MTF の最適化方法

MTFは、空間周波数の関数として、物体から画像へのモジュレーションの伝達を記述します。これは一般的にレンズの性能を表したり、レンズ設計時の最適化や公差の目標として使用されます。

この記事では、OpticStudio で利用可能なさまざまなサンプリング 方式や MTF アルゴリズムの概要と、それらのアルゴリズムを個別に評価関数に組み込む方法について説明します。 各アルゴリズムにはそれぞれ対応する最適化オペランドがありますが、MTF に対してはコントラスト最適化を用いる手法が有利です。

著者 Mark Nicholson

Introduction

モジュレーション トランスファ ファンクション(MTF)は、光学系の性能を記述する重要な方法です。フーリエ理論を画結像光学系に適用した結果、MTF は、見ている物体面に対する空間周波数の画像内のコントラストを記述します。

MTF は、フォーカル像空間ではミリメートル(mm)ごとに、アフォーカル像空間ではミリラジアン(または他の角度単位)ごとに測定されます。正弦波ターゲットの場合、MTF は正弦波応答で測定されます。バー ターゲットでは、ラインペアで測定されます。OpticStudio では、どちらのタイプのターゲットに対しても MTF を計算することができます。

MTF とは

下記のビットマップ像解析ウィンドウを見ると、3 人の少年が表示されている部分では「良好」な像質が得られていますが、この「良好」とはどういうことでしょうか。様々なライン画像のコントラスト比は、形成された像質に関する定量的なデータを提供してくれます。
A high resolution object scene images through a lens in Zemax

 

このレンズの MTF プロットを以下に示します。これは、レンズがサポートできる最大値までの任意の空間周波数のコントラスト比を表示できます。ここでは、空間周波数が最大 100 サイクル/mm までとしています。 また、同じ f/# の収差のないレンズの回折限界性能も参考までに示しています。

The MTF plot of the same optical system

 

注意: 画面の解像度と画像の圧縮により、ここで表示されている画質は劣化しています。OpticStudio によって生成されたオリジナル画像は写真品質です。
 

フラウンホーファー (FFT) MTF

上記の解析機能で使われたような、レンズが対応できるすべての空間周波数についての MTF のグラフを生成する場合に使用される  MTF アルゴリズムは、フラウンホーファー回折理論に基づいています。この方法では、追跡された光線を瞳でグリッド化して行う高速フーリエ変換を含みます(それゆえ、名称は FFT MTF といいます)。結果として得られる MTF は、物体空間での正弦波の空間周波数の関数としてのモジュレーションですが、強度の実部、虚部、位相そして矩形波の応答をオプションとして得ることができます。

点像強度分布および MTF の計算では、FFT を使用する方法がよく知られています。これらの方法は、フラウンホーファーの回折理論に基づくものです。そのためには以下の前提条件があります。

  • F/# が十分大きく、スカラー回折理論を適用できる。
  • 回折 PSF のエネルギーが顕著である領域が、光学系の射出瞳から像面までの距離に比べて小さい。
  • 射出瞳が入射瞳に対して著しく歪んでいない。これは、入射瞳での均一な光線分布が射出瞳でも十分に維持されているということです。
  • PSF を正確にモデル化するうえで十分な数のサンプリングが設定されている。

すべてではないものの多くの結像光学系は、FFT MTF アルゴリズムで使用するフラウンホーファー回折理論に必要な簡素化の前提条件を満たしています。

最適化に関しては、通常、特定の空間周波数のみが必要であり、レンズが対応できる範囲すべての周波数で MTF を計算する必要はありません。したがって、特定の空間周波数で MTF を計算する MTF* オペランドは、グラフィック スウィンドウによって使用されるグリッド法と、ほとんどの(ほぼすべての)最適化ケースでデフォルトであり、強く推奨される高速なまばらなサンプリング法を切り替えることができるグリッド パラメータをサポートしています。この件については、ヘルプファイルの 

[最適化] (Optimize) タブ (シーケンシャル UI モード) > [自動最適化] (Automatic Optimization) グループ > メリット ファンクション エディタ ([自動最適化] (Automatic Optimization) グループ) > 最適化オペランド (アルファベット順)

を参照してください。

まばらなサンプリングによる計算は、ガウシアン求積法に似た考え方を採用しており、きわめて短時間で収束し、グリッド法に比べてはるかに少ない光線本数で任意の精度の MTF を計算できます。最も重要なことは、フラウンホーファーの理論を適用できる条件下であれば十分な精度が得られるという点にあります。

以下の表は、サンプリングを徐々に多くしながら、収束と収束に要する時間からこれら 2 つの方法を比較したものです。OpticStudio に付属しているダブル ガウスのサンプル ファイルを使用し、50 lp/mm の空間周波数に対して軸上の多色 MTF を計算しています。

MTF data

 

以下の表は、上記と同じ MTF を、視野周縁で計算したものです。

MTF data2

 

一般的に、最適化や公差解析を目的とする場合、1% の収束であれば十分とされています。一般的に、MTF の実験的な測定方法では、どのような場合も収束が 0.1% を下回ると演算を反復できなくなります。良好な最適化を実現するうえで極端に高い精度は不要であり、有効数字 3 桁の精度があれば十分です。どちらのアルゴリズムも、サンプリングが適切であれば、任意の精度で収束しますが、きわめて高い精度が必要な場合は、高速アルゴリズムの方がはるかに短時間で収束に達します。

