スマートフォンのレンズモジュール設計に関する課題を検討する、3部構成の特集をお届けします。方式設計や実装設計から製造性、構造デフォーメーションの解析に至る各段階の課題について解説します。この記事は、連載のパート2です。CADで光学系を編集し、機械部品の追加後にZemax OpticsBuilderによって光学系を解析する手順を、段階を追って解説します。取り上げる設計例は、世界的なメーカーによるスマートフォンのレンズ光学系で、5つのレンズ、カバーガラス、赤外フィルタから構成されます。おもな目的は、これらのレンズに複雑なエッジを追加して機械マウントに取り付けられるようにすることです。さらに、Zemax OpticsBuilderの光学機械系検証ツールにより機械部品を追加および調整します。
携帯電話のカメラのレンズ設計 - パート3: STARモジュールによるFEAおよびSTOP解析
Authored By Flurin Herren
はじめに
光学系は、OpticStudioで最適化した後、OpticsBuilder向け準備ツールによってZBDファイルに変換します。
OpticsBuilder向け準備ツールによって光学系を.ZBDファイルに変換する際は、いくつかの点に注意する必要があります。まず、OpticsBuilderの光線追跡ツールは、OpticStudioのノンシーケンシャル光線追跡エンジンに基づいて構築されているため、シーケンシャル光学系はノンシーケンシャル光学系に変換されてから、.ZBDに変換されます。ノンシーケンシャル光学系にOpticsBuilder向け準備ツールを使用した場合は、直接.ZBDファイルに変換されます。
第二に、機械エンジニアに、重要な光学特性を編集する権限を与えるには、OpticsBuilder向け準備ツールのユーザー入力セクションで、[読み取り専用](Read-only)チェックボックスのチェックを外しておく必要があります
さらに、OpticStudioのユーザーが、光学機械設計プロセスの境界を設定するために、ツールの設定で各種の許容デルタを編集できるようにします(詳細は次のセクションで説明します)。
CADによる光学系の編集
最初のステップとして、CADプラットフォーム(この例ではCreo Parametric 7)に.ZBDファイルをインポートし、初期光学系を検証してから、次のステップを計画します。
部品リスト:
- 赤外フィルタ(A)
- レンズ(LB)
- レンズ(LC)
- レンズ(LD)
- レンズ(LE)
- レンズ(LF)
- カバーガラス(G)
拡張するレンズエッジの形状に対する前提条件として、機械的バッフルリングが、レンズエッジと光学系を保持するメインマウントとの間に固定される必要があります。この記事では、メインマウントを「バレル」と呼び、編集は最低限に留めるものとします。理想的には、バレルの長さを、赤外フィルタ(A)とカバーガラス(G)を保持するために十分な長さに留める必要があります。
- お断り: 表示上の目的から、赤外フィルタ(A)とカバーガラス(G)はバレルアセンブリによって保持されています。実際のアプリケーションでは、これら2つの部品がレンズと同じ光学機械アセンブリに含まれる可能性は極めて低いでしょう。
次のステップとして、光学性能、つまりスポットサイズ、ビーム遮蔽、像への迷光混入を、シミュレーションを実行することで確認します。光学系には、一切変更を加えていないため、すべての性能指標は許容デルタの仕様を満たし、緑色のチェックマークが表示されるはずです。
この検証が完了したら、複雑なレンズエッジの設計に進むことができます。
複雑なレンズエッジの追加
従来型のマウントエッジは、OpticsBuilderの[取り付けエッジの追加](Add Mounting Edge)機能によって直接追加できます。複雑なマウントエッジを追加する場合はCreo Parametricのネイティブ機能であるスケッチツールを使用します。
第1のレンズ群を編集するために、それら部品個別のファイルを開きます([アセンブリ](Assembly)タブ→部品を右クリック→[開く](Open))。その後、追加するマウントのスケッチをレンズの隣に描画します。レンズの光軸に中心線を付加することで、追加するスケッチをレンズ周りに回転できるようにします。
次のステップでは、編集したレンズをアセンブリの元の位置に再度挿入します。こうすれば、隣接するレンズやバレルを参照しながらスケッチを直接変更し、複雑なエッジを微調整できます(バレルは、この段階で追加しておくことができます。その方が複雑なレンズエッジの微調整が簡単になります)。
