ノンシーケンシャル モードで作業する場合、照明光学系の正確なシミュレーションを構築するためには、多くの場合、光源を正しくモデル化することから始まります。 OpticStudioは、正確な光源モデルを生成するいくつかの方法を提供します。 この記事では、ソースラジアル、ソースファイルを使用して、および他のソースオブジェクトの周りに複雑なジオメトリを構築することにより、ノンシーケンシャル モードでLEDまたは他の複雑なソースをモデル化する方法について説明します。
著者 Mark Nicholson
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Introduction
Zemax, LLC は、この記事で使用した実験データに関し、Radiant Imaging 社、Opsira 社、および Lumileds 社に謝意を表します。Luxeon は Lumileds, Inc. の商標です。
光源の正確なモデル化は、照明光学系の正確なモデル化の要点です。OpticStudio では光線に対して分割、散乱、回折、屈折、反射などの操作が可能ですが、この記事では、それら操作の着手点となる光束の送出方法について説明します。光源を発した光束の空間分布と角度分布を正確に表現できるような送出方法を検討します。この記事では、Luxeon LED のモデル化について説明しますが、この設計手法は、アークランプや白熱灯などの複雑な光源でも使用できます。
LED などの複雑な光源のモデル化
OpticStudio には、光源の特性の初期近似として使用できる光源オブジェクトが数多く用意されています。たとえば、source_filament は白熱電球の良好な最初の近似であり、source_volume_cylinder は蛍光管のモデル化で効果的です。この記事の手法の要点は、空間 (近視野) 分布と角度 (遠視野) 分布の両方で、実験による実測データに可能な限り近い解析データが得られるようにすることにあります。
モデル化する LED は測光単位で仕様化されているので、このシミュレーションでも測光単位を使用します。[システムエクスプローラ] () → [単位] (Units) で、次のように設定します。
この結果、照度の単位はルクス (Lumens/m2)、 光度の単位はカンデラ (Lumens/steradian)、放射輝度の単位はカンデラ/m2 になります。
Source_Radial の使用
source_radial は、製造元のデータシートからデータを入力するうえで最も簡単な方法です。ここでは、Luxeon Emitter Red (LXHL-BD01) の製品データシートに記載されている光度を例として取り上げます。角度プロファイルの特性が「コウモリの翼」に似た形状であることが明確にわかります。
添付されている zip ファイル (この記事の最後のページからダウンロードできます) にファイル radial_source.zmx が収められています。このファイルは、source_radial と detector という 2 つのオブジェクトを格納しています。source_radial は、用意されているデータで指定された角度分布で光線を放出する、平面形状、矩形、または楕円形のオブジェクトです。
source_radial では、その角度データを変数として扱うことができるので、所定の用途に望ましい角度性能を見いだす最適化が可能です。この記事ではこの機能を使用しません。実験データが意味していることをできるだけ十分に説明することを目的としているからです。設計が初期段階にあり、どのような分布が必要であるかを把握する場合は、この機能がきわめて効果的です。
製造元のデータシートには、光源の直径が 6 mm で、標準出力が 27 ルーメンであることが記載されています。このデータは source_radial にも追加されています。30 本の描画光線と 1,000 万本の解析光線を使用すると、以下の結果が得られます (描画光線はレイアウトにのみ使用され、解析光線数は詳細な計算に使用されます)。
データをより詳細に見ると、光源の空間性能と角度性能を確認できます。
空間データ
(照度、ルクス単位)
角度データ
(光度、カンデラ単位)
計算された光度と製造元のデータシートはきわめて良好に一致していますが、LED の照度 (LED の空間構造) に関するデータは製造元から提供されていません。このため、Zemax では、光源が 3 mm の半径アパチャー全体にわたって均一な明るさを保持していると仮定しています。適切なデータがない場合、これ以上できることはありません。シミュレーションの品質向上を図るには、角度データと空間データの両方が必要です。これらのデータは、光源放射輝度または光源輝度と呼ばれます。
Radiant Imaging 社製 Source Model の使用
Radiant Imaging 社 (www.radiantimaging.com)(英語) では、線形性に優れた低ノイズのカメラを使用して、光源の校正済み 16 ビット写真を撮影し、それらをデータベースと関連付けることによって、光源の放射輝度 (または輝度) を測定しています。
同社の ProSource ソフトウェアでは、このデータをさまざまな方法で表示し、光源の全放射 (角度分布と空間分布) を表す光線を生成できます。
ProSource のデモ バージョンは、Radiant Imaging 社のウェブサイトからダウンロードできます。この記事では、Luxeon 社製の LXLH-BD01 LED をモデル化します。この作業では、ProSource の完全ライセンス版と特定の光源モデルのライセンスが必要です。このことから、ここで生成するデータ ファイルは、この記事のダウンロードに収録されていません。
