この記事では、OpticStudio 22.1 以降で提供されている 2 つの新機能、[強化されたレイ エイミング] (Enhanced Ray Aiming) と [レイ エイミング ウィザード] (Ray Aiming Wizard) を紹介します。強化されたレイ エイミングは、大幅に機能向上したアルゴリズムにより、これまで以上に高速で安定した設計手法を特に広角な光学系向けに提供します。一方、レイ エイミング ウィザードは、光学系に最適なレイ エイミング オプションの組み合わせを容易に判断できるように設計されています。ここでは、これらのツールの運用条件について説明します。
著者 Michael Cheng
はじめに
レイ エイミングは OpticStudio の機能のひとつであり、絞り面上の任意の座標で光線を正確に追跡できるようにします (「レイ エイミングの使用法」を参照してください)。OpticStudio でレイ エイミングを有効にすると、絞り面に対して指定の入射角または物体高 (Hx、Hy) を成し、さらにその絞り面上で指定の座標 (Px、Py) を占める正確な光線を物空間で容易に探し出すことができます (ヘルプ ファイルの「正規化視野座標」と「正規化瞳座標」を参照してください)。
視野 (FOV) が広い光学系や近軸の前提が成立しない光学系ではレイ エイミングが重要です。光学設計の多くの現場で、日常の作業にこの機能が多用されています。マシン ビジョン、ドローン搭載用監視カメラ、自律走行車両用カメラ、携帯電話のカメラ レンズなどの光学系では、その設計プロセスで光学系の FOV をその物理的限界近くまで広げることが普通です。しかし、このような光学系の最適化では、絞りを通じて入射する正確な光線をソフトウェアで探し出すことが困難になることがあります。新たな強化されたレイ エイミング アルゴリズムは、短い実行時間と高い安定性で、このような最新の光学系を正しく設計する手段を提供します。
同時に、この新しいアルゴリズムには新しいオプションがいくつか用意されていることから、光学系ごとに適切なレイ エイミング設定を判断できるようにレイ エイミング ウィザードが追加されました。
[強化されたレイ エイミング] ( Enhanced Ray Aiming)
OpticStudio 22.1 から、図 1 に示すように、[システム エクスプローラ] (System Explorer) の [レイ エイミング] (Ray Aiming) に新しいオプションが追加されています。OpticStudio 21.3 以降のバージョンでも [ヘルプ] (Help) → [新機能の試行] (Feature Experiments) にてこれらのオプションが用意されていましたが、OpticStudio 22.1 で正式なオプションになりました
図 1: 強化されたレイ エイミングの新しいオプション
[強力なレイ エイミング] (Robust Ray Aiming) での問題点
レイ エイミングでは、いくつかのパターンで問題が発生することがあります。多く見られる事例を図 2 と図 3 に示します。図 2 では、[像面湾曲と歪曲収差] (Field Curvature and Distortion) のプロットに大きなスパイクが見られます。このようなスパイクはレイ エイミング アルゴリズムに起因するものであり、一般的には光学系の不適切な経路で光線を追跡すると現れます。
指定の視野角と瞳座標を持つ有効な光線をレイ エイミング アルゴリズムで見つけることができないと、図 3 に示すようにエラー「[オブジェクトの座標を定めることができません] (Cannot determine object coordinates)」が発生します。評価関数を更新できない場合は、同じようなエラー メッセージである「光線を射出できません (Cannot launch ray)」がポップアップ表示されます。図 3 の 2 つのエラー メッセージは、必ずしもレイ エイミングに問題があることを示していません。ほとんどの場合、指定の視野角と瞳座標を持つ光路が物理的に見つからないことを示しています。
図 2: 像面湾曲と歪曲収差解析でのスパイク
図 3: レイ エイミングの問題を表すエラー
強化されたレイ エイミングの設定
この新しいアルゴリズムの各設定を以下で説明します。各オプションをユーザー側でテストしながら設定する必要はありません。この記事の後半では、使用するオプションを使うかどうかを判断する際に効果的なツールであるレイ エイミング ウィザードを紹介します。
- [強化されたレイ エイミングの使用] (Use Enhanced Ray Aiming) : この新しいアルゴリズムを有効にします。
- [高度な収束を使用] (Use Advanced Convergence) : z 軸を中心とした回転が顕著な場合に使用するオプションですが、他の状況でも有用なことがあります。
- [キャッシュの設定にフォールバック検索を使用] (Use Fallback Search During Cache Setup) : 本来は、特定の軸外し光学系や非球面光学系の修正を目的として実装されたオプションです。問題がない限り、チェックしないことをお勧めします。
- [ステップ数] (Number of Steps) : キャッシュ設定のステップ数を設定します。問題が発生したときに、考えられる修正手段としてステップ数を多くしてみる場合を除き、デフォルト値の使用をお勧めします。一般的に、ステップ数を多くすると安定性は高くなりますが演算には時間を要します。
OpticStudio 22.2 における運用ルール
OpticStudio 22.2 現在でリリースされている強化されたレイ エイミング機能には、いくつかの制限がありますが、今後の開発で更新される可能性もあります。
- 従来の強力なレイ エイミングと強化されたレイ エイミングを同時に使用することはできません。最初は必ず強化されたレイ エイミングを使用し、十分な結果が得られない場合にのみ強力なレイ エイミングを試すことをお勧めします。当社の検証によれば、強力なレイ エイミングが効果的な光学系であれば、強化されたレイ エイミングも効果的なためです。
- システム アパチャーを必ず [絞り面半径による定義] (Float By Stop Size)、[入射瞳径] (Entrance Pupil Diameter)、[像空間 F/#] (Image Space F/#) のいずれかで設定してください。他のタイプのアパチャーを使用すると、強化されたレイ エイミングは使用できますが、図 4 の警告メッセージが表示されます。
