OpticStudioでの現実的な波長板のモデル化および設計方法

この記事では、OpticStudioを使用して現実的な単色波長板とアクロマティック波長板のモデル化および設計方法を解説します。複屈折材料の使用方法、リターダンス計算のための評価関数の作成方法、波長板の厚みに対するリターダンスの変化を視覚化するためのユニバーサルプロットの使用方法を紹介します。

著者 : Takashi Matsumoto

Downloads

Article attachments

複屈折材料と波長板

一般的な波長板のほとんどが、材料の複屈折性を利用しています。複屈折性とは、偏光状態や光の伝搬方向に応じて材料の屈折率が変化することを意味します。さまざまな種類の複屈折材料が存在しますが、波長板に使用されるのは一軸性結晶の材料です。この種の材料は、互いに直交する2つの固定された屈折軸を持ち、一方の軸は結晶の光学軸に一致します。一般的に、波は2つの偏光成分から構成されます。これらの成分は、異なる屈折率の影響を受けます。
1の屈折率は結晶の光学軸方向に平行で、第2の屈折率は第1の軸に直交します。

Fig1.png

図1. 複屈折材料と光線の経路の図
(https://www.microscopyu.com/techniques/polarized-light/principles-of-birefringence )

これら2つの軸は、速い(位相が進む)軸「進相軸」と遅い(位相が遅れる)軸「遅相軸」と呼ばれ、屈折率の値は「常」屈折率と「異常」屈折率と呼ばれます。進相軸は屈折率が小さく、光の位相速度が軸に直交する方向に比べて速くなります。
一般的に、完全に偏光した光は、2つの偏光成分からなると見なせます。これらの成分は、異なる屈折率の影響を受けます。材料と偏光の特性により、入射した偏光は材料内を伝搬する間に進相軸と遅相軸に分離します。
波長板を作成するには、複屈折材料を平板状に切り出します。その際、結晶の光学軸が平板表面に平行になるように切断方向を選びます。

たとえば、垂直方向の直線偏光が、進相軸に対して45度の角度で波長板に入射する場合を考えます。光は波長板を通して伝搬し、偏光成分が「進相」と「遅相」の軸に分離します。これら2つの成分には、異なる速度で位相が累積されていきます。光線間の位相差を「リターダンス」と呼びます(2)。
以上が、複屈折波長板の基本原理です。

300px-Polarization_change_in_uniaxial_crystal.gif
2.複屈折物質の半波長板内の偏光の様子
(https://en.wikipedia.org/wiki/Waveplate#Quarter-wave_plate)

単色での4分の1波長板の計算

単色波長板を設計するには、前述の理論を理解する必要があります。
たとえば、4分の1波長板は、光の2つの偏光成分の間に1/4波長の差を発生させます。4分の1波長板を設計するために、平行平板の厚み(t)を計算するには次式を使用します

\(\left ( m+\frac{1}{4}\right )\ast \lambda = t \ast \left ( n_{e}\left ( \lambda \right ) -n_{o}\left ( \lambda \right )\right )\)

ここで、各パラメータは以下の通りです。

  • m:波長板の次数
  • λ:波長
  • t:複屈折材料の平行平板の厚み
  • neおよびno:異常屈折率および常屈折率

OpticStudioの"Birefringent"カタログには一般的な複屈折材料が収録されています。この材料カタログを使用するには、システムエクスプローラの[材質カタログ](Material Catalog)タブで適切なカタログを選択します(3)

Fig3.png
3.システムエクスプローラの[材質カタログ](Material Catalog)タブ

ここでは、"QUARTZ"を使用します。この材料は一般的な結晶質シリカを意味し、「水晶」と呼ばれます。「進相軸」の方向は[QUARTZ]で、「遅相軸」の方向は[QUARTZ-E]定義されています。