Radiant Sources を使用する際の主な利点は、完全な実測データが用意されているので、反射、散乱、全反射による効果を確認できることにあります。ここでは、例として、点灯していない LED と点灯している LED の写真を示します。
これは、光源の構造に起因する詳しい光学的効果を示しています。たとえば、接点電極が反射リングを部分的に遮蔽していること、発光面上に十字パターンが重なっていることが挙げられます。多数の写真がさまざまな角度で撮影されているので、それらを使用して光源の放射輝度 (または輝度) のモデルを計算できます。Radiant Imaging 社の ProSource プログラムを使用することで、光源の詳細な性能特性を確認できます。ここでは、LED の中心を通る x 軸方向の断面で見た光度を例として示します。
LED の製造元が提供しているデータと比較すると、このデータがはるかに詳細であることが明らかです。ProSource では、このデータを source_file としてエクスポートできます。これは、OpticStudio で追跡できる光線のテーブルです。
- 1,000 万本の光線を生成します
- 2πステラジアンの範囲で光線を生成します。
- 重要度の重み付けを指定して、明るい領域で多くの光線が生成されるようにします。
- LED の半径アパチャーは 3 mm なので、最初は半径 3 mm の球面上に光線が生成されるようにします。
光線ファイルは、拡張子を .dat として {Zemaxroot}\object フォルダに保存しておく必要があります。このデータファイルを使用するには、source_radial を source_file に変更し、Radiant_Source.dat を開きます。
レイアウト プロットでランダム光線を確認するには、[システム] (System) → [全般] (General) → [ノンシーケンシャル] (Non-Sequential) でランダム光線数のコントロールを 1e+8 に設定します。
このファイルには 500 MB 以上の空きメモリが必要です。光線を追跡すると、光源の空間性能と角度性能として以下の結果が得られます。
このデータ ファイルには、空間領域と角度領域の両方できわめて詳しいデータが記述されています。空間性能に関する結果から、この光源の「コウモリの翼」形状の構造が明らかです。角度データのみでは、このような構造を予測できません。角度データからも、製造元のデータシートにある簡単な曲線よりはるかに詳しい構造が見て取れます。OpticStudio による光線追跡の結果には、副次的な構造が忠実に再現されることがわかります。
これらの光線を逆方向に追跡します。
仮想的な像面上で次の空間分布が得られます。
注意 : これは写真ではありません。OpticStudio で得られた光線追跡シミュレーションの結果です。放射輝度の実測データを使用すると、光源をきわめて正確にモデル化できます。
Opsira 社製 Luca Raymaker の使用
Opsira 社 (www.opsira.de) (英語)は、Luca Raymaker ソフトウェアで上記と同様の機能を提供しています。このソフトウェアは、角度計の測定値から光線セットを生成します。光線の生成は次のように実行されます。
生成されるファイルはバイナリの .dat です。このファイルは source_file オブジェクトとして Zemax に読み込まれ、前のページで説明した Radiant Sources の場合と同様に追跡されます。
複雑な幾何光学モデルの構築
最後に、複雑な幾何光学光源モデルを作成する方法について説明します。これは光源の「小型モデル」であり、Zemax に付属する幾何光学光源と、光源の内部構造の表現を目的とした他のオブジェクト群を使用します。たとえば、{Zemaxroot}\samples\non-sequential\sources\led_model.zmx ファイルを取り上げます。
このオブジェクトは、小さな内部オブジェクトの集合で構成されています。
これらのオブジェクトで、LED のダイ、電極線、取り付けポイントなどを表現できます。さまざまなオブジェクトのフェイスに詳細な光学特性を適用したうえで、多くの光線を追跡できます。
これらの光源モデルで光線追跡を直接実行できるほか、生成した光線を光線データベースに保存しておくこともできます。
光線データベース ビューア ([解析] (Analysis) → [データベース] (Database) → [光線データベース ビューア] (Ray Database Viewer)) では、テスト オブジェクトを選択し、そのオブジェクトに到達したすべての光線を新しい光源オブジェクトとして保存できます。source_file オブジェクトを使用して、この新しいデータファイルを読み取ることができます。
複雑な幾何光学モデルには大きな問題が 1 つあります。どのような値を入力するかを把握しておく必要があるということです。たとえば、電極線にどのような散乱関数を使用するかを考えます。この場合は、支持構造の反射率がわかっている必要があります。この種のデータの入手は容易ではありません。最後に、複雑なモデルは、実験上の実測値との照合を通じて検証する必要があります。これは、最初から実験データを使用すればいいのではないか、という疑問に通じます。
一般論として、実験データの方が正確であり、扱いも容易です。
しかし、光学系によっては、複雑で良質な光源を構築する手間をかける価値があることが考えられます。光源からの光によって光源上に像が再結像される場合に、この点が特に顕著です。
以下のように、複雑なオブジェクトを定義すると同時に、当初は実測の光源ファイルから光線が発するようにすることで、両方の手法の長所を生かすこともできます。
この図は Radiant Imaging 社に著作権があり、同社の許可を得て掲載しています。
KA-01590
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