ホログラムは、小型軽量の光学系を実現する極めて汎用性に富んだ光学部品です。多様なアプリケーションに効果的に適用され、最近では特に拡張現実ヘッドセットの設計で重宝されています。この記事では、ホログラムの主な特性を解説し、OpticStudio が提供するホログラム モデルの概要を紹介します。
著者: Alessandra Croce, Michael Cheng, Erin Elliott
ダウンロード
イントロダクション
ホログラムとは
ホログラムとは、高解像度の感光材に記録された干渉パターンです。ホログラムには2 つの明確に区別される段階があります。構成と再生の段階です。それぞれ、ホログラムの作成と、光学部品としての使用に対応します。構成段階では、構成ビームと呼ばれる 2 つのコヒーレントな光のビームが互いに干渉し、それが感光性プレート上に記録されます。ホログラムは現像されると干渉パターンになります。パターンには干渉した構成ビームの特徴を保持し、再生段階で読み出しビームによって再び照らされると、実効的に回折グレーティングのように振る舞います。
この記事や OpticStudio でホログラムと呼ぶものは、特に断らなくてもすべて光学合成ホログラムを指すことに注意してください。光学合成ホログラムとは、上記のプロセスにより、2 つの構成ビームの干渉によって生成されるものです。干渉パターンをデジタル合成する、コンピュータ生成ホログラム (CGH) と区別するための呼び方です。OpticStudio では、位相プロファイルを定義できる面 (バイナリ面またはグリッド位相面など) ならば、どれでも CGH をモデル化できます。
ホログラムの光線追跡式と主なモデル
OpticStudio では、ホログラムを光線の位相を変化させる無限に薄いの面として処理します。ホログラムは、次式に従って光線の経路を偏向させます。
ここで、 は光線の交点でホログラム面に直交する単位ベクトル、 は1つ目の構成ビーム の方向単位ベクトル、 は2つ目の構成ビーム の方向単位ベクトル、 は入射読み出しビームの方向単位ベクトル、 は屈折光線の方向単位ベクトル、λc とλp は構成波長と再生波長、m は回折次数です。値 m = 0 は光線が偏向しないことを意味し、その他の m の整数値はその他の回折次数に対応します。
現在、OpticStudio のホログラム モデルでは、光線の経路の偏向についてのみ考慮しています。回折次数、波長、入射角に基づく回折効率の計算などは考慮しません。OpticStudio では、主に次の 3 つのホログラム モデルを使用できます。
OpticStudio では、主に次の 3 つのホログラム モデルを使用できます。
- ホログラム 1
- ホログラム2
- 光学合成ホログラム
光学合成ホログラムを除き、シーケンシャルおよびノンシーケンシャルのホログラム モデルは、すべてがシーケンシャル面のホログラム 1 およびホログラム 2 に基づいています。次のセクションでは、3 つの主要ホログラム モデルのすべてについて、主な特徴を解説します。
ホログラム1とホログラム2
ホログラム 1 とホログラム 2 は、どちらも構成ビームが点光源から発せられ、収差が存在しないと仮定しています。ホログラム 1 は構成ビームが両方とも発散または収束する場合に使用し、ホログラム 2 は一方の構成ビームが発散し、もう一方が収束する場合に使用します。次の図は、両モデルの構成例です。青色の光線は発散する構成ビーム、緑色の光線は収束する構成ビームを表します。
ホログラム 1 とホログラム 2 は、両方とも透過型または反射型のホログラムのモデル化に使用できます。透過型ホログラムの場合、構成ビームはホログラム面に対して同じ側から入射します (構成例 (a)、(b)、(g)、(h))。逆に反射型ホログラムの場合、構成ビームはホログラム面に対して逆側から入射します (構成例 (c)、(d)、(e)、(f))。
反射モードでホログラムを使用する場合、[材料] (Material) を [ミラー] (MIRROR) に設定する必要があることに注意してください。これによって、光線がホログラム面に到達した後、逆方向へと伝搬することを明示的に指定できます。
ホログラム 1 とホログラム 2 の形状は、曲率半径とコーニック定数によって設定するため、平面、球面、円錐面のホログラムをモデル化できます。両面とも、その特性の記述にホログラム固有のパラメータが使用されます。それらは、次のような値を定義します。
- ホログラム面の頂点を基準とした構成ビーム 1 の射出点の XYZ 位置
