CubeSat構想から実装まで(パート3): Ansys ZemaxソフトウェアスイートによるCubeSatシステムの開発

航空宇宙業界では、宇宙空間で使用する光学系ソリューションとして、低コストで簡単に製造できるCubeSat (小型衛星、キューブサット)への注目が高まっています。従来よりも小型で低価格の様々な衛星を製造して、宇宙空間向けの製品をラインアップとして開発するという、これまでにない機会が到来しています。

CubeSatの光学系を製造する企業には、光学系と、それを支持、収納する光学機械系を設計し、軌道上で受ける構造的および熱的な影響をモデル化するための、正確で信頼できる開発手法が必要になります。この連載記事では、ZemaxAnsysのソフトウェアスイートを活用した、高度なCubeSatシステム開発の概要を、その手順を追いながら解説します。統合ソフトウェアツールセットが設計と解析をどれほど効率化するのか、そのメリットを紹介します。

著者: Matthias SchlichJordan Teich

記事の添付資料

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はじめに

地球の低、中、高軌道で動作する光学系は、数十年にわたり開発されてきました。これまで、それらの光学系、筐体の寸法形状、そこから決まる光学機械系の多くは、システムごとに個別に設計されていました。CubeSatは、レーザー通信から地球撮像まで、幅広い用途の光学系を搭載できる軽量の小型衛星の種類です。CubeSatの最大の特徴の一つが、寸法と形状が標準化されていることです。

この特集では、CubeSatの光学系開発について書かれた論文『Optical Design of a Reflecting Telescope for CubeSat1』を参考としました。

連載のパート3となる本稿では、OpticsBuilderからAnsys SpaceClaimへの光学機械モデルのエクスポートについて解説します。つづいて、Ansys Mechanicalによる有限要素解析(FEA)を行うためのモデルを準備し、生成されたFEAの結果を解析する方法を紹介します。

Ansys MechanicalFEA用の設計を準備する

OpticsBuilderで光学機械系の設計が完了したら、CubeSatのモデル全体をAnsysソフトウェアにインポートして、有限要素解析の実行に備えます。はじめに、Creoから3Dモデル化ソフトウェアのAnsys SpaceClaimに、STEPファイルフォーマットで形状データをエクスポートします。SpaceClaimでは、モデル形状の複雑性を軽減する簡素化を行います。

モデル形状の複雑性を緩和したら、有限要素解析の前処理を行うために、設計をAnsys Mechanicalに転送します。

構造解析では、アセンブリのコアのみを使用します。CubeSatのサイドパネルや、バネ付きボルトなどの小さな部品は、解析モデルを簡素化するために取り除きます。この結果を下図に示します。

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1: Ansys Mechanical内の簡素化した設計

Ansys Mechanicalでは、この設計に対して次の材質定義を選択しました。

  • 両方のミラーは、熱膨張率(CTE)の低いアルミニウム基板(Al-MS40Si)2から作製します。
  • メインフレームはカーボンファイバ強化ポリマーで作製します。
  • 測定棒はインバー合金製です。
  • 画像センサーはPCBラミネート製であるものと仮定します。

これらの材料は、今回の例を説明するために選択したものであり、実際の衛星の検討結果に基づいたものではないことに注意してください。

下図に、設計における材料の割り当てを示します。

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2: Ansys Mechanicalの材料定義

接触の割り当てとメッシュの作成

材料を割り当てたら、モデル内に接触を定義します。各ミラーのマウントは、バネ付きボルトと固定された止め具の組み合わせでミラーを所定の位置に保持するように設計します。バネ付きボルトがミラーの一方の面に作用し、ミラーを反対側の面の固定された止め具に押しつけます。これは、ミラーの移動を3次元のすべてに対して、ミラー一つあたり3回制限します。この挙動は、Ansys Mechanical3つの[分離しない](No Separation)接触を定義することで、バネ付きボルトを個別にモデル化することなく記述できます。

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3: 分離しない接触

ミラーの保持機構は、4つのインバー製測定棒に接続されています。インバー製測定棒は、光学系の端でCubeSatのフレームに保持され、他の接続部分にスライドできます。

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4: インバー製測定棒

フレーム自体は、[ボンド](Bonded)接触で接続されます。

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5: ボンド接触

接触を定義したら、Ansysによって作成されるメッシュを、今回のシミュレーションのニーズに合わせて若干調整します。デフォルトのメッシュ設定では品質が不十分な領域についてメッシュを調整します。両ミラー面の部品サイズを調整して、各面のノード数が10,000以上になるように調整します。これだけのノード数が必要なのは、OpticStudioSTARモジュールで適切なフィッティング品質を確保するためです。下図に、光学機械系とミラーに適用した最終的なメッシュを示します。

