ヘッド アップ ディスプレイの迷光解析 - パート 3

この記事では、ヘッド アップ ディスプレイ (HUD) で実施する迷光解析のワークフローについて説明します。この記事は 3 部構成のパート 3 です。 
ヘッド アップディスプレイの迷光解析 - パート 1 
ヘッド アップディスプレイの迷光解析 - パート 2 

Authored By Michael Cheng

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記事の添付資料

はじめに

パート 1 では、画像生成ユニット (PGU) と太陽光による正反射迷光の光路を解析しています。アイ カメラでとらえたシーンと PGU の画像を視覚化するために、そのシーンと簡単なカメラを追加します。太陽光による迷光を効率的にシミュレーションするために、アイ カメラから太陽へ逆方向に光線追跡する方法を検討します。 

パート 2 では、API 解析ツールを導入して、太陽に起因する迷光を視覚化しています。この作業には逆方向光線追跡のプロセスを使用します。 

最後のパート 3 では、機械筐体の CAD モデルを光学系にインポートしています。迷光プロセスを繰り返し、機械筐体での散乱に起因する迷光の経路を解析します。 

この記事のみを読んでもかまいませんが、記事「ヘッドアップ ディスプレイの作業で使用するツールの選択」にも目を通すことをお勧めします。そこでは、この記事で取り上げている光学系を対象として迷光解析を実施しています。 

機械筐体の追加

このセクションでは、CAD ファイルとした HUD 筐体を追加して、この筐体に関連する迷光を検討します。このセクションで使用するファイルは、添付のファイル v2_Step3.zar にあります。図 1 のように、この CAD ファイル (オブジェクト 43) I.95 のコーティングを施したミラーです。これにより、このミラーでは光の 5% が反射します。その結果、この部品で反射光が散乱します。この散乱モデルはシグマを 1 としたガウス モデルに設定されています。 

image001.png 1 5% のガウス散乱を設定した CAD ファイルの追加。

このような散乱は実際の材料の仕様に基づくものではありませんが、実際のデータがない場合の初期解析では、このような散乱を使用します。想定される全散乱パワーが 5% ではない場合は、別のコーティングを定義できます。散乱では、別のシグマ値や、ランバーシアンなどの別のモデルを使用できます。 

 角度に対して均一な散乱の発生を想定できる材料では、ランバーシアン モデルの選択が適切です。 
正反射方向を中心として散乱光が発生する場合は、図 2 のガウス散乱が有用なモデルです。ランバーシアン散乱モデルを使用する場合と、散乱モデルを一切使用しない場合との折衷的な方法として、ガウス モデルを使用できます。 

なお、これらのモデルは近似手法です。最高の正確さを得るには、実測した BSDF データを設計の後期段階で使用する必要があります。 

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2 ガウス散乱

また、散乱モデルを適切にシミュレーションするには、図 3 のように、最大交差数、最大セグメント数、最小光線強度を状況に応じて変更します。 

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3 [各光線の最大交差数] (Maximum Intersections Per Ray) [各光線の最大セグメント数] (Maximum Segments Per Ray) を大きくして[最小相対光線強度] (Minimum Relative Ray Intensity) を小さくした例。

筐体による迷光の散乱 

このパートでは、CAD 筐体による迷光の影響を解析します。したがって、この解析ではフィルタ文字列として「G0 & H26 & H43」を使用します。このフィルタ文字列によって、太陽を表すディテクタ () (H26) に到達するゴースト光線 (G0) CAD 筐体 (H43) に到達するゴースト光線 (G0) のみが選択されます。図 4 は、このようにフィルタ処理した光線を表示したレイアウトと [光線追跡] (Ray Trace) ダイアログです。 

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4 CAD 筐体に到達する迷光光路のみを考慮するためのフィルタ文字列「G0 & H26 & H43」。 

まず、アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 36) である逆方向光源から 1e6 本の光線を追跡します。図 4 のフィルタ文字列を指定して ZRD ファイルを保存します。アイ カメラのディテクタと太陽のディテクタで見た ZRD ファイルの結果を図 5 に示します。 

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5 光源 (オブジェクト 36) から 1e6 本の光線を追跡。これらの光線は、フィルタ文字列「G0 & H26 & H43」とともに ZRD ファイルに保存されます。ZRD ファイルに収めたデータは、アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) と太陽のディテクタ (オブジェクト 26) に表示されます。 

ここでは光線追跡を高速化する工夫を講じています。図 5 の結果から、逆方向光源 (オブジェクト 36) の特定の領域を発した光線のみが、太陽のディテクタ (オブジェクト 26) に到達できていることがわかります。これは、光源がより小型でも同じ結果が得られる可能性があることを示唆しています。この点を効率的にシミュレーションするために、図 6 では光源を 40 x 30 mm から 11 x 22 mm に小型化しています。 

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6 迷光解析の実効領域をすべてカバーできる範囲でオブジェクト 36 に可能な最小矩形サイズ。 

光源 36 を小型化し、1e8 本の解析光線を使用してもう一度光線を追跡します。光線の本数が多いほど、表現力のある結果になります。この ZRD ファイルが保存され、その最終的なサイズは約 12 GB になります。この ZRD ファイルの結果を図 7 に示します。図 7 (b) (c) の相違点は、(b) にはディテクタ ビューアの結果が表示され、(c) にはユーザー解析 sun_straylight_analyzer.exe の結果が表示されていることです。(b) の結果では逆方向光源 (オブジェクト 36) から太陽のディテクタ (オブジェクト 26) までの透過が考慮されず、(c) の結果ではこの透過が考慮されています。なお、(c) の結果では、あらゆる方向からの太陽光が同時に考慮されています。 

