高出力レーザーは、レーザー溶断、溶接、ドリルなど、さまざまな用途に広く使われています。光学系によるレーザー光吸収の効果は無視できません。このような光学系の性能は、高出力レーザーからの熱によって劣化します。その原因は、レンズ材料によるバルク吸収か、コーティングによる表面吸収のいずれかです。安定した焦点距離とレーザー ビームのサイズと品質を保証するには、こうした熱の効果をモデル化する必要があります。5 つの記事からなる本シリーズでは、レーザーによる加熱の効果をシミュレートします。レンズ材料の温度上昇による屈折率の変化や、機械的応力や熱弾性効果によって生じる構造的な変位の効果を検討します。
著者 : Julia Zhang、Hui Chen、Steven La Cava、Chris Normanshire
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光学機械設計と解析
光学部品の設計が完了したので、次は、これらを取り付けるマウントや収納する筐体の機械的構造を構築する必要があります。機械部品の作成と、それらをさらに解析するために OpticStudio にインポートする方法には、いずれも多数のオプションが用意されています。
機械部品の作成
- OpticsBuilder for Creo では、必要な機械部品の作成だけでなく、光学系を伝搬する光線にそれらの部品が与える影響も評価できます。気になる特定の光線の経路を調べたり、光源やディテクタを追加したりする作業を、すべて CAD 環境を離れずに行えます。完成した全光学系を OpticStudio に戻すのも簡単です。
- 光学部品を STEP ファイルなどを介して別の CAD パッケージにインポートし、そこでそれらを取り巻く機械構造を設計する方法もありますが、データ転送の容易性や設計に関する洞察など OpticsBuilder が提供する恩恵は得られません。
OpticStudio へのインポート
- ダイナミック CAD リンクによる方法 . : OpticStudio Premium がサポートする CAD パッケージで設計した機械構造ならば、ネイティブ CAD 部品として OpticStudio にインポートできます。それらの部品に関連付けられたスケッチ パラメータも編集可能な形でインポートされます。
- STEP または IGES などの標準 CAD フォーマットによる方法 : OpticStudio がサポートしていない CAD プラットフォームを使用する場合の代替手段としては、STEP または IGES ファイルをお薦めします。これらのファイルは、ほとんどの CAD プラットフォームで生成およびインポートできます。ただし、これらのファイルはパラメータ渡しに非対応で、部品のスケッチ パラメータも編集できません。
OpticsBuilder とダイナミック CAD リンクの組み合わせが最も強力であり、今回はその手法を紹介します。上記の、それ以外のオプションのいずれでも、STOP解析のワークフロー (本シリーズの他の記事で解説) に沿った作業は可能ですが、スピードと効率が犠牲になります。
OpticsBuilder への光学系の転送
OpticStudio で Lens-3P_D25.4_NONSEQ.ZAR を開き、[ファイル] (File) → [OpticsBuilder 向け前処理] (Prepare for OpticsBuilder) をクリックします。
ポップアップ ウィンドウで必要なオプションを選択します。光学系の諸パラメータを編集可能にするには、[読み取り専用 ?] (Read only?) のチェックを外します。スポット サイズ、画像のコンタミ、光線の蹴られなどの指標に対する基準を設定したうえで、[準備] (Prepare) をクリックします。これによって、.ZBD ファイルが生成されます。このファイルは、OpticStudio と OpticsBuilder 間でデータをやり取りする媒体になります。
OpticsBuilder がインストールされた CAD プラットフォームを開きます。この例では Creo です。
[OpticsBuilder] タブの [ZBD ファイル インポート] (Import .ZBD File) をクリックして、インポートするファイルを選択し、参照形状を生成します。これによって、CAD 部品を光学部品と一致させることができます。
アセンブリ ウィンドウの [OpticsBuilder] タブで光学部品を右クリックすると、各部品のデータ一覧が表示されます。機械エンジニアは、この方法で各光学部品の仕様 (曲率、半径など) を確認できます。この情報は、光学系を収納する筐体部品の構築に必要です。注意 : OpticsBuilder を使用しない場合、これらの情報は別のファイルで共有するか、STEP ファイルで得られる限られた情報を抽出して使用する必要があります。
