この記事では、Zemax チームが作成した拡張機能プログラムを使用して Ansys Mechanical で得られた FEA の結果をエクスポートする方法を解説します。この拡張機能 (申し込みに応じてプログラムをダウンロード可能) は、FEA データを STAR モジュールを介して OpticStudio にすばやくインポートできるように、各データに適切な名前とフォーマットを設定し、エクスポート手順を効率化するためのものです。このプログラムにより、FEA のデータセットと光学設計内の面との対応付けを簡単に管理できるようになります。構造と熱どちらのデータセットにも対応しています。
著者 Esteban Carbajal , Matthias Schlich
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はじめに
OpticStudio の STAR モジュールは、FEA データを OpticStudio に読み込み、その設計が光学性能に与える影響を評価できるようにすることで、STOP (Structural, Thermal, and Optical Performance : 構造・熱・光学性能) 分析のワークフローを効率化します。FEA データセットと、それを割り当てられた光学面との対応付けを管理することは、光学性能の正確なモデル化に不可欠です。取り扱う光学部品や面の数はすぐに増え、個々の FEA データセットに適切な名前を付けるだけでも面倒で時間がかかる作業になります。
また、Ansys ACT API によって Ansys 製品内でのユーザー拡張機能プログラムの作成が行え、ワークフローの自動化が容易になります。FEA データセットを一貫性のある命名規則に従って保存する作業などは、時短や人為ミスの低減につながる、スクリプト処理にうってつけの例題と言えます。
STAR モジュールを開発していた Zemax のチームは、すぐにこのスクリプト導入のチャンスに気づき、当時使用していた Ansys FEA プラットフォーム向けの拡張機能プログラムの作成に着手しました。構築した Ansys ユーザー拡張機能は、面の名前、FEA データの種類、基準座標系の管理を支援するものです。この拡張機能の適用は最終的にワークフローに組み込まれ、テスト工程におけるミスの件数を低減するという成果をもたらしました。このたび、お客様の STOP 分析ワークフローのさらなる効率化に役立てていただくために、日頃の感謝の気持ちを込め、この拡張機能のプログラムを提供することにしました。このプログラムを Ansys で使用することで FEA データを効率的に OpticStudio STAR モジュールのためにエクスポートできるようになります。
注意 : 今回お届けする拡張機能プログラムは Ansys のみで動作するものですが、STAR モジュールは、あらゆる FEA パッケージからのデータを取り扱うことが可能です。
注意 : この拡張機能は、Ansys Workbench の英語環境で開発およびテストされました。Ansys Workbench の他の言語設定で使用した場合、問題が発生する可能性があります。また、エクスポートするファイルの Ansys 解析名とフォルダ名には英数字を使用する必要があります。
概要
この拡張機能は、面の変位と体積温度プロファイルを読み取ります。出力データセットを .txt ファイルとして作成し、Ansys Workbench のプロジェクト ディレクトリにある user_files フォルダ内の独立したフォルダに保存します。列はタブで区切られ、ノードの位置に続いて変位または温度が記述されます。結果は、すべてのソルブ/結果の評価とともにエクスポートされます。
この拡張機能は、温度プロファイルをインポート済みの構造解析での使用を想定しています。このタイプの解析の場合、拡張機能は同じ解析から変位と温度の両方をエクスポートできます。温度プロファイルが割り当てられていない場合は、均一な体積温度がエクスポートされます。これによって、環境設定に基づいた均一温度が設定されます。この拡張機能は熱解析の出力にも使用できますが、その場合は温度ファイルしか得られません。
解析タイプ |
ミラー |
レンズ |
静的構造解析 |
完全対応 |
完全対応 |
非定常解析 |
完全対応 |
完全対応 |
固有値座屈解析 |
完全対応 |
完全対応 |
陽解法動解析サポート |
非対応 |
非対応 |
周波数応答解析 |
完全対応 |
完全対応 |
モーダル解析 |
完全対応 |
定義された時刻のタイムステップのみ |
ランダム振動解析 |
完全対応 |
定義された時刻のタイムステップのみ |
応答スペクトル解析 |
完全対応 |
完全対応 |
剛体運動解析 |
非対応 |
非対応 |
トポロジー最適化解析 |
非対応 |
非対応 |
定常熱解析 |
非対応 |
熱データのみ |
非定常熱解析 |
非対応 |
熱データのみ |
Export to STAR 拡張機能の Ansys へのインストール
Ansys Workbench 環境でワークベンチ メニューの [ACT Start Page] をクリックします。
[ACT Start] ページの [Manage Extensions] をクリックします。
Extension Manager の右上隅にある + をクリックして、新しい拡張機能をインストールします。
エクスプローラ ウィンドウで Export to STAR.wbex ファイルを選択し、[Open] をクリックします。
下記のエラー メッセージが表示された場合は、
Windows の [地域設定] (Regional format) を [英語 (米国)] (English (United States)) に切り換えてから、Workbench を再起動し、[ACT Start Page] をクリックして、再度インストールを試みてください。
