民生電子機器の分野では、顔認識や 3D マッピングなどの各種機能でライダーが活用されています。さまざまな形態で実現したライダー光学系が存在していますが、固体光学エレメントを使用して、ターゲット シーン全体に検出可能なポイントのアレイを生成するうえで「フラッシュ ライダー」ソリューションが活躍しています。使用する 3 次元空間データを小型パッケージで取得できるという利点によって、この固体小型ライダー光学系は、スマートフォンやタブレットなどの民生電子製品で身近な機能になっています。この連載記事では、シーケンシャル光学系の設計から機械筐体への組み込みまで、このような光学系を OpticStudio でモデル化する方法を検討します。
Authored By Angel Morales and Mojtaba Falahati
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はじめに
ライダー (光による検出と測距) 光学系は、多くの産業分野でさまざまな事例に使用されています。視野を規定するスキャン エレメントを備えた光学系をはじめとして、ライダー光学系にはさまざまな種類があります。ここで取り上げる例では、回折光学系を使用して、光源アレイの投影をターゲット シーン全体にわたって再現する方法を検討します。この投影された光源アレイを結像レンズ光学系で観測し、入射光線からタイム オブ フライト情報を取得します。これにより、投影されたドットに基づいて奥行き情報を生成します。
第 3 部では、OpticsBuilder 準備ツールを使用して、今回の光学モデルを .ZBD ファイルに変換する方法を紹介します。この変換により、光学モデルをサポート対象の CAD プラットフォーム用 OpticsBuilder で開くことができるようになり、機械筐体の生成や、光線追跡による検証が可能になります。
OpticsBuilder 準備ツールの使用方法
連載の前 2 つの記事では、OpticStudio によってフラッシュ ライダー光学系全体を含む完全なモデルを作成しました。
設計プロセスの次のステップでは、光学系をそれぞれのトラック (つまり送信および受信固有のモジュール) 内に保持する、何らかの機械筐体を構築する必要があります。機械設計には、個々のモジュールを保持できる何らかのパッケージも必要になります。OpticsBuilder 準備ツールは、サポート対象 CAD プラットフォーム用の OpticsBuilder モジュールに読み込める、拡張子 .ZBD を持つファイルを生成します。このファイルを介して、光学エンジニアと光学機械エンジニアは簡単にファイルを共有し、共同作業を進めることができます。
はじめに、これまで検討してきた、光学部品と散乱壁 1 つだけを含むフラッシュ ライダーのノンシーケンシャル モデルを若干変更したバージョンを使用します (この記事では、この壁を [ディテクタ (矩形)] (Detector Rectangle) から 矩形の 2D 面に変更していることに注意してください)。このファイルは、FlashLidar_FullSystem_Nominal.ZAR として添付されています。次に、[ファイル] (File) → [OpticsBuilder 準備] (Prepare for OpticsBuilder) を選択して OpticsBuilder 準備ツールを開きます。
OpticsBuilder 準備ツールにより、光学エンジニアは、ZBD ファイルへの変換後もネイティブの OpticStudio ファイルと同じ性能が保たれるかを確認するための適切な条件設定をいくつか決定します。フラッシュ ライダー光学系では光線分割と散乱をモデル化しているため、その変換については [解析条件] (Analyze With) の設定で [散乱] (Scattering) と [光線分割] (Ray splitting) のボックスがチェックされていることを確認する必要があります。また、ファイルを OpticsBuilder 内で読み出し専用にするかどうかの判断もエンジニアが選べます。今回の例では、[読み出し専用] (Read-only) のチェックボックスはクリアしたままにします。
[ユーザー入力] (User Inputs) タブの編集が完了したら [準備] (Prepare) を選択して変換を開始し、生成される ZBD ファイルの性能が、あらかじめ設定した許容デルタや公差 (この例ではデフォルト値のまま) の範囲内に維持されていることを、ツールによって確認します。[ZBD ファイルの保存] (Save .ZBD File) タブの [保存] (Save) をクリックして OpticsBuilder で使用できるファイルを生成します。
OpticsBuilder での作業
生成された .ZBD ファイルは、光学機械エンジニア (または機械筐体の設計担当者) によって、そのまま OpticsBuilder にインポートできます。それには、OpticsBuilder のプラグインをインストールした CAD プログラムで新規アセンブリ ファイルを開きます。適切なファイルを選択すると、作業に使用する CAD プログラム内に OpticsBuilder が光学系を生成しはじめます。
インポートが完了すると、光学モデルおよびジオメトリが表示され、オプティクス マネージャには光学部品が一覧表示されます。OpticsBuilder 準備ツールで [読み出し専用] (Read-only) のチェックを外していた場合、光学機械エンジニアもこれらを編集できます。
OpticStudio ファイル内の設定は維持されているため、[シミュレーション] (Simulate) ボタンを使用すれば OpticsBuilder から直接 OpticStudio と同じ光線追跡を実行できます。この機能により、光学機械エンジニアは筐体の総合設計に関する、いくつかのヒントが得られます。