屈折率は、OpticStudioの分散ダイアグラムで確認できます。

Fig4.png
4.OpticStudioの分散ダイアグラム

この機能は、図5に示すように、波長に対する屈折率のリストとグラフを表示します。

Fig5.png5."QUARTZ"および"QUARTZ-E"[分散ダイアグラム](Dispersion Diagram)

[ガラス1](Glass1)に[QUARTZ]、[ガラス2](Glass 2)に[QUARTZ-E]を設定して、図5のように値を確認します。
この例では、波長0.5 µmにおいてno = 1.5487281とno = 1.5579932が得られています。
石英板の最小厚みは前式から計算でき、その値はt = 13.491 µmになります。

単色での4分の1波長板のモデル化

つづいて、OpticStudioで、この波長板をモデル化してみましょう。この記事には、"Monochromatic-wave-plate.ZAR"という名前のサンプルファイルが添付されています。
このファイルでは、材料を”QUARTZ、結晶の光学軸をX方向に設定しています。光はZ軸に沿って伝搬し、波長は0.5 µmです。
まず、入射光線の偏光状態を設定します。システムエクスプローラの[偏光](Polarization)タブで、[非偏光計算](Unpolarized)のチェックを外します。さらに、入射光線が完全な右円偏光になるように偏光状態を設定します(6)

Fig6.png
6.システムエクスプローラの偏光の設定

[X方向位相](X-Phase)は、ジョーンズベクトルの位相角を度単位で表した値です。X方向の電界波面の位相遅れを示しています。観測者が振り返って入射光線を見ると、電界の振幅がはじめはY方向に現れ、その後X方向に現れます。
このような偏光状態は「右偏光」と呼ばれます。電界のエネルギー(電界の振幅)が観測者から見て時計回りに回転するからです。OpticStudioで完全な円偏光を表すには、JxとJyの値を等しくして、位相差を90度に設定する必要があります。

OpticStudioで複屈折材料をモデル化するには、[複屈折入射](Birefringent In)面と[複屈折射出](Birefringent Out)面を使用します。[複屈折入射](Birefringent In)面にはXYZ方向余弦やモードの、多くの重要なパラメータがあります。

  • X、Y、Z方向余弦パラメータ:結晶の光学軸を定義します。通常、波長板は結晶の光学軸に平行な平坦面を持ちます。しかし、一般的な光学部品にはそのような直交性はないため、これらのパラメータが用意されています。
  • モードパラメータ:計算方法と光線の描画方法を定義します。
    • 値が0または1の場合、OpticStudioは常光線または異常光線のいずれか一方のみを追跡します。
    • 値が2または3の場合、OpticStudioは常光線または異常光線を追跡し、光線の偏光状態を両者の偏光状態の合計として計算します。
      これらのモードは、常光線と異常光線が1つのビームを形成する場合に使用し、波長板は、まさにこれに相当します。

Fig7.png
7.[複屈折入射](Birefringent In)のモード23に関するヘルプファイルの説明

モードを2または3に設定します。

以上で、入射光線を右偏光に設定し、X方向の位相が90度遅れるような偏光状態を定義しました。単色波長板は、X方向に平行な進相軸を持つ、最も薄い条件で設計できます。それには、面1の後ろに面を2つ挿入し、面2[複屈折入射](Birefringent In)、面3[複屈折射出](Birefringent Out)に設定します。

  • X、Y、Z方向余弦パラメータを"1, 0, 0"に設定します。
  • モードを2に設定します。
  • 材料を[QUARTZ]に設定し、面2の厚みとして「0.013491」を入力します。
    この値は、前述の計算結果です。
  • 1と面3の厚みは、視覚化のために0.1に設定します

その他の設定のほとんどは、デフォルト設定を使用します。アパチャータイプは[入射瞳径](Entrance Pupil Diameter)[アパチャー値](Aperture Value)0.1です。[波長1](Wavelength 1)"0.5"です。図8に、これらの条件を設定したレンズデータエディタ、3Dレイアウト、偏光瞳マップを示します。

