シーケンシャル/ノンシーケンシャル混合光学系のモデル化方法

この記事では、OpticStudio で混合モードの光学系をモデル化する手順を概説します。混合モードとは、シーケンシャル面とノンシーケンシャル オブジェクトの両方を同じレンズ ファイルで使用するモードです。以下の項目を詳しく取り上げます。

  • 総合的にはシーケンシャルな設計に、ノンシーケンシャル グループを挿入/作成する方法
  • 入射ポートおよび射出ポートの位置、形状、サイズの定義
  • よく見られる間違いと考慮事項

著者 Dan Hill

序論

OpticStudio は、2 種類の光線追跡モード (シーケンシャル モードとノンシーケンシャル モード) をサポートしていますが、これら 2 つのモードを組み合わせる必要があることが珍しくありません。これら 2 つの光線追跡方法の両方を使用する設計を、「混合モード」光学系、「ハイブリッド」光学系、「ポートを備えたノンシーケンシャル光線追跡」、シーケンシャル/ノンシーケンシャル混合モードなどと呼ぶことがよくあります

混合モードシステムは、ノンシーケンシャル モード オブジェクト(別名 NSC グループ)を含むシーケンシャル モード システムです。このようなシステムで光線追跡を実行するには、NSC グループの開始と終了を定義するために、入射と射出 ポートを使用する必要があります。

混合モードのレイアウト

混合モードシステムの例としては、1つまたは2つの従来のレンズを通したシーケンシャルな光線経路をたどる光線で表現される点または拡張された面の物体があり、次に像面を照らす前にプリズムまたはライトパイプを通したノンシーケンシャルモードな経路をたどる光線で表現されるかもしれません。以下に、混合モード設計における光線の進行を示します。下図は、混合モード設計の中を伝搬する光線を示したものです。平行光線に調整したビームが入射ポートを通過し、30-60-90 プリズムで数回全反射します。この平行ビームは射出ポートから射出し、ここからシーケンシャル光線追跡が再開されます。ビームは等凸レンズによって焦点を結びます。

この光線追跡方法ではポートを使用する必要があります。このポートは、NSC グループに光線が入射するための入射ポートおよび NSC グループから光線が射出するための射出ポートです。入射ポートと射出ポートは、混合モード光学系を構築する際に不可欠な要素であり、以降で詳しく解説します。ポートを使用すると、物体面上に定義した視野位置から光線が出発します。
NSC グループに入射する光線の特性は、 OpticStudio で通常のシーケンシャル光学系に対して設定するすべてのデータで決まります。このようなデータとして、視野位置や瞳サイズがあります。

ここからは、OpticStudio で混合モード光学系を構築する場合の基本的な手順を見ていきます。

NSC グループの挿入 - 入射ポート

光線は入射ポートを通してのみ NSC グループの中へ伝搬できます。NSC グループを定義するには、まず LDE 上の目的の位置にノンシーケンシャル コンポーネント面を挿入します。選択した面の [面のプロパティ] (Surface Properties) ダイアログで [面タイプ] (Surface Type) を変更するだけで、このような面を挿入できます。

NSC グループの入射ポートの位置、サイズ、形状は、LDE でノンシーケンシャル コンポーネント (NSC) 面に記述します。入射ポートは、必要に応じて平坦面、球面、コーニック非球面などにすることができます。コーニック非球面は、NSC 面の [曲率半径] (Radius) [コーニック] (Conic) のパラメータで指定します。入射ポート (NSC 面) の頂点位置は、LDE の中でその前にある面で決まります。この位置は、シーケンシャル光学系で使用している通常のローカル座標系で表します。

NSC 面には面アパチャーも定義できます。アパチャーに定義したサイズの外側に達した光線に対しては光線追跡がそこで終了します。
アパチャーを設定した入射ポートを通過した光線を、NSC グループに定義したオブジェクトを通じてノンシーケンシャルに追跡します (詳細は後述)。

