ヘッド アップ ディスプレイの迷光解析 - パート 1

この記事では、ヘッド アップ ディスプレイ (HUD) で実施する迷光解析のワークフローについて説明します。この記事は 3 部構成のパート 1 です。
ヘッド アップディスプレイの迷光解析 - パート 2
ヘッド アップディスプレイの迷光解析 - パート 3

著者: Michael Cheng

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はじめに

パート 1 では、画像生成ユニット (PGU) と太陽光による正反射迷光の光路を解析しています。アイ カメラでとらえたシーンと PGU の画像を視覚化するために、そのシーンと簡単なカメラを追加します。太陽光による迷光を効率的にシミュレーションするために、アイ カメラから太陽へ逆方向に光線追跡する方法を検討します。

パート 2 では、API 解析ツールを導入して、太陽に起因する迷光を視覚化しています。この作業には逆方向光線追跡のプロセスを使用します。

最後のパート 3 では、機械筐体の CAD モデルを光学系にインポートしています。迷光プロセスを繰り返し、機械筐体での散乱に起因する迷光の経路を解析します。

この記事のみを読んでもかまいませんが、記事「ヘッドアップ ディスプレイの作業で使用するツールの選択」にも目を通すことをお勧めします。そこでは、この記事で取り上げている光学系を対象として迷光解析を実施しています。

準備

光線追跡を開始する前に、カバー ガラスと吸収体を追加して HUD の光学系を環境から隔離します。この隔離は、主な迷光光源は太陽光であることが大きな理由となっています。フロント ウィンドウを除き、太陽光の直射経路を遮断するために吸収材が必要です。同様にカバー ガラスを追加します。この部分を通る光によって HUD 光学系で発生する迷光が大幅に増加するからです。

図 1 の光学系が、添付の Step 0 - preparation.zar に保存されています。この光学系は、記事「ヘッドアップ ディスプレイの作業で使用するツールの選択」のサンプル ファイル HUD_Step3_NONSEQ_after_tidying_up.zar を変更したものです。

車の CAD モデルがあれば、それをここで使用すると現実味のあるシミュレーションになります。いずれにしても、この記事で紹介するテクニックは実際に有用です。

 

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図 1 迷光解析向けに準備した HUD 光学系。

 

光源: PGU (画像生成ユニット)

このセクションで取り上げる光学系は添付ファイル v2_Step1-1_PGU_light.ZAR にあります。このセクションでは、図 2 のように PGU は 4 つのオブジェクトで構成されています。

  • オブジェクト 32 および 33: PGU の画像光源。
  • オブジェクト 25: PGU の背面から到達する光を吸収します。
  • オブジェクト 24: PGU の前面から到達する光を 5% の反射率で反射します。

オブジェクト 33 については、[オブジェクト プロパティ] (Object Properties) → [タイプ] (Type) で [オブジェクトを無視] (Ignore Object) を 24 に設定します。


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これは、オブジェクト 33 からの光線がオブジェクト 24 に影響されないということです。この設定によって PGU からの光線が遮蔽されなくなります。

 

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図 2 オブジェクトを 4 つ追加して PGU の光源を定義。

 

図 3 のように、画像が入射するようにアイ カメラを設定します。このアイ カメラは、焦点距離が 22 mm の近軸レンズ (オブジェクト 27) とその背後から 22.245 mm 離れた位置に置いたディテクタ (矩形) (オブジェクト 30) で構成されています。2,000 mm の距離にある平面上の仮想画像を人間の眼が見るものとしています。環状オブジェクト (オブジェクト 28) で近軸レンズのアパチャーを直径 20 mm に制限します。現実の人間の眼からすると、この設定は現実的ではありませんが、シミュレーションの効率の点からは有利です。少ない光線本数で高い信号対雑音比を実現できます。

 

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図 3 人間の眼が見る HUD 画像、環境、迷光をシミュレーションするようにアイ カメラを設定。

 

光線追跡の結果を図 4 に示します。ここでは 2 種類のディテクタ (オブジェクト 29 と 30) を設定しています。HUD 画像と視野全体の両方を観測するために、この 2 つのディテクタはサイズが互いに異なっています。

 

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図 4 アイ カメラでとらえた PGU からの画像。

 

図 4 では明らかにゴースト画像が見えています。これは HUD 光学系で発生することが知られている問題です。このゴースト画像は、図 5 のようにフロント ウィンドウで光線が 2 回反射することによって発生しています。普通は、フロント ウィンドウの傾斜角を変更することで、このゴースト画像を最小限にします。

 

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.図 5 PGU 光源のゴースト画像の光路。

 

光源: 太陽光 (逆方向光線追跡)

このセクションでは、PGU 光源 (オブジェクト 32) の解析光線本数を一時的にゼロに設定します。

太陽光線光源をシミュレーションするためのオブジェクトの追加

このセクションでは、太陽による迷光の影響を解析するためにオブジェクトを追加します。太陽光を最も効率的にシミュレーションするには、アイ カメラから光線を逆方向に追跡し、太陽に達するまでの光路を解析します。太陽はディテクタ (極) で表現します。