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7 (a) 太陽のディテクタ (オブジェクト 26)、(b) アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30)、(c) ユーザー解析 sun_straylight_analyzer の各 ZRD データ。 

次のセクションでは、特定の方向にある太陽に注目します。 
7 (c) の設定は、[光源 #] (Source #) = 36、[ディテクタ () #] (Detector Polar#) = 26、[ディテクタ (矩形) #] (Detector Rect#) = 30、[ZRD データのみ] (Only ZRD data) = チェック、[コーン半角 ()] (Half cone (degree)) = 180 として、他の設定はデフォルトのままです。 
参考までに、ユーザー解析 sun_straylight_analyzer のすべての設定を図 8 に示します。 

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8 ユーザー解析 sun_straylight_analyzer [設定] (Settings) ダイアログ。

アイ カメラと太陽の各ディテクタでの迷光のクロスチェック 

この連載記事の前のパートで取り上げた正反射光路での迷光解析と異なり、散乱性部品があるこの光学系の光路解析では 100 以上の光路を扱っています。これらの光路をすべて解析することは現実的ではありません。この場合は、アイ カメラのディテクタと太陽のディテクタ双方の結果をクロスチェックするほうが効果的です。たとえば、図 9 は、太陽 (ディテクタ () (オブジェクト 26)) の角度によってアイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) 上で迷光の領域がどのように変化するかを示しています。図 9 の下側にある 2 つの図では、フィルタ文字列を使用して、ディテクタ (オブジェクト 30) の指定領域に到達する光線のみを表示しています。どの角度にある太陽が、アイ カメラのディテクタ上の指定領域に最も影響するかを知ることができるので、これは設計で有用な方法です。 

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9 フィルタ文字列を使用して、アイ カメラのディテクタの特定領域に対する効果をディテクタ () 上で確認。 

次の表では、図 9 と図 10 でフィルタ文字列に使用している 4 つのキーワード X_XGT、X_XLT、X_YGT、X_YLT について説明しています。この 4 つのキーワードで、矩形の x 方向と y 方向の上限と下限を指定します。フィルタ文字列の詳細については「迷光解析の紹介 - パート 1」を参照してください。 

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詳しく調べるには、図 10 のようにアイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) の特定領域を対象に光路解析を実行します。この方法は、アイ カメラのディテクタ全体で光路解析を実行するよりも効果的です。どの部品が問題の原因であるかがわかれば、設計段階で適切な対策を講じて問題を解決できます。 

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10 アイ カメラのディテクタ (オブジェクト 30) の特定領域を対象とした光路解析。 

一方、太陽の極角と方位角を指定し、その角度にある太陽によってアイ カメラのディテクタ上に迷光がどのように現れるかを知ることもできます。 
たとえば、図 11 では、極角で 0 10°、方位角で 0 -77°の範囲にある角度を対象としています。 
なお、晴天で太陽光が成す発散角は約 0.25°です。 

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ただし、図 11 ではコーン半角を 2.5°に設定して、アイ カメラのディテクタにより多くの光線が取り込まれるようにしています。これにより、良質な画像が得られます。コーン角が大きいほど、取り込まれる太陽光が多くなるので、アイ カメラのディテクタ上での放射照度が現実からかけ離れた値になることがあります。そこで、[スケール] (Scale) (2.5/0.25)2 = 0.01 に設定してこの偏差を補償します。コーン半角を n 倍にすると、取り込まれるパワーは概略で n2 倍になります。 

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11 太陽光が特定の角度にある状態でアイ カメラのディテクタ上の画像を確認。 

11 では、CAD 筐体で散乱する光によって発生する迷光の放射照度は、最大でも約 0.01 ワット/cm2 にすぎません。シーンと HUD の画像は放射照度が最大で約 1 ワット/cm2 なので (この連載の前のパートを参照)、これに比べると迷光の放射照度は取るに足りません。つまり、5% 未満の反射率で光が散乱する材料を使用した機械筐体であれば、その機械部品に起因する迷光とゴーストは大きな問題になりません。ただし、これらの結果はガウス散乱モデルなどの近似手法にのみ基づいています。解析で実際のデータを使用し、適切な推定を下す必要があります。 

迷光の除去 

この連載記事では、光学系から迷光を除去する対策には触れていません。このような対策は光学系ごとに大きく異なることが考えられるからです。それぞれの光学系で迷光の光路を調査し、対策を検討する必要があります。 
一般的な対策として、直接の光路は変更せずに迷光を機械部品で遮蔽する方法、機械部品を黒色塗装して表面の反射率を下げる方法、表面を粗くして散乱角を大きくする方法などがあります。 
迷光の問題を解決する場合は、以下の各リンクに有用なリソースが用意されています。 

まとめ

この連載記事では HUD 光学系の迷光解析を実施しました。 

  • パート 1 では、HUD 光学系に対する太陽光の影響を解析する逆方向光線追跡手法を紹介しました。正反射の迷光光路の解析にきわめて有用な光路解析ツールについても説明しました。 
  • パート 2 では、ZOS-API によるユーザー解析ツール sun_straylight_analyzer.exe を導入し、太陽によってアイ カメラのディテクタに発生する迷光を視覚化しました。この解析では、逆方向光線追跡プロセスで保存した ZRD ファイルを使用しました。 
  • 最後のパート 3 では、HUD の機械筐体をインポートしました。機械部品による散乱に起因する迷光を解析するための各種手法についても説明しました。 
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