照明設計の背景となる理論と概念

このレッスンでは、照明光学系の基礎、特に照明光学系の背景と若干の理論について説明します。この課程は照明に関する学習コースの最初の課程です。理論的な数式を長々と導き出すことはせず、「優れた照明設計を実現するために必要なことは何か」といった基本的な事項について考察します。

この課程では、照明設計の背景にある有用な概念について説明します。この概念は、設計上のニーズに適合する光学系の設定で効果的です。

著者 Katsumoto Ikeda

Introduction

この記事は、照明設計を開始する前に理解しておく必要がある概念について説明しています。測定単位、光学系のエネルギー、エネルギーの保存 (エタンデュ) などの照明設計に効果的な概念を説明します。

この記事の目的 (この記事の対象範囲)

この記事の目的は、照明設計に使用できる光学系の各種理論を導き出すことではなく、照明を設計する際に設計部門が認識しておく必要がある基盤としての理論や概念を示すことにありまます。

数式の導き方を詳しく説明してはいません。

照明設計の背景となる理論と概念

非結像光学または、ノンシーケンシャル光線追跡は、照明のために広く使用されています。ほとんどの照明設計には、異なる思考プロセスが必要です。

照明は、結像光学のように、数式に基づいて発展してきたわけではありません。従来の光学は、長年にわたって、結像光学に基づいてきました。結像光学では、物理的な世界を表現する光線よりもはるかに少ない数の光線を追跡します。結像光学では、全光線数よりも少ない光線を利用して、焦点距離などの 1 次光学量や、サイデル収差理論などの 3 次光学量を計算します。これらの光学特性には、手がかかる数学計算が必要ですが、すべての光線を追跡する必要はなく、物理光線全体の一部のみを追跡すればすみます。

非結像光学は、従来の結像光学とは異なり、物体の像の形成を目的としていない光学の分野です。非結像光学の主な目的は、光源と照射されるターゲットの間で光を伝達することです。非結像光学系では、光源の光を最適な状態で伝達し、照明ターゲット上に目的の分布を実現することを目指します。

現在のコンピュータの能力をもってすれば、数百万本、ときには数十億本もの光線を追跡し、照明されるターゲットを飽和状態にして、照射される面をきわめて正確に再現できます。前記の様に数式による計算とは無縁な、やや強引なアプローチといえます。導出や計算というよりは、シミュレーションに近い取り組み方です。ほとんどの場合このような設計は、アルゴリズムによるものではなく、直観や発見的方法の結果に基づいています。

上記で述べたように、照明設計の主な目的は、光源の光を最適な状態で伝達し、照明ターゲット上に目的の分布を実現することにあります。ただし、色、コスト、製造のしやすさなどの一般的な光学エンジニアリング上の特性も考慮されます。たとえば、製造のしやすさの要件を評価関数として数値化することは困難です。目的の分布と合計スループットや総合的な効率であっても、「焦点距離 = 50mm」のような要件と比べると、数値化して評価関数にすることは困難です。たとえば、焦点距離 (または MTF、スポット サイズ、ディストーションなど) は、固定した数値です。一方、ターゲット面の均一性は、いくつかの方法で定義できます。

 

Uniformity examples

 

当然のことながら、分布が完全に均一な面は容易に定義できます。しかし、中央部分は均一であっても、周辺部で均一性が低下する面と、周辺部には十分な照射があっても、中央部分にドーナツ状や波紋状の分布がある面がある場合、どちらが均一性に優れているかは一概には判断できません。残念ながら、簡単に言えばその判断は目標とする性能によって異なります。照明光学系は多様なので、設定した設計方法やプロセスで照明光学系のすべての側面を網羅できることはほとんどありません。ただし、照明設計では、有用であるばかりでなく、ときには不可欠な基本的概念がいくつかあります。

この概念は以下のとおりであり、これ以降この概念の説明を行います :

照明設計に使えるな基本概念

測定単位

照明光学における測定単位には、放射量測光量の 2 種類があります。放射量は、可視光スペクトルを含む電磁放射の測定値であり、測光量は光に対して人の目が示す反応の測定値です。これら 2 つの単位は、照明光学系を検討する際に明確に区別しておくことが不可欠です。用語の面で最初は混乱するかもしれませんが、まとめると、放射量として、放射束Φ、放射照度 E、放射強度 I、放射輝度 L があります。一方、測光量として、光束Φ、照度 E、光度 I、輝度 L があります。

以下に、照明単位を簡単に確認できる簡潔な表を示します。

 

放射量

測光量

用語

記号

名前

単位

名前

単位

放射束

Φ

パワー

ワット (W)

光束 

ルーメン (lm)

単位面積あたりの放射束

E

放射照度 

W/m²

照度

lm/m² または ルクス (lx)

