分光器の設計方法 - 迷光解析

分光法は、細胞組織、プラズマ、材料の研究に使用できる、最も強力な非侵襲測定法のひとつです。この記事では、市販の光学部品を使用したレンズ - グレーティング - レンズ (LGL) 分光器で発生する迷光について検討します。分光器の設定をシーケンシャル モードからノンシーケンシャル モードに変換する方法、分光器の簡単な筐体を設計する方法、その筐体への散乱光およびライン カメラに混入する迷光を定量的に解析する方法について説明します。

著者 Lorenz Martin

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記事の添付資料

Introduction

光学的な概念では最適化済みの分光器であっても、迷光によって性能が低下する可能性があります。迷光が光路から横方向に散乱し、パワーの損失につながる場合があります。迷光の好ましくない効果として、ライン カメラ上のピクセルに、そこに本来到達すべき波長以外の光が混入することも考えられます。

シーケンシャル モードからノンシーケンシャル モードへの LGL 分光器の変換

迷光の効果の解析対象とする分光器は、ナレッジベースの記事 「分光器の設計方法 - 実装法」 で説明したように構築されています。分光器の技術的な詳細や仕様も、この記事に記載されています。分光器の構成を下図に示します。
 

Spectro set-up

 

これは、市販の光学エレメントで構成したレンズ - グレーティング - レンズ (LGL) 分光器です。光干渉断層撮影 (OCT) の用途に合わせて、855 nm ~ 905 nm が測定帯域として選択されています。

OpticStudio では、迷光解析をノンシーケンシャル モードで実行します。シーケンシャル モードとは異なり、多数の光線を発射して、分光器内部を伝搬するそれらの経路を、光線分割やパワー分割も考慮して追跡します。したがって、最初の手順として、この分光器をシーケンシャル モードからノンシーケンシャル モードに変換します。この変換手順は、ナレッジベースの記事 「迷光解析の紹介 - パート1」 にほぼ従っています。

 

自動変換

Spectrometer.ZAR ファイル (この記事のダウンロードの節から入手可能) を開いて、[ファイル] (File) … [NSC グループに変換] (Convert to NSC Group) に移動します。表示されたウィンドウの [OK] をクリックします (この例では [デザインの固定] (Design Lockdown) および [クリティカル光線セットの生成] (Critical Rayset Generator) は使用しません)。
 

Convert

 

OpticStudio がノンシーケンシャル モードに切り替わり、分光器がノンシーケンシャル コンポーネント エディタに表示されます。

 

手作業による NSC モデルの完成

OpticStudio の変換アルゴリズムはきわめて強力ですが、分光器を適切に設定するには手作業でモデルを完成する必要があります。下図に示すノンシーケンシャル コンポーネント エディタで、赤枠で囲まれた行を削除します (これらは光源とディテクタに関連する行であり、次のステップで手作業によって実装します)。
 

Manual correction


つづいて、下図のように 2、7、15 行目を変更します。

 

Manual correction

 

  • オブジェクト 2 は、ガウシアン形状の発散ビームを放射する点光源に相当します。このビームは、シングル モード ファイバーから発する光を模しています。
    • 光線の解析と表示を高速化するために、描画光線数を 100、解析光線数を 100,000 に設定します。
    • 光源パワーは任意の値にすることができますが、100 W を選択すると、パワーがいずれも光源に対する割合 (%) として表示されるので便利です。
    • X 方向と Y 方向の発散角を 6.892 度、X 方向と Y 方向のスーパーガウス係数を 1 に、それぞれ必ず設定します。これらは、ファイバーの特性に関連するパラメータです。ノンシーケンシャル コンポーネント エディタでは、これらのパラメータは右側に遠く離れた列にあるので、上記のスクリーンショットには表示されていません。
  • オブジェクト 15 はディテクタに相当します。高さ 20 µm、幅 20 µm のピクセルを 2,000 個備えた、吸収性の矩形として実装しています。

 

回折グレーティングのモデル化

最後に、最も詳細な調整を必要とするエレメントとして回折グレーティング (オブジェクト 7 と 8) があります。これらの設定は、グレーティングの製造元による仕様に基づいています。実際には、0.9 ライン/µm のグレーティングを 2 つ連続して配置した構成になっています (これは、1.8 ライン/µm の単一グレーティングと等価です)。上記のスクリーンショットには表示されていないパラメータは両方のグレーティングに共通で、[厚み] (Thickness) は 1.49 mm、[線/µm] (Lines/µm) は 0.9、[回折次数] (Diff Order) は -1 です。[Z 位置] (Z position) を、オブジェクト 7 では 1.49 mm、オブジェクト 8 では 1.51 mm に設定する必要があります。ここまでの光学系の設定は、添付の Spectrometer-NONSEQ.zar ファイルに記述されています。
 