下図の赤枠内に示したように、バッフルリングが配置される部分は、まだ空隙のまま確保されています。バッフルリングは、次の章で実装します。
機械部品の追加と調整
4つのバッフルリングは既製の部品であるため、Creo Parametricのネイティブ挿入ツールで光学機械アセンブリに直接挿入できます([モデル](Model)タブ→[アセンブリ](Assemble)→アセンブリA)。その後、オブジェクト配置ツールで位置を直接調整できます。
バレルと前方バッフルを若干変更して、機械アセンブリがOpticStudioで定義した光学アパチャーをシミュレートし、ビーム遮蔽を最低限に抑えられるようにする必要があります。下図(A)では紫色のビームが遮蔽されています。右の図(B)では、バレルの機械的アパチャーの直径を若干増やしており、この新しい機械光学系のシミュレーションで見るかぎりビームの遮蔽は発生していません。
目視による確認後は、OpticsBuilderの解析ツールで光学性能を詳細に検証できます。
OpticsBuilderによる光学性能の解析
OpticsBuilderの解析ツールで光学機械系を検証するために、ベースライン値(後述)を基準として3つのデルタ値を評価します。
スポットサイズ
スポットサイズのデルタは、OpticsBuilderのベースラインとOpticsBuilderで変更したコンフィグレーションとの差の絶対値から計算します。OpticsBuilderのベースラインコンフィグレーションでは、光学系とアパチャー面のみが対象ですが、OpticsBuilderで変更したコンフィグレーションでは機械的形状も対象になります。スポットサイズについては緑色のチェックマークが表示されているため、変更したコンフィグレーションのスポットサイズには、ベースラインコンフィグレーションと同じ(または差が無視できる)値が得られています。
ビームの遮蔽 1.04%
OpticsBuilderのベースラインコンフィグレーションではディテクタに到達していても、OpticsBuilderで変更したコンフィグレーションではどのディテクタにも到達していない光線は、遮蔽されたと見なします。遮蔽された光線の割合(%)は、OpticsBuilderで変更したコンフィグレーションでディテクタに到達しなかった光束を、OpticsBuilderのベースラインコンフィグレーションでディテクタに到達した光束で除算した値に100を乗算した値です。バッフルリングはアセンブリの上部を通して光線が伝搬することを防ぐ目的もあるため、この光学系では多少のビーム遮蔽は許容されます。
像への迷光混入
OpticsBuilderで変更したコンフィグレーションで追跡した光線が、意図しない経路を伝搬してディテクタに到達すると、像に迷光が混入する原因となります。意図しない経路とは、OpticsBuilderのベースラインコンフィグレーションによる光線追跡には存在しないあらゆる経路を指します。上図の橙色で示した光線が、像への迷光に寄与します。像への迷光混入量が小さいため、結果ウィンドウの像への迷光混入には緑色のチェックマークが表示されています。
ディテクタビューア
デルタの他に、CADユーザーはスポット特性の実際の変化も評価できます。OpticStudioのノンシーケンシャルファイルによる初期のスポットをOpticsBuilderのベースラインと見なせば、現在の出力には機械部品の影響が含まれています。下図は、視野点3に対する結果です。
次のステップ
次のステップでは、光学エンジニアが光学機械系を再確認し、光学性能を解析します。必要に応じて、CADシステムで光学機械系を改良するか、[ZBDファイルをエクスポート](Export .ZBD File)機能(*1)によりエクスポートしてOpticStudioに戻すか、完成を宣言して後続の工程へと移管できます。
(*1)ここで注意すべきは、光学系がCAD機能で編集済みであるため、もはや光学部品だけから構成されたコンポーネントではないということです。したがって、それらはCADパート: Creo ParametricまたはCADパート: STEPのいずれかとして定義されます。
光学エンジニアと機械エンジニアの両者から光学機械系の完成が宣言されたら、Creo ParametricにSTEPアセンブリとしてエクスポートして、さらにAnsys MechanicalなどのFEAソフトウェアに転送して、OpticStudioのSTARモジュールに使用するFEAデータセットを生成できます。これらのステップについては、連載のパート3で詳述します。
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