この記事では、レンズ データ エディタで光学系の入力について説明します。
著者 Yihua Hsiao
次は、このレンズ光学系の光学面に関する初期推定データを入力する必要があります。接合型二枚レンズを設計するので、必要な面は物体面、絞り面、二枚レンズの前面、中間面、後面、および像面の 6 つです。[設定] (Setup) タブに移動して、[エディタ](Editor) グループの [レンズ データ](Lens Data) アイコンをクリックします。レンズ データ エディタで面として [像] (IMAGE) をクリックし、Insertキーを 3 回押して必要な数の面を挿入します。各面で次の図のようにデータを入力します。
注 : OpticStudio のデモ版を使用している場合、表示される小数点以下の桁数が少なくなります。これは、計算の精度、結果のいずれにも影響しません。
仕様上は物体シーンがレンズからきわめて遠方にあるので、[物] (OBJECT) の面の厚みは無限大に設定します。エディタの該当のセルに「Infinity」または「i」と入力することで無限大に設定できます。
[半径](Semi-diameter) のデータ列には何も入力しません。この列は、レンズが入射ビームよりも大きくなるように、マージン要件も考慮して OpticStudio で自動的に処理されます。[設定](Setup) タブおよび [解析](Analysis) タブにある [断面図] (Cross-section) に、ここまでの設計の断面図を表示します。
次に、f/5 の要件を満たすための設計に移ります。この要件を満たす簡単な方法があります。最後のレンズ面の曲率半径のセルの右にあるセルをクリックして、次のように F ナンバー ソルブを選択します。
f/5 の光円錐が得られる曲率半径がその場で計算されます。
他の 2 つの面の曲率半径を変更すると、f/5 のレンズ要件が成立するように、F ナンバー ソルブによって自動的に最後のレンズ面の曲率半径が更新されます。光学系の制約を適用するうえでソルブは最も効率的な方法です。
注 : テクニカル リファレンスの「ソルブ」全体に目を通してください。ソルブを完全に理解し、使いこなせるようになれば、レンズ設計の専門家であるということができます。
次に、このレンズを合焦状態にします。[最適化] (Optimize) タブに移動し、[手動調整](Manual Optimization) タブの [クイック フォーカス] (Quick Focus) アイコンを選択します。
ここで次のように設定します。
断面図ウィンドウを更新して、最終的な「基本設定」を確認します。
以上で、5°の視野を持ち、可視領域で f/5 のレンズが得られました。[解析] (Analysis) タブの [光線とスポット](Rays and Spots) メニューにある [標準スポット ダイアグラム] (Standard Spot Diagram) をクリックして、スポット ダイアグラムを開きます。
RMS スポット半径は、軸上で 143 µ、5°の視野点で約169 µ です。この図と同じデータが表示されていることを確認します。このとおりのデータになっていない場合は、演習の各手順に戻って光学系を正しく設定しているかどうかを検討します。
注 : 最後に、[設定] (Setup) タブ → [システム診断] (Diagnostics) グループの [システム チェック] (System Check) をクリックします。このきわめて効果的なユーティリティでは、ファイルを検証して、各設定で発生しやすい誤りがないかどうかを確認します。このようなユーティリティを使用してもすべての誤りを検出できるわけではありませんが、少なくともここで報告された誤りをすべて確認し、「エラー」に分類されているものを修正したうえで次の段階に進む必要があります。
[ファイル](File) → [名前を付けて保存](Save As) をクリックして、ファイルを basic setup.zmx という名前で保存します。
変数の設定
以上の設定で、アパチャー、波長、視野の仕様を満たす f/5 レンズの基本光学系が確実に得られますが、目標とする最良のレンズであるとは限りません。実際、曲面が 1 つのみの光学系が最良のレンズである可能性はきわめて低いといえます。ここからは、可能最高の性能が得られるようにレンズを最適化します。
まず、どのパラメータを変更可能とするかを OpticStudio で指定します。そのためには、目的のパラメータの右にあるセルをクリックして変数ソルブを選択します。
または、値を変更するセルを強調表示して、キーボード ショートカット Ctrl + Z (Ctrl キーを押したままZ キーを押します) を使用します。
また、[最適化](Optimize) タブの[自動最適化](Automatic Optimization) グループで[全ての曲率半径を変数に設定](set all radii variable) または[全ての厚みを変数に設定](set all thicknesses variable) を使用する方法もあります。
次のように合計で 6 つの変数を設定します。