このセクションで扱う光学系の最終的な姿は添付ファイル v2_Step1-2_sunlight.ZAR にあります。このファイルを開き、以下の説明に目を通すことをお勧めします。この光学系に次の 2 つのオブジェクトを追加します。

  1. 光源 (DLL) (オブジェクト 35、dll): 図 7 のように、アイ カメラのディテクタの背後に追加します。この光源から発する光は仮想的な光であり、実際の光源 (太陽) に達したときに初めて意味を持ちます。この場合の太陽はディテクタ (極) です。この光源 (DLL) の各パラメータは、この光源がアイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30 の大型ディテクタ) と同じサイズになるように、またこの光源から光線がカメラのアパチャー (直径 20 mm) に向かうように設計されています。図 6 のように、光線は指定の矩形から目的の円のみに向かって発します。
  2. ディテクタ (極) (オブジェクト 26): 太陽を表し、図 7 のようにアイ カメラから逆方向に追跡した光線が達するように追加します。光源 (DLL) (オブジェクト 35) を発してディテクタ (極) (オブジェクト 26) に達する光線を解析することで、太陽からアイ カメラまでの間で考えられるすべての光路が得られます。

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図 6 光源 (DLL) (Lambertian_Overfil.dll) のパラメータ。

 

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図 7 太陽光を解析するためにディテクタ (極) と光源 (DLL) を追加。

 

図 7 のレイアウトに示す光路は、この時点ではまだ有用ではありません。アイ カメラからのすべての光線が描画されていますが、問題となるのは、最終的にディテクタ (極) に達することができるゴースト光線の光路のみです。このことから、フィルタとして G0 & H26 & (H5 | H8 | H14 | H24) を使用します。この結果は図 8 のようになります。このフィルタの各項は次のように機能します。

  • G0: ゴースト光路を抽出します。反射面で反射する光線はすべてゴースト光と見なされます。
  • H26: 太陽を表すディテクタ (極) (オブジェクト 26) に達する光路のみが考慮されます。
  • (H5 | H8 | H14 | H24): HUD を構成する部品の 1 つ以上に達する光路のみが考慮されます。この部品とは、第 1 ミラー (オブジェクト 5)、第 2 ミラー (オブジェクト 8)、PGU (オブジェクト 24)、カバー ガラス (オブジェクト 14) です。

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図 8 フィルタ文字列を使用して、アイ カメラからディテクタ (極) までのゴースト光路を抽出。

光線追跡

このレイアウトの情報は、多くの光路が混在していることから、まだ有用ではありません。光路別に光線を分類してソートするには、大量の光線を追跡し、図 9 のように Zemax の光線データベース ファイル (ZRD ファイル) として保存する必要があります。上記と同じフィルタ文字列を使用して、保存する ZRD ファイルのサイズを削減できます。

 

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図 9 逆方向の光線追跡と ZRD の保存。フィルタ文字列を使用してディスク消費量を削減。

ディテクタ ビューアでの ZRD データの確認

光線追跡を実行した後、光路を解析する前に、アイ カメラのディテクタ上 (オブジェクト 30) と太陽のディテクタ上 (オブジェクト 26) で、図 10 のように ZRD の結果を先に確認しておくと効果的です。両方のディテクタ上の画像に、発生すると考えられる迷光光路の情報が示されています。この ZRD データで示されている結果には、図 9 のフィルタ文字列が適用済みです。したがって、この結果には、アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) からディテクタ (極) (オブジェクト 26) までの間に存在するゴースト パワーのみが現れています。また、これらの画像には、迷光のパワー密度が示されていない点に注意が必要です。アイ カメラがどこに迷光を検出したか、どの角度にある太陽によって迷光が発生したかのみがわかります。これらの画像上のピクセルが明るくても、迷光による影響が大きいことを表しているとは限りません。この点は、この連載記事の後半で解析する予定です。

それでも、この結果から導くことができる情報がいくつかあります。アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) 上には、明るい領域のブロックが大まかに見て 2 つあります。レイアウトと比較することで、迷光がフロント ウィンドウ (上側のブロック) とカバー ガラス (下側のブロック) で発生していることがわかります。また、フロント ウィンドウからの迷光は、実際には HUD ボックス自体の画像です。言い換えると、簡単な確認によって、主に次の 2 種類の迷光光路が存在することがわかります。

  • 太陽→カバー ガラス→アイ カメラ
  • 太陽→ HUD →アイ カメラ

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図 10 太陽の逆方向光線追跡によってアイ カメラのディテクタ上とディテクタ (極) 上に得られた画像。

光路解析: 光路のソートと解析

ディテクタに得られる結果の確認のほか、第 1 段階の解析で効果的なテクニックとして、図 11 のように光路解析ツールを使用して、オブジェクトに光線が到達する順序で光路を分類する方法があります。

 

