OpticStudio でレーザー ビームの伝搬をモデル化する方法 : 第 3 部 - 物理光学伝搬によるガウス ビームのモデル化

OpticStudio のシーケンシャル モードでガウス ビームの伝搬をモデル化する場合、次の 3 つの手段を使用できます。

  • 光線ベースの手法
  • 近軸ガウシアン ビーム解析
  • 物理光学伝搬

この 3 部構成のシリーズでは、これら 3 つの方法を用いた、ガウス レーザー光源の設定、光学系内のビーム伝搬の解析、スポット サイズを最小化するための最適化について解説します。また、3 つの方法を、それぞれどのような状況に適用すべきかについても検討します。

シリーズの第 3 部となる今回は、ガウス ビームのモデル化に物理光学伝搬ツールを適用する方法と、状況に応じたツールの選び方に焦点を当てます。

Authored By Hui Chen

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Introduction

レーザーのエンジニアは、しばしば光学系内のレーザー ビーム伝搬をモデル化する必要性に迫られます。光線ベースの手法と異なり、物理光学伝搬 (POP) では、コヒーレントな波面を伝搬させることでレーザー ビームをモデル化します。このため、任意のコヒーレントな光学ビームを極めて詳細に検討できます。このセクションでは、POP を使用してビーム伝搬をモデル化する方法を紹介します。

物理光学伝搬

物理光学伝搬は、波面の伝搬によって光学系をモデル化します。ビームは、離散的にサンプリングした点の配列として表現されます。これは、幾何光学解析における光線を使用した離散サンプリングによく似ています。配列全体が各光学面の間にある自由空間を通じて伝搬します。それぞれの光学面で、その片側からもう一方の側にビームを伝達するための伝達関数を計算します。ビームは配列内に複素数による電界として完全に記述されるため、任意のコヒーレントな光学ビームを極めて詳細に検討できます。ガウス ビームやあらゆる形態の (ユーザー定義可能) より高次のマルチモード レーザー ビームなど、任意のコヒーレントな光学ビーム、または焦点から離れた位置の回折効果や空間フィルタリングのような有限のレンズ アパチャーによる効果を極めて詳細に検討できます。この記事では、物理光学伝搬ツールの使用法の詳細は説明しません。このツールについては、3 つのナレッジベース記事からなるシリーズ『物理光学伝搬 (POP) の使用法第 1 部 : 設定およびビーム ファイルビューア』で詳細に説明されているので、こちらを読むことを推奨します。

第 1 部および第 2 部と同じ課題、つまりレーザー出力から 100 mm の位置にあるシングレット レンズを使用したレーザー ビームの集光光学系の設計に取り組みます。

仕様も同じです。

  • 公称波長 = 355 nm
  • レーザー出力から 5 mm の位置での測定値 :
    • ビーム直径 = 2 mm
    • 発散角 = 9 mrad

 

 

ガウス ビームの波長と遠視野の発散角が既知であることから、ビーム ウェストが 0.0125 mm、レイリー範囲が 1.383 mm と計算できます。

 

 

この解析は、以前に光線ベースの手法で使用したものと同じサンプル ファイル "1_rays optimized.zar" から始めます。物体面の後に新しい面を挿入し、物体面の厚みを 0 にして、当初の厚み 106.108 mm は面 1 の厚みに移動します。

  • [物理光学伝搬] (Physical Optics Propagation) → [設定] (Settings) → [全般] (General) タブで [開始面] (Start Surface) を 面 1、[終了面] (End Surface) を面 6 に設定します。
  • [物理光学伝搬] (Physical Optics Propagation) → [設定] (Settings) → [ビーム定義] (Beam Definition) タブで、[ビーム タイプ] (Beam Type) を [ガウス ウェスト] (Gaussian Waist)、[X/Y サンプリング] (X/Y Sampling) を 256 x 256、[ウェスト X/Y] (Waist X/Y) を 0.0125 mm に設定したら、[自動] (Automatic) ボタンをクリックして、OpticStudio にビームのサンプリングに適した配列サイズを計算させます。

設定が完了したら、ダイアログ下部の [保存] (Save) ボタンをクリックします。現在の設定がすべて設定ファイルに保存され、それらの同じ設定がメリット ファンクション エディタに配置された POPD オペランドの計算に使用されます。

メリット ファンクション エディタの既存のオペランドをすべて削除して、空白の状態から始めます。面 3 に対してオペランド POPD を入力し Data の値に 23 を設定します。これにより、ビーム サイズが 1 mm であると測定された面 3 におけるビームの X 半幅つまりビーム半径が返されます。メリット ファンクション エディタを更新すると、POPD オペランドは面 3 のビーム半径として 1.0037 mm を返します。測定されたビーム サイズの 1 mm に厳密には一致していません。  