以上の手順が完了すれば、CAD ソフトウェアで機械部品を追加できます。トップダウンの設計では、インポートした光学部品のジオメトリを機械部品作成のための基準として使用できます。光学部品はデフォルトで固定されていますが、合致プロパティを割り当てることで新規作成した機械部品を拘束できます。また、あらかじめ構築済みの既製部品をアセンブリに挿入し、合致を使用して配置することも可能です。最後に、新しく導入した部品に光学的定義 (コーティングや散乱プロファイル データなど) を設定することも可能です。たとえば、各トラック内の光学部品間に機械的スペーサを追加できます。
次に追加する機械部品は、個々のモジュールを保持する鏡筒です。
[オプティクス マネージャ] (Optics Manager) タブでは、これらのオブジェクトのすべてについて、上記のような光学特性を導入できます。それには、該当するオブジェクトを右クリックして [面特性を編集] (Edit Surface Properties) を選択します。
OpticsBuilder による性能検証
機械パッケージの作成が完了したら、OpticsBuilder によって再度シミュレーションを実行し、追加した筐体が光学系全体の光線追跡に与える影響を確認できます。ここでは、検証を待つばかりの次のような機械設計があるとしましょう。
再度シミュレーションを実行するには、[OpticsBuilder] (OpticsBuilder) タブに移動して [シミュレーション] (Simulate) をクリックします。OpticsBuilder では、新しい機械部品を追加したことで公称性能に何らかの変化が生じているかどうかを、ディテクタのスポット サイズ、光線のケラレ、画像のコンタミなどによって評価できます。
これらの機械部品によって光学系に生じる主な変化は光線のケラレに関するものです。このモデルの場合、スポット サイズの評価はディテクタの総合性能、つまり回折グレーティングが生成するドットのアレイに基づいたスポット サイズが報告されるので、今評価したい項目とはさほど関係はありません。画像のコンタミは、ディテクタに到達する無用の光を測定するので、関連性は高く、初期の OpticsBuilder 準備の段階で定義した許容デルタ内に収まっていなければなりません。機械部品の追加前後におけるディテクタの結果は、スポット サイズの領域をクリックしてから [ディテクタの表示] (Show Detectors) をクリックすることで視覚化できます。
これらの結果は、[印刷] (Print) ボタンによって OpticsBuilder レポートを生成することでも確認できます。
さらに詳細な検証を続けられるように、OpticsBuilder はディテクタのコンタミになるかどうか、あるいは新しいジオメトリによって蹴られるかどうかに基づいて、光線を保存します。蹴られた光線を表示する一方、他の光線セット ([画像のコンタミ] (Image contamination) および [すべての光線] (All Rays)) を非表示に設定することが可能です。
この観点から光線を詳細に吟味することで、何らかの光線のケラレが発生していないか光源をある程度診断できます。エンジニアは、個々の機械部品をシミュレーションに含めたり除外したりすることで、筐体全体の性能を確認することも、追加したジオメトリの組み合わせが干渉を生まないかを評価することも可能です。たとえば、光線のケラレは、送信モジュール端の回折グレーティング部品の筐体取り付け部分で発生しています。この筐体部分と相互作用した光線は、その後筐体内に閉じ込められます。
このような詳細により、ビームのケラレによる性能劣化を軽減するために筐体の設計を変更する際、情報に基づいた判断を行うことができます。
OpticsBuilder と OpticStudio 間の反復設計
さらに詳細に検証するために光学エンジニアにこの設計バージョンを送り返す必要が生じた場合、光学機械エンジニアは OpticsBuilder から .ZBD ファイルをエクスポートできます。[OpticsBuilder] (OpticsBuilder) タブにより、CAD プログラムと OpticStudio 間でファイルを簡単に転送できます。使用中の CAD プログラムのネイティブ部品として保存するオプションもありますが、その場合、光学エンジニアが OpticStudio の Premium ライセンスを所有するとともに、同じ CAD ソフトウェアを使用できなければならないことに注意してください。部品を静的 STEP/IGES/SAT ファイルとして保存するオプションもあります。
.ZBD ファイルは OpticStudio の .ZAR アーカイブ ファイルに類似しているため、OpticStudio で開くことができ、光学系および光学機械エンジニアが追加した機械部品を完全に再現します。この例の .ZBD ファイルは FlashLidar_FullSystem_FromOB.ZBD として記事に添付されています。
上記の光線追跡の結果を得るために、本稿の執筆時点で、この連載記事の第 2 部で定義した散乱壁に対する [重要度サンプリング] (Importance Sampling) の設定を定義しなおす必要が生じたことをお伝えしておかなければならないでしょう。
まとめ
この記事では、これまで検討してきた光学モジュールの機械的パッケージを作成できるように OpticStudio と OpticsBuilder 間でファイルを変換する処理の実例を紹介しました。光学モデルを互換性のあるお好みの CAD プログラムに読み込んだ後は、OpticsBuilder によって、OpticStudio と同じ光線追跡エンジンを使用して光線追跡をシミュレートし、スポット サイズ、光線のケラレ、画像のコンタミの変化を確認できます。これらの光線セットを別々に表示することで、機械設計または光学設計で変更が必要な部分を評価できます。最後に、OpticsBuilder と OpticStudio 間で .ZBD ファイルを共有することで、光学エンジニアと光学機械エンジニアはシームレスに反復設計を進めることができます。
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