この記事では、OpticStudio でのコーティングの設定方法について説明しています。ノンシーケンシャル モードに限らず、シーケンシャル モードでの設定についても説明しています。
著者 Takashi Matsumoto
OpticStudio は、偏光解析をサポートするために、充実したコーティングのモデル化機能を備えています。定義済みまたはユーザ定義のいずれかの材料データベースを使用して、誘電体および金属の多層コーティングを定義できます。Essential Macleod、TFCalc、Film-Star などの多くの薄膜コードを使用して、OpticStudio フォーマットにコーティング設計を直接エクスポートできます。
誘電体基板と金属基板のどちらにもコーティングを適用できます。コーティングは、任意の材料の任意の数の層で構成でき、それぞれの層に複素屈折率を定義できます。コーティング材料の内部では全面的な分散モデル化を適用します。基板には、ガラス、金属、ユーザ定義材料を使用できます。コーティング層は均一の厚みとすることができるほか、場所によって異なる厚みとすることもできます。また、複製したコーティングを繰り返し積層するループ設定の定義も容易です。
面が空気からガラスに変化し、次いでガラスから空気に変化する場合、OpticStudio では自動的にコーティング層の順番が反転します。したがって、「ミラー反転」したコーティングを定義しなくても、同じコーティングを多くの面に適用できます。
拡張子が .dat のファイルにコーティングを定義します。このファイルは、コーティングのフォルダ (デフォルトでは、My Documents\Zemax\Coatings) に保存されます。このフォルダは、[設定] (Setup) タブの [プロジェクト環境設定] (Project Preferences) をクリックして変更できます。OpticStudio には、サンプル データを格納した coating.dat というファイルが付属しています。
注 : coatings.dat ファイルは編集しないでください。このファイルは OpticStudio のインストーラによってインストールされるので、次回の更新をインストールする際に上書きされます。
独自に作成したコーティングのデータは必ず専用の .dat ファイルに保存し、システム エクスプローラの [ファイル] (Files) でそのファイルをロードします。
コーティング データを設定すると、OpticStudio では、すべてのコーティングについて消光比、位相、リターダンス、反射、透過、吸収が波長または角度の関数として計算されます。
シーケンシャル面へのコーティングの追加
サンプル ファイルの Sequential\Objectives\Double Gauss 28 degreefield.zmx をもう一度開きます。このファイルは、付属の coatings.dat ファイルを使用します。レンズ データ エディタで [コーティング] (Coating) の列を確認します。
次に [ライブラリ] (Libraries) タブに移動して、次の図のように [コーティング カタログ] (Coating Catalog) アイコンを選択します。
AR というコーティングが表示されるまで下方向にスクロールします。
コーティングの厚みは、[絶対値] (Absolute) フラグが 0 の場合、主波長の波数単位で指定します。ゼロ以外の場合は、波長に関係なく µm 単位で指定します。したがって、コーティング AR は MGF2 を材料とする、厚みが λ/4 の層です。材料 MGF2 は、coating.dat ファイルで次のように定義されています。
このリストには、η = n + ik として定義した複素屈折率が示されています。n は通常の屈折率、k は吸光係数です。材料 MGF2 は、n が正の値、k がゼロなので、この材料は純粋な誘電体です。一方、ALUM という材料は次のように設定されています。
この材料は、屈折率 が 1 未満で、吸光係数が負の値なので金属です (OpticStudio の表記ルールとして、吸収性媒質の吸光係数は負数で表します)。コーティングは、任意の数の誘電体層と金属層で構成できます。層の厚みには一定値または、中心から周辺に向かって薄くなる、というようなテーパー状に変化する値を設定できます。また、コーティングの繰り返しループも容易に定義できます。
コーティングの処方が不明な場合、OpticStudio には、反射率と透過率を指定するだけで使用できる IDEAL コーティングが用意されています。また、IDEAL コーティングに似た TABLE コーティングもあります。TABLE コーティングでは、透過率と反射率を入射角と波長の関数として指定でき、さらにそれらを S 偏光と P 偏光とで別々に設定できます。
注 : コーティング ファイルの構文の詳細は「[偏光] (Polarization)」を参照してください。
次に、[解析] (Analysis) タブの [コーティング] (Coatings) → [角度に対する反射] (Reflection vs Angle) をクリックして、SK2 基板に適用したこのコーティングの性能を確認します。
同じメニューの他のプロットには、透過率、消光比、位相、リターダンスなどが表示されます。面 1 の [コーティング] (Coating) の列でスペース キーを押してコーティングを削除し、角度に対する反射のプロットがどのように変化するかを確認します。
[コーティング] (Coating) の列にコーティング名を直接入力して、その面に指定のコーティングを適用できます。レンズ データ エディタ ツールバーの [全ての面にコーティングを追加] (Apply Coating to All Surfaces) ツールを使用すると、光学系にあるすべての面にコーティングを容易に適用できます。