- 視野タイプと物体距離は以下のセットで設定します。他の組み合わせを使用すると、強化されたレイエイミングは使用できますが、図 4 の警告メッセージが表示されます。
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- 無限の物体距離 + 角度
- 無限の物体距離 + セオドライト角度
- 有限の物体距離 + 光線の角度が 90°未満になる物体高
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図 4: 未検証の条件下で、強化されたレイ エイミングを使用したときに表示される警告
デモ
強化されたレイ エイミングの能力を示す簡単な方法として、組み込みのサンプルファイルを使用する方法があります。
- "Zemax フォルダ \Samples\Sequential\Objects\Wide angle lens 200 degree field.zos” を開きます。
- 最大の視野を 5°大きくします。これによってエラー [オブジェクトの座標を定めることができません] (Cannot determine object coordinates! ) が表示されます。普通、これは 105°の角度で絞りの中央に到達する主光線が物空間で物理的に存在し得ないことを示しています。しかし、この光学系には実際の主光線が存在します。強力なレイ エイミングではそれを見つけることができなかったということです。
- [強力なレイ エイミング] (Robust Ray Aiming) のチェックを外し、[強化されたレイ エイミングの使用] (Use Enhanced Ray Aiming) をチェックします。光学系を更新すると、問題が解決されたように見えます
- しかし、[高度な収束を使用] (Use Advanced Convergence) をチェックすると、追跡されていない光線が多数あることがわかります。この光学系で最良の結果を得るには、[強化されたレイ エイミングの使用] (Enhanced Ray Aiming) と [高度な収束を使用] (Use Advanced Convergence) の両方をチェックする必要があります。
[レイ エイミング ウィザード] (Ray Aiming Wizard)
OpticStudio 22.1 では、強化されたレイ エイミングと並んでレイ エイミング ウィザードが用意されていて、各光学系でどのレイ エイミング設定を使用できるかを容易に判断できるようになっています。このウィザードでは次の各オプションの推奨設定を表示します。
- [レイ エイミング] (Ray Aiming) の方法: [なし] (None)、[近軸] (Paraxial)、[実光線] (Real)
- [強化されたレイ エイミングの使用] (Use Enhanced Ray Aiming): [オン] (On)、[オフ] (Off)
- [キャッシュの設定にフォールバック検索を使用] (Use Fallback Search During Cache Setup): [オン] (On)、[オフ] (Off)
- [高度な収束を使用] (Use Advanced Convergence): [オン] (On)、[オフ] (Off)
- [ステップ数] (Number of Steps): 10、50、250
レイ エイミング ウィザードの使用
現在は正式な機能として搭載されていますが、 OpticStudio 22.1 のレイ エイミング ウィザードは実験段階の機能でした。22.1 の場合は、有効にするには図 5 のように [ヘルプ] (Help) → [新機能の試行] (Feature Experiments) でオプションをオンにする必要があります。新機能の試行のフラグをオンにすると、図 6 のようにシステム エクスプローラからレイ エイミング ウィザードを使用できるようになります。
図 5: [新機能の試行] (Feature Experiments) で [レイ エイミング ウィザード] (Ray Aiming Wizard) をオン(OpticStudio 22.1 のみ)
図 6: システム エクスプローラの [レイ エイミング ウィザード] (Ray Aiming Wizard)
レイ エイミング ウィザード レポートの読み方
レイ エイミング ウィザードを実行するとテキストによるレポートが生成されます。図 7 のように、このレポートには 4 つの主要セクションがあります。
- 光学系に関する基本的な情報。
- レイ エイミングの推奨設定があればその設定。光学系の動作を解決できるレイ エイミング設定の組み合わせがない場合は、推奨設定が見つからないことがあります。
- ウィザードによって光学系がどのようにテストされ、推奨設定がどのようにして見つかったかの説明。
- 上記のセクションに記述されている各判断で使用された生データ。設定が決まるたびに、その判断で使用された設定がすべて記録されます。
図 7: レイ エイミング ウィザードで生成されたテキスト レポート
OpticStudio 22.2 における運用ルール
OpticStudio 22.2 現在、すべてのタイプのシステム アパチャーと視野で、強化されたレイ エイミング アルゴリズムで使用できるわけではありません。強化されたレイ エイミングがこれまでは対応していなかった光学系条件であっても、強化されたレイ エイミングで光学系の動作を改善できるとレイ エイミング ウィザードで判断されることが考えられます。その場合は、図 8 のようにエラー [強化されたレイ エイミングを使用すると結果が正しくない可能性があるため、推奨設定を表記しません。] (Cannot issue a recommendation because results using Enhanced Ray Aiming may be incorrect) がレポートに表示されます。
図 8: 強化されたレイ エイミングが対応していない光学系では、レイ エイミング ウィザードによる推奨設定の判断が不可能
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まとめ
この記事では、OpticStudio 22.1 に用意された 2 つの新機能である、強化されたレイ エイミングとレイ エイミング ウィザードの概要を紹介しました。強化されたレイ エイミングを使用すると、実行速度と安定性が向上したアルゴリズムにより、これまで以上に高度な光学系を設計できます。レイ エイミング ウィザードを使用すると、光学系に適したレイ エイミング オプションの設定を判断できます。
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