Fig8.png8.OpticStudioのサンプルモデル

偏光瞳マップを見ると、右円偏光が直線偏光に変化していることがわかります。これは、評価関数でCODAオペランドを使用することで確認できます。

CODAオペランドの説明は、ヘルプファイルに記載されています。CODAは、光線のリターダンス、つまり位相差を計算できます。

Fig9.png9.CODAオペランドに関するヘルプファイルの説明

10に、評価関数の値を示します。結果は予想どおり、ほぼ0です。
ここで、コメントをひとつ。波長板の厚みは、前述の式による計算ではなく、最適化によって決定することもできました。それには、CODAオペランドの重みを1に設定して、面2の厚みを変数にします。

その他にも、ユニバーサルプロット1Dを使用して、面2の厚みに対するリターダンスの変化を観察すると、興味深い結果が得られます。

Fig10.png10.評価関数とユニバーサルプロットの結果

10では、CODAオペランドが-πからπの間の値を返しています。

次に、波長板によって生じる光路差を計算する方法を考えてみましょう。OpticStudioには光路を計算するオペランドOPTHがあります。OPTHは、面の光路を計算します。しかし、各面には等方性/均質の材料を設定する必要があります。

したがって、今回の例の場合、マルチコンフィグレーションエディタを使用して、[複屈折入射](Birefringent In)[複屈折射出](Birefringent Out)面を[標準](Standard)面に変更し、それらの面に材料を設定します。サンプルファイルではConfig 2の材料を[QUARTZ]、Config 3の材料を[QUARTZ-E]に設定しています。面タイプを変更するマルチコンフィグレーションオペランドは存在しないため、元の面を無視するマルチコンフィグレーションオペランドIGNRを使用します。

Fig11.png11. マルチコンフィグレーションエディタ、ユニバーサルプロット、評価関数

マルチコンフィグレーションエディタのConfig 1は波長板の設定、Config 2は常屈折率による位相の計算、Config 3は異常屈折率による位相の計算に使用します。
メリットファンクションエディタでは、CONFオペランドでコンフィグレーションを変更し、OPTHオペランドで位相を計算します。評価関数を読んでみましょう。

  • 6と行9の値は、常屈折率および異常屈折率の光路をレンズユニット(この例ではmm単位)で表したものです。
  • 7と行10の値は波数です。
  • 12の値は、行7と行10の値の差です。
  • 17の値は、行12の値をラジアン単位で表したものです。

最後に:
リターダンスを計算するには、評価関数の行3の重みを1.0、行17の重みを0.0に設定します。
波長板内の光路差を計算するには、評価関数の行3の重みを0.0、行17の重みを1.0に設定します。

アクロマティック4分の1波長板のモデル化

次に、広帯域の光源で使用するアクロマティック波長板をモデル化してみましょう。この記事には、"Achromatic-wave-plate.ZAR"という名前のサンプルファイルが添付されています。
アクロマティック波長板はアクロマティックレンズに似たものと考えることができます。つまり、異なる材料からなる複数の波長板を組み合わせて色分散を打ち消します。たとえば、https://www.thorlabs.com/newgrouppage9.cfm?objectgroup_id=854には、アクロマティック波長板の材料として「石英」や「フッ化マグネシウム」が掲載されています。OpticStudio[BIREFRINGENT](BIREFRINGENT)カタログにも[QUARTZ](石英)[MgF2](フッ化マグネシウム)が収録されています。

モデルには、これらの材料を使用した[複屈折入射](Birefringent In)面と[複屈折射出](Birefringent Out)面の組み合わせを2セット使用することになるでしょう。2セットの複屈折材料の結晶(光学)軸は直交させます。たとえば、前の波長板の結晶(光学)軸がX方向である場合、後ろの波長板の結晶(光学)軸はY方向を向きます。これは、色分散の効果を効率的に使用するためです。