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光路解析の後、図 12 のようにフィルタ文字列「_#」を使用して、レイアウトにある特定の光路の結果のみをディテクタ ビューアに表示できます。なお、ディテクタ ビューアでフィルタ文字列を使用するには ZRD ファイルが必要です。レイアウトでは、ZRD ファイルの有無に関係なくフィルタ文字列を使用できます。

  • ZRD ファイルを使用しない場合は、図 12 (B) のように完全な書式でフィルタ文字列を記述する必要があります。この理由は、ZRD ファイルの光線データには光線追跡プロセスでフィルタが適用済みなので、無視できるフィルタ文字列があるからです。
  • 一方、レイアウトで ZRD データを使用する場合は、図 12 (c) のようにフィルタ文字列のキーワード「{#xxx}」を追加することをお勧めします。これにより、表示される光線の本数が制限されます。

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図 12 フィルタ文字列「_1」を使用すると、光路解析で示された光路 1 を抽出可能。


(A) ディテクタ ビューアでフィルタ文字列を使用するには ZRD データの読み取りが必要。
(B) レイアウトでは ZRD データを使用する必要はないが、フィルタ文字列には、「_#」ではない完全な書式による記述が必要。
(C) ZRD データを読み取ると、フィルタ文字列「{#xxx}」を使用して、レイアウトに表示する光線の本数を削減可能 (xxx はレイアウトに表示する光線の本数)。

各光路の説明

レイアウトとディテクタ ビューアに示された結果を使用して、各光路からの迷光を以下で説明します。この段階では、光路がアイ カメラに発生する強いグレアの原因になっているかどうかは不明です。それでも、迷光がどのような光路から到達しているかを知ることは有用です。

光路 1

これは、多くの文献で論じられているように、最も問題になる迷光光路です。この光路では、平坦なカバー ガラスで太陽光が反射します。この迷光に対する一般的な対策はカバー ガラスの表面を曲面にすることです。これにより、平行光線である太陽光が、アイ ボックスに到達する前にさまざまな方向に発散します。カバー ガラスは薄いので、画像を伝達する法線方向の光路で大きな収差が発生することはありません。

 

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図 13 逆方向光学系における迷光解析の光路 1。

光路 2

この光路では、カバー ガラス、フロント ウィンドウの順で太陽光が反射します。理論上は、この 2 回の反射によって光線の強度が (5%)2 = 0.25% ほど減少します。しかし、元々の太陽光が強いので、運転者から見ると問題は軽減されません。

 

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図 14 逆方向光学系における迷光解析の光路 2。

光路 3

この光路では、フロント ウィンドウ、2 枚のミラーの順でビームが反射します。フロント ウィンドウの反射率は約 5%、2 枚のミラーの反射率は約 95% なので、太陽光によって強いグレアが発生することが考えられます。しかし、この光路ではビームが発散するので、グレアのパワーが軽減される可能性があります。この段階では、この光路で迷光が大きい問題になるかどうかを簡単に知ることはできません。パート 2 では、アイ カメラでとらえた画像を確認する方法について説明します。

 

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図 15 逆方向光学系における迷光解析の光路 3。

光路 4

この光路では、HUD の第 2 ミラーのエッジ、フロント ウィンドウの順で光線が反射します。この問題に対する一般的な対策は、ミラーのエッジを光線が散乱する形状にするか、光を吸収する黒色塗装にすることです。

 

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図 16 逆方向光学系における迷光解析の光路 4。

光路 5

この光路では、第 1 ミラー、フロント ウィンドウ、カバー ガラスの順でビームが反射します。ガラス面での反射を 2 回経ているので、ビームの最終的な輝度は強くない可能性があります。それでも、詳しい調査は必要です。これは、この連載記事の後半で実施する予定です。この光路にはカバー ガラスによる反射があるので、その表面を曲面にすることで迷光の軽減または解消が望めます。

 

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図 17 逆方向光学系における迷光解析の光路 5。

光路 6

これも、よく知られている迷光光路です。この光路には、迷光光路と設計上の結像光路に共通の部分が多数あります。PGU の液晶面とフロント ウィンドウでビームが反射するので、ガラス表面での反射が 2 回あります。しかし、太陽光からアイ ボックスまでの光路にビームが発散する箇所がありません。つまり、太陽光による迷光は、アイ ボックスに到達する時点でも平行光線である可能性が高く、その場合は強いグレアが発生します。この光路の場合も、順方向光線追跡の段階で詳しい解析が必要です。

 

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図 18 逆方向光学系における迷光解析の光路 6。

すべての光路の総合的な検討

図 19 では、すべての光路による迷光をまとめて示しています。光路 6 によるパターンはきわめて弱いので、別途 Log-5 のプロットに示しています。

 

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図 19 ディテクタ (極) で検出したすべての迷光光路。

まとめ

この記事では、逆方向光線追跡プロセスとフィルタ文字列を使用して、HUD 光学系の迷光光路を検出し、検討する方法を紹介しました。

次の記事: 「ヘッド アップ ディスプレイの迷光解析 - パート 2」では、API 解析ツールを使用して、太陽に起因する迷光を視覚化します。

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