単位立体角あたりの放射束

I

放射強度

W/sr

光度

lm/sr または カンデラ (cd)

単位立体角あたり、単位投影面積あたりの放射束

L

放射輝度

W/m²⋅sr

輝度

lm/m²⋅sr、cd/m² または ニト (nt)

 

 

用語としてのΦ、E、I、L の指定には汎用性がないので、それぞれの放射量に P、H、J、N の各記号を使用し、それぞれの測光量に F、E、I、B の各記号を使用することがあります。測定単位の詳細な説明については、「照明設計の性能目標」の記事を参照してください。

点光源

光源によっては、光学系と比べると小さいことから、点光源に縮小することによって、計算を簡潔にできるものがあります。たとえば、一部の小型 LED、ほとんどのシングルモード レーザー ダイオード (LD)、そして一部のマルチモード LD は表面積が小さいので、光源としては点に縮小して扱うことができます。光源を点に縮小できれば、多くの計算がより簡単になり、最適化と光線追跡のシミュレーションに要する演算能力が少なくてすみます。設計を数回反復して、光源のサイズが大きく影響する状態までレンズの最適化が十分に進捗した段階で、光源の実際のサイズが光学系に対してどの程度の比率になっているか確認することをお勧めします。

簡潔な光学系として、コリメータが挙げられます。コリメータは平行ビームを発生させる光学機器です。遠距離に光を伝送する目的でコリメータを使用します。コリメータを使い応用した光学系の例として、懐中電灯、自動車のヘッドライト、レーザー ポインタや、灯台のレンズがあります。屈折式コリメータには平凸レンズ、反射式コリメータには放物面反射鏡をそれぞれ使用できます。どちらも、レンズや反射鏡の焦点に点光源を置いて、平行ビームを生成できます。

 

Paraboloid reflector

 

点光源を使用した設計では光源のサイズを考慮しなくなるので、照明の設計時にこの近似を選択する際には注意が必要です。

エネルギーの定義

光源のエンサークルド エネルギー

非結像または照明光学系では、最終的な光学系の効率を計算する場合、光源のエンサークルド エネルギーが基準エネルギーになります。エンサークルド エネルギーの例として、下図のような LED を検討します。

 

#Schematic LED

 

この LED 光源が簡潔なランバーシアン分布を持つものとします。ランバーシアン分布では、光線の観測方向の角度に関係なく、輝度 L は均一です。また、ランバーシアン分布の光度 I は cos(θ) に正比例して変化します。これは、ランベルトの余弦則として知られています。角度 θ は、光源に対する面の法線を基準としています。

 

Lambert Cosine Law 1.svg
出典 : Inductiveload - パブリック ドメイン, Link

 

エンサークルド エネルギーとは、光円錐角 θ の範囲に存在する光束 Φ の量です。光束 Φ は、立体角と光度 I の積を積分することによって求めることができます。この積分により、光源によって照らされる角度の範囲で、どの程度の光が必要なのかがわかります。

 

Lambertian distribution

 

ランバーシアン光源の LED の場合、±45 度の光線のみを使用した場合、収集できる光束は光束全体の約 50% にすぎません。全光束の 90% を使用するには、±71.6 度の光円錐で収集する必要があります。光源のサイズを考慮する場合、検討対象とするパラメータが増加するので若干複雑な状況になります。

エンサークルド エネルギーの考慮事項 : TIR レンズ

できるだけ多くの光を利用するには、より大きな角度で光源から光を収集する必要があります。屈折レンズのみまたは反射鏡のみを使用すると、光を効率的に収集するには光学部品が大きくなりすぎます。このような場合は、屈折と反射の両方の特性を光学設計で考慮します。

 

TIR lens
(参考文献: Pencil of Rays)

 

このレンズの前面部では屈折しますが、側面では全反射によって反射します。このようなレンズが TIR レンズです。このレンズは、レンズの屈折と反射の両方の特性を使用しますが、光学設計の大部分で全反射を使用することから、通常は TIR レンズと呼ばれます。この例からわかるように、照明光学系のエンサークルド エネルギーを最大化する場合、結像光学系であれば重要度が低かった設計概念を使用します。

均一な分布

照明設計の概念として、エネルギーの保存があります。最適化のために目標値をランダムに設定する代わりに、この概念を照明光学系の解析的設計法に適用できます。下図では、ガウス分布は、模式的ではありますが、トップハット分布に変換されます。ガウス分布では、それを表現する解析的方程式があるので、そのエネルギー分布を数値化できます。トップハット分布では、特定の範囲で均一な分布になることから、その分布も数値化できます。この例で使用しているレンズでは、光源のガウス分布を平坦なトップハット分布に変換できます。

Analytical design concept

 

たとえば、光学系の光束Φは、次の 2 つのパラメータを使用して考察できます。 :