ノンシーケンシャル オブジェクトへのコーティングの追加
ノンシーケンシャル オブジェクトへのコーティングは、少し複雑になるだけで、シーケンシャル面と同様に適用できます。ノンシーケンシャル モードでは、オブジェクトが面ではなく体積を持つ立体であるため、1 つのオブジェクトの複数のフェイスに異なるコーティングを適用できます。このような例を示すサンプル ファイル Non-sequential\Ray splitting\Beam Splitter.zmx を開きます。
2 番目のプリズム オブジェクトである オブジェクト 3 をダブルクリックしてプロパティ インスペクタを開き、[コーティング/散乱] (Coat/Scatter) タブに移動します。このオブジェクトには 2 つのフェイスがあります。フェイス 1 はスプリッタ フェイス (プリズムの斜辺)、フェイス 0 はそれ以外のすべてのフェイスです。
フェイス 1 は IDEAL コーティング I.5 でコーティングされています。このコーティングは光線エネルギーの 50% を透過し、50% を反射します。フェイス 0 は I.95 でコーティングされ、エネルギーの 95% を透過し、5% を反射します。
OpticStudio のすべてのネイティブ オブジェクトでは、光学的な評価対象となる領域をフェイスで定義しています。これらについては、オブジェクト定義に関する節を参照してください。[解析] (Analysis) タブの NSC オブジェクト ビューアで、個々のオブジェクトの定義を確認することもできます。
オブジェクトのフェイスをクリックすると、そのフェイスが強調表示され、ウィンドウのタイトル バーに識別情報が表示されます。
CAD オブジェクトのフェイスの定義
OpticStudio では、各種の CAD オブジェクトを使用して STL、STEP、IGES、SAT の各フォーマットのファイルをロードします。また、SolidWorks™、AutoDesk Inventor™、CreoParametric™ (以前のPro/Engineer) のパーツやアセンブリで動的に作業することもできます。これらのオブジェクトは、莫大な数の NURBS 面で定義されていることがあります。CAD プログラムの中には、光学解析で必要な数よりもはるかに多くの小さい面を記述したデータ ファイルを生成するものがあります。
たとえば、単純なシリンダでも CAD ファイルでは数百の小さい面で記述されている場合があります。一方、光学解析では、オブジェクト全体で適用する光学プロパティは 2 ~ 3 種類にすぎません。多数の面のそれぞれに光学プロパティを割り当てるよりも、オブジェクト上で連続した滑らかな領域を構成する面のすべてに共通のフェイス番号を 1 つ割り当てて、CAD 面をグループ化した方が普通は便利です。
CAD オブジェクトは、任意の CAD パートに光学フェイスを容易に割り当てることができるようにする [フェイス モード] (Face Mode) パラメータをサポートしています。このパラメータの概要は以下のとおりです。
· [フェイス モード] (Face Mode) = 0 : すべての面にフェイス番号 0 を割り当てます。オブジェクト全体で定義されるフェイスは 1 つのみです。陽極酸化アルミニウムのような単一の光学仕上げをオブジェクト全体に適用する場合に適しています。
· [フェイス モード] (Face Mode) = 1 : 長さがゼロではない曲線で複数の面のエッジどうしが接していて、その曲線上でそれら各面の法線ベクトルが、ユーザ定義の許容角度の範囲で平行と見なせる場合に、それらすべての面に共通のフェイス番号を割り当てます。この許容角度は、[フェイス角] (Face Angle) (パラメータ 8) で定義します。このモードでは、どの程度の細密さでフェイスに番号を付けるかを調整できます。[フェイス角] (Face Angle) に大きな値 (180 など) を設定すると、互いに接するすべてのフェイスに同じ番号が割り当てられます。[フェイス角] (Face Angle) が大きくなるほど、一意の面が少なくなります。このモードは、たとえば 90° の角度で接するフェイスには異なる光学プロパティを設定する場合に適しています。
· [フェイス モード] (Face Mode) = 2 : すべての面のそれぞれに一意のフェイス番号を割り当てます。このモードでは、一意のフェイスの数が最大になります。
· [フェイス モード] (Face Mode) = 3 : インポートしたファイルで定義されているフェイス番号を保持します。OpticStudio で作成したファイルのように、CAD ファイルの中にはフェイス番号が定義済みとなっているものがあります。OpticStudio でこれらのフェイス番号を認識できれば、そのまま使用します。OpticStudio でこれらのフェイス番号を検出できない場合、面には [フェイス モード] (Face Mode) = 2 と同じ方法でフェイス番号が割り当てられます。
· [フェイス モード] (Face Mode) = 4 : CAD ファイルで定義されている独立したオブジェクトごとに、そのすべての面に同じフェイス番号を割り当てます。1 つの CAD ファイルに複数のオブジェクトが定義されている場合に、それらオブジェクトごとにすべての面に 1 つのプロパティを割り当てる場合に便利なオプションです。
オブジェクトのプロパティの [CAD] (CAD) セクションを使用すれば、インポートしたオブジェクトの各面に手動でフェイス番号を割り当てることもできます。
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