1 つのグレーティングで光の 87% を回折次数 -1 に回折し、13% を 0 次に回折するので、両方のグレーティングを合わせると効率は 75% になります。以上を踏まえ、オブジェクト 7 と 8 の [回折] (Diffraction) プロパティを次のように更新します。

 

Grating

 

最後に、グレーティングの前後のフェイスにコーティングを施します。最初のグレーティングは 180 度反転して配置されているので、前のフェイスがエレメントの後のフェイスになることに注意してください。製造元によると、このコーティングの反射率は 0.5% です。OpticStudio では、透過率 0.995 の簡潔な理想コーティングによって、この反射率を実装します。この特性は、オブジェクト 7 と 8 の [コーティング/散乱] (Coat/Scatter) プロパティで設定します。

 

Coating

 

最初の結果

ここで、この分光器の NSC シェーデッド モデルを確認してみます ([光線の色分け] (Color Rays By) [波長番号] (Wave #) に設定しています)。この記事冒頭の最初の図に示したノンシーケンシャル モードと同じような分光器が表示されます (ディテクタは高さが 20 µm と小さいため表示されません)。
 

Viewer


これで、最初の光線追跡を実行する準備が整いました。[解析] (Analysis) タブに移動して [光線追跡] (Ray Trace) をクリックすると [光線追跡コントロール] (Ray Trace Control) が開きます。
光線追跡の設定は、この記事の最後まですべて同じままにします。

  • [偏光を使用] (Use Polarization) と [NSC 光線の分割] (Split NSC Rays) を使用して、光線とエネルギーが面に到達したときに確実に分割されるようにします。
  • [エラーを無視] (Ignore Errors) は、光線がオブジェクトのエッジに到達した場合など、光線を計算できなくなった場合でも光線追跡を継続するために設定します。

[クリアして追跡] (Clear & Trace) ボタンをクリックすると光線追跡が始まり、数秒後に完了します。計算時間は、使用可能な CPU の能力によって異なります。損失エネルギーの値を必ず確認することをお勧めします (この計算は確率に基づいているので、光線追跡の実行ごとに損失量が異なることがあります)。この例では、エラーによる損失は無視できるほど小さく、光源の初期値 100 W に対して約 0.5 W が、閾値に起因して失われています。OpticStudio は、パワーがシステム エクスプローラで指定した閾値を下回った光線の追跡を中止します。今回の計算では、この閾値としてデフォルトの 0.1% を使用しています。
 

RayTrace

 

ここまで、すべての値に適切な値が得られているようなので、ディテクタ ビューアで表示してみます (このビューアのボタンも [解析] (Analyze) タブにあります)。

 

Detector

 

システム エクスプローラで設定した 3 つの波長 (855 nm、880 nm、905 nm) に該当する、3 つの明確に区別できるピークを確認できます。この結果は、シーケンシャル モードで実行した分光器のシミュレーションとよく一致しています (ナレッジベースの記事 「分光器の設計方法 - 実装」 を参照してください)。
 

このプロットでは、ディテクタに到達した全パワーもグラフのテキスト領域に表示されています。光源の 100 W のうち 59.5 W がディテクタに到達しています。この結果も妥当です。パワーの 25% が回折グレーティングで失われているからです。したがって、約 20% の損失は、レンズに起因する損失と、ディテクタにビームが合焦する際の限界に起因する損失と考えられます。この結果も、シーケンシャル モードで実行した分光器のシミュレーションと一致しています。

この後の 2 つの節では、レンズでの反射に関連する迷光とディテクタへの合焦の限界に関連する迷光の検討方法について説明します。そのため、この分光器に簡単な筐体を追加する必要があります。

 

簡単な筐体の実装

ここで分光器に追加しようとしている筐体には、次の 2 つの目的があります。

  1. 横方向に散乱する光を遮断する。
  2. 光の主な散乱箇所を把握するためのディテクタとして使用する。

この筐体の設計はきわめて大まかですが、迷光の数値化には十分で、実際の挙動に対する大幅な相違もありません。ノンシーケンシャル コンポーネント エディタの末尾に 6 行を追加します。これらを、レンズを取り囲む 2 つのシリンダ (鏡筒を模しています)、鏡筒の両端にある 2 つの円形面、回折グレーティング近傍の 2 つの矩形面の各オブジェクトに相当する行とします。

 