その他の損失を考えなければ、このエネルギーは保存されます。その場合は次の式が成り立ちます。

ƒ1(θ) = ƒ2(r)

上記の等式は、θr で表されており、照明設計の概念を計画する初期設計段階で効果的に使用できます。ガウシアンな光度プロファイルをトップハットな空間プロファイルに変換する屈折式ビーム整形装置に適用する解析的設計の例については、こちらを参照してください。

 

エタンデュとエネルギー保存

非結像光学系および照明設計におけるエタンデュの解釈

 

エタンデュは、非結像光学系と照明光学系の設計において最も基本的で不可欠な概念です。エタンデュは照明設計できわめて効果的ですが、混同されていることや誤解されていることが少なくありません。エタンデュという用語自体は、直訳すると「範囲」になります。

ここでの目的に照らすと、エタンデュには次の 2 つの意味があります :

  1. 光学系における放射束の伝達特性を説明する

     2. ターゲットに放射分布を形成する機能に対する総合的な役割を果たす

エタンデュの基本的な特性に起因して、所定の放射輝度と光学系を備えた光源では、その光学系を透過できる最大光束が決まります。エタンデュの概念自体が比較的新しいことから、照明光学系でのエタンデュとその保存を定義する際に、類似した数々の用語が使用され、エタンデュと混同されることが少なくありません。その結果、エタンデュにさまざまな解釈が生まれることになります (単に面積に立体角を乗算した値がエタンデュであると説明されていることもあれば、面積に放射立体角を乗算した値がエタンデュとされていることもあります)。

 

エタンデュの数学的な説明

数学的な意味のエタンデュは面積と立体角の積であり、光学系を透過できる光量を決める、光学系の基本的な特性です。光学系のスループットを決定する方法といえます。エタンデュは以下の数式で表すことができます。

Étendue (エタンデュ) = π⋅A⋅NA²

ここで A は光束の断面積、π⋅NA² は放射立体角で NA = sinθ です。

エタンデュは、光源からディテクタまで、光学系全体にわたって保持されます。これは、川の流量が上流から下流まで保持されることに似ています。川の流量は川の断面積と水の速度の積で表すことができます。断面積が 2 倍になれば、水の速度は半分になります。光にも同様の特性があり、光ビームの断面積が 2 倍になれば、立体角は半分になります。当然のことながら、光学系による吸収や反射は。無視しています。

 

実例によるエタンデュの解説

簡潔なコリメータの例を用いて、2 種類の光学系でエダンデュの概念を説明します。たとえば、±90 度の放射立体角を持ち、発光面が 0.3mm x 0.3mm である LED のエタンデュは、以下のように計算できます。

エタンデュ = π A NA² = 3.14 x 0.3 x 0.3 x (sin90°)² = 0.28mm² sr

つまり光束の面積を 100mm² にすると、放射立体角は 0.0028 sr になります。

NA = √(0.0028/π) = 0.03

∴ sinθ = 0.03、

であり、

θ = asin(0.03) = 1.70°

です。

これは、受照面積が 100mm² の場合、光線の平行度は最良でも ± 1.70° であることを示しています。

1つの有限サイズの光源と 2 つのコリメータを使用して、エタンデュの概念を視覚的に表現できます。

 

étendue collimator illustration

 

  • 小型コリメータの焦点距離は、大型コリメータの 1/4 です。
  • 次のどちらの例でも光源は同じです。
    • 光源の発光面積が同一
    • 光源の立体角が同一
  • 上の、大きい方のコリメータでは以下の性質があります。
    • 大きな焦点距離
    • 小さな射出光線の立体角
    • 大きな光線断面積
  • 下の小さい方のコリメータでは以下の性質があります。
    • 小さな焦点距離
    • 大きな射出光線の立体角
    • 小さな光線断面積

ご覧のとおり、ビームとコリメーションのサイズはトレードオフの関係にあります。この例では、コリメータの照明設計として次の構成が考えられます。

  1. 大きいけれども性能としては高いコリメータか
  2. 小さいれども(つまり、小型で、軽く、そして安いレンズ)性能はとても低いコリメータか
  3. そのどちらかの間のいずれかのコリメータか

「コリメーション後の発散角が最小で、製造可能な範囲で最も小型なレンズ」の設計が顧客から求められることがあります。エタンデュの概念とエタンデュの保存に基づいて、その顧客の求めが適切な設計目標かどうか、直ちに合理的な仮定を設けることができます。設計の初期段階でレンズ設計側と顧客との間で仕様に合意するうえで、このような迅速な推定がきわめて重要です。たとえば、顧客と直接話し合うときや遠隔会議のときに、このような迅速な判断ができると、平均的なレンズ設計とはひと味違う設計ができる印象を顧客に与えることができます。

KA-01819

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