この記事では、拡張現実 (AR) 光学系向けに、RCWA ツールを使用して射出瞳拡張光学系 (EPE) を OpticStudio で設定する例を紹介します。まず k 空間でのグレーティングの計画 (光運動量) について説明し、各グレーティングの詳しい設定を取り上げます。
著者 Michael Cheng
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はじめに
この記事は 4 部構成記事の第 3 部です。ここでは、射出瞳拡張光学系のフットプリント ダイアグラムを確認する方法と、その像をシミュレートする方法を示します。記事の最後では、EPE 光学系を改善できる可能性と他の検討事項も取り上げます。読者の便宜のために、この 4 部構成記事の他の記事へのリンクを以下に挙げます。
拡張現実 (AR) 光学系用回折光学系を備えた射出瞳拡張光学系 (EPE) を OpticStudio でシミュレートする方法 : 第 1 部
拡張現実 (AR) 光学系用回折光学系を備えた射出瞳拡張光学系 (EPE) を OpticStudio でシミュレートする方法 : 第 2 部
拡張現実 (AR) 光学系用回折光学系を備えた射出瞳拡張光学系 (EPE) を OpticStudio でシミュレートする方法 : 第 4 部
フットプリントの確認
EPE の設計では、各視野のフットプリントの調査が効果的です。フットプリントの直径を知るにはディテクタが必要で、その結果はシェーデッド モデルで確認できます。添付ファイル step4_check footprint.zar に例が収録されています。
このファイルの確認で認識しておく要点は次のとおりです。
1. ディテクタの [色] (Color) と [スケール] (Scale) の各パラメータ値がデフォルト値の 0 から変更されます。これらのパラメータは、シェーデッド モデルでディテクタのさまざまな外観を切り替えるために設定されるので、物理的な影響を及ぼすことはありません。
2. シェーデッド モデルでディテクタが明瞭に表示されるように、すべてのグレーティング オブジェクトと導波路オブジェクトのオパシティも変更する必要があります。この設定を図 1 に示します。この例では、導波路のオパシティを 10%、グレーティングのオパシティを 30% に設定していますが、これらの値は自由に設定してかまいません。
図 1 : [オブジェクト プロパティ] (Object Properties) で [オパシティ] (Opacity) の値を 100% 未満に設定すると、シェーデッド モデルでそのオブジェクトを透過表示にすることができます。
3. これで、シェーデッド モデルを開くことにより、フットプリントを確認できます。シェーデッド モデルは、前回の解析実行によって、オブジェクトの隠線が表示されるように、またディテクタのピクセルがカラー表示されるように設定されています。この設定を図 2 に示します。最終結果は図 3 のようになります。
図 2 : シェーデッド モデルでは、前回の解析によって、オブジェクトの陰線が表示され、ディテクタのピクセルがカラー表示されます。
図 3 : 各視野のフットプリントを検出するために追加したディテクタ。
画像シミュレーション
人間の眼に画像がどのように見えるかをシミュレートするには、ダミーの画像光源が必要です。また、画像を確認する眼の光学系を模擬するために、射出瞳の位置に理想的なレンズ光学系が必要です。添付ファイル step5_image simulation.zar に例があります。
図 4 : この導波路光学系で画像がどのように見えるかをシミュレートするために、6 つのオブジェクトを追加します。最初の 3 つのオブジェクト (#10 ~ #12) は、画像光源上の点光源からの光線を平行光線にする理想的な投影光学系であり、ビームを入力結合グレーティングに送り込みます。最後の 3 つのオブジェクト (#13 ~ #15) は、出力結合したビームがディテクタの焦点面で焦点を結ぶようにする結像光学系です。
このファイルの確認で認識しておく要点は次のとおりです。
1. オブジェクト #10 ~ #12 は、画像光源を無限大位置に投影する理想的な投影光学系 (アフォーカル光学系) を構成します。この投影光学系の射出瞳は、入力結合グレーティングの位置にあり、EPE 光学系の入射瞳となっています。