拡張機能のインストールが完了したら、Extension Manager の拡張機能をクリックして、拡張機能を読み込みます。拡張機能が緑色にハイライトされます。
[ACT Start Page] を閉じて、Workbench のプロジェクトに戻ります。
以上の操作で、Export to STAR 拡張機能が Ansys にインストールされます。
Ansys で Export to STAR 拡張機能を使用する
拡張機能のインストールが正常に完了すると、Ansys Mechanical のウィンドウ上部にあるリボンに [Export to STAR] タブが表示されます。
ここには、2 種類のエクスポート ボタンがあります。
- [Export Mirror Data] は、単一の面の変位データが得られ、熱解析では非アクティブ化されます。
- [Export Lens Data] には解析タイプに応じて 2 種類の機能があります。
- 構造解析の場合、結果に [Export Lens to STAR] オブジェクトを挿入します。これによって、2 つの面の変位データとともに選択した体積の熱データが得られます。
- 熱解析の場合は、結果に [Export Temperature to STAR] オブジェクトを挿入します。これによって、選択した体積の熱データだけが得られます。
次のセクションでは、[Export Lens to STAR] の機能のみを説明します。この機能には [Export Mirror to STAR] および [Export Temperature to STAR] のオプションもすべて含まれるからです。
[Graphics] ツールバーで [Body] モードを有効にします。
グラフィクス領域で、データをエクスポートする光学部品の体積を選択します。この手順は重要です。この手順を省くと、アセンブリ全体の温度データがエクスポートされます。
リボンの [Export to STAR] タブを選択し、[Export Lens Data] をクリックします。
[Solution] タブに [Export Lens to STAR] のエントリが挿入されたら、部品の前面を選択し、[Front-Surface].../[Geometry] に適用します。
そのために、まず [Geometry] の隣の黄色のボックスをクリックします。
次に、グラフィクス領域でレンズの前面をクリックしてから [Apply] をクリックします
レンズの後面についても、以上の手順を繰り返します。
このレンズが、OpticStudio のレンズ データ エディタ上でどの面の行番号となるかを、 [Front Surface Zemax ID] によって定義します。
[Front Coordinate System] を定義します (グローバル座標系を使用する必要がある場合は、すべてに対して同じ座標系を選択します)。
Define the Front Coordinate System (select the same one for all if you want to use global coordinates).
以上の手順を繰り返して、後面の情報も定義します。
必要なタイムステップを定義します。
- [All Timesteps] - 複数のフォルダが作成されます。
- [Defined Timestep] - タイムステップの範囲を選択します。
[Defined Timestep] を選択した場合、適切なタイムステップ定義を選択します。
データをエクスポートするタイムステップを入力します
[Solution] タブのすべてのエントリに情報を入力したら [Evaluate All Results] をクリックしてエクスポートを開始します。
選択した各面と体積について、ワークベンチのプロジェクト ディレクトリにある user_files フォルダに .txt ファイルが作成されます。以上の作業で、必要な FEA データは、いつでも OpticStudio の STAR モジュールに読み込めるようになります。
まとめ
FEA データのエクスポート処理を効率化することで、光学設計と機械設計のチームが STAR モジュールを介して OpticStudio 内で協力して STOP 分析を進めることができるようになります。この拡張機能を使用すると、各種データセットや、光学面への対応付けなどを簡単に管理できます。Ansys からの FEA データのエクスポート、STAR モジュールへの FEA データのインポートに要する工数が減るだけでなく、処理における人為ミスの撲滅にも有効で、STOP 分析のワークフロー全体の効率が向上します。
バージョン情報
拡張機能の バージョン |
注記 (各バージョンでは、前バージョンの機能に新機能を追加しています) |
v1.0 |
バイナリ拡張機能が存在しないレンズのみについて、構造解析のみの温度および変位のエクスポートに対応
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v1.1 |
ミラーとレンズについて、構造解析のみの温度および変位のエクスポートに対応 (このバージョンはナレッジベース記事に添付されていません)。
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v1.2 |
熱解析と構造解析の両方からの熱データのみのエクスポートに対応 (ただし Ansys 2021R2 では温度を熱解析からしかエクスポートできません)。
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v1.3 |
バッチ モードによるデータのエクスポートに対応 (Workbench プロジェクトを更新すると、Mechanical の結果評価にも対応できます)。
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