グリッド アルゴリズムの方が高速に収束する条件が 1 つだけ知られています。収差がきわめて大きく、得られる MTF が約 5% を下回る極端に低い値になる場合です。通常、このような条件下で性能を仕様化するために MTF を使用することはなく、最適化や公差解析の目標値として使用することは、さらに少なくなります。OpticStudio では自動的にこのような条件を検出して、グリッド法に切り替えます。このような条件では、幾何光学的 MTF 計算の方が適していることに注意してください。

 

幾何光学的 MTF

35 mm 一眼レフ カメラ用のレンズを、例えば f/# が 1.8 の開放状態の絞りで使用する場合を考えます。レンズの収差は開放状態で最も顕著に表れます。レンズを絞るに従い収差は減少し、像質が向上します。しかし、絞れば像質がどこまでも向上するわけではなく、アパチャーが一定値になると、アパチャーでの回折に起因して像質はそれ以上向上しなくなります。

数波長オーダーの収差が存在する場合は、幾何光学的 MTF 計算と GMT* 最適化オペランドの使用をお勧めします。この方法は、幾何光学によるスポット ダイアグラムのフーリエ変換を基本としており、ガウシアン求積のサンプリング方式を使用します。

幾何光学的 MTF を使用する最大の利点は、回折の計算に比べてはるかに高速であることです。幾何光学的 MTF は収差が大きい光学系できわめて正確ですが、このような光学系で回折 MTF が収束に達するには膨大な数のサンプリングが必要になる場合があります。この条件では、幾何光学的な計算の方が 100 倍以上高速であることが普通です。

幾何光学的 MTF の計算でも、光学面での散乱の影響を考慮できます。散乱によって背景の照度が高くなり、MTF が低下します。幾何光学的 MTF (GMTF) はグローバル最適化できわめて効果的です。グローバル最適化では、すべてのパラメータ空間を効率的に検索し、優れた設計を実現できる領域を特定する必要があるからです。

 

ホイヘンス MTF

ホイヘンス MTF では FFT を使用しません。その前提条件は、F/# が十分大きくスカラー回折理論が適用可能であること、および PSF を正確にモデル化するうえで十分な数のサンプリングが設定されていることの 2 点のみです。ホイヘンスの計算の詳細については記事「点像強度分布関数とは」を参照してください。

ホイヘンス PSF の計算に必要な簡素化の前提は、ほぼすべての結像光学系で成り立ちます。ホイヘンス MTF は一般的に FFT (フラウンホーファー) MTF よりも低速ですが、FFT MTF の前提が成立しない条件では、より正確な結果が得られます。

使用できる手法がホイヘンスの計算のみである状況として、主光線を一貫して追跡できない光学系があります。このような光学系では、主光線を中心とした基準球を作成できないからです。多くの波面の計算に基準球は不可欠です。このような条件下では、ホイヘンスの PSF および MTF の計算を使用します。具体例として、以下に示すような複数のミラーで構成する望遠鏡があります。この光学系には、像面に達する主光線の光路がありません。

The chief ray cannot be traced in this telescope

 

このような場合、主光線を像面まで追跡できないので、光路差 (OPD) を計算できず、したがって OPD から導くパラメータもすべて計算できません。

The OPD cannot be calculated


ホイヘンスの PSF および MTF の計算では、基準となる 1 本の光線を必要としないため、問題なく動作します。

Huygens MTF     Huygens PSF

 

このファイルは OpticStudio に標準で付属しており、(Zemaxフォルダ)\Samples\Non-sequential\Miscellaneous\Multiple mirror telescope.ZMX にあります。

ホイヘンスの方法の最後の利点は、複数のコンフィグレーションにわたって MTF を加算できることです。この方法も複数ミラーの望遠鏡で使用できますが、主鏡が遠く離れているためにベースラインがきわめて長い場合に特に効果的です。この場合、一般的な入射瞳の使用は適切ではありません。主鏡に到達する光線が少なすぎて効率的に計算できないからです。この特殊な条件に対応できるのはホイヘンス MTF の計算のみです。

ホイヘンス MTF による最適化または公差解析には MTH* オペランドを使用します。
 

手法の比較

  • フラウンホーファー理論に基づく FFT は最も広く使用されている手法です。OpticStudio は、レンズが対応するすべての空間周波数での MTF を計算し、周波数に対するグラフとして表示します (必要な周波数についてのみ MTF を表示するオプションもあります)。MTF を対象とした最適化や公差解析では、目的の空間周波数についてのみ計算が実行されるので、特定の精度を得るために必要な時間も光線数もはるかに少なくなります。必要に応じて MTF 計算にグリッド法を使用することもできます。
  • 収差が大きい従来の光学系では、MTF の近似値を幾何光学的 MTF できわめて迅速に計算できます。この手法は、RMS スポット半径の最適化と同等の速度で最適の MTF を得る「概略」設計に適しています。
  • フラウンホーファー理論の前提が成立しない光学系や主光線を追跡できない光学系では、ホイヘンスの計算法を適用できます。この方法では、信頼性に優れた MTF が得られます。この手法の唯一の欠点は速度です。

KA-01362

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