- ホログラム面の頂点を基準とした構成ビーム 2 の 射出点のXYZ 位置
- 構成ビームの波長
- 回折次数
上記のパラメータによってホログラムの特性を定義すると、ホログラム面上に到達した光線 (実効的には再生段階の読み出しビーム) は、前述の式に従って回折します。構成光源と同じ位置から光線が発射された場合、つまり読み出しビームが構成ビームのいずれか一つと一致した場合、ホログラムは第 2 の構成光源の位置に収束、またはこの位置から発散するかのように光線を回折させます。例を見れば、もっとはっきりわかると思います。
両方の構成ビームが発散する透過型ホログラムを表す、次のような構成光学系があるとします。前述のとおり、これは、ホログラム 1 を使用すべき状況です。
再生段階において、読み出しビームが構成ビーム 1 と一致すると、次の図のように光線は、構成光源 2 から伝搬してきたかのよう以下の様に回折されます。
たとえば、構成ビーム 2 を逆転したような場合にも同じ原理を適用でき、この場合は反射型のホログラムと考えられます。両方のシナリオの例が、記事の添付ファイルに収録されています (それぞれ "Hologram1_transmission.zar" および "Hologram2_reflection.zar" という名前のファイルです)。
2 つの構成ビームの干渉によって生じる干渉縞の視覚化については、ナレッジベース記事の “Analyzing hologram construction fringes with a ZOS-API User Analysis” で解説しているユーザー解析 ”Hologram Construction Interference" を使用することが出来ます。
例として、"Hologram1_transmission" ファイルのホログラム構成干渉縞を下図に示します。
光学合成ホログラム
光学合成ホログラム (OFH) は、ホログラム 1 やホログラム 2 よりもはるかに一般化されたモデル化が可能なシーケンシャル面です。実際、単に光源に収束または光源から発散するだけではない、ずっと複雑な構成ビームを使用できます。構成ビームを、ホログラム面に到達するまで任意定義の光学系を通して伝搬させることができます。この光学系には、複数のレンズ、ミラー、さらには他のホログラムまでを含めることが可能です。そうした構成光学系によって発生する収差も完全に考慮され、得られる OFH 特性への寄与を知ることができます。必要に応じて、構成光学系のパラメータを変数として設定し、再生ファイルで直接最適化することも可能です。
OFH 面では、次の 3 つの ZMX ファイルを使用する必要があります。
1) 再生ファイル。OFH が配置されたファイルです。
2) ビーム 1 の構成ファイル。必要に応じてビーム 1 の構成光学系を含めることができます。
3) ビーム 2 の構成ファイル。必要に応じてビーム 2 の構成光学系を含めることができます。
構成ファイルは、再生ファイルと同じフォルダに保存し、同じファイル名の末尾に "_1" と "_2" を付けます。OFH 面の [コメント] (Comment) に、名前の共通する部分 (つまり添字を除いた部分) を指定することで、両構成ファイルが再生ファイルから呼び出されます。たとえば、構成ファイルの名前が、"construction_1" と "construction_2" である場合、以下の図のように再生ファイル内の OFH 面の [コメント] (Comment) に "construction" と入力します。
2 つの構成ビームが干渉する面は、各構成ファイルの絞り面 (STOP) です。ホログラムの特性は、対応する絞り面の光線交差ベクトルのみで決まります。
構成ファイルには、前に述べたものの他にも満足すべき要件があります。詳細は、ヘルプ ファイルの[設定] (Setup) タブ → [エディタ] (Editor) グループ ([設定] (Setup) タブ) → [レンズ データ エディタ] (Lens Data Editor) → シーケンシャル面 (レンズ データ エディタ) → 光学合成ホログラムを参照してください。
たとえば、前述のファイル "Hologram1_transmission.zar" と同じ光学系を OFH 面を使用してモデル化する場合、構成光源 1 で生成され絞り面に到達する光線を再構築する construction_1.zmx ファイルを定義する必要があります。