レンズ筐体の作成
つづいて、他のプロジェクトと同様の方法で、CAD 部品のスケッチを作成し、スケッチ内のパラメータにより部品間の拡大縮小可能な関係性を定義します。
それらのスケッチを元に、回転、押し出しなどのツールを使用してソリッド部品を作成します。下図は、スケッチを中心軸の周りに回転して作成したソリッド部品の例です。
作成する各部品についてこの作業を繰り返し、その後、ZBD ファイルから作成したアセンブリ ファイルを再度開きます。作成した CAD 部品を挿入し、光学部品や CAD 部品同士を一致させます。
OpticsBuilder のサンプル ファイル フォルダ (\Documents\Zemax\Samples\OpticsBuilderCreo\Laser Induced Thermal Lensing Effect) には、こうして完成したアセンブリの例が保存されています。
OpticsBuilder による解析
OpticsBuilder を使用することで、機械エンジニアは光学部品と CAD 部品双方の間の相互作用を含む光線追跡を、CAD 環境を離れずに実行できます。光線は、さまざまな基準に基づいてフィルタ処理または色分けできるため、問題を特定しやすくなります。下図の例の青い光線は光学系を通過したもの、赤い光線は CAD 部品または光学部品によって蹴られたものを表します。
学機械系の挙動を評価する、もう 1 つの重要なステップが、主要光学指標に基づく性能の確認です。確認結果は、シミュレーションの実行後に結果パネルとしてわかりやすく表示されます。パネルには、[OpticsBuilder 向け前処理] (Prepare for OpticsBuilder) ツールで指定した基準を満たしているか、違反しているかに応じて、緑色のチェック マークまたは赤色のバーが表示されます。この結果から、機械エンジニアは光学系に重大な問題がないかどうかを、すばやく確認できます。OpticsBuilder を使用するもう 1 つのメリットとして、光学系にディテクタを表示する機能や、OpticStudio に戻らずに光学系に新しい光源とディテクタを配置する機能があります。機械エンジニアは、この機能により、自分が設計した機械部品が光学系に与える影響を把握でき、光学エンジニアに戻して行う、設計反復の回数を減らせます。
上図の [ディテクタ ビューア] (Detector Viewer) パネルを見ると、CAD 部品なしの場合 (左の図) と、ありの場合 (右の図) でスポット サイズが同じであることを確認できます。他の出力データとして、RMS スポット サイズ、ディテクタに到達した光線 (ヒット) の総数、ピーク放射照度、総パワーが表示されています。この例では、10,000 光線を発射したものの、ディテクタ面には 9,998 本しか到達していません。
光線を詳細に調べたところ、下図に示すように、光線が CAD 部品ではなく光学部品のエッジで蹴られているようです。この問題には、いくつかの方法で対処できます。機械エンジニアが光学部品を移動するか ([読み取り専用 ?] (Read only?) をオフにして、部品が編集可能な場合)、ファイルを光学エンジニアに戻して OpticStudio で問題を詳細に検討してもらいます。これらを融合した方法もあります。機械エンジニアが変更を加え、それに続く光学機械設計も行ったうえで、光学エンジニアにファイルを戻して確認してもらう方法です。
OpticsBuilder リボンの [設定] (Settings) タブで追跡光線数を増やし、光学系をより詳細に把握することも可能です。
解析光線数を 1,000 万本に増やし、描画光線数を 50 に設定することで、ミラーの大きさが入力ビームに対して小さすぎることがわかります。この結果は、光学エンジニアによって、OpticStudio のファイルと比較できます。
シーケンシャル モードによる元ファイルを急いで確認したところ、一部の光線がミラーから外れていることが判明しました。シーケンシャル モードでは、意図した経路しか追跡されないことに注意してください。意図した経路から外れた光線は下図のように切り詰められ、それ以上光学系内の他の部品と相互作用しなくなります。ノンシーケンシャル モードの場合、光線は引き続き伝搬します。このため、OpticsBuilder では、ミラーのエッジで蹴られた後に、その光線が筐体と相互作用しています。OpticsBuilder は、ノンシーケンシャル光線追跡エンジンを使用しているのです。