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6: Ansys Mechanicalのメッシュ

 

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7: 副鏡のメッシュ

荷重と境界条件

この設計に加わる荷重は、熱膨張係数(TC)にしたがって部品を膨張させる、熱条件によるものだけです。CubeSatが低地球軌道での動作時に経験すると思われる動作温度範囲を近似して、離散的な温度条件を選択しました。CubeSatの放熱制御システムが、光学系を大きな温度変動から絶縁するものと仮定しました。これによって、光学系の動作温度範囲は15C±3Cに制限されます。

OpticStudioによる初期の公称設計は、21Cの常温、常圧条件で構築されたと仮定します。これが、形状を定義する基準温度です。

温度は、Ansys Mechanicalで次のように実装されます。

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8: 温度の定義

構造解析では、アセンブリを所定の位置に保持する必要があります。光学解析では、弱いバネでは十分な精度を得られません。したがって、アセンブリ全体をリモート変位の組み合わせによって保持します。並進運動は、センサー面で制約されます。この部品が、OpticStudioでデフォーメーションの効果を割り当てられない像面を表すからです。回転運動は前のフレームで制約されます。したがって、センサーの湾曲がアセンブリ全体の回転として解釈されることはありません。

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9: リモート変位

CubeSatは地球上で組み立てられるため、軌道上の状態との間で荷重に差が生じます。組み立て時に、CubeSatには地球の重力と約1気圧の大気圧が印加されます。しかし、真空の宇宙空間では、アセンブリに大気圧も加速荷重も印加されません。これらの荷重の差がデフォーメーションに顕著な影響を与えるかどうかを確認するために、さらに2つの有限要素解析を実行しました。

圧力差の解析では、ミラーのデフォーメーションは180ナノメートル未満であることが明らかになりました。

重力の影響の解析からは、アセンブリをフレームの一方の側だけで保持した場合に、ミラーの保持機構に大きなデフォーメーションが発生するという結果が得られました。このデフォーメーションによって、ミラーは元の位置から8ミクロン超、移動しました。したがって、解析では保持する個所を増やすことを検討しました。追加する保持機構は、ミラーの保持機構の下部に直接接続し、ミラーの重量の一部を支えられるようにします。この構成により、ミラーのデフォーメーションは20ナノメートル未満にまで減少しました。

熱膨張によるデフォーメーションの予測値は10ミクロン程度であるため、メインのFEA解析では圧力と重力の効果は無視します。これらの効果によるデフォーメーションは、熱膨張によるものより数桁小さいためです。

Ansys MechanicalによるFEAの結果

準備が整ったのでAnsys MechanicalFEA解析を実行できます。次の図に、最低動作温度12Cにおける結果を示します。デフォーメーションの支配的効果は、アルミニウム基板の高いCTEによるミラーの収縮によって発生しています。

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10: Ansys Mechanicalのデフォーメーションデータ

モデルでミラーを非表示にすればフレームのデフォーメーションの効果を確認できます。

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11: フレームのデフォーメーション

デフォーメーションのZ方向成分の表示も可能であり、この設計に対する結果は次のとおりです。

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12: デフォーメーションのZ方向成分

FEA解析が完了したら、すべての動作温度における両ミラー面の構造デフォーメーションデータをエクスポートできます。Ansys ACT拡張機能により、このデータを一連のテキストファイルとしてエクスポートできます。これらのテキストファイルさえあれば、FEAデータをさらに解析するためにOpticStudioSTARモジュールにインポートできます。ACT拡張機能の使用方法の詳細は、ナレッジベース記事OpticStudio STARモジュール:Ansys向けデータエクスポート用拡張機能プログラムで解説しています。

まとめ

この記事では、完成したCubeSat設計をAnsys SpaceClaimにインポートして、有限要素解析に向けた準備を整える方法について解説しました。さらに、有限要素解析で考慮する荷重と境界条件の設定手順を示しました。最後に、Ansys MechanicalによるFEA解析結果を示し、このデータをOpticStudioSTARモジュールに直接インポートする方法を紹介しました。

参考文献

  1. Jin H, Lim J, Kim Y, Kim S. Optical Design of a Reflecting Telescope for CubeSat. J Opt Soc Korea. 2013;17(6):533-537. doi:10.3807/josk.2013.17.6.533
  2. Aluminum Alloys. AMT Advanced Materials Technology; 2022:1-2. https://www.amt-advanced-materials-technology.com/materials/aluminum-for-optics-electronics/. Accessed June 14, 2022.
本記事は、CubeSat構想ナレッジベースシリーズの3回目です。

次の記事: CubeSat構想から実装まで(パート4): Ansys ZemaxソフトウェアスイートによるCubeSatシステムの開発
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