今回のサンプルファイルは、0.5 µm0.7 µmのアクロマティック4分の1波長板をモデル化しています。前のモデルと同様に、入射光線は右円偏光です(12)。

Fig12.png12.アクロマティック波長板のモデル

光学系のレイアウトを図12に示します。図8と比べると、[複屈折入射](Birefringent In)[複屈折射出](Birefringent Out)面が、新たに1セット追加されていることがわかります。一連の波長板を通して伝搬する光のXおよびY方向の光路長は次式で計算できます。

\( X\left ( \lambda \right ) : n_{1o} \left ( \lambda \right )t_{1} + n_{2e}\left ( \lambda \right )t_{2} \)

\( Y\left ( \lambda \right ) : n_{1e} \left ( \lambda \right )t_{1} + n_{2o}\left ( \lambda \right )t_{2} \)

ここで、

  • n1on2o:1の波長板および第2の波長板の常屈折率
  • n1e と n2e:1の波長板および第2の波長板の異常屈折率
  • t1 と t2:1の波長板および第2の波長板の厚み
  • λ:波長

これらの式では、屈折率が波長の関数であるため、色分散が最小になる波長板の厚みを最適化によって計算できます。
CODAオペランドを使用することで、さまざまな波長におけるリターダンスを計算できます。この光学系を設計するための評価関数は、リターダンスの二乗和に等しくなります。
波長板の厚みを制御するには、TTHIオペランドを使用します。
この評価関数最適化は、この式の値を最小化することを意味します。

\( \sum_{i=0}^{n}\left ( X \left ( \lambda _{n} \right ) + 0.25 \lambda _{n} -Y \left ( \lambda _{n} \right ) \right )^{2} \)

最適解を求めるには、局所的な最小値に陥らないように「現在の評価関数をハンマー最適化」を使用する必要があります。面2と面4の厚みを変数に設定します。最適化後の結果を図13に示します。

Fig13.png13.最適化後の結果

13を見ると、評価関数がゼロに近い値を示し、偏光瞳マップでは円偏光が直線偏光に変化していることを確認できます。
つづいて、ユニバーサルプロット2Dを使用して、2つの波長板の厚みとリターダンスの間の関係を確認します。
それには、TTHIオペランドの重みを0に変更します。このオペランドはリターダンスに関係しないからです。結果を図14に示します。

Fig14.png14.評価関数のユニバーサルプロット

プロットによると、厚みの差が、ある一定値の場合に、リターダンスが最小になるように見えます。
これは、アクロマティック波長板においては、波長板全体の厚みではなく、2つの波長板の厚みの差が重要であることを示唆しています。図15に、厚みの最適範囲がより明確にわかるように倍率を変更したプロットを示します。

Fig15.png15.最大値を0.3に設定した評価関数のユニバーサルプロット

まとめ

この記事では、OpticStudioを使用して現実的な波長板のモデル化および設計方法を解説しました。波長板の設計の完了後は、その性能を評価関数で評価し、ユニバーサルプロットで視覚化する方法も紹介しました。

参考文献

偏光: Investigating OpticStudio’s polarization features: https://support.zemax.com/hc/en-us/articles/1500005486441
ユニバーサルプロット:チュートリアル 5:パラメータの視覚化 : https://support.zemax.com/hc/ja/articles/1500005578542
マルチコンフィグレーション:補償光学系をモデル化する方法 : https://support.zemax.com/hc/ja/articles/1500005488241
複屈折: 
How to design birefringent polarizers: https://support.zemax.com/hc/en-us/articles/1500005486841
What does selecting a mode flag on a "Birefringent In" surface do?: https://community.zemax.com/got-a-question-7/what-does-selecting-a-mode-flag-on-a-birefringent-in-surface-do-655 

この記事は役に立ちましたか?
2人中2人がこの記事が役に立ったと言っています

コメント

0件のコメント

サインインしてコメントを残してください。