OpticStudioでいう位相面とは、光学系を通る光線に位相遅延を付加する無限に薄い面です。物理的な面ではありませんが、さまざまな微小変化を光線に付加することによって、面のイレギュラリティや屈折率の不均一性といった効果を公差解析できるので有用なツールです。面に実測データを追加する場合にも使用できます。この記事では、軸外し放物面 (OAP) の位置にゼルニケフリンジ位相面を配置する方法を取り上げます。また、軸外し部品を中心とした微小変化を付加する例として、OAP にパワー誤差を追加します。この手法は、あらゆる種類の面に適用できます。
著者: Erin Elliot
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はじめに
OpticStudioには、位相遅延を実現する面がいくつか用意されています。ゼルニケ標準位相面とゼルニケフリンジ位相面ではゼルニケ多項式を使用し、グリッド位相面では定義済みの点で構成したグリッドを使用します。それぞれの面に独自の適用対象があります。ゼルニケ面ではイレギュラリティをシミュレートでき、グリッド位相面では干渉計による実測データを面に追加できます。
この記事では、ゼルニケフリンジ位相面を使用して、軸外し放物面 (OAP) モデルの曲率半径に発生する誤差をシミュレートします。位相面の追加が、その想定外の範囲でこのモデルに干渉しないように、位相面の配置には一定の考慮が必要です。この点に鑑み、Z4項を使用して OAP にパワーの微小変化を付加します。
OAP 光学系のレイアウト
ここで使用する OAP の初期設計を以下の図に示します。この OAP の直径は 50.8 mm、焦点距離は -187.5 mm、ビーム発散角は -36.9°です (添付資料にある OAPWithPhaseSurface_v01_StartingSystem.zar を参照してください)。ミラーの前側エッジの位置に絞りがあります。また、2 つの座標ブレークがあります。1 つは親ミラーを下方にシフトするため、もう 1 つは OAP の頂点から像面へ主光線を追跡するために配置されています。
図 1: 後方焦点距離を -187.5 mm とする軸外し放物面の設計例のレイアウトプロット。
図 2: OAP 光学系のレンズデータエディタ。
位相面の挿入と配置
サンプルファイル OAPWithPhaseSurface_v02_OptimizePosition.zar では、以下の図のように、レンズデータエディタの行 5 に座標ブレーク、行 6 にゼルニケフリンジ位相面を追加しています。行 6 のピックアップソルブにより、OAP と同じ基本曲率半径がゼルニケフリンジ位相面に設定されます。この位相面の曲率半径によって光線に位相誤差が発生するわけではありませんが、位相面に物理的な曲率ができることによって、光線が位相面に到達する位置が変化します。
図 3: レンズデータエディタの行 5 と行 6 にゼルニケフリンジ位相面を挿入。
We’ll use an optimization to correctly position the phase surface. The variables are shown in Figure 3. The table below describes the purpose of each variable.
最適化を使用して位相面を正しく配置します。そのための各変数を図 3 に示します。これらの変数の目的は以下の表のとおりです
変数 | 目的 |
面 2 (絞り) の厚み | OAP の前側エッジの位置に絞りを配置します。 |
面 4 (OAP) の厚み | OAP の頂点の Z 座標位置に位相面 (面 6) を配置します。 |
面 5 の Y ディセンタ (面 5 頂点の OAP 頂点への移動) |
OAP の頂点の Y 座標位置と位相面 (面 6) の頂点の Y 座標位置を一致させます。 |
面 5 の X軸のティルト (面 5 頂点と OAP 頂点の一致) |
OAP の頂点の X 軸のティルトと位相面 (面 6) の頂点の X 軸のティルトを一致させます。 |
面 7 の厚み (像面までの主光線での距離) | ベストフォーカス位置に配置 |
表 1: 図 3 における各変数の一覧とそれらの目的。
絞りの配置
初期設計では、絞り面の厚みを変数として、OAP の前側エッジの位置に絞り面が配置されるようにしています。図 4 の評価関数では、この厚みを制御するように行 7 のオペランドを設定しています。このオペランドは、絞りに光線が到達した +Y 方向位置のグローバル Z 座標 (RAGZ) と OAP に光線が到達した +Y 方向位置のグローバル Z 座標 (RAGZ) を計算することによって機能します。DIFF オペランドを使用して、これら 2 つの座標値が等しくなるようにする必要があります。DIFF オペランドは重みを指定する唯一の行であり、同時に以下の図で評価関数に影響する唯一の行です。
図 4: OAP の前側エッジの位置に絞りを配置するための評価関数(行1~7)。
