航空宇宙業界では、宇宙空間で使用する光学系ソリューションとして、低コストで簡単に製造できる CubeSat (小型衛星、キューブサット) への注目が高まっています。従来よりも小型で低価格の様々な衛星を製造して、宇宙空間向けの製品をラインアップとして開発するという、これまでにない機会が到来しています。
CubeSat の光学系を製造する企業には、光学系と、それを支持、収納する光学機械系を設計し、軌道上で受ける構造的および熱的な影響をモデル化するための、正確で信頼できる開発手法が必要になります。この連載記事では、Zemax と Ansys のソフトウェア スイートを活用した、高度な CubeSat システム開発の概要を、その手順を追いながら解説します。統合ソフトウェア ツールセットが設計と解析をどれほど効率化するのか、そのメリットを紹介します。
Authored By Jordan Teich
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はじめに
地球の低、中、高軌道で動作する光学系は、数十年にわたり開発されてきました。これまで、それらの光学系、筐体の寸法形状、そこから決まる光学機械系の多くは、システムごとに個別に設計されていました。CubeSat は、レーザー通信から地球撮像まで、幅広い用途の光学系を搭載できる軽量の小型衛星の種類です。CubeSat の最大の特徴の一つが、寸法と形状が標準化されていることです。
この特集では、CubeSat の光学系開発について書かれた論文『Optical Design of a Reflecting Telescope for CubeSat1』を参考としました。
連載のパート 1 では、CubeSat の標準化された寸法形状と、OpticStudio のシーケンシャル モードで CubeSat 光学系を構築する際の前提について詳述します。
CubeSat 設計の前提
CubeSat の寸法形状は、元々、カリフォルニア ポリテクニック州立大学とスタンフォード大学の宇宙システム開発研究所 (SSDL)2 が共同研究のために作成した規格に基づいています。
標準 CubeSat システムの構成要素は 1U 「1 ユニット」単位で数えられ、その寸法は 10 x 10 x 10 cm です。1U の CubeSat が基本的な寸法ですが、1U の構成要素を追加することで、より大きな寸法形状の衛星も構築できます。NASA による次の図は、標準化された CubeSat の寸法形状を示したものです
図 1: 標準化された CubeSat の寸法形状 (NASA による)3
この連載記事で取り上げる CubeSat の光学系は、リッチー・クレアン式の分割型軸外し反射望遠鏡です。設計は、標準化された 3U の CubeSat 寸法形状、つまり 10 cm x 10 cm x 30 cm に収納することを目標とします。視野を最大化するために、矩形の双曲面鏡 2 つから構成されます。主鏡と副鏡の寸法は、それぞれ 80 mm x 80 mm と 41 mm x 24 mm です。
この設計は、700 km の低地球軌道 (LEO) から高解像度で地球を撮影することを目的としています。有効焦点距離は 685 mm で、可視光スペクトルで動作するように設計します。主波長における地上の分解距離は 9.11 m です。つまり、地上でこの距離だけ離れた 2 つの物体を見分けられる写真を撮影するということです。地上分解距離 (GRD) は、次の式で計算できます。
OpticStudio で設計する際は、CubeSat が室温で動作することを想定しますが、軌道上での動作温度は 15 ± 3℃ になるものと予想されます。この光学系のディテクタは、1280 x 800 ピクセルのアクティブ アレイで、各ピクセルのサイズは 3 um x 3 um です。したがって撮像領域の全面積として 3.84 mm x 2.4 mm をカバーできます。
この設計の主な性能指標は、すべての視野点で回折限界のスポット サイズが得られ、80 サイクル/mm の MTF として 0.25 を実現することです。これらの指標は、上記の光学系設計の参考とした論文に記載された値です。
シーケンシャル モードによる光学系の設計
設計プロセスの最初の段階として、光学系をシーケンシャル モードでモデル化しました。設計データに基づいてシステム エクスプローラでグローバル システム パラメータを設定し、レンズ データ エディタに適切な仕様で光学系を入力しました。
図 2: 初期の光学設計データ
最終設計では、アパチャーが矩形となるミラーを使用しますが、設計の第 1 段階のミラーは円形のままにしました。ミラーを円形のままにするのは、設計開始早々の最適化に対して過剰な制約が課されないようにするためです。両方のミラーを軸外に配置するために、グローバル光軸を基準として 2 つのミラーをディセンタしました。このため、光線が正しい位置に合焦しても、像面は光線からオフセットしています。この段階では、像面は主鏡の上側に位置し、座標系のグローバル光軸に位置合わせされています。
図 3: 不適切な像面の位置