2. オブジェクト 10 は、Lambertian_Overfill.DLL による光源 (DLL) オブジェクトを使用して作成された矩形ランバーシアン光源です。入力結合グレーティングには [ターゲット直径] (Target Diameter) と [ターゲット距離] (Target Distance) の各パラメータが指定されています。これにより、入力結合グレーティングに到達できる光線のみが光源から送出されるので効率的なシミュレーションになります。
3. オブジェクト 11 は、ビットマップをマスクとして使用できるスライド オブジェクトです。オブジェクト 10 からわずかにオフセットした位置に置く必要があります。オブジェクト 10 との組み合わせでランバーシアン画像光源を構成できます。この例のビットマップはテスト対象の QR コードです。
4. オブジェクト 12 は、そこからオブジェクト 10 とオブジェクト 11 までの距離と同じ焦点距離を持つ近軸レンズです。言い換えると、この理想レンズの焦点面に画像光源が正確に位置します。
5. この画像光源は幅が 5 mm の矩形で、光学系の焦点距離は 10 mm です。つまり、この AR 光学系の FOV には、X 方向と Y 方向に±14 度、対角線方向に 20 度の大きさがあります。
6. オブジェクト #13 ~ #15 は、人間の眼に見える像をシミュレートする理想的な結像光学系を構成します。オブジェクト 13 は、その焦点面に無限共役像を結像できる近軸レンズです。オブジェクト 15 は、焦点面に置かれたディテクタであり、近軸レンズによって結像した像を検出します。
7. オブジェクト 14 は、光を吸収できる環状オブジェクトです。2 つの理由で、このオブジェクトを使用します。理由の 1 つは、近軸レンズであるオブジェクト 13 は矩形ですが、人間の瞳は円形であることです。もう 1 つの理由は、外形が大きい環状オブジェクトであれば、近軸レンズを通らずにディテクタへ直接到達する光線を遮蔽できることです。この環状オブジェクトの内側半径は 3 mm で、瞳の大きさが 6 mm の人間の眼に相当します。
8. これらのオブジェクトは重ね合わせできない点に注意します。したがって、オブジェクト 13 とオブジェクト 14 の Z 位置には小さい値を設定します。光線は、まず射出瞳のディテクタ (オブジェクト 8) に到達し、つづいて近軸レンズ (オブジェクト 13) に到達して、最後に環状オブジェクト (オブジェクト 14) で抽出されます。
説明
ここで取り上げた例は、あくまでも説明を目的としたものです。この記事では以下の各点を詳しく検討していませんが、この種の光学系設計ではこれらがヒントになることも考えられます。
1. 回転グレーティングの位置と形状を再検討して、最良のスペース効率を実現できます。図 5 に示すように、回転グレーティングは、可能な限り入力結合グレーティングに近い位置に配置できます。最小限必要な形状は、入力結合グレーティングのサイズと光学系に望まれる FOV から判断できます。入力結合グレーティングからの光の伝搬によって形成される「扇状角度」を FOV から知ることは容易です。
2. 射出瞳位置での均一性向上を図るには、さまざまなグレーティング パラメータを使用してグレーティングをいくつかの領域に分離します。
3. 画像シミュレーションのデモでは、眼の瞳が出力結合グレーティングの中心にのみ置かれています。眼の瞳がこの中心からずれたときに、どのような像が眼に見えるかを確認することも重要です。また、眼の瞳が小さい条件下における画像品質の確認も重要です。
4. このデモの投影光学系は、近軸レンズによって理想化していますが、実際には別途設計するレンズ光学系です。現実のレンズを使用すると収差が発生しますが、同時に光学系に何らかの柔軟性も生まれます。たとえば、妥当なビネッティング設計を通じ、さまざまな視野点の F ナンバーを制御して、導波路とグレーティングの性能を補償できます。
図 5 : 回転グレーティングの形状を計画するには、主に最初の入力結合グレーティングのサイズと光学系の FOV を検討する必要があります。光学系に使用する FOV によって「扇状角度」(Fan angle) が決まります。
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