ステータス フラグ「V」は、OpticStudio で値を変更できるようにした変数であることを意味します。後面の曲率半径に F ナンバー ソルブで設定したときに表示される「F」フラグと同様の機能です。OpticStudio でこれらの変数の値が変更されると、レンズの f/5 を維持できるように、F ナンバー ソルブで自動的に後面の曲率半径が更新されます。
評価関数の定義
次に、この設計の評価関数を作成します。[最適化] (Optimize) タブの [自動最適化](Automatic Optimization) グループにある [最適化ウィザード] (Optimization Wizard) をクリックします。
メリット ファンクション エディタが開き、そのプロパティ インスペクタ領域で [最適化ウィザード] (Optimization Wizard) がアクティブになります。この例はフォーカル光学系であるため、RMS スポット半径を最小にする必要があります。セントロイドを基準とした RMS のスポット半径を選択し、そのリング数を 4 に設定します。[OK] ボタンをクリックして最適化ウィザードを終了します。リング数については後ほど詳しく説明するので、ここではその値を 4 に変更しておきます。
これにより、次のような評価関数が生成されます。
メリット ファンクション エディタの各行には、何らかの値を計算するオペランドが記述されています。たとえば、TRAC オペランドは、指定した光線が像面上で到達する位置を、同じ視野点を発したすべての光線が到達する平均位置からの半径方向の距離として計算します。TRAC オペランドごとに、波長番号と正規化座標 (Hx, Hy, Px, Py) で定義された光線を追跡します。オペランドが異なれば、その引数も異なります。引数名は、エディタの見出し行に表示されます。
値を計算する各オペランドは、エディタの [現在値] (Value) 列に計算値を返します。オペランドには、目標とする [ターゲット] 値と重み付けの [重み](Weight) 値も設定できます。評価関数の値は、次式で計算されます。
ここで Wi は i 番目のオペランドの重み付け、Vi は i 番目のオペランドによる計算結果、Ti は i 番目のオペランドの目標値です。この総和は、評価関数にあるすべてのオペランドで計算されます。オペランドの計算値が目標値に近いほど、評価関数の値は 0 に近づきます。各オペランドの目標値と実際の値の差 (偏差) を二乗しているため、偏差が正負どちらに増加しても、評価関数は正の値で増加します。
注 : 最適化機能の目標は、レンズ データ エディタで変数パラメータの値を調整して、評価関数をゼロまたは可能なかぎりゼロに近い値にすることです。
レンズの最適化
変数と評価関数を定義したので、[自動最適化] (Automatic Optimization) グループの [最適化](Optimize!) アイコンをクリックします。
次に、[自動] (Automatic) ボタンをクリックします。この最適化機能はマルチスレッドに対応しています。マルチスレッドによって計算速度の向上が見込める場合は、コンピュータに搭載されたすべての CPU に演算処理が分散されます。
評価関数の値は急速に小さくなり、スポット ダイアグラム プロットで性能が向上していく様子を確認できます (プロットはダブルクリックすることで更新できます)。RMS スポット半径は、軸上で 11 µ、5°の視野点で約 20 µ になります。最適化前は、それぞれ 143 µ と 168 µ でした。大幅に改善されていることがわかります。
一方で、レイアウト プロットを見ると、この結果には明らかな問題があることがわかります。
それは、レンズが非現実的な厚みになっていることです。これは、RMS スポット半径を最小にすることを指定したものの、演算時の制約をまったく指定していなかったことが原因です。F3 ボタンを押すか、[元に戻る] (Undo) アイコンをクリックします。
これによって最適化が取り消され、最適化前の光学系に戻ります。再び [最適化ウィザード] (Optimization Wizard) アイコン (メリット ファンクション エディタ ツールバーおよび[最適化](Optimize) タブにあります) をクリックして、以下のように設定を変更します。
これらの設定は、レンズ エレメントの中央の厚みを 2 ~ 20 mm に、レンズ エッジの厚みを 2 mm よりも大きくするように制約します (これは製造性向上に効果的な制約です)。材質を空気とした面の厚みは、すべて 0.5 ~ 1000 mm の範囲に設定します。この設計には不要な制約ですが、複数のエレメントで構成する設計では、レンズ エレメントどうしが干渉したり、非現実的に離れすぎたりすることをこの制約で防止できます。設計をより完全なものにするために、この制約も追加します。
[OK] をクリックして、変更を適用します。再び [最適化](Optimize!) アイコンをクリックすると、はるかに優れた設計が得られます。
RMS スポット半径は軸上で 13.6 µ、5°の視野点で約 26.1 µ になります。
