。得られた複素振幅の総和の 2 乗が像空間グリッドの各点における強度になります。多色性の計算の場合は、各波長の PSF をインコヒーレントに加算します。

シーケンシャル光学系のホイヘンス PSF を計算する場合は、OpticStudio のメイン メニューから [解析] (Analysis) → [PSF] (PSF) → [ホイヘンス PSF] (Huygens PSF) を選択します。ホイヘンス PSF はノンシーケンシャル コンポーネント (NSC) 光学系でも計算できます。これについては、この後解説します。NSC 光学系では FFT PSF を計算できません。

ホイヘンス PSF でユーザーが定義できる主なパラメータは、瞳サンプリング、像のサンプリング、像のデルタです。これらのパラメータは、ホイヘンス PSF の設定ダイアログで設定できます。その設定ダイアログ ボックスを開いてデフォルト設定を次のように変更します。

 

Huygens PSF settings dialog

 

[像のデルタ] (Image Delta) は、像グリッド上の点の間隔を µm の単位で表した値です。PSF の計算対象となる領域全体のサイズは、像のデルタと像のサンプリングの積になります。

下図は、先ほどと同じニュートン反射望遠鏡の軸上視野点におけるホイヘンス PSF です。
 

Huygens PSF for the same Newtonian telescope on axis

 

下図は、軸外 ([視野] (Field) を 2 に変更) のホイヘンス PSF です。

Huygens PSF for the same Newtonian telescope off axis

 

光線数と像の点数が多いほど、得られる PSF の解像度と精度は高くなりますが、計算に要する時間は長くなります。

 

ホイヘンス積分の視覚化

この積分の過程を視覚化する手段として、1 本の光線をコヒーレントに加算するたびにその効果を確認する方法があります。そのためには、OpticStudio のノンシーケンシャル コンポーネント機能に用意されているコヒーレント ディテクタを使用します。ここで使用するサンプル ファイルは HPSF_Integration.ZMX です。この記事の末尾からダウンロードできる ZIP ファイルに収録されています。
 

3D layout

 

このファイルは、楕円光源、シングレット レンズ、ディテクタ (矩形) オブジェクトで構成されています。この光源は、円形の領域にランダムな光線を発生します。光線は、すべてローカル Z 軸に平行に射出されます。この光源は、平行光線の光源または遠方の点光源をモデル化します。描画光線数は 20 に設定しますが、解析光線数は 1 に設定します。解析光線数を 1 に設定することで、光線を 1 本ずつ追跡できます (方法は後述)。レンズは単純なシングレットで、平行光線がディテクタ上に適切に焦点を結ぶように配置します。ディテクタは、120 x 120 ピクセルの吸収性として定義します。

ディテクタ オブジェクトのパラメータ 11 である [PSF 波長番号] (PSF Wave #) を 1 に設定します。
 

detector object Parameter 11, the PSF Wave is set to 1

 

この特殊なモードに設定すると、コヒーレントなホイヘンス PSF 積分をディテクタで実行できるようになります。ディテクタに到達するすべての光線が、ディテクタ上のすべてのピクセルを照らすローカルな平面波に変換されます。次に、すべてのピクセルのそれぞれで、この平面波のコヒーレントな振幅が、そのピクセルでこれまでに検出されてきたコヒーレントな振幅に加算されます。この演算により、必要に応じて光線を一度に 1 本ずつ追跡し、個々の光線の加算による効果を確認できます。
 

一度に光線を 1 本ずつ積分する方法

この積分の過程を表示するには、サンプル ファイルの HPSF_Integration を開き、[解析] (Analysis) → [ディテクタ] (Detector) → [光線追跡コントロール] (Ray Trace Control)/[ディテクタ コントロール] (Detector Control) を選択します。[ディテクタ コントロール] (Detector Control) の [自動更新] (Auto Update) を選択します。続いて [光線追跡の実行] (Trace) をクリックします。光源で定義している解析光線は 1 本のみなので、1 本のランダムな光線が追跡され、ディテクタが更新されます。[ディテクタのクリア] (Clear Detectors) をクリックせずに、再度 [光線追跡の実行] (Trace) をクリックして、2 本目の光線を追跡します。これによって、追跡した 2 本の光線が、互いに一定の角度を成す 2 つの平面波のようにコヒーレントに干渉し、ディテクタ上に干渉縞が現れます。これらの光線はランダムであることから干渉縞のパターンは毎回異なり、下図とまったく同じ干渉縞が得られることはありません。

Detector Viewer

 

[光線追跡の実行] (Trace) をクリックするたびに、それまでの合計にさらに 1 本の光線が加算されます。光線を 10 本追跡した時点から回折 PSF が現れはじめます。
 

Detector Viewer2

 

およそ 40 本追跡すると、エアリー リングのような特徴的なパターンの形成を確認できるようになります。


Detector Viewer3

 

PSF が妥当な最終の値に収束するには、数百本の光線を追跡する必要があります。
 

多数の光線を一度に追跡する方法

積分がどのように実行されているかを視覚化する目的がなければ、光線を 1 本ずつ追跡する理由はありません。多数の光線を一度に追跡するには、[ディテクタ コントロール] (Detector Control) を閉じ、NSC エディタで光源の解析光線数を 1 から 500 に変更します。

 

Non-Sequential Component Editor

 

再度、[ディテクタ コントロール] (Detector Control) を開き、[ディテクタのクリア] (Clear Detectors) をクリックしてから [光線追跡の実行] (Trace) をクリックします。これによって、500 本の光線が一度に追跡され、得られた PSF がディテクタ ビューア ウィンドウに表示されます。
 

Detector Viewer4

 

光線はランダムに選択されていますが、今回の例のレンズは回折限界にあるので、PSF は適切なエアリー パターンに収束します。

 

スポット ダイアグラム、FFT PSF、ホイヘンス PSF の使い分け

次の場合はスポット ダイアグラムを使用します。

  • 回折の効果に比べて幾何光学収差が大きい。これは、スポット ダイアグラムで [エアリー ディスクを表示] (Airy Disk) のスケール表示オプションを選択することで確認できます。

次の場合は FFT PSF を使用します。

  • 像面の法線に対して主光線が成す角度が小さい。
  • 射出瞳が入射瞳に対して著しく歪んでいない。
  • 絶対的な精度よりも計算速度の方が重要である。

次の場合はホイヘンス PSF を使用します。

  • 最大限の精度が必要である。

 

 

References

1. Goodman, Joseph W., Introduction to Fourier Optics, McGraw Hill
2. OpticStudio Help System Zemax LLC, Kirkland, Washington, United States

KA-01589

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