NSC 面のパラメータ - 射出ポート

NSC 面には、合計 9 つのパラメータがあります。そのほとんどを使用して、入射ポートを基準とした射出ポートの位置を定義します。

上記のように、これらのパラメータは

  • [ポートを描画?] (Draw Ports?) : 描画目的のみに使用するフラグです。レイアウト プロットに入射ポートと射出ポートを表示できると便利な場合があります。入射ポートと射出ポートのどちらも描画しない場合は「0」を指定します。入射ポートのみ描画する場合は 1、射出ポートのみ描画する場合は 2、両方とも描画する場合は 3 を指定します。デフォルト値は 3 です。
  • [射出位置 X] (Exit Loc X)、[射出位置 Y] (Exit Loc Y)、[射出位置 Z] (Exit Loc Z)、[射出ティルト X] (Exit Tilt X)、[射出ティルト Y] (Exit Tilt Y)、[射出ティルト Z] (Exit Tilt Z) : これらのパラメータは、射出ポート面の x、y、z 位置とティルトを、入射ポートの位置とティルトを基準として指定します。たとえば、[射出位置 Z] (Exit Loc Z) のみに 10 を指定すると (その他の位置およびティルトのパラメータはすべて 0)、NSC 面 (入射ポート) からローカル z 軸上に 10 レンズ ユニット離れた位置に射出ポートが配置されます。

OpticStudio では、デフォルトの [射出位置 Z] (Exit Loc Z) の値として 1 を使用します。これによって、入射ポートからゼロではない適当な距離離れた位置に射出ポートが配置されます。両方のポートを同じ位置に配置すると、入射ポートに到達した光線はただちに射出ポートから射出し、グループで定義したオブジェクトとの間には何の相互作用も発生しません。

  • [順番] (Order) : ティルトとディセンタを実行する順序を指定するフラグです。座標ブレークの [順番] (Order) フラグと同じ機能を提供します。詳細は、ナレッジベースの記事「シーケンシャル光学部品にティルトとディセンタを適用する方法」を参照してください。
  • [光線を反転] (Reverse Rays) : 射出ポートから射出する光線の伝搬方向を指定するフラグです。このフラグに 0 を指定すると、このノンシーケンシャル グループが屈折レンズのように機能すると見なされます。つまり、入射ポートの前と射出ポートの後で光線の伝搬方向が変化しないようにするには、このフラグを 0 に設定する必要があります。一方、入射時の方向とは逆の方向に光線が伝搬するようにするには、このフラグを 1 に設定する必要があります。

NSC 面を基準とした射出ポートの位置は、その NSC 面自体のパラメータで定義するので、LDE で NSC 面の次に記述した面の位置が射出ポートの位置になります射出ポートのサイズや形状は、この面で定義します。射出ポートの半径はユーザー側で定義する必要があります。自動的には計算されません。

射出ポート面に円形以外の形状が必要な場合、アパチャーを配置します。光線が射出ポートに到達すると、光線の座標と方向余弦が射出ポートの座標系で計算され、NSC グループ以降に LDE で定義されている残りの面を通して光線がシーケンシャルに追跡されます。以降の面に別のノンシーケンシャル コンポーネント面がある場合、そのグループに定義したコンポーネントに対して、上記のプロセスが再度始まります。つまり、それぞれに入射ポートと射出ポートを定義した複数の NSC グループを定義できます。

各 NSC グループでのオブジェクトの定義

ここまで、ノンシーケンシャル コンポーネント グループの入射ポートと射出ポートの定義方法を説明してきました。次に、ノンシーケンシャル オブジェクト自体の扱い方を考えます。これらのオブジェクトを、どこでどのように定義するかを見ていきます。

ノンシーケンシャル グループの中に置くオブジェクトは、専用のエディタであるノンシーケンシャル コンポーネント エディタ (NSCE) で定義します。このエディタには、 OpticStudio の [エディタ] (Editors) メニューからアクセスできます。