像面を適切な位置に移動するために、座標ブレーク面によりディセンタする必要があります。このディセンタは、座標ブレーク面の [Y ディセンタ] (Decenter Y) パラメータに主光線ソルブを適用することで設定しました。主光線ソルブは、座標ブレーク面が実主光線に整列されるように、[Y ディセンタ] (Decenter Y) の値を調整します。座標ブレーク面が主光線に整列されたので、像面が適切な位置に配置されました。
図 4: 主光線ソルブ
基本的なレイアウトが完成したので、最適化を開始できます。光学系の F/# 12.455 を保つために、目標を 685 mm にした EFFL オペランドを評価関数に設定し、これに RMS スポット サイズのデフォルト評価関数を組み合わせて使用しました。複数回の最適化を実行し、各面の曲率半径と厚みを繰り返し最適化しました。CubeSat システムでは格納スペースが限られているため、光学系のトータル トラック長と光線が遮蔽される恐れのある領域について、細心の注意を払う必要があります。光学系に割り当てられるスペースは 2U であるため、設計のトータル トラック長は 19.5 cm になります。残りの 1U のスペースは、システムの電子回路に割り当てられます。トータル トラック長は、評価関数で絞り (STOP) と像面の間に厚み (TTHI) オペランドを使用することで監視できます。
設計が 3U の CubeSat の寸法制約を満たし、最適化後に予想どおりの性能が得られることを確認したので、ミラーを矩形にするための調整を行いました。各ミラーについて、[オブジェクト プロパティ] (Object Properties) のアパチャー設定で、適切な形状に変更しました。
図 5: 矩形アパチャー
目的とする寸法になるように各ミラーの [X 半幅] (X Half Width) と [Y 半幅] (Y Half Width) を調整すると同時に、[アパチャーの Y ディセンタ] (Aperture Y-Decenter) を使用して光学系をさらにディセンタします。入射ビームを漏れなく収集できるように、各ミラーをディセンタしました。
アパチャー設定の調整後、入射光束の一部が副鏡によって蹴られることが判明しました。この問題は、副鏡のアパチャーをさらにディセンタすることで改善しました。調整後、フットプリント ダイアグラムを使用して、ビームのフットプリント全体が光学系の重要な面のすべてに到達していることを検証しました。
図 6: ビームの蹴られ
図 7: ミラー 1 (左) とミラー 2 (右) のフットプリント ダイアグラム
この段階で、光学系は 3U の CubeSat 寸法形状に収まるように、OpticStudio で配置、最適化、調整されました。以下のスポット サイズおよび MTF の性能が得られました。
図 8: 公称光学系の性能
スポット サイズは、すべての視野点で回折限界にあり、MTF は 80 サイクル/mm で 0.25 という仕様を満たしています。光学性能が要件を満たしているので、基本モデルの最終調整としてミラーの厚みを増やしました。ミラーを現在の 5 mm という薄さのままにしておくと、この後、光学系全体に温度条件を適用した際に問題が生じる恐れがあったからです。[オブジェクト プロパティ] (Object Properties) メニューの [描画] (Draw) タブで、主鏡と副鏡の厚みをそれぞれ 18 mm と 15 mm に調整しました。
まとめ
この記事では、CubeSat の概要と CubeSat 光学系の開発に付いて回る、標準化された寸法形状について説明しました。さらに、CubeSat の光学系設計に伴う前提や、この後の連載記事でさらに拡張する 3U CubeSat の望遠鏡の仕様について述べました。次に、OpticStudio のシーケンシャル モードで CubeSat 望遠鏡を作成する設計プロセス例を、段階を追って紹介しました。
謝辞
この連載記事で取り上げる設計候補の選定においてご協力いただいた、アリゾナ大学の Trenton Brendel 氏に感謝いたします。
参考資料
- Jin H, Lim J, Kim Y, Kim S. Optical Design of a Reflecting Telescope for CubeSat. J Opt Soc Korea. 2013;17(6):533-537. doi:10.3807/josk.2013.17.6.533
- About — CubeSat. CubeSat. https://www.cubesat.org/about. Accessed February 13, 2022.
- Mabrouk E. Cubesat Form Factors.; 2015. https://www.nasa.gov/content/what-are-smallsats-and-cubesats. Accessed February 13, 2022.
Next article: CubeSat 構想から実装まで (パート 2): Ansys Zemax ソフトウェア による CubeSat システムの開発
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