Housing


さらに、ディテクタとなるすべての面 (オブジェクト 16 ~ 21) でコーティングと散乱を有効にします。以上の設定により、入射光の 95% が吸収され、1% が正反射し、4% がランバーシアン分布で後方散乱します。これは、光を吸収する遮光材の典型的な値です。

 

Scattering

 

オブジェクト 16 ~ 21 をディテクタにします。

 

Object As Detector


NSC 3D レイアウトを見ると、光のほとんどが筐体で吸収される様子がよくわかります。

 

3D Layout

 

評価関数によるパワー値の計算

NSC 3D レイアウトは、迷光の定性的な評価に過ぎません。強度分布の定量的な値も取得する必要があります。これらの値を計算するための洗練された手段として評価関数があります。[最適化] (Optimize) タブからメリット ファンクション エディタを開き、下図の行を入力するか、Spectrometer_casing.zar ファイルに圧縮されている power_measurement.MF を開きます。

 

MF

 

NSDD オペランドと NSTR オペランドを使用した 3 行目と 5 行目は、ノンシーケンシャル モードで光線追跡の実行を開始する標準的な行です。インコヒーレントな強度データは、分光器のディテクタである 7 行目と筐体のオブジェクトである 8 ~ 13 行目で測定します。14 行目では、すべての測定値を合計します。この値は、光源から光学系に供給される 100 W に近いことがわかります。

ディテクタの数値を詳細に調べると、グレーティング (オブジェクト 16 ~ 18) の前では迷光の影響は少ないという結論が得られます。しかし、グレーティングによる 0 次の回折光が吸収されるオブジェクト 19 と 20 の後では、迷光の影響が大きくなっています。もう 1 か所、分光器のディテクタを取り囲むオブジェクト 21 上に大きな割合で迷光が存在します。これは、ディテクタ上でのビーム合焦の限界によるものです。以上から、分光器を設定する場合、回折グレーティングの 0 次光の制御に注意する必要があります。最終的には、吸収性の面だけではなく、光トラップを設けるなどの対策も必要になります。ここまでの光学系は、ファイル Spectrometer_casing.zar として添付されています。

 

ディテクタ上の迷光の解析

前節では、初期強度の約 60% がディテクタで合焦し、10% がディテクタを取り囲むオブジェクト 21 で拡散していることがわかりました。ここでは、この光の分布をより詳細に調べます。特に、単一波長の光がどの程度ライン カメラへの迷光となっているのか、つまりその波長の合焦位置にはないピクセルを照射しているかを評価します。

この解析の準備として、まずシステム エクスプローラで波長 855 nm と 905 nm を無効化し、中心波長 880 nm のみが使用されるように設定します。さらに、ノンシーケンシャル コンポーネント エディタで楕円 (オブジェクト 21) とディテクタ (矩形) (オブジェクト 15) を削除します。新しいディテクタは、次のステップで追加します。最後に、光源 (オブジェクト 2) の解析光線数を 108 に増やします。

 

ディテクタ上の全パワー

ディテクタ面のパワー分布を読み取るために、下図のように 3 つのディテクタを設定します (行 20 ~ 22)。

 

3 detectors

 

  1. 最初のディテクタは、880 nm における放射照度を測定する単一ピクセルに相当します。
  2. 第 2 のディテクタは、ライン カメラの残りのピクセル アレイを表します (対称性を維持するために、ピクセル数を 2000 ではなく 2001 に設定していることに注意してください)。
  3. 第 3 のディテクタは、ディテクタ周辺の残りの面を扱います。

ノンシーケンシャル コンポーネント エディタで以上の調整が完了した後、再度光線追跡を実行します。ここでは [NSC 光線の散乱] (Scatter NSC Rays) も有効にします。解析光線数が大きいので、この計算には 1 時間以上を要することがあります。ディテクタ ビューアには、次のような結果が表示されます。

 

Result

 

ライン カメラ (上図の左のパネル) では、波長 880 nm に対応する中央のピクセル近傍できわめて大きな放射照度が捉えられています。この特性は、ピクセル上でのスポットの合焦限界に起因しています。ただし、この結果の解釈には注意が必要です。ここでは、回折の効果を考慮しない幾何光学的な光線追跡を使用しているからです。中心から離れたピクセルでの放射照度は微弱な値にすぎません (縦軸が対数目盛であることに注意してください)。上図の右のパネルに示したように、ディテクタ背後の全面で見ると、主にライン カメラ (黒い帯) から離れた場所で迷光が認められます。

 

References

Optical spectrometer 光学分光計: https://en.wikipedia.org/wiki/Optical_spectrometer

KA-01964

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