NSCE は、本来のノンシーケンシャル エディタと同じ機能を備え、オブジェクトをその位置と固有のパラメータで定義できます。
オブジェクトのネスト化、GRIN 媒質の適用、フェイスのコーティングなども可能です。NSCE で重要な点は、グループにあるすべてのオブジェクトの基準となるグローバル座標です。グローバル座標の原点 (0, 0, 0) は、NSC グループの入射ポートの位置です。したがって、NSCE で定義するオブジェクトはすべてそのグループの入射ポートを基準とします。グループに定義できるオブジェクトの数に制限はありません。光線は射出ポートに到達した時点で、ただちにシーケンシャル光路に戻り、シーケンシャル モードによる伝搬を再開します。

NSCE のタイトル バーには、LDE の中でその NSC グループに相当する面の名前が次のように表示されます。

つまり、NSCE に記述した各オブジェクトは、LDE で特定の面として定義した NSC グループに属するコンポーネントであることになります。1 つの混合モード光学系に複数の NSC グループを定義できることから、複数の NSCE が必要になります。なお、同時に表示できるエディタは 1 つのみです。オブジェクト プロパティ バーの矢印を使用して、アクティブな NSCE を切り換えることができます。

たとえば、LDE で面 4 および面 8 として記述した 2 つの異なる NSC グループが存在する場合、第 1 のグループに属するオブジェクトは [コンポーネント グループ、面 4] (Component Group on Surface 4) の NSCE で定義し、第 2 のグループに属するオブジェクトは [コンポーネント グループ、面 8] (Component Group on Surface 8) の NSCE で定義します。

考慮事項とコメント

OpticStudio には、この混合モードの機能を使用したサンプル ファイルが多数付属しています。その保存場所は、\Zemax\Samples\Non-Sequential\Prisms ディレクトリです。Zemax OpticStudio の混合モードに対する理解を深めるために、このディレクトリにある各種ファイルをいくつか開き、NSCE でのオブジェクトの定義、射出ポートの位置とサイズ、シーケンシャル アパチャーの定義などを検討することをお勧めします。

さらに、混合モード光学系を理解するうえで重要なポイントを以下に挙げます。

  • Zemax OpticStudio の通常のシーケンシャル解析機能は、混合モード光学系でもすべて使用できます。この機能として、横収差図、スポット ダイアグラム、OPD プロットなどがあります。なお、シーケンシャル機能の多くが近軸近似による計算に基づいている点に注意が必要です。このような計算として、OPD の計算に必要な基準球半径を求める際の近軸射出瞳位置の計算などがあります。ランダムな NSC グループは等価な近軸光学系に分割できないので、近軸近似に基づく計算の多くには意味がありません。混合モード光学系で使用する解析機能のうち、最も一般的で意味があると考えられるものは、スポット ダイアグラム解析と幾何学的像解析です。これらの解析では、近軸基準を必要としないからです。
  • LDE に記述した NSC 面ではガラス定義も使用できます。これにより、NSC オブジェクトを配置する「背景」の材質や媒質の屈折率を定義できます。材質を定義すると、入射ポートと射出ポートが屈折性境界として機能します。
  • シーケンシャルなシステム アパチャーで定義した光線 (シーケンシャル光線) は、NSC グループに定義した光源およびディテクタと相互作用できません。同様に、NSC 光源からの光線が NSC グループから射出することはできません。したがって、NSC 光源からの光線は、シーケンシャル追跡に基づく解析機能には使用できません。
  • シーケンシャル光線を NSC グループの中で分割することはできず、透過光路のみが考慮されます。Zemax OpticStudio のシーケンシャル モードでは、一義的に決まる光路が必要です。光源を出発した光線よりも多くの光線が像面に到達することはありません (光線分割があると、最終的に像面に達する光線が増加することはあります)。これは、特に最適化で収束解に達するうえで重要です。

References

  1. Webinar: Creating sequential systems with prisms, CAD parts, and other complex objects in OpticStudio
  2. Webinar: Comprehensive optical system design in OpticStudio

KA-01678

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