注 : 最適化で適切な結果を得るための要点は、目標とする光学設計上の値のほか、不適切な設計形状が生成されないようにする制約も評価関数に記述することです。代表的な制約として、エレメントの厚み、重量、最大許容ディストーションなどがあります。
適切な視野点の数
このレンズの最適化で使用している視野点は 0°と 5°の 2 点のみです。これら 2 つの視野点では RMS スポット半径が十分適切に制御されていますが、これらの間にあるどこかの視野点でレンズの性能が低下していないことも確認する必要があります。
このプロットでは、視野を連続変数とし、視野の変化に伴って RMS スポット半径がどのように変化するかが示されています。5°の視野にある 15 個所について、波長ごとの RMS スポット半径と多色平均した RMS スポット半径をプロットしています。どの場所でも、RMS スポット半径は 0°での値も 5°での値も超えていません。したがって、2 つの視野点でこの設計を適切に管理できます。最大視野点または最小視野点での値を超える部分がプロットに認められる場合は、必要に応じて視野点を追加します。
注 : 視野点の数や波長の数を変更した場合、それらの変更を反映するために、評価関数を再作成する必要があります。
同様に [波長に対する RMS] (RMS vs. Wavelength) プロットでは、定義した波長の数が、設計を適切に管理するうえで十分かどうかを確認できます。[解析] (Analyze) → [収差](Aberrations) → [軸上色収差] (Chromatic Focal Shift) および [解析](Analyze) → [収差](Aberrations) → [倍率色収差] (Lateral Color) でも同様の確認が可能です。
視野および波長の全範囲にわたって光学系の挙動を確認するための優れた方法として、[解析](Analyze) →[拡張光源解析](Extended Scene Analysis) → [画像シミュレーション] (Image Simulation) を選択する方法もあります。ここで次のように設定します。
これは、入力ビットマップとして記述した実際の物体シーンをレンズで結像すると、どのような像が得られるかを示すシミュレーションです。この解析は驚くほど高速で、下図のような像が数秒足らずで生成されます。この機能は、光学の専門家以外に実際の光学性能を伝えるツールとして最適です。
ガラスの最適化
ガラスの最適化と他の光学系パラメータの最適化との間には重要な違いがあります。曲率半径や厚みなどのパラメータは連続的に変更できます。たとえば、厚み 10.0 mm を 10.00001 mm にすることができます。一方、ガラスで使用できるのは離散的な特性のみです。ガラスの材質をわずかに変更して、屈折率をわずかに変化させることはできません。そのため、現在設計で使用しているガラスを他のガラスに置き換える、ガラス代替と呼ばれる方法を使用します。
はじめに、OpticStudio で選択できるガラスのテンプレートを定義します。[最適化](Optimize) タブの [グローバル最適化] (Global Optimizers Group) グループにある [ガラス代替テンプレート] (Glass Substitution Template) を選択します。
ここで次のように設定します。
推奨の光学ガラスのみを使用するように [推奨] (Preferred) を選択します。[推奨](Preferred) とは、標準の特性のみを備え、入手が容易なガラスであることを示すステータス フラグです。さらに、各ガラスの価格が N-BK7 の価格の 10 倍以下であることを [最大相対コスト] (Maximum Relative Cost) で指定し、耐候性に 2 以上、耐汚染性に1 以上を指定します。現在ロードされているカタログには (デフォルト設定では、ショット社のカタログがロードされます)、これらの基準を満たすガラスが 58 種類あります。ガラス代替では、この 58 種類のみが使用されます。
次に、現在は N-BK7 が選択されている面 2 の [材料] (Material) 列のセルの右をクリックして、ソルブ ダイアログ ボックスで [代替] (Substitute) ソルブを設定します。
面 3 の F2 でも、同様の手順を実行します。レンズ データ エディタでは、代替可能であることを示す「S」ステータスがガラスの横に表示されます。
ガラス代替の方法は、ローカル最適化機能には複雑すぎます。代わりに、[グローバル最適化] (Global Optimizers Group) グループの [ハンマー最適化](Hammer optimizer) を使用すると、この設計に最適なガラスを容易に探し出すことができます。
ガラス カタログのガラスをクリックし、[ライブラリ] (Libraries) → [材料カタログ](Materials Catalogs) を選択して、そのガラスが仕様を満足していることを確認します。ここまでの作業で、視野のあらゆる場所で RMS スポット半径が 19 µ 未満となる設計が得られます。
KA-01913
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