位相面の配置
位相面を OAP の頂点位置に配置し、その頂点で OAP の面と接するようにティルトする必要があります。そのためには、まず OAP の親ミラーの頂点から Z 軸に沿って後方へ位相面を移動します。この移動量は、レンズデータエディタ (図 3 を参照) の行 4 で指定されている厚みで制御します。この厚みは変数になっています。行 5 では、Y 方向のディセンタの項と X 軸を中心としたティルトの項も変数として設定されています。これにより、必要に応じて位相面をティルトし、配置できます。
以下の評価関数では、OAP に主光線が到達する位置の Y 座標と Z 座標、および位相面に主光線が到達する位置の Y 座標と Z 座標がそれぞれ等しくなるように、RAGY、RAGZ、DIFF を使用しています。行 11、15、19 で Y 座標を制御し、行 12、16、20 で Z 座標を制御します。RAID オペランドと DIFF オペランド (行 13、17、21) は、OAP と位相面で光線の入射角が等しくなるようにしています。これにより、OAP の中心で位相面と OAP のティルトが等しくなります。
図 5: 位相面の Y 方向ディセンタ、Z 方向ディセンタ、ティルトを制御する評価関数 (行 9 ~ 21)
像面の配置
評価関数の最後の部分は、RMS スポットサイズを最適化するデフォルトの評価関数です。このデフォルトの評価関数は、位相面が移動しても結像状態を維持できるように像面までの距離を制御します。このことから、レンズデータエディタの行 7 で厚みが変化します (図 3 を参照)。
この最適化が終了すると、位相面の位置とティルトは OAP に対して正しい値になります。最適化した光学系をファイル OAPWithPhaseSurface_v02_OptimizePosition.zar で確認できます。
ミラーから離れる方向への位相面の移動
ファイル OAPWithPhaseSurface_v03_OffsetPhaseSurface.zar では、以下の図に示すように行 5 の厚みを使用して位相面を後方へわずかに移動し、物理的に OAP 面の後に位相面が配置されるようにしています。このオフセットが厳密に必要というわけではありません。光線がわずかに逆方向に伝搬して位相面に到達するようにしても、位相面は正しく機能します。ただし、このオフセットがあることでレイアウトプロットがわかりやすくなります。
焦点までの距離 (行 7 の厚み) は、行 5 に面を追加しても光学系の合焦状態が維持されるように最適化されます。この最適化のために、RMS スポットサイズのみを設定した評価関数を使用しています。
図 6: LDE の行 5 で位相面を Z 方向へわずかにオフセットすることで、位相面上のすべての点を物理的に OAP の左側に位置配置している様子
最終的な光学系
最終的な光学系では、以下の図のように位相面が適切に配置されています。軸外し部分の頂点に合わせて、位相面が Y 方向と Z 方向にディセンタされています。位相面は、軸外し部分の頂点でのティルトと一致するようにティルトされ、その曲率は軸外し部分の曲率と同じです。これにより、位相面上で特定の XYZ 座標に到達する光線は、軸外し放物面上でも同じ XYZ 座標に必ず到達するので、位相面と OAP との間で位置合わせ誤差が発生することがありません。
図 7: 正しく配置した位相面。 OAP 面にきわめて近接している。
OAP への位相の付加
位相面を正しく配置したので、その位相面を使用して面のイレギュラリティの公差解析や面の実測データの追加などができます。簡単な例として、曲率半径に誤差がある OAP を考えます。親放物面の曲率半径を変更しても、部品の中央を中心とするパワーデフォーメーションは得られません。OAP にパワー誤差を追加するための正しい方法は、軸外し部品の中央を中心とするゼルニケ位相面を使用することです。
OpticStudioのヘルプファイルには、すべてのゼルニケフリンジ位相項の一覧が用意されています。その先頭にある項をいくつか以下に示します。
図 8: 一覧の先頭にある 5 つのゼルニケフリンジ位相多項式係数
パワーはゼルニケフリンジ項 Z4で表現されています。この項に追加される位相遅延の合計は次のようになります。
半径ρはゼルニケ面の [正規化半径] (Norm Radius) 列の値で正規化されます。ρは以下のように部品のクリアアパチャーよりもわずかに大きい値に設定する必要があります。Z4の係数の単位は波長数です。Z4を 0.5 に設定すると、ρ = 1 で追加される波面収差のピークバレー値は 1 波長と計算できます。
図 9: ゼルニケフリンジ位相面へのパワーの追加。
以下のように、この結果を波面収差マップで確認できます。
図 10: 軸外し部品に追加した 1 波長の P-V パワーを示す波面収差マップ。
KA-01793
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