同様に、construction_2.zmx ファイルで、構成光源 2 で生成され絞り面に到達する光線を再構築する必要があります。光線が軸外の光源から生成されるように、次の図のとおり座標ブレーク面を 1 つ使用してファイルを作成することもできます。
構成ファイルを作成したら、再生ファイル内に OFH 面を定義できます。前述のように、OFH 面の [コメント] (Comment) パラメータで構成ファイルを参照します。OFH 面の特性の記述には、他にも面固有のパラメータがあります。それらは、次のような特性を定義します。
- 基板の形状。以下のいずれかを使用できます。
- コーニック面
- 楕円 球面とさらに多項式非球面項が追加された
- トロイダル面
- 選択した基板形状に関連するパラメータ
- [ホロ タイプ] (Holo Type) フラグ。ホログラム 1 (フラグ = 1) またはホログラム 2 (フラグ = 2) の選択に対応します。
- [OPD モード] (OPD Mode) フラグ。通常は 0 (自動) のままで構いませんが、特定のホログラム形状において光路差が正確に計算されない場合は、変更できます。
- 回折次数
ファイル "Hologram1_transmission.zar" と同じ光学系をモデル化しようとしているため、[形状] (Shape) = 0 (ホログラム基板が平坦)、[ホロ タイプ] (Holo Type) = 1 (両構成光源が発散)、回折次数 -1 を使用します。再生ファイルの OFH 面により、次の図のように光線は回折されます。この図からわかるように、結果はファイル "Hologram1_transmission.zar" と一致します。
記事の添付ファイル "OFH.zar" には、再生ファイルとともに、前述の 2 つの構成ファイルも含まれています。これら 3 つのファイルは、OFH 面を介して互いにリンクされているため、再生ファイルで [ファイル] (File) → [アーカイブを作製] (Create Archive) をクリックすると、すべてのファイルが同じ ZAR ファイルにグループ化されます。
参考文献 3 のよくある質問の項目を参照してください。
その他のホログラム モデル
OpticStudio には、シーケンシャルとノンシーケンシャルの両モードでその他のホログラム モデルが用意されています。前述のとおり、いずれもホログラム 1 とホログラム 2 面に基づいていますが、より柔軟なホログラム形状を定義できます。ノンシーケンシャル モード固有の特徴として、パラメータのいくつかをオブジェクトの外部境界の形状設定に使用します。ノンシーケンシャル モード固有の特徴として、パラメータのいくつかをオブジェクトの外部境界の形状設定に使用します。
前述のホログラム 1、ホログラム 2、OFH 以外の、OpticStudio で使用可能なホログラム モデルのすべてについて、簡単に紹介します。各面/オブジェクトの詳細は、ヘルプ ファイルの該当セクションに記載されています。
- トロイダル ホログラム面 (シーケンシャル) トロイダル形状のホログラム面。
- ホログラム面 (ノンシーケンシャル) 平面、球面、コーニック面または多項式非球面形状のホログラム面。境界形状は、円形またはユーザー定義オブジェクトとすることができます。
- ホログラム レンズ (ノンシーケンシャル) l前のフェイスがホログラム面であるレンズ。ホログラム面は、平面、球面、コーニック面とすることができます。レンズの境界形状は矩形、円形、楕円形を選択できます。
- トロイダル ホログラム (ノンシーケンシャル) 前のフェイスがトロイダル ホログラム面であるレンズ。レンズの境界形状は矩形、円形、楕円形を選択できます。
OpticStudio のホログラム面とオブジェクトのまとめ
参考文献
- W.T. Welford, “A Vector Raytracing Equation for Hologram Lenses of Arbitrary Shape,” in Optics Communications, 14-3, pp. 322-323 (July 1975)
- OpticStudio Help Files
- FAQ: https://community.zemax.com/got-a-question-7/faq-of-optically-fabricated-hologram-ofh-how-to-parameters-holo-type-and-diffract-order-390
KA-01795
コメント
記事コメントは受け付けていません。