 

 

これは、ガウス ビームのウェスト位置が若干ずれていることを意味します。面 3 のビーム半径を 1 mm にするために、行 2 の POPD オペランドの [重み] (Weight) に 1、[ターゲット] (Target) に 1 mm を割り当てたうえで、面 1 の厚みを最適化変数に設定します。最適化により、面 1 の厚みは 105.689 mm に変更され、面 3 の POP ビーム サイズが正確に 1 mm になりました。さらに、メリット ファンクション エディタの行 4 と 6 に 2 つのオペランド GBPS と POPD を追加しました。これらは、像面における近軸ガウス ビームのサイズと、POP ビームのサイズを返します。近軸ガウス ビーム サイズは 9.97 um、POP ビーム サイズは 9.811 um が返されます。これは "3_POP new waist location.ZAR" という名前のファイルです。 

 

 

さらに最適化を続け、この値が、レーザー出力から 100 mm の位置のシングレット レンズで達成できる本当に最小のビーム サイズであるのかどうかを確認できます。レンズ データ エディタで、面 1 の厚みの変数ソルブを削除します。シングレットの前面と後面の曲率半径に変数ソルブを追加します。行 6 の POPD オペランドの [ターゲット] (Target) に 0、[重み] (Weight) に 1 を割り当てます。これは、像面の POP ビーム サイズを最小にする最適化を行うためです。最適化を実行します。

最適化後、POPD は若干小さいビーム半径 9.48 um を返します。POP で計算したスポット サイズ 9.48 um は、近軸ガウス ビームで計算したスポット サイズ 9.45 um に極めてよく一致しています。このファイル "3_POP optimized.zar" は、この記事のダウンロードのセクションから入手できます。

 

 

各ツールの適用場面

光線ベースの手法と物理光学伝搬による波面に基づく手法は、自由空間を伝搬するビームを次の 2 つの異なるモデルで表現しています。

  • 光線は互いに干渉せずに直線上を伝搬します。
  • 波面は互いにコヒーレントに干渉しながら伝搬します。

光線ベースの手法は高速で柔軟であるものの、ある種の効果 (主に回折) のモデル化には適していません。OpticStudio は、回折 MTF や PSF など、光線ベースの手法による回折計算機能を備えています。これらの回折計算では、すべての重要な回折効果が射出瞳から像の間で発生すると仮定して、簡潔化した近似計算を実行します。これは、「一段階」近似と呼ばれることもあります。 物体を発したビームがすべての光学部品と隙間を通過して像空間の射出瞳に至るまでは、光線を使用してビームの伝搬を表現します。射出瞳における光線分布に、位相の計算に使用する伝達振幅と累積 OPD を組み合わせて、複素振幅の波面を形成します。次に、一段階の回折計算を実行して、この複素振幅の波面を焦点付近の領域へと伝搬させます。幾何光学と一段階近似の計算は、最終的な像以外の場所ではビームが焦点の近くに存在しない、従来のほとんどの光学設計で良好に機能します。一方、以下のような重要な事例では、このモデルは良好には機能しません。

  • ビームが中間焦点で焦点を結ぶ場合。特に、ビームを遮蔽する光学部品の付近で焦点を結ぶ場合に顕著です (光線だけでは、焦点付近の正確な分布を予測できないからです)。
  • 焦点から離れた位置で発生する回折効果が重要な場合 (光線の振幅と位相は均一のまま、波面で振幅と位相の構造が形成される)。
  • 伝搬の距離が長く、ビームがほぼコリメート光となっている場合 (コリメート光はすべての距離にわたって平行ですが、実際のビームでは回折や発散が発生します)

物理光学伝搬は、波面を伝搬させることで光学系をモデル化します。その場合、ビームは離散的にサンプリングした点の配列として表現されます。この配列は、ビームが光学系を伝搬する間、その電界の複素振幅および位相を完全に記述します。このため、任意のコヒーレントな光学ビームを詳細に解析できます。

通常、物理光学モデルは、焦点から離れたビームの詳細な振幅および位相構造を従来の光線追跡によるモデルよりも正確に予測できます。下表に、光線ベースの手法が適していない、POP を使用すべき特殊な状況についてまとめます。

光線による方法を推奨できない 3 つのシナリオ

  光線ベース ? 近軸ガウス ビーム ? 物理光学 ?
ビームが中間焦点で焦点を結ぶ場合 (特に、ビームを遮蔽する光学部品の近傍) NO NO YES
焦点から離れた場所における回折が検討対象の場合 NO NO YES
伝搬距離が長く、かつビームがほぼコリメートされている場合 NO YES YES

 

KA-01885

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