回転対称イレギュラリティ (RSI) は、多数の面を持つ光学系の中で累積され、光学系の性能が低下する原因になることがあります。ここでは、RSI の概要を述べ、ISO 10110 でどのように規定されているかについて説明します。OpticStudio でゼルニケ標準サグ面を使用して RSI をモデル化する方法を紹介します。
著者: Erin Elliott
はじめに
回転対称イレギュラリティ (RSI) とは、光学面の形状が持つ回転対称誤差の一群です。この誤差は、ゼルニケ多項式で表現され、3 次球面収差とそれよりも高次の球面収差の形態を持ちます。
RSI の多項式形式
RSI を表す多項式の形式は次のとおりです。
OpticStudio で定義されているゼルニケ標準係数のうち、RSI に関連するゼルニケ多項式項の係数は次のとおりです。
RSIが問題になる理由
多数の面を持つ光学系であれば、その設計で容易に RSI 項が問題になります。このような光学系として、内視鏡、投影レンズ、フォトリソグラフィ レンズなどがあります。
このような光学系では面誤差がランダムに結合されるので、全誤差の推定値は各誤差タイプの RSS になると仮定することが普通です。 しかし、RSI 多項式では、これは正しくありません。面誤差は直接加算されませんが、全誤差は RSS の計算で示される値よりも大きくなります。
例として、4 つの RSI 多項式項を以下に示します。それぞれの係数は 0.01 です。
この 4 つの多項式項の和を以下に示します。これらの多項式項の RSS は 0.1 ですが、実際の RSS 面誤差は 0.14 です。
(上記の図から、RSI 多項式項を使用して、面上のエッジのロールを把握できることがわかります。エッジのロールは、製造の難度が高いことで知られています。)
ISO 10110 に基づく図面上での RSI の指定
RSI 項は、ISO 10110 第 5 部 「表面形状公差」で規定されています。 光学図面で使用する RSI の最も基本的な形式は次のとおりです。
各項は次のように定義されています。
A : 面のパワー誤差 P-V 値。単位はフリンジ数またはナノメートル。
B : 面の全イレギュラリティ P-V 値。単位はフリンジ数またはナノメートル。
C : RSI P-V 値。単位はフリンジ数またはナノメートル。
この基本形式には、ISO10110-5 に規定された変種が多数あります。テスト波長を指定できます。面誤差の全 RMS に対する限度も追加できます。
次のように指定します。
これは、パワー誤差 P-V 値は 3 フリンジ、全イレギュラリティ P-V 値は 1 フリンジ未満、RSI P-V 値は 0.5 フリンジ未満であることを示します。これらの P-V 値は波長 500 nm における値です。
これらの限度を光学面自体に適用します。フリンジは、干渉像の隣接する暗部中央間の間隔です。 1 フリンジは波長の半値に相当します。
多くの場合は、面誤差をナノメートルで指定する方がわかりやすくなります。上記の指定をナノメートルで表現すると次のようになります。
ISO 14999-4 でのゼルニケ多項式
ゼルニケ多項式は、ISO 14999 第 4 部 「ISO 10110 で規定されている公差の解釈と評価」 (Interpretation and evaluation of tolerances specified in ISO 10110) で規定されています。
各多項式項は、Z(0,0)、Z(1,1)、Z(1,-1) のように、そのインデックス (n,m) で参照します。
OpticStudio による RSI のモデル化
OpticStudio では、ゼルニケ標準サグ面を使用して、RSI などの面誤差を持つ面を表現できます。 コーニックまたは偶数次非球面の基本形状をゼルニケ標準サグ面で扱うことができ、この基本形状に各ゼルニケ項を追加します。
コーニックや偶数次非球面よりも複雑な面の場合は、ゼルニケ標準位相面を使用して面に誤差を追加できます。
OpticStudio のレンズ データ エディタ (LDE) に記述したゼルニケ標準サグ面を以下に示します。LDE の右端にゼルニケ係数が表記されています。
ゼルニケ標準サグ多項式の定義は、OpticStudio のヘルプ ファイルを参照してください。 その一覧の一部を以下に示します。 ISO 14999-4 で使用されている定義とはわずかな相違点があるので、変換が必要です。
たとえば、ISO 10110 での項 Z(4,0) は、ZOS の標準ゼルニケ項 11 となっています。
ISO 10110 における RSI のゼルニケ項から、ゼルニケ標準サグ面への変換を以下に示します。 11、22、37、56 の各ゼルニケ項が必要です。 LDE のパラメータ番号と列番号も示しています。RSI をプログラムで制御する場合に、これらの量が有用であるからです。
RSI のモデル化
以下の手順を使用して、最大許容量の RSI とイレギュラリティがある面をモデル化できます。
- Z11、Z22、Z37、および Z56 の各 RSI 項にランダム値を割り当てます。
- RMS 面誤差を確認します。
- C の適切な値が得られるようにスケーリングします。
- 定数で各ゼルニケ係数をスケーリングすると、同じ定数で RMS がスケーリングされるので、このスケーリングは 1 回のみです。
- 全イレギュラリティ B をモデル化するために他のゼルニケ多項式にランダム値を割り当てます。
- Z11、Z22、Z37、および Z56 の各 RSI 項の値が影響を受けることはありません。
- 正しい全イレギュラリティに達するように、ゼルニケ項をスケーリングします。
- 各 RSI 項の値は変更できないので、これは反復プロセスになります。
このプロセスはプログラム処理すると効率的です。Zemax Programming Language (ZPL) を使用できます。また、OpticStudio でアプリケーション プログラミング インターフェイス (API) を使用することもできます。 API を使用して放物面ミラーのイレギュラリティと RSI をモデル化する例がナレッジベースの記事「API による回転対称イレギュラリティ (RSI) のモデル化」にあります。
面の全イレギュラリティと全 RSI (B と C) を公差解析するには、B と C にランダム値を選択します。このランダムに B と C に割り当てた値を使用して、上記と同じプロセスを実行します。
面を多数使用した光学系では RSI が問題になることがあります。 OpticStudio では、ゼルニケ標準サグ面を使用して RSI をモデル化できます。 ゼルニケ多項式の変換が必要です。
参考文献
- ISO 10110-5: https://www.iso.org/standard/
- ISO 14999-4: https://www.iso.org/standard/
KA-01971
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