この問題は、モデルの最終バージョンで、ビームとミラーをより適切に適合させることで対策されます。以上の例から、適切なワークフローに従えば、設計の改良や、隠された落とし穴を迅速に発見しタイムリーに修正することが可能になることがわかります。初期設計がシーケンシャル モードで完結している場合が多いことを指摘しておくべきでしょう。シーケンシャル モードは強力な設計および解析ツールであるものの、意図した経路しかモデル化しません。ノンシーケンシャル モードは、意図した経路と意図しない経路の両方を含む、より堅牢なシナリオをモデル化します。OpticsBuilder のファイルは、シーケンシャルからノンシーケンシャル モードへの変換を得て、ノンシーケンシャル モードで光線追跡が実行されるため、シーケンシャルのままでは見逃されていた可能性がある問題点を、設計プロセスのこの段階で検出できます。より詳細な解析が必要と見なされた場合は、ファイルを OpticStudio のノンシーケンシャル モードに送り返し、迷光解析やゴースト解析などによって精査できます。それには、OpticStudio と OpticsBuilder 間で双方向のやり取りを可能とする ZBD ファイル フォーマットを使用します。
光学特性の取得と変更
光学部品の形状パラメータ (曲率半径、半径) に加え、材質や薄膜コーティングをはじめとするその他の光学特性も、OpticStudio から OpticsBuilder に自動的に転送されます。さらに、CAD 環境内で新規作成した機械部品に、これらの光学特性を適用することも可能です。
面に特性を適用するには、まず OpticsBuilder の部品タブで CAD 部品を選択し、OpticsBuilder の [面特性を適用] (Apply Surface Properties) をクリックします。
[部品サマリー] (Component Summary) に、CAD 部品のフェイスごとにドロップダウン メニューが表示されるので、各フェイスに対して、目的とする面特性を選択します。OpticsBuilder がインストールされた CAD パッケージで新規作成した CAD 部品で、特性を指定していないものには、すべてにデフォルトで黒色陽極酸化が設定されます。ドロップダウン リストに面特性を追加することも可能です。自社の光学エンジニアが使用する項目を OpticStudio のシステム フォルダからコピーするか、ベンダー固有のファイルをダウンロードします。
その他に、光学部品にコーティングまたは散乱プロファイルを追加するオプションがあります。これらの特性設定は、CAD 環境内の OpticsBuilder 内で簡単に行えますが、光学エンジニアにファイルを送り返して、OpticStudio 内で処理してもらう方法もあります。
OpticsBuilder で筐体の設計が完了したら、OpticStudio のノンシーケンシャル モードで開いてさらに解析できるように、完成ファイルを ZBD ファイルとして保存します。OpticStudio のノンシーケンシャル モードで ZBD ファイルを開くと、適用済みのコーティングおよび散乱プロファイルは、すべてが自動的に OpticStudio でも適用されます。OpticsBuilder を使用すると、光学系を CAD 環境と光線追跡を実行する OpticStudio の間で簡単に受け渡しできるようになり、各段階でデータの完全性を確保できます。これによって、光学系への機械部品の組み込みプロセスが効率化されます。
OpticsBuilder からのエクスポートには 2 つのオプションがあります。1 つは STEP/IGES ファイルとしての保存、もう 1 つはネイティブ CAD 部品、この例では Creo 部品としての保存です。OpticStudio Premium を使用している場合は、OpticsBuilder とともにダイナミック CAD リンクを使用できます。この機能は、光学エンジニアが OpticStudio 内で CAD 部品に関連付けられたスケッチ パラメータを設定できるようにします。これに代わる STEP/IGES ファイルによるオプションでは、すべての機械部品が STEP/IGES 部品としてエクスポートされ、その形状は OpticStudio 内では編集できません。いずれのオプションでも、光学部品はすべて OpticStudio のネイティブ部品として戻され、すべてのオブジェクトのコーティング、材料、散乱データは維持されることを忘れないでください。
この時点の光学系のファイル system_NSC_2022.zar は、記事の添付ファイル セクションからダウンロードできます。
まとめ
光学系と光学機械系の初期設計が完了したので、ワークフローの次の段階に進むことができます。次の記事では、OpticStudio に戻り、ノンシーケンシャル光学系を設定して、すべての光学および機械部品について、吸収されるレーザー パワーを記録します。
この記事は、高出力レーザー光学系のSTOP分